連載小説
[TOP][目次]
#38.交錯
 文明を手にし、都市を築くまでに至ってから生物種として大きな進化も変容もしていない以上、人間が地下世界へと生活の場を移してからも、水の重要性は何ら変わる事がない。
 生物種それ自体としても、生命を維持するには毎日最低2〜3リットルは水が必要であると言われている上、農業を初めとしたあらゆる場面で水が何かしらの形で関わってくる。そしてその重要性は有事において、ライフライン寸断と言う形や、そもそもそんな概念が存在しない環境で思い知らされるのが常である。更に地域によっては、水はあっても安心して口にする事すら出来ない場合もある。
 だから旧日本列島の様なあまりにも普遍的に水がある場所も含め、世界各地において水と言うのは非常に重宝され、貯水・取水施設が各地で作られるのが常であった。レイヤード第3層・産業区のバレルダムも、そうした一つであった。
 そこに、ブルーネージュことアレクサンドラ=グレイアムが、愛機プレーアデス共々「陸送」されていた。クライアントであるミラージュの意向に従い、AC数機を纏めて運べるほどの大型トレーラーのコンテナに匿われて作戦領域へと向かっているので「陸送」と言う形である。
 プレーアデスは両足を伸ばして据わった状態で固定されており、ブルーネージュはその中で、各種のシステムの確認をしていた。コンソールでは、彼女が好みで設定したライトブルーの各種表示が踊り、各種システムの状態確認が順調に進み、かつ異常がない事を伝えている。
 とは言え、現状において、この依頼においては問題が山積状態にあった。
 ブルーネージュが手元に控えている契約書によると、今回彼女が請けた依頼はバレルダムの警備となっている。産業区にあるとは言え、バレルダムの貯えは産業区の生活・工業用水として非常に大きなウェイトを占めている。しかも大規模貯水施設でありながら、未だ管理者実働部隊の襲撃は受けていない。
 とは言え、クレストとキサラギの主要な軍事地点をほぼ壊滅させ、ミラージュ戦力も全盛期の3割近くにまで落ち込んでいる現在、管理者部隊の攻撃は防衛戦力を回しきれないライフラインにまで及ぶようになっている。発電所やダム等が破壊された事で都市機能を断たれたセクションも続出しており、最近では第1層・自然区のセクション714に位置する、アビア湾のキサラギ水精製施設も襲撃された。幸い、この時は近くにアキラとその仲間達が、偶然か何らかの意図があっての事は不明ながら付近に居た為、キサラギの水精製施設は壊滅を免れたが、同様の襲撃は各地で起きている。
 そこでミラージュとしては、バレルダム襲撃への備えが急務となったのだが、本来この任務を請け負うべき社の部隊は相次ぐ実働部隊の襲撃によって失われている上、残った戦力も疲弊していて、十分な人員を送り込む事が出来ない。かと言って、現在駐留している警備戦力だけでは心許ない。
 その為ミラージュは止む無く、レイヴンを派遣し警備に当らせる事を決定。複数のレイヴンを雇い、日毎に交替する運びとなり、まずはブルーネージュ達を向わせる事となった。
 だが、ブルーネージュ達が召集されブリーフィングに臨んでいた最中、バレルダムが武装集団「アルケミスツ」に占拠されたとの急報が警備部隊よりもたらされた。その為急遽ブリーフィング及び作戦内容を変更せざるを得なくなったのである。
 アルケミスツについてはブルーネージュも知っている。以前、トレーネシティ地下の下水道にてテロを画策していた武装集団で、その時――ブルーネージュは偶然であったのだろうと見ていたが、アストライアーに発見されてテロは未然に防がれたと発表があったためである。
 今回現れた者達が残党なのか、或いはアストライアーが阻止したのとは別の部隊なのか、そのあたりはミラージュでも詳細不明であったため、殆ど説明されていない。何にしても、アルケミスツを名乗る武装集団が再び現れ、ダムを占拠。警備戦力を蹴散らした上に内部に毒入りのタンクを仕掛けたと宣言したのである。第一報をもたらした警備部隊員もそれ以後音沙汰がないと説明があった所から見て、殺された可能性は高い。
 アルケミスツが管理者実働部隊襲来に乗じて行動を起こしたのであれば、実に性質が悪い所であるとブルーネージュは見ていた。只でさえミラージュはイレギュラー討伐の度重なる失敗によって主戦力をズタズタにされ、更にイレギュラー討伐の是非を問う会議の紛糾に端を発する内紛までも起きてしまい、傾きかけの状態なのだ。
 逆を言えば、ミラージュ打倒を目論む戦力にとってはこの上ない好機であった。
