555悲話(2)

 

ショウが慎也の前に連行される。

特に手錠などで拘束される訳でもなく、護衛の戦闘員もさっきの二人だけだ。

“今の俺は、こんな戦闘員にも抵抗できないのか”

ショウの心に別な意味での屈辱感があふれた。

「ショウを連行しました」

戦闘員の一人がアジトの一室をノックして、ドアを開けた。

ショウが戦闘員に背中を押されて中に入る。

手前に応接セットがあり、奥のデスクに慎也の姿がある。

あたかも普通の会社の社長室のような造りだ。

「やぁ。よく来てくれましたね。君がショウ君ですか?」

ショウが沈黙していると、「おい!。返事をしないか!」と戦闘員がショウを小突いた。

「おいおい。弱い者イジメはほどほどにしてやりなさい」

“弱い者・・か。今の俺は、たしかに弱い者かも知れない”

慎也の言葉がショウの心を傷つける。

「さて、報告によれば、君は我がヒーローSM倶楽部の事業活動を

 何度も妨害したばかりか、制止しようとした戦闘員・怪人など多数を

 殺傷したそうだね。

 酷い事をしてくれたものだ」

「うっ」

ショウは言葉を挟もうとしたが、すでに敵の捕虜となった身では、

何を言っても仕方がなかろう。

諦めにも似た想いが、ショウを沈黙させた。

「まぁ、一寸の虫にも五分の魂と言うからね。

 君にも何か言い分があるんだろう。

 裁判でじっくり聞いてやるよ」

「裁判?」

「そう、裁判だ。それも公開のね。

 我々は君が思っている以上に、公平で紳士的なんだよ。

 ところで、ショウ君は地下牢では大人しくしていたかね」

慎也は今度は戦闘員に尋ねた。

「まぁ、少し抵抗しましたが、おおむねは・・」

「抵抗した?。それはいかんな。

 裁判まで、まだ時間もある事だし、チョットお仕置きしてあげなさい」

「はっ。承知しました、慎也様」

慎也の背後で、戦闘員はオモチャをあてがわれた子供のような笑みを浮かべた。

 

それからしばらくして、ショウの姿は燦々と照りつける太陽の下にあった。

十字架に両手両足を縛られた姿で、磔にされている。

太陽は容赦なくショウの身体から水分を奪っていく。

オレンジのジャンパーの中では、汗が滝のように流れていた。

「み・・水・・」

「んっ。何だぁ〜」

「水を・・水をくれ」

「水をくれだとぉー」

十字架の側で昼寝をしていた戦闘員が立ち上がった。

「水を・・水を・・水を下さい」

「ふん。最初からちゃんと言えば良いものを」

戦闘員は、ペットボトルの水をコップに移すと、

「今日は暑いからなぁ。少しは身体を冷やさないと」と言いながら、

ショウの短パンの腰の部分を前に引くと、短パンの中に水を注ぎ込んだ。

「どうだ。少しはオチンチンも涼しくなったか」

「の・・飲ませて・・」

「えーっ。飲ませろ。

 ふん。お前の分は、もうないよ」

ショウは思わず肩を落とした。

これまで、何人の怪人と闘い、悪を懲らしてきたろう。

その自分が、戦闘員にすら辱めを受けねばならなくなるとは・・。

「おい、何をしているんだ」

別の声がした。

「まったく、あまり弱い者イジメはするなと、慎也様からも言われているだろう。

 私は弁護士戦闘員だ。これからショウ被告人と話がある。

 縄を解いて水をやりたまえ」

戦闘員は命令に従って、ショウの縄を解くと、水を用意した。

「さぁ、好きなだけ飲みたまえ」

言われるまでもなく、ショウはペットボトルの水を飲み干した。

「あ・・ありがとう」

「まぁ、仕事だからね。

 さて、裁判の話だが、君は何人もの怪人や戦闘員を殺傷した罪で起訴されている。

 状況は極めて不利と言わざるを得ない」

「し、しかし、それは怪人達が平和を乱して・・」

「そういう話ではないんだ。

 裁かれるのは君の殺人罪であって、怪人の罪じゃない」

「そっ、そんな」

「有罪はまず確実だろう。判決は死刑だろうな」

「死刑!」

「もっとも、君が罪を悔いて、反省の意志表示をするなら無期懲役も考えられる。

 悔悛の情を示せば死刑にはしないのが、ヒーローSM倶楽部の方針だからね。

 だがね。懲役と言っても、君たちの世界の懲役とは違うんだ。

 ヒーローSM倶楽部の懲役は、奴隷になる事を意味する」

「奴隷に!・・」

「そうだ。君もヒーローの一員だった男だ。

 まさか、奴隷として辱められながら、一生を過ごしたいとも思わんだろう」

その時、さっきの戦闘員が戻ってきた。

「弁護士戦闘員。面会時間は終わりです。

 これからショウを慎也様のところに連行します」

 

ショウが慎也の部屋に戻されると、慎也はテレビのスイッチを入れた。

「君のようなヒーローが行方不明になったものだから、世間は大騒ぎだよ。

 世間様にご心配をかけてもいけない。

 これから、みなさんに今までの事を詳しくお話ししてあげなさい」

ショウは最初、慎也の言葉の意味が理解できなかった。

テレビは昼のワイドショーが報じられている。

『555のショウ氏、ヒーローSM倶楽部に監禁さる!』

派手なタイトルが画面に踊った。

続いて、レポータが登場する。

「昨日から行方不明になっていた555のショウ氏が、

 実はヒーローSM倶楽部の罠にはまり、アジトに監禁されている事が判明しました。

 ショウ氏は怪人殺害の罪で起訴され、間もなく裁判が始まる事になっています。

 我々はヒーローSM倶楽部の招きにより、

 裁判直前のショウ氏にインタビューを許されました」

ショウは愕然とした。

“囚われの身となった自分の姿が、マスコミを通して全世界に報道されるのか”

「ふふふ。さっきも、君の裁判は公開で行うと言っただろ。

 報道の自由というのは、ありがたいものだね。

 さて、ショウ君。記者会見に行こうか」

ショウは顔をこわばらせて、記者会見に臨んだ。

レポータは次々に質問を浴びせてくる。

レポータ「捕まった後はどうなったんですか?」

 ショウ「手・・手錠をされて、磔状態にされました」

レポータ「それから」

 ショウ「一種の拷問を・・」

レポータ「拷問とは、どういうものですか?。具体的にお願いします」

 ショウ「ジャンパーを脱がされ・・胸を・・あぁ、これ以上は勘弁して下さい」

レポータ「困ります!。国民には知る権利があり、我々には報道の義務がありますから」

 弁護士「ショウ君。ここで何もかも話した方が、裁判では有利になりますよ」

 ショウ「怪人に乳首を・・」

レポータ「それで、感じてしまった?」

 ショウ「いえ!。決してそんな事は!」

ブブー!

 弁護士「ショウ君。ウソをつくとブザーが鳴りますよ」

 ショウ「か・・感じました。感じてしまいました」

レポータ「それから」

 ショウ「短パンを降ろされ・・パンツも・・」

レポータ「すると、下半身は何も!?」

 ショウ「はい。その通りです」

ショウは屈辱で半泣きになりながら、ここに連行されてからの一部始終を告白させられた。

 

夕方からは、各テレビ局が挙ってニュース特番を組んだ。

『哀れショウ氏、敵アジトでフリチン!』

『股間を責められ、感じてました!』

様々な報道が世界を駆けめぐった。