朧月夜5
セイの様子がおかしい・・
少々の事でもぐったりと疲れているようだ。
もちろん本人に理由を聞いても答えるわけがない。
総司に思い当たる事は一つだけだった。
「ごめんください」
総司は小さな店の前に立って奥の方に向かって声をかけた。
そこはたくさんの物がごちゃごちゃと置いてあって、なんだか薄暗く奇妙な雰因気の店だった。
そう・・、セイがあの掛け軸を手に入れた店である。
あの時、セイは楽しそうにこの店の事を総司に話し、今度は一緒に行こうと笑っていたのに・・・。
最近はセイの笑顔を見ることが出来なくなっていた。
奥から一人の年老いた男が出てきた。
「どちら様で?」
背の高い総司を訝しげに見上げる。
「先日、私の部下がこちらで掛け軸を譲っていただいたのですが・・」
「あぁ、あの時の!?」
セイの事を話に出した途端に顔の表情が変わる。
「そう言えば、今度は一緒に連れて来たい人がいるとおっしゃってましたな」
「それで、あの方はどちらに?」
店主は総司の周りをキョロキョロと見渡した。
「いえ、今日は私だけ用事があってきたんです」
「用事?」
「えぇ・・」
「あの掛け軸について少しお話を聞かせてもらえませんか?」
夜、眠るのが怖い・・。
セイは日毎体力を奪われていく身体を抱えて怯えた。
自分の蒔いた種だから自分でなんとかしようと思ったがこれといった方法を思いつかないまま時が過ぎ、今日はあの男が言った三日目である。
総司は昼過ぎからどこかへ出かけていてまだ帰ってこない。
斉藤も今日はどこかに飲みに行ってしまっていて部屋の中にはセイだけである。
もし、誰にも気がつかれずに何か起こったら?
突然いなくなったらあの優しい人は心配するだろう。
(本当、馬鹿だ私・・)
セイは悔しさと情けなさで涙が溢れた。
声を殺して必死に溢れてくる涙を堪えていると急に背後に光を感じた。
「!?」
振り返ると行李の中にある筈の掛け軸がいつの間にか外に出ていて、光を放ちながら一人でに開いて宙に浮いていた。
「あ・・!」
光の中に少しずつ人の影が現れ始める。
影ははっきりと人の形を成すと光は消え、あの男がセイの前に立っていた。
「約束だ。迎えに来た」
そう言って男は驚くセイに向かって手を差し出した。
総司は必死に走っていた。
早く帰らなければ大変な事になる。
自分の第六巻がそう言っている。
(あの掛け軸は本当は対となるもう一本の掛け軸があるんです)
店主の言葉を思い出す。
(その掛け軸がどこにあるかわかりません・・)
(ただ、その掛け軸と離されてからあの掛け軸に女子が近づくと少しずつ体力を奪い、やがて・・)
「沖田さんじゃないか?」
「どうした、そんなに急いで?」
屯所の門前まで来ると反対側からほろ酔いの斉藤が歩いてきた。
「神谷さんが大変なんです!!」
総司は立ち止まることなくそれだけ告げて走り去った。
「神谷が?」
総司の尋常ではない様子と神谷という言葉に斉藤もすぐに総司の後を追った。
「神谷さん!!」
パン!と勢い良く自室の障子を開け、そこにいるであろう少女の名を読んだ。
「お、沖田先生!」
呼びかけに答えた少女は何者かに腕を掴まれ、光の中に消えようとしていた。
総司は必死にセイに向かって腕を伸ばした。
セイもその手を何とか取ろうと手を伸ばした。
二人の手が何とか絡み合うと、掛け軸はより一層光を放ち二人を包んだ。
「なんだ?あの光は!」
総司の後を追いかけてきた斉藤は自分の部屋が凄まじく光っているのを見た。
「沖田さん!神谷!!」
慌てて部屋に飛び込むと、そこにいる筈の二人からは返事は返って来なかった。
「馬鹿な・・・・」
斉藤は呆然と部屋の中を眺めた。
「二人が消えた・・・?」
(あの掛け軸に女子が近づくと少しずつ体力を奪い、やがて・・・)
(魂ごと掛け軸の中に引き込んでしまうんですよ・・)
言い訳
なんか、書く度にセイちゃんの性格が
原作から遠ざかっていくので困ります。
トホホ(-_-;)
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