 アルケミスツはミラージュに対し、毒入りタンクの撤去と引き換えに生活物資及び電気・水道の料金低下と、再開発に伴って閉鎖が予定されている産業区の居住エリアの閉鎖撤回を要求。従わぬ場合はバレルダムに毒を流し、更に水門を開放すると脅迫している。
 万一にでもバレルダムの水が汚染されれば、産業区全体に多大な被害が及ぶ事となるだろう。
 そこでミラージュは当初レイヴンに命じていたミッションを変更し、アルケミスツと交渉をしている間に毒入りタンクの起爆装置を解除、然る後にアルケミスツを殲滅するよう命じたのである。
 勿論、ミラージュとしては一端の武装集団の要求など聞き入れる心算はなく、アルケミスツとの交渉も表向きで、実際はレイヴン達が事を済ますに必要な時間を稼ごうとしているに過ぎない。万一にでも彼等に折れるような事があれば、他の武装集団がボールに殺到するアメフト選手よろしく押し寄せてくる事だろう。
「全くとんでもない事をしてくれたもんだ」
 そうだなと、ブルーネージュは通信モニター越しに話しかけて来た味方レイヴンに同意する。
 通信モニター越しの味方と言うのは、ブルーネージュ、そしてアストライアーの同期レイヴン・ヴァッサーリンゼだった。搭乗機ウォータースプライトはプレーアデスとは別のコンテナに収められており、彼はその中に居る。
「早い所奴等を潰して、後顧の憂いを断ちたいところだ」
「ああ、同じ気分だ。他に厄介事が色々有るからな」
 エレノアの事もある――そう言いかけて、ブルーネージュは口を噤んだ。部外者に身内の事を迂闊に喋りでもすれば、其処から付け入られる。実際、アストライアーはエレノアを人質に取られ、ブルーネージュも嘗てBBに戦友を殺すよう強要されたのだ。
 知人とは言え相手がレイヴンである以上、同じ事は必ず起こるとの判断から、ブルーネージュは押し黙る。しかし、それでも彼女の抱える気苦労は溜息と共に漏れてしまう。
 明日、アストライアーが直美との決戦に赴くに当って、エレノアは一人になる。しかも、下手したらエレノアは再び天涯孤独となってしまうだろう。エレノアが再び家族を失う事を考えると、自分が保護の為に動くべきであったが、生憎今は依頼である。遂行上において差支えがある為、携帯端末の電源は切った状態だ。
 ブルーネージュとしては、依頼を早い所片付け、全速力でエレノアの所に戻るしかないと見ていた。しかし、アルケミスツの戦力がどれ程かは分からないうえ、今から戻ったとしても今日中にアストライアー宅に行くのは不可能だった。
 仮に損害無しで依頼を終えたとしても、直帰では燃料が危うい。どこかで燃料を補給しなくてはいけないが、手間と手続き、その他諸々を考えると相応に時間が掛かる。それに、今回の警備任務の引継ぎも行う必要があるだろう。
 しかもこれは、あくまでも依頼が順調に達成出来た場合であり、実際はどうなるか分かったものではない。結局の所、今日中にアストライアー宅に戻ってエレノアを保護する事は現実的ではなかった。
 明日であれば帰還の目処はあるが、確証が持てない。
「腹が立つのはアルケミスツのせいで、厄介そうな対戦相手への対策を一時的にストップさせられた事だな」
「誰と戦うんだ?」
「ブラスだ。マシンガン連射が厄介だから対策したかったんだが……ほら、第3アリーナでは4脚に連射兵器積んでる奴が結構居るじゃないか?」
「言われてみればな」
 ブラス駆るクールヘッドもそうだが、レイヤード第3アリーナの4脚使いランカー達はマシンガン等連射が利く武器を使う者が多い。既に落命したコルレットやファナティック、チェーンインパクトと言った者たちが、現在でもスキュラやドクトルアーサー、そして嘗てのブルーネージュが、機動力と火力の両立に着目して選択した結果だ。
 だがマシンガンは兎も角、チェインガンは武器としてはやや重たい部類になる。そう言う訳で4脚に搭載する事で、火力と機動力の両立と同時に、防御力の削減と言う問題が生じて来る。
 更に、武器の性質上戦法が露骨な近距離戦狙いになると言うのも、大きな問題と言えた。ブラスの場合は火炎放射器に重散弾砲まで装備しているので尚更である。そして、ヴァッサーリンゼはそれを警戒していたと言うわけだ。
「おい、今どこに居るんだ?」
 通信モニターに別の顔が表示された。
 その主はBB一派によるガレージ襲撃事件以来、長らく戦列を離れていたパイクであった。ようやく復活を遂げ、今回がレイヴン復帰後初の依頼となったのだ。アストライアーあたりと違って真人間であり、被撃破後も強化人間とはならなかったため、怪我の治癒とリハビリを経ての復帰と言う事で相応に時間が掛かったのだ。
「後3分ほどで作戦領域に到達する」
