朧月夜7
空気が肌にピリピリと感じる。
どれ程の時間が流れたのだろうか?
こうして刀を構えている時間がとても長くも感じ、短くも感じる。
先に切りつけたのは自分の方からだった。
今まで真剣勝負をしてきた中で自分の剣をいとも簡単に受け止めた相手はいなかったと思う。
それだけに自分の剣の腕には自信を持っていた。
(これが神の力というものですか・・・)
今、自分の目の前にいる”神”は口元に笑みすら浮かべ自分との戦いを楽しんでいるように見えた。
(気に入りませんねぇ)
「気に入りませんよ」
重い感情が低い声となって口から零れた。
その余裕も、どこか焦りを感じている自分も・・・
何より、セイが自分以外の男に美しくされたことが一番気に入らない。
チラリと視界の端にセイを映してすぐに戻した。
心配そうに自分を見つめている。
今まで、あんな風に自分を見つめるセイがいただろうか?
(あぁ、池田屋の時に目がさめた時あんな顔してましたかね)
(まったく、そんなに私が信じられませんか?)
(大丈夫・・・)
(決して貴女を離したりはしないから)
だからこの戦いは絶対負けられない。
自然と刀を握る手に力がこもる。
恐らく、次で決着は着く、失敗は許されない。
刀の構えを変える。
ー これに私のすべてを賭ける! −
全身全霊で得意の三段突きを繰り出す。
「!!」
最初の突きが相手に刺さろうとする瞬間、”神”の目が赤く光ったような気がした。
途端、身体が急激に重く感じて突きのスピードが一瞬にして落ちた。
「沖田先生!!」
セイの叫びににも似た声が聞こえる。
キンという音と共に自分の手からお菊は消え、宙を舞っていた。
お菊はセイのすぐ傍の地面に突き刺さった。
「くっ!」
手に痺れを感じながらもすぐに脇差を抜く。
「なかなか見事な技だな」
「これなら誰も敵うまい、私以外の人間ならな」
”神”が皮肉に笑う。
「なるほど、ここは貴方の陣地・・」
「相手の力を封ずるのは御手のものですか?」
腕の痺れが増していく、もう刀を握っていることさえやっとだ。
今、刀を構えていられるのはセイだけは・・という思いによるものでしかない。
「心配することはない」
「あの娘は永遠の時をここで幸せに過ごすのだから・・」
「お前はよく頑張った・・」
頭上に刀が振り上げられた。
最早これまでだというのか?
もう一度セイの方へと目をやる。
「!?」
そこにいたはずのセイの姿が見えない。
(どこへ!?)
「ぐぁ!」
”神”の呻き声と共に自分に何かが降りかかった。
「なぜ・・・」
倒れ行く”神”の視線の先を見る。
そこには総司のお菊を”神”に突き刺し、息を切らすセイがいた。
「か、神谷さ・・・」
袖で顔についた血を拭うセイを呆然と眺める。
「皮肉なものですね・・」
彼女は”神”を見つめて静かに言った。
「私は貴方に沖田先生を守る力を願いました」
「その貴方が沖田先生に刀を振り上げている」
「貴方は自分が授けた力で身を滅ぼしたのだから・・・」
「私は沖田先生がいないなら天国なんて望みません」
「この方を守れるなら・・・」
「”神”すら倒して見せます」
(あぁ、本当に)
(この人はどこまで強くなっていくのだろう)
心に熱いものが流れ込んでくる。
「神谷さん・・」
私は痺れる手を彼女を包み込むため差し出した。
彼女はクリっとこっちに向きなるといきなりすごい威力のパンチを喰らわした。
「な、なにしゅるんでしゅかぁ〜」
思わず吹っ飛んだ私は殴られた頬を押さえて彼女を見た。
「それはこっちの台詞です!」
私の胸元を鷲掴みする。
「私のために命を捨てないで下さい」
「え・・・?」
「先生は局長のために今まで頑張って来られたのでしょう?」
彼女の目には大粒の涙が浮かんでいた。
「自分の誠を忘れないで下さい」
「私は・・」
「私は自分の誠を貫く先生を、命を賭けて守る事が私の誠なんですから」
「御自身の誠を忘れて、私の誠まで曲げないで下さい!!」
そう言うと彼女は泣きながら私の首に抱きついてきた。
「すいません、神谷さん」
そしてありがとう・・
(私は今、幸せな気分で一杯ですよ)
言い訳
やっとこさここまで書けました。
この話を書きながらも掛け軸の人間が血を流すのか?
と考えてました。(^_^;)
やっぱり戦いのシーンは書きたいけど苦手です。
総ちゃんお得意の三段突き。
見てみたいなぁ。
次は最終回です。
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