555悲話(4)

 

裁判を終えたショウを護送する為の大型ヘリが、基地の正面に止まっていた。

基地の出口からヘリまでの間には、カメラマンが左右に分かれて列を作っている。

「これより、ショウの護送を始める」

士官戦闘員の声とともに、奴隷となったショウが姿を現した。

上には555の戦士の証明であるオレンジのジャンパー、

しかし、下はフリチンである。

後ろ手に縛られ、丸出しのチンポに結ばれたロープを引かれての登場だ。

カメラマンのフラッシュが一斉に焚かれる。

「ショウさん、今のお気持ちを一言」

レポータが何とかショウに近付こうとして、警備の戦闘員ともみ合う一幕も見られた。

「君は、私のショウ君に対する仕打ちに不満があるだろうね。

 武士の情けを知らぬ男だと」

慎也はヘリの窓から外の様子を見ながら、隣に座った武士道仮面に語りかけた。

古いタイプの無骨な性格で、いささか耄碌(もうろく)もしているが、百戦錬磨の怪人だ。

「いいえ。武士は『死して虜囚の辱めを受けず』と申します。

 ショウめは、すでに武士ではありません。

 私なら、とっくに舌を噛み切っておるところです」

武士道仮面は、吐き捨てるように言ってのけた。

「ともかく、ショウの仲間は必ず助けに来る。その時は頼んだよ」

「心得てございます」

武士道仮面は慎也から渡されている、反エネルギービームを手に持った。

555が変身時に放つエネルギーに対し、反エネルギービームはマイナスのエネルギーを

照射する。

これによって、555の変身が解除される・・はずである・・理論的には。

「さっきも言ったが、十分にテストもしていない代物だ。

 君に危険が及ぶかも・・」

「主君の為には、命も投げ出すのが武士たる者の勤め。

 では、私は外で警備にあたります」

“ふふふ。主君の為には、命も投げ出す・・か。

 だから、君たちは消耗品なんだよ”

ヘリを出る武士道仮面は、その背中に注がれる慎也の冷たい視線に

気づく事もなかった。

 

ショウにマイクを突きつけるレポータと、排除しようとする戦闘員の間で、

小競り合いが起きていた。

「えぇい。通れんではないか。レポータは道を開けろ!」

力自慢のゴリラ怪人が割って入り、力づくでレポータを押し返そうとする。

「邪魔なのはお前の方だ。お前こそ、引っ込んでいろ!」

いきなり、レポータの一人がゴリラ怪人にパンチを浴びせる。

突然の攻撃に怯むゴリラ怪人。

「きっ、貴様。何者だ!!」

「ショウ、助けに来たぞ。今までのお礼を、倍返し、いや十倍返しにしてやろうぜ」

レポータに化けていたマトイが変装を取る。

別な場所では、ナガレ・ダイモン・マツリが、すでに戦闘員相手に暴れ始めていた。

「ははは。現れたな、ゴレンジャー!!」

「えっ?!」

武士道仮面のコトバに、敵味方なく、一瞬動きが止まる。

だが、ショウを護送していた戦闘員は、この一瞬の隙を見逃さなかった。

ショウを取り囲むと、ヘリの中に押し込もうとする。

必死の抵抗を試みるショウ。

しかし、身体は次第にヘリの中に押し込まれていく。

「うっ、まずい。着装だ」

マトイの合図とともに、4人は変身態勢に入った。

「着装!」

しかし、変身の瞬間、わずかながら555に無防備な時間が生じる。

武士道仮面の手にした反エネルギービームから、青白い光が放たれたかと思うと、

変身中のマツリに命中した。

「キャー」

光が数秒間、マツリを包む。

が、光が消えると、そこにはいつものピンクのスーツに身を包んだ、

ゴーピンクの姿があった。

「うっ。やはり試作品では、効果なしか」

いや、違う。身を包んでいるのはスーツだけで、下半身には何もない。

ビームは下半身に命中したのだろう。

そして、ビームの効果も下半身だけだったのだ。

「キャー」

自らのあらわな姿に気づき、再び悲鳴を上げるゴーピンク。

前を隠して、その場に膝をついてしまった。

「テメェー。よくも妹を」

「黙れ、エロレンジャー。戦(いくさ)に女・子供の出る幕はないわ。

 貴様も丸出しにしてくれようぞ」

再びビームの引き金を引く武士道仮面。

しかし、ビームは発せられず、その隙をつかれて、ゴーイエローのパンチを食った。

「よーく覚えておけ。俺はエロじゃなくて、イエロー!。ゴーイエローだ!」

「くっ。やはり種子島(火縄銃のこと)はアテにはならんか。

 さらば、剣で勝負だ」

体勢を立て直した武士道仮面が、ゴーイエローに襲いかかる。

各地で、白兵戦が展開された。

その間に、ショウを乗せたヘリが離陸する。

すでにゴーピンクは戦闘不能の状態である。

ゴーピンクに襲いかかる戦闘員を、ゴーレッドが何とか防いでいる状態だ。

ゴーブルーもゴリラ怪人の怪力の前に苦戦を強いられ、

ゴーイエローは武士道仮面の巧みな剣裁きに、近付く事もままならない。

もはや、ショウの救出など、不可能であった。

そして、ついにゴーブルーがゴリラ怪人の前に力尽きる。

ボコボコに殴られ、大の字に倒れるゴーブルー。

その股間をゴリラ怪人が踏みつけた。

「うぅっ。わぁー」

声をあげ、必死に起き上がろうとするが、力が入らない。

その首筋に、武士道仮面の刀があてられる。

戦闘員がゴーブルーを引き起こし、荒縄で縛り上げた。

「どうする?、ゴレンジャー。まだ闘いを続けるか?!。

 尻尾を巻いて、引き上げるというなら、今日のところは見逃してやる」

「うぅっ」

拳を握りしめるゴーレッド。

だが、今戦って勝ち目はない。

「き、今日のところは引き上げる。

 だが、この借りは必ず返させてもらうぞ」

「ははは。負け犬の遠吠えにしか聞こえんわ。

 いつでも相手になってやるぞ、エロレンジャー」

武士道仮面の笑い声の響く中、3人になった555は無様に逃げ出すしかなかった。

闘いの一部始終は、詰めかけていたマスコミによって世界に流された。

ショウの救出に出場したものの、目の前でショウを連れ去られたばかりか、

マツリは下半身丸出しの屈辱を受け、ナガレはボコボコに殴られて捕らえられたのだ。

555の、いや地球の正義に対する信頼は、一気に失墜した。

だが、この様子を最も悔しい想いで見ていたのは、奴隷の身となったショウであろう。

 

「ショウ君。ご兄弟は、残念な結果になったねぇ。

 まぁ、生きていれば、良い事もあるさ。

 それまで、奴隷として生きながらえる事だね」

ショウの心を読みきったような慎也のコトバが

ショウの心を冷たく突き刺した。

「うっ。せ、正義は、正義は必ず勝つ!。

 正しい者が最後には勝つんだ!」

「ふふふ。学校では、そう習ったよねぇ。

 しかし、君も少しは大人になる事だ。

 正義が勝つのではない。勝った者が正義なんだ。

 歴史はそうやって作られてきたんだよ」

慎也の笑い声が、ショウの心にこだました。