月下都市 4



                        良く晴れた日の昼休み。

                        お弁当を持った香穂子は足取りも軽く、蓮との待ち合わせ
                       場所である屋上に向かっていた。
                        
                        やや重めの扉を少しだけ開けてそっと外の様子を窺う。

                        薄暗い階段を小走りしてきたので外の明るさに一瞬眩んだ。
                        右手を翳して目を瞬かせると、瞳ははっきりとある人物の影を
                       捉えた。

                        (あ・・・・・)

                        扉から割りと近いベンチに座っている蓮の後姿が見えた。
                        やや俯いているのは、きっと譜読みでもしているからだろう。
                        後姿だというのに、相変わらず隙の見せない雰囲気。
                        香穂子が来ている事に気づかず、振り返らないその背中に
                       香穂子は妙な悪戯心を抱いた。

                        足音を忍ばせ、そっと近付いていく。
                        蓮が読んでいた楽譜が見える位置までやってくると、蓮はパタンと
                        楽譜を閉じ、くるりと身を翻した。
                        急な出来事に香穂子が「え!?」と声を上げると、その腕を掴まれ力いっぱい
                        引き寄せられた。
                        結果、香穂子は蓮に抱きつく格好となってしまった。

                        「掴まえた・・・・」

                        優しく目を細めて微笑む蓮に香穂子はぷぅと頬を膨らませた。
                        「ずるい!気づいてたの?」
                        「階段を走ってきただろう?足音が響いていた・・・」
                        「それでも・・・他の人かもしれないのに・・・」

                        香穂子は怒ったように顔を背けた。
                        もし間違っていたら、他の誰かが蓮に抱きつく事になっていたのだ。
                        蓮も香穂子の考えている事がわかったのか、苦笑しながら首を振った。

                        「最初から君だとわかっているからこうしたんだ」

                        「へ・・・・?わかってたって・・なんで?」
                        驚いて顔を上げた香穂子の頬を両手でそっと包み込んだ。
                        そして自分の唇を香穂子の唇に重ね合わせる。

                        「それは・・・内緒の秘密・・だ・・」

                        唇が離れると同時に、今度は蓮が悪戯っぽい目をして言った。
                        「それってリリのセリフ!良いじゃない教えてよぅ」
               
                        蓮のブレザーの袖を掴んでぶんぶんと振り回す。

                        「悔しいなら自分で見つけるんだな」
                        「知らなかった事を見つけるたびに好きが増していくだろう?」

                        「それは・・・まぁそうだけど・・・でも私はちょっと違うよ」

                         蓮の言葉に今度は香穂子が軽く首を振った。
                         蓮の身体から身を離し、数歩歩き出す。

                        「私は・・そんなのなくてもすごく好きだよ」

                        「蓮の新しい面を見つけても見つけられなくても
                       毎日”好き”は膨らんでいくよ・・・」

                        満面の笑みで振り返った香穂子に蓮は目を瞠った。

                        (なんで・・こんなすごいセリフをさらりと言えるんだ・・・)

                         蓮は見る見るうちに頬を赤く染め、口を片手で覆った。
                         そして軽く目を閉じる。

                         しばらく迷った後、蓮は小さな声で呟いた。

                       「俺もだよ・・・・」
                       「どんなことがあっても・・・一生君を放さないから・・・・」

                        そう・・・絶対に・・・・

                        蓮の小さな呟きは香穂子の耳の届く前に、屋上を流れる
                       風にかき消された。


                 
                         引き続き甘い展開で。
                         予定ではオリキャラが出る予定だったんですけどね。
                         でも、ここも結構重要だと思っている場面なのです。
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