「分かった。先行して待機してるぜ」
 パイクはそれだけ言って一度通信を切った。彼は別ルートで先行し、ダムの東側から行動を開始する事になっている。一方、ブルーネージュとヴァッサーリンゼは西側から突入する予定である。2人の到着を確認したのち、パイクも行動を開始する手筈だ。
「レイヴン、アルケミスツとの通信が途絶えた」
 ミラージュ通信士の声にブルーネージュは耳を疑い、まさかの事態に続く最悪の状況を予測した。
「どう言う事だ?」
「詳しい事は分からないが、交渉に当っていた連中の話だと、突然何かで通信画面が隠れ、銃声と悲鳴が聞こえて来たそうだ。まるで何かが襲撃して来たような感じだったが、その後は画像が乱れて、此方から呼びかけても誰も応答しなくなった」
 現在は空電しか入って来てないと通信士は付け加えた。
「誰かやったか?」
「いや、特殊部隊を派遣したとか、そういう話はない」
「だとすると、考えられるのは第三者の介入か……」
 犯人は何者だろうかと考えながら、ヴァッサーリンゼはメインモニターを外部映像に切り替え、近付きつつあるバレルダムを見やる。
「突入しないと分かりそうもねえな」
 通信モニターの向こうでパイクが呟いていた。
 ブルーネージュは何も言わなかったが、ダムに接近するにつれ、依頼を終えて早くエレノアの元に帰らなければとの思いを強めていた。
「さあ、目標地点に到達した。発進してくれ」
 トレーラーの運転手からアナウンスが入り、コンテナ内ではプレーアデスとウォータースプライト、それぞれの固定具が自動で全て外された。少し送れ、コンテナの屋根も開放される。
「こっちにはエレノアの事と言い、依頼といい、頭の痛い問題が2つもある。なのにこっちから出せる答えはないと来ている」
 ブルーネージュは小声で愚痴りながらもプレーアデスを立ち上がらせ、トレーラーから歩み出させる。アルケミスツに気付かれる可能性を考え、周辺の森に隠れながらダムへと接近して行った。
「他にやれる事がない以上、ダムに行ってこの目で状況を確認し打開するより他ないか」
 依頼の事に頭を切り替えるが、しかし数秒後にはエレノアと、無責任にもアリーナで生還の保証のない戦いに赴いたその保護者の事に頭が行ってしまい、ブルーネージュは溜息をつく。
「マナ……頼むから死ぬなよ」
 自分が戻るまでに友が死なない事を祈りながら、ブルーネージュはメインモニターに視線を凝らす。木々がプレーアデスの左右へと過ぎり、やがて先が開けて巨大なダムを見下ろせる所まで進み出た。
「クールヘッドより、ダムに向かった奴等へ」
 ブラスからの通信が届く。何も知らなければ警戒していた所であろうが、ブリーフィングで別働隊に割り当てられ、ブルーネージュやヴァッサーリンゼとは別のルートでバレルダムに向かっていた事は既知であった。
「俺達はこれからダム管理センターへ突入する。毒入りタンクは頼んだぞ」
「分かった」
 管理センターに居るであろうアルケミスツの連中の対応は任せることにして、ブルーネージュは川沿いにダムへと接近していく。
 対岸では、久方ぶりに見る黄色と黒で彩色されたパイクのAC・フィンスティンガーの姿が見えた。スカート状のフロート脚部MLR-RE/EGAに、レーダー装備型ではもっとも安価なCHD-02-TIE、ミラージュ製EOタイプコアのMCM-MX/002、安価な中量級腕部CAM-11-SOLを載せている。以前と大差のないフレームは、実弾ライフルMWG-RF/220、レーザーブレードMLB-LS/003、小型ミサイルMWM-S42/6、小型ロケットCWR-S50がセッティングされているが、全体的には以前の装備から幾分かグレードダウンしていた。BB一派によるガレージ襲撃の際にパーツを多数壊されたからである。
「……何かおかしいぜ」
 通信モニターにパイクの顔が現れる。
「外で見張ってる奴等が居ねぇぞ」
 ブルーネージュはメインモニターの焦点をダムへと当て、拡大率を上げて各所を確認した。
 パイクの言う通り、ダム周辺には歩哨と呼ぶべき存在が確認出来なかった。警備隊の成れの果てと思しき焦げた鉄屑は散見されるが、MTを初めとした戦闘メカの類が徘徊している様子はない。戦闘ヘリが上空を旋回していると言う事もない。もし戦闘ヘリが居るならばレーダーに引っ掛かっている筈だし、そもそも派手な色合いのフィンスティンガーを見付けて攻撃して来るのが当たり前だ。
 ブルーネージュが知る限り、パイクが攻撃を受けた様子もない。
「連中はどこ行ったんだ?」
「分からない」
 ヴァッサーリンゼのウォータースプライトも、ブルーネージュから100メートルほど離れた場所で木々に隠れて様子を窺い、周辺の森林に敵が潜伏している可能性も考え、様子を窺いながらダムへの距離を詰める。
 ダムは第5ゲートのみが閉鎖されており、他は無用心にも開け放たれたままになっていた。
「ダム中で此方の突入を待ち伏せているのかも知れん」
 気をつけろとブルーネージュが続けようとした途端、開け放たれていたゲートから何か金属片の様なものが吐き出され、下流へと落ちていくのが見えた。彼女には、黒煙も一緒に流れ出たように見えた。
「どうした?」
「あのゲートから何かが――」
 次の瞬間、パイクも、ヴァッサーリンゼも全身を強張らせた。彼等の眼前のメインモニターは、随所がひしゃげて壊れたMTエピオルニスがゲートから何者かによって押し出され、川へと叩き落される様子を映し出していた。
 更に、ノイズ混じりながら酷く混乱したような声が通信モニターから流れ、唐突に切れた。「助けてくれ」と言っているように、ブルーネージュには聞こえた。
「何か悲鳴らしいのが聞こえたな」
 パイクが呟く。
「内部で何か起こったようだな……」
 ヴァッサーリンゼも自分に言い聞かせるように囁いた。どうやら彼等も同じように聞こえていたとブルーネージュは確信する。
「……兎に角、入ってみる」
 出来る事なら様子を見ていたかったブルーネージュであったが、周辺のゲートは閉ざされ、他には入れそうな場所はなし。現状では突入以外に選択の余地は無いと結論付ける。
 ブルーネージュはMBT-NI/MAREの出力任せにプレーアデスを飛び上がらせ、大きく弧を描く飛行コースを辿った後、ダム上部へと着地させた。レーダーコンソールに気を配りながらゲートの真上へと移動するが、何かが妨害または攻撃して来る様子はない。
 安全が確認されたと見なし、ヴァッサーリンゼは手元のボタンを押し込んだ。後部ハッチの開放から1秒で機体が急加速し、オーバードブーストの推力に機体がダム上部まで突き動かされる。すかさず急加速を停止したが、機体はダム上部をオーバーランして貯水区画まで飛び出してしまった。ただし、フロート脚部ゆえにウォータースプライトが水没する事はなく、すぐに上昇してダム上部へと移動した。
 一方フィンスティンガーはOB機構がないので、飛び上がると速度が下がる点には目を瞑って脚部内臓ブースターを吹かし、ダムへと降り立った。
 彼等もまた、何かから攻撃される事はなかった。
「さて、こっからどうすんだ?」
「まずは起爆装置の解除に向かう。アルケミスツが健在にしろ、何かあったにしろ、まずはそうするしかあるまい」
 ブルーネージュは一歩進み出て、眼下のゲートに通じる足場を確認する。
「此処からは手分けして掛かろう。内部は狭いから、固まってても動き辛いだろう」
「そうだな」
 ダム外部に確認出来るゲートは4つ。ブルーネージュはもっとも西側にあるゲートの真上へとプレーアデスを移動させた。
「先に行くぞ」
 プレーアデスが飛び降りたのはそれを言い切った直後であった。ブルーネージュはブースターで落下速度を調整しながら機を旋回させ、AC1機がやっと降り立てる程度のスペースしかない足場に機体を下ろす。
「じゃあ俺は此処にするぜ」
 パイクはいちばん東側にある第2ゲートの真上へと定位した。
 ヴァッサーリンゼが中央東側のゲートへと急ぐ間に、プレーアデスは足場に降り立っていた。メインモニターでは、先程エピオルニスを吐き出したゲートが開け放たれたままになっていた。その曲がり角に、何か黒い影の様なものが蠢いているが、暗いせいで良く分からない。
 今の物体は何だろうかと考える前に、ブルーネージュはファイアーボタンを押し込んでいた。もしアルケミスツでなかったら、今頃は自身の名を名乗るか助けを求めに来るかするだろうと見なして。
 投擲銃KWG-HZL50はゲートの内部へと炸裂弾を投げ込み、激しい爆発と衝撃、高熱を通路へと撒き散らした。ブルーネージュにとっては予想外の事に、何かが軋るような甲高い声が通路の先から響いて来た。それは、彼女が知る戦闘兵器の駆動音の類ではなかった。昔見た映画に出て来た化け物であれば、似たような声を上げていた記憶があったが。
 化け物――まさかと思ったブルーネージュの前で、奇怪なものが白日の下へその姿を現した。
「こいつは、一体……?」
 それはヤゴとロブスターとサソリを合成したような外見で、全身が灰褐色の外殻に覆われ、前足には肉厚のハサミにも似た凶器が形成されている。頭部はのっぺりとした三角形を描き、その下にはペンチの様な顎が蠢いていた。腹部先端には鋭く長い刺が見て取れる。ブルーネージュは、この化け物が腹部を持ち上げて刺を突き刺してきたり、刺から毒液を噴射する様子を想像した。
 そして、想像と同時にマシンガンと投擲銃が同時に火を噴いた。マシンガンの弾は金属的な音を立ててハサミで跳ね返ったが、投擲銃は化け物の頭に直撃。頭を吹き飛ばされた化け物は上げた足を痙攣させて通路にひっくり返った。
「どうした!?」
 ヴァッサーリンゼが呼びかけて来る。
「化け物だ」
「何だって?」
 パイクとヴァッサーリンゼは、レイヤードの下水道構内で蜘蛛に似た化け物が繁殖し、レイヴン達に駆除要請が届いた話を思い出していた。
「こんな所にも蜘蛛の化け物が居やがるのかよ!?」
 パイクはダム壁面の足場へ通り立ったゲートへと進入していた。入ってすぐの通路を曲がり、道なりに進んで行く。敵機が襲ってくる気配はなかった。
「違う。姿形が全然似ていない」
「は? どう言う事だよ? 何か別の奴が居るってのか?」
 不確かな情報に困惑しつつも、フィンシティンガーは突き当たりの部屋に到達していた。部屋にはゲート開放用のスイッチが据え付けられ、アルケミスツのものと思われるエピオルニスの残骸が転がっていた。アルケミスツのものだと分かったのは、そのエピオルニスの残骸にはミラージュの社章や部隊マークが見られなかったからである。
 しかし、それ以上にパイクの目を引いたのは、そして周辺に散らばっている巨大な節足動物らしき焦げた残骸だった。
「いや、いい。何となく事情が分かったような気がしたぜ」
 パイクは残骸が再び動き出さない事を祈りつつ、ゲート開放スイッチを入れ、足早に部屋から抜け出した。
「こちらフィンスティンガー、第6ゲートのロックを解除したぜ」
 他に通路が見当たらないため、一度ゲートから出る旨を伝えたパイクを他所に、ブルーネージュは倒した化け物の残骸を慎重に避け、通路奥の小部屋へと進み出した。
 小部屋にはゲート開放スイッチが設置されており、何者かによってロックされていた。近くにはアルケミスツのものと分かるエピオルニスが、またも破壊された状態で停止していた。先程の化け物に殺されたのだろうかと察しつつ、ブルーネージュはロックを解除する。
 辿ってきた通路には、ほかの部屋に通じる道はなかった。
「ダムに展開している全機へ。ブラス達が管理センター突入に成功した」
 ブルーネージュは即座にミラージュ通信士との通信を開いた。
「どうなっている?」
「それが、アルケミスツの奴等が悉く殺されていると連絡が入った」
「あっちもか……」
 ブルーネージュは来た道を戻りながら、アルケミスツのMTが残骸になって転がっていたのを見つけたと通信士に報告した。更に、その犯人かどうかは定かではないが、ヤゴに似た化け物を見たとも伝える。
 ACのカメラ映像は随時ミラージュのオペレータールームに送られているため、プレーアデスが対面した化け物はすぐに通信士の知る所となっている筈なのだが、モニターが切り替わっている等で確認しそびれた可能性もあるので、念のためだ。
「……分かった。何かあったら連絡してくれ。引き続きタンクの捜索及び起爆装置解除を頼む」
「了解」
 返答後、ミラージュ通信士に代わってヴァッサーリンゼが通信モニターに現れた。
「此方ウォータースプライト、此方はもぬけのカラだった」
「分かった。5番ゲートに向かおう」
 プレーアデスは一度足場に戻り、周囲を確認する。このまま飛び移って行った方が良いのか、或いは今フィンスティンガーがやっているように、上から回って行った方が早いのか。だがブルーネージュの目に止まったのは、ダムの壁面を這い上がっている見慣れない物体だった。
 モニターの拡大率を上げると、物体の下に濡れた跡が見受けられた。つまり、何かが河から這い上がっていると言う事である。拡大率を上げてもその物体の姿は明瞭ではないが、ブルーネージュには、それが先程見たヤゴの化け物であると断じられる自信があった。
「何だこいつは!?」
 ヴァッサーリンゼの声に遅れ、彼が担当したゲートからエネルギーショットガンの流れ弾が飛び出した。拡大率を元に戻し、危険を察知したブルーネージュは急ぎ足場から飛び上がり、一度ダムの最上部へと戻る事にした。
 そこでブルーネージュは、吹き飛ばされたヤゴの残骸がゲートから転げ落ち、ウォータースプライトがその後を追うようにして姿を現したのを見た。ウォータースプライトはエネルギーの回復を待っての事か、少し停止してから5番ゲートのある足場へと渡った。
「ちくしょう、新手の化け物かよ。しかも結構な数じゃねぇか」
 ダム上部では、フィンスティンガーが這い上がってきたヤゴの化け物にロケットを撃ち込んでいた。マトモな射撃武器はあるが、頭部に生体センサーがないのでロックオンが出来ないのだ。
「こいつら、どこから湧いて来やがった!?」
 ブルーネージュは分からないと返すのみ。
「……援護はする」
 プレーアデスはマシンガンと投擲銃で援護射撃を開始。だが投擲銃で身体を拉げる事は出来ても、マシンガンの弾は外骨格に弾かれてしまう。撃たれた化け物が即座にプレーアデスに向き直り、歩み寄って来た辺りからするに、ダメージは殆ど受けていないようだった。
 ブルーネージュは最寄の化け物が、顎を蠢かせているのに気が付いた。
(確か、ヤゴは下顎を直接伸ばして小魚や小動物を捕食する……こいつらがヤゴの外見そのまんまな攻撃を繰り出して来るとは思えないが、万が一の事もある)
 危険を察知したブルーネージュがプレーアデスを急速後退させたのと、飛び出して来た牙付きの万力の様な顎が空気を噛んだのはほぼ同時だった。嫌な予感に限ってよく当るなと思いながらも、ブルーネージュは即座に反撃。伸びきった顎が戻る前に投擲銃を頭にぶち当て、頭部と胸部、そして6本の足を派手に吹き飛ばした。
「……銃弾は効かなくても砲弾は効くのか」
 随分変わった防御性能だなとブルーネージュは呟き、新たに迫ってきた2匹にも同様に投擲銃を叩き込んで黙らせる。
 さらにもう1匹を炸裂弾で粉砕しながら、この化け物は外骨格とその下の分厚い筋肉か何かで衝撃を吸収しているのだろうかとブルーネージュは考えた。勿論、実際にそうなのかは分からないが、銃弾に耐えられる一方で、高熱と高衝撃が伴う砲弾の炸裂に耐えられない理由が外骨格と筋肉からなる二重防御構造に起因するのならば、納得出来なくはない。だが、相手の身体を掻っ捌いてそれを確かめる勇気は持てない。
「ブルーネージュ!」
 通信モニターにヴァッサーリンゼが現れた。
「手を貸してくれ! 化け物の群れが厄介だ!」
 分かったとだけ返し、ブルーネージュは通信先を切り替えた。
「パイク、ヴァッサーリンゼを手伝いに行って来る」
「分かった、此処は任せな。どんな面倒なヤローかと思ってたが、大した事は無さそうだからな!」
 見ると、フィンスティンガーの周辺に現れていたヤゴの化け物は2匹を除いて駆逐されていた。フィンスティンガー自体も殆ど損傷がないようだった。
 去り際に、ヤゴの化け物が持ち上げた腹部から溶解液か何かを噴射しているのをブルーネージュは見た。幸い、溶解液はフィンスティンガーには命中せず、その後ろの残骸に当って煙を上げていた。
 それを見届けて、プレーアデスは5番ゲートの足場へと降り立つ。他の通路もそうだったのだが中は狭く、AC2機が並んで通れる幅はない。これでは満足に機動力など活かせず、薄装甲のウォータースプライトでは辛い事がブルーネージュには容易に想像出来た。
 そのウォータースプライトは、排水スイッチのある小部屋に追い込まれ、エネルギーショットガンを乱射していた。すぐにブルーネージュは投擲銃で援護に入る。何やら耳障りなノイズにも似た叫びが聞こえてくるが、無視して投擲銃をヤゴの化け物の頭や腹に叩き込む。
 程なくして、部屋に入り込んでいた化け物は全て焦げたボロボロの肉片と化していた。
「助かった……」
 安堵するヴァッサーリンゼだったが、ウォータースプライトは左腕がなくなっていた。
「左腕はどうしたんだ?」
「やられた。食い千切られた」
 ヴァッサーリンゼは、プレーアデスが加勢してくれる直前に伸ばした顎にかかり、左腕を肘関節から千切られたと言う。千切られた左腕は、喰えないとでも判断されたのか部屋の片隅に放られていた。
 自分も先程、顎による攻撃を危ない所で回避したばかりである。同じ目に遭わなかったのは幸運であったが、一歩間違えばプレーアデスも腕か足を食い千切られていた所である。今後は最大限の警戒を払うべきであった。
「助けてくれ!」
「誰かあぁ!」
 突如、悲鳴にも似た声が通信モニターから発せられた。同じ依頼を受けたレイヴンの誰とも似てない声だった。
 声の明瞭さから察するに、出所はかなり近い。
「近くに誰かが居るらしいな……」
 ブルーネージュは、通路途中に分岐店があり、未だそこには足を踏み入れていない事を思い起こしていた。声の主が居るとすればそこだろうと判断し、プレーアデスを急行させる。
 向かった先は縦に長い部屋だった。其処では、エピオルニスがヤゴの化け物に組み付かれ、ブルーネージュの見ている前で万力の様な顎にかかり、無残に食い千切られていた。
 通信モニターの悲鳴は軋むような音に掻き消された。
「遅かったか……」
 ブルーネージュは溜息をついた。部屋には4機のエピオルニスが居たが、全てやられた後だった。他のエピオルニス同様、彼等にもミラージュの社章や部隊マークはなかった。その残骸の向こうでは、見るからにダムの設備ではない、BC兵器を示す警告アイコンが付いた円柱形のタンクが、2つ並んで設置されていた。
 それが目標の毒入りタンクである事は間違いなかった。
 プレーアデスとウォータースプライトは部屋の入り口からミサイルを連射し、ヤゴの化け物を片っ端から狙い撃った。化け物はすぐに気が付き、ある個体は逃げ惑い、またある個体は腹部を持ち上げて溶解液を飛ばしたが、ACには届かなかった。
「ダムに展開しているレイヴン諸君へ、ブラス達から管理センターの詳しい状況が届いた」
 部屋にいた化け物が全て動かなくなった直後、通信士が新たな情報をもたらした。
「管理センター内にはヤゴに似た化け物が多数徘徊しており、血痕や肉片が多数見られるも生存者が見当たらないとの事」
「アルケミスツは?」
「全滅していた」
「それじゃ、交渉が突然途絶えたと言うのは……」
「指導者が殺されていた」
 ブラスによると、チャンネルを繋いでいた先であるモニター室を見つけるも、部屋の中で無残に食い千切られたアルケミスツの指導者の成れの果てと、ヤゴの化け物が殺したテロリストを腹に収めている現場を目の当たりにしたとの事である。その映像記録はすぐにレイヴン達のモニターに送られ、ブルーネージュはテロリストの脳漿や臓腑が骨諸共に粉砕され、いやらしく蠢く顎に引き込まれる様子を目の当たりにすることとなった。
「ダムに居たアルケミスツの奴等も、この化け物に殺されたと言う事だな」
 ひっくり返って動かなくなったヤゴの化け物を見下ろして、ヴァッサーリンゼは呟いた。彼のところにも凄惨な宴の様子は送られていたが、外部カメラ映像を注視していたので殆ど目を向けていなかった。
 その間にプレーアデスはタンクに飛び掛るように降り立ち、マシンガンを手放してパネルに触れる。ACが外部装置の操作可能になった旨を伝えると、ブルーネージュは素早く手元のパットを叩いた。
 暫くして、パネルに灯っていた光が消えた。
「こちらプレーアデス。タンクを発見し、たった今起爆装置を解除した」
「よし、良くやってくれた。そいつは後で化学部隊に始末をお願いしよう」
 これで当座の目標は果たしたブルーネージュ達であったが、ミラージュ通信士から発せられたのは新たな命令だった。
「君達には引き続き、ダム周辺及び管理センターの掃討をお願いしたい。ヤゴの化け物を一匹残らず駆除してくれ」
 そう来るだろうなとの考えを胸中にしまい、ブルーネージュは先程放ったマシンガンを拾い上げ、プレーアデスに装備しなおした。
「了解」
「俺は外に出る。戦い辛くて仕方ない」
 此処では分が悪いと呟きながら、ヴァッサーリンゼは急ぎ通路からの脱出を図る。通路内に、新たな化け物が徘徊している様子はなかった。千切れた愛機の左腕は放置したままであるが、今は撃破されない事を優先するべき時だった。
 プレーアデスは暫く毒入りタンク近くに留まり、周辺を警戒する。近くの水路から化け物が這い出して、タンクに接触、最悪破壊する可能性を警戒しての事だった。
 あのヤゴの化け物が、既存の何かしらの節足動物をベースとしているのであれば、成長過程で幾度か脱皮を行い、その都度身体の質量を増大させているはずである。その途上にある小型個体であれば、水管を移動する事も難しくはないだろうとブルーネージュは見たのだ。
 そして、それは節足動物ベースであるだけに卵から生まれることも想像に難くない。
「……あの化け物を発生させた奴は?」
 化け物の卵を産んだ奴――或いは、それを作った奴が何者かと言う疑問にぶち当たるまでに、そう時間は要さなかった。だが現状では手掛かりがなさ過ぎて、「どこかにいる何か」以上の回答を導き出すのは不可能だった。
 そもそも、あのヤゴの化け物の正体さえ現状では分からない。生物兵器として生み出されたものなのか、或いは予てから続く企業間対立や実働部隊の襲撃に伴う環境悪化によって発生したイレギュラーミュータント――発生が予想外の事態に起因する突然変異生物の類なのか、ブルーネージュには判別しがたい。
 仮に生物兵器だったとしたら、今度は誰が作り出したかと言う話になる。仮にそうだとすれば、ブルーネージュとしては真っ先に疑うのはキサラギであった。何しろあの企業は前々から奇怪な生物兵器を手掛けているのではないかとの噂があり、以前発生したクモ型の巨大生物もキサラギ製ではないかとの疑いが持たれている。
