朧月夜 4

ー あの人を守れる強さを下さい。ー

(ここはどこ・・・?)
 セイが目を開けるとそこは見知らぬ場所だった。
 辺りを見渡せば小さな小川が流れ、小さな花達が咲き乱れていた。
 遠くには岩のような山が見える。
(あぁ、そうか・・・)
 その景色を見ることによって自分がどこにいるかを確信する。
 ここはあの夢の中なのだと・・
 キョロキョロと辺りを見回し、以前現れた彼を探す。
 やがてカチャカチャと刀がぶつかる音が徐々に近づいてきた。
 振り返ると、若く美しいと表現するに相応しい程の容姿を持った男が立っていた。
 互いに向き合ってじっと見つめあい沈黙が流れる。
 先に口を開いたのはセイだった。
 にっこりと微笑む。
「ありがとう、強くしてくれて・・」
「沖田先生を、大切な人を守る力をくれて・・・」 
 男はそっと手を伸ばしセイの頬にあてる。
 不思議とイヤな気分ではなかった。
 ただ、その掌からは体温が感じられず、触れられた感触はあるもののそれが本当に手の感触かは判断出来ない。
「おまえの望みは叶えよう・・」
 男は静かに言った。
「だが、あの時の約束を忘れるな」
「約束?」
 セイは男の言葉を繰り返した。
 約束とはあの時、よくわからないまま返事をした条件のことだろうか?
「ごめんなさい、じつは・・」
「!?」
 素直にあの時のことを謝ろうとすると、急に辺り一帯に深い霧が立ち込め始めた。
 その霧は男の身体を少しずつ包み込んでいく。
「ま、待って!」
 セイは必死に男に呼びかけた。
「ごめんなさい、本当はあの時良く聞こえなか・・」
「約束の日まであと三日だ・・・」
「え・・・?」
「三日後に私の望みが叶う・・」
 男がそう言うと霧は完全に男の身体を隠した。
「待って!それってどういう・・」
 やがて霧はセイの身体をも包み込むと視界は反転し、暗闇と化した。



「ん・・・」
 再び目を開けるとそこは良く知っている暗く、狭い空間だった。
 総司と斉藤の部屋の押入れである。
「朝か・・・」
 額の上に腕を乗せ、さっきの夢のことを考える。
(あの人、あと三日て言ってたな・・)
 あと三日後に何か起きるというのか?
 あの掛け軸のおかげで強くなったセイはただの夢と笑う事が出来ず、今更ながら自分の軽率さを反省した。
(まったく、いつになったら治るんだろうこの性格)
(いつも自己嫌悪陥ってから気がつくんだもん)
「よいしょっと・・」
 身体を起こすと夢を見ていたせいか身体が重く、昨日の疲れがまるでとれてはいなかった。
(ここんとこずっと身体が重いや・・)
再び眠りにつきたい気持ちになるが頭を振る。
「だめだ、シャキっとしなきゃシャキっと!」
 そう言って両の手で自分の頬を打つ。
よし!っと気合を十分に入れると総司達を起こすために襖を開けた。
「ああ、神谷さんおはようございます。」
 そこにはすっかり身支度を整えた総司と斉藤がいた。
「お、おはようございます。いったいどうされたんですか?」
「どうって?」
 総司が何のこと?といった表情で首を傾げながら問い返した。
「斉藤先生はともかく、沖田先生がこんなに早く・・しかも一人で起きるなんて」
 今日は、雨かそれとも雪だろうかと言わんばかりのセイに総司は口を尖らせた。
「やだな〜私だって一人で起きられますよ」
「いつも私が叩き起こすまで寝ているのはどなたでしたっけ?」
 ジトーとした視線を送る。
「仲睦まじいのは結構だが、朝餉に遅れるぞ・・」
 二人からすっかり存在を忘れられた斉藤が一見無表情に言う。
「あ、そうだ神谷」
 準備を整え、障子に手を掛けた斉藤が振り返ってセイを見る。
「はい?」
 セイが何だろうという表情をする。
「言い忘れたが・・・」
「沖田さんは、お前が心配で寝付けなくてこんなに早起きなんだ・・」
「さ、斉藤さん!!」
 去り際の斉藤の一言に総司の顔が真赤になった。
(俺を忘れた罰だ・・・)
 内心そんな事を思いながらフフンという笑いを残して去って行った。
「し、心配って?」
「〜〜〜〜〜〜////」
「沖田先生?」
「いや、その・・・」
 総司が照れくさそうに自分の頭を掻いた。
「最近、なんだか顔色が冴えないので何か身体に異変でも起きたんじゃないかって思って」
「!!」
(気づいてたんだ、沖田先生・・・)
 他人の少しの異変を感じて、眠れないほどの心配をしてくれるこの人の優しさが好きだ・・。
(私は、沖田先生が沖田先生だからこそ守りたいんだ・・)
 だからこそ、その強さが欲しくてあの不思議な掛け軸までにも頼ったのだ。
(そういえば・・)
 身体がだるくなり始めたのはあの掛け軸を手に入れてからだった事に気がついた。
 強い相手と試合った後などは特に酷い。
(もしかして三日後って・・・)
 セイの仲で恐ろしい答えが打ち出された。
「どうかしましたか?」
「酷く顔色が悪いですよ?」
 総司が心配そうに覗き込む。
 セイはハッとして考えを振り払った。
(大丈夫、まだそうと決まったわけじゃない)
 セイは総司に悟られないようににっこりと微笑んだ。
「何でもありません」
「ただ、お腹がすいて眩暈がしただけです」
「・・・・・・・・そうですか」
 セイの顔をじっと見つめた後、総司も笑いながら言った。
「私もお腹が空きました、早く食べに行きましょう」
「はい!!」
 二人一緒に部屋を出た。
(自分で蒔いた種は自分で何とかする・・)
 これ以上、この優しい人に心配をかけないために・・
 そして決して巻き込まないために・・
「・・・・・」
そう固く決心するセイの横顔を盗み見ながら総司も何事かを考えていたことをセイは知らなかった。





         言い訳
うぎゃ〜、書いててこの話どう終わらせようか迷ってしまいました。
でも、もうすぐこの話を考えた時に書きたいと思ったシーンにだんだん
近づいてきた感じです。
もうひとふんばり!

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