朧月夜、3


 パーン!
 道場に迷いのない竹刀の音が響く。
「勝負あり! 勝者神谷!!」
 審判役の言葉とともに道場にどよめきがおきた。
 試合をしていた二人が互いに礼をして面を外した。
「えへへ・・・///」
 面を取った瞬間、セイの上気した顔が自然と綻んだ。
「すごいじゃないか神谷!」
「今日の相手は、どう考えても格上だったのに!!」
 一番隊の面々はあっという間にセイを取り囲み、驚きながらも自分の事のように喜んではセイを褒めた。
 セイもうれしそうに褒めてくれる仲間達にお礼を言っている。
「うむ、今日の神谷はまるで人が変わったように強いな」
 斉藤は少し離れた所でそんな彼らを見つめながら、相変わらずのファニーフェイスで自分の隣にいる彼女の上司に言った。
「えぇ、本当に・・・」
 本来なら手放しに喜んでいる筈の総司が今日に限っては苦い顔をしている。
「なんだ、あんたにしちゃめずらしく浮かない顔をしているな・・」
「うれしくないのか?」
 斉藤はちらりと隣の男を一瞥するとまたすぐに視線を元に戻した。
「いえ、うれしいですよ」
「強いという事はそれだけ自分の命を長くさせるということですから。」
「私はいざという時には近藤先生を守らなければなりませんし、神谷さんを気にする余裕なんてありません」
「あの人が自分自身を守るしかないんです」
「だからあの人が生きながらえる手段を身に付けるのはうれしいことなんです」
「なんですけど・・」
「あの強さは不自然すぎて・・」
「不自然・・?」
 先程の様な視線だけではなく、顔をこちらに向けて斉藤は問い返した。
 そう、不自然なのだ。
 セイとは時折稽古の相手を買って出るが、女子故に力が弱い彼女にとっては刀を振るうということはこの上なく難しい筈なのだ。
(なのに・・)
 なのに今日のセイはまるで力でねじ伏せるような戦い方をしていた。
 セイが女子であることを知っている総司だからこそわかること。
(あの掛け軸のせい?そんなばかな!)
 だったらどうしてセイは急に強くなったというのか?
 総司の中でいくら消しても疑問は湧き起こってくる。
(こうなっては何を聞いても無駄だな・・) 
 斉藤は俯いて黙り込んでしまった総司から答えを引き出す事を諦めた。
 斉藤は立ち上がると、今だ仲間に囲まれるセイの元へと向かった。
「斉藤先生!」
 こちらにやってくる斉藤に気がつき、セイは先に声をかけた。
「目を瞠ったぞ、神谷」
「有難うございます!」
 うれしそうにとびっきりの笑顔を向ける。
 そんなセイを見て、内心ざわつきながらも表情を崩さずに総司から出た疑問を変わりにぶつけてみた。
「どうしてそんなに急に強くなれたんだ?」
「ん〜、内緒です」
 白く細い指を自分の口元に当てる仕草が何とも可愛らしかった。
「何だ?兄にも言えないことなのか?」
「え〜、それを言われると辛いなぁ」
 セイは額を掻く仕草をして俯いた。
「じゃあ兄上には特別!」
「お願いしたんです・・」
「お願い?」
「はい!夢の中で神様が願いを聞いてくれるって言うから、大切な者を守れる強さが欲しいって頼んだんです」
「それで強くなったのか?」
「はい!!」
 最初は冗談半分に騙されているのかと思ったが、斉藤は神谷はそんなことをするような人間ではないことを知っていたし、なにより目は嘘をついていないことに気がついた。
「あ、でも条件があるって言ってたかな?」
「条件?」
「そこだけよく聞こえなくて・・適当に返事しちゃたんですよねぇ」
 あはははと恥ずかしそうにセイは笑った。
 深く考えずに本能のままに行動する所が神谷の短所だとは思うが、人を飽きさせない魅力でもあると斉藤は思う。
「夢か・・」
(沖田さんが心配しているのはこの事か・・・)
 たかだか夢の事じゃないか、あの人は本当に神谷に甘い。
 いつもならそう言っているはずなのに。
(なぜか、今回ばかりは沖田さんの意見に賛成だな・・・)
(いやな予感がする・・)
 愛しさ故に感じる不安なのか?
 自分の直感は外れたことがない。
(まぁ、いつかはわかることだ・・・)
 
理由はいつも後からついて来るものなのだから・・・。




いいわけ

最初の予定が狂ってなぜか斉藤さん登場です。
もう書いてる私にもどうなるのかわかりません(^_^;)
もしかしたら他の幹部も出てくるかも・・


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