 仮にキサラギ製でないとすれば、その下請またはグループ企業の何かしらか、非合法の組織と考えるのが自然であろうかとブルーネージュは思った。可能性は低いが、どこかしらのテロ組織が作り出した可能性も捨てきれない。いずれにしても、証拠は存在しないので現時点では憶測でしかない。
「レイヴン諸君へ、たった化学部隊がそちらに出動した。到着予定は30分後」
 まだ化け物が徘徊している中で出撃させた事に疑問を覚えたブルーネージュだったが、しかし考えても見れば化け物掃討が終わるまでは周辺で待機して貰い、完了してから改めて処理の為に入ってもらえれば済みそうな事である。待機させられる羽目になる彼等の胸中を度外視すれば、それで概ね問題はあるまい。
 これで毒入りタンクの処遇については考えなくても良いとして、ブルーネージュはこれからどうするべきなのかを考える。
 まずやるべき事は、化け物の掃討だ。幸いにしてあのヤゴの化け物は、接近さえしなければプレーアデスの装備で対処するのはさほど困難ではない。だが分からない事は多い。一体どこからどれぐらいの数が現れたのか? どれほどの数が潜んでいるのだろうか? もしかしたら普通のヤゴがそうであるように、成長して脱皮し、飛行能力を獲得する可能性だってある。そうだとすれば見かけ次第撃破が妥当だ。
 戦友とその娘の事が気がかりではあるが、あの化け物が脱皮して空を飛ぶようになったらまずい事になるだろう。飛行能力を得たことで当然行動範囲は広がり、掃討が難しくなるばかりか生き残った奴が卵を生む可能性が高い。
 もし繁殖されたらどうなるかは想像したくない所であった。間違いなく化け物は卵を産む事だろう。それも一度に千とか万の桁に達するぐらいには。そこから先を考え、ブルーネージュの身の毛がよだつ様な気分に駆られた。蟲が苦手と言うわけではない彼女だが、だからと言ってあの化け物をのさばらせる気にはならない。
「全く、何がどうなっているんだ?」
 新たに壁面に現れた化け物を炸裂弾で黙らせて、ブルーネージュはつぶやく。
 以前のトレーネシティ地下の下水道に現れたキサラギ謹製と思しきクモの化け物とでっかいウジに続き、今回の化け物ヤゴである。一体どういう事情の下でこうなったのか、現状ではさっぱり分からない。
 だからこそ、戦友には文句のひとつもくれてやりたい所だと思ってしまう。
 大体、こういう化け物やテロ屋、管理者実働部隊、そしてイレギュラーと理解を超える奴等が跳梁していると言うのに、エレノアを置いて決戦に出向くアストライアーの気が知れなかった。レイヴン達の数も減っている中、アリーナの試合とは言え貴重な戦力が無駄な潰し合いなんぞやってていいのかという話になるし、せめて自分も含めた誰かにエレノアの後見を頼む位の事はしろとも思う。
 とは言え、自分もレイヴンとしての立場があるため、強くは言い出せなかった。いつ死ぬか分からぬ自分が後見に相応しいのかどうか、疑問の余地が大いにあったからだ。他に誰か適任者が自分の周囲に居るのかと言われても、エレノアの立場からして色好い回答は出来そうにない。孤児院か児童保護施設当りに送る事も考えねばならないが、果たしてそれがエレノアの為になるのかどうかも判断しかねる。
 しかし現在のレイヤードの情勢を踏まえるに、いよいよそれを切り出すべき潮時にあるように思えてならなかった。
 もし戦友が生きて帰ったら、強く言ってやるかとブルーネージュは決めた。もし、生きて帰ってくる事が出来たならば。
 だが、ブルーネージュに戦友とその娘の事ばかり考える暇はなかった。
 貯水池から、新たな化け物ヤゴが這い出してきた。プレーアデスを獲物や外敵と認識してか、きしるような咆哮を上げて迫り、万力の様な大顎を開く。
 ブルーネージュはその開いた顎目掛けて投擲銃を繰り出した。だが投擲中の狙いが僅かに狂い、砲弾はダムの水面を穿ち、わずかばかりの爆音と水柱を上げて終わった。
 すかさず顎が伸び、プレーアデスの急速後退と同一タイミングでその30センチほど手前の空間を噛んだ。
 間一髪で顎をかわし終えた頃には、武器コンソールが投擲銃が再び発射可能な状態になった事を伝えていた。間髪いれずにブルーネージュは親指でファイアーボタンを殴打、再び炸裂弾を叩き込む。今度の射撃は怪物の正面にジャストミートし、頭部から胸部にかけてを盛大に吹き飛ばしてのけた。
 しかし、それに続くように新たな3匹がダムの壁面を這い上がって来て、ブルーネージュから安堵する余裕を奪い去った。
 何れにせよ、こうなってしまっては大事である。警備と化け物掃討のためにバレルダムに張り付く事が不可避となった以上、ブルーネージュとしては一刻も早く交代のレイヴンが来てