朧月夜2



 新選組壬生屯所、副長室。
 そこには始終イライラしている男が一人。
「神谷はまだ帰らないのか!?」
 土方は自分の部屋で寝転びながらくつろぐ総司に向かって言った。
 総司は畳の上に頬杖をつきながら土方を見た。
「神谷さんが使いに出てまだ一刻ほどしか経ってませんよ?」
「まだ陽も高いし、どこかに寄り道でもしてるんでしょう」
「寄り道!?」
「ガキじゃねぇんだ!使いぐらいまともに出来ねぇのか!?」
「普段は童扱いしてるくせに・・」
「なんだと!?」
 ボソっと呟いた総司の言葉を土方は聞き逃さなかった。
(地獄耳・・)
 普段からセイと土方は似ている所が多いとは思っていたがこんなところまでそっくりである。
(しかし、今日の土方さんは特にイライラしているなぁ・・)
 まるでお馬の時のセイのようだと思う。
(お馬の前後の神谷さんって妙にイライラしてるんですよねぇ)
(もしかして土方さんもお馬があるんじゃ・・?)
 まさかとは思いながらも、十代の頃は女顔と言われていた土方がセイのようにお馬のたびに落ち込んでいる姿が頭に浮かんで思わず「ぷっ!」と噴出した。
 それを見た土方は自分の事を笑ったのだと直感した。
「グウタラするなら他の部屋に行け!!」
 そう言いながら追い出そうとする土方に、総司は必死に笑いを堪えながら謝った。
「お茶でも入れてきますから、ここにいさせて下さいよ」
 そう言って立上がると障子の向こうに気配を感じた。
「神谷です」
「入れ」
 スッと障子が静かに開いてセイが入ってきた。
 その姿を見て何となく気持ちがホッとするのを総司は感じた。
「遅い!」
 セイから帰りの報告を聞く前に土方は口を開いた。
 セイはムッとしながらも申し訳ありませんと頭を下げたが「でも・・」と続けた。
「まだ、一刻程しか経っていないと思うのですが・・」
「俺は、半時もあれば済む仕事だと思ってたがな・・」
 目で威嚇しあう二人を総司は「まぁまぁ」と遮った。
「私がお茶でも淹れますからここは仲良く」
「そんなこと!私が淹れます」
 総司を止めて代わりにセイは立ち上がった。
 そこで初めて、二人はセイの脇にあった巻物に気がついた。
「何です?それ・・」
 総司は巻物を指差していった。
「あぁ、これですか?」
「帰りに面白いお店があってそこのご主人に頂いたんです」
 セイは嬉しそうに言った。
「やっぱり道草くってやがったか」
 土方の言葉にセイは再びムッとした顔つきで掛け軸を広げて見せた。
「そんな事言ってると罰が当たりますよ」
「これは剣の腕を上げ、身を守ってくれるお守りなんですから」
 自慢そうにセイが持つ絵を見た途端、総司はゾクリと悪寒を感じた。
 なぜかわからないが掛け軸から凄まじい殺気のようなものを感じる。
 土方を見ると、同じように異様な気配を感じているらしく、額には冷や汗のようなものが浮かんでいた。
「どうしたんです?お二人とも」
 固まっている二人を不思議そうにセイは見た。
「そ、それはすごいですね・・」
「けっ!そんな物で腕が上がりゃ誰も稽古なんてしねぇよ」
「二人とも信じてませんね」
 セイは頬をぶ〜と膨らませた。
「でもいいですよ・・」
 掛け軸を再び巻きながらセイは言った。
「私がこの掛け軸の力を証明して見せますから!!」
 二人に向かって楽しそうに笑いかけた。
「お茶淹れてきますね!」
 セイが元気に部屋を出て行くと二人はフーっと息を吐いた。
(何だろうあの掛け軸、とてもイヤな予感がする)
「心配すんな、ただの掛け軸だ」
 総司の考えを察したのか土方が言った。
「そうですよね・・」
頭では否定しながらもどこか割り切れない思いを抱えながら、総司は自分の勘が外れる事を祈った。






すいません、長い上に読みにくい文章で。
短くしようと心がけてるんですけど難しいです。
これからもっと長くなってしまうかも・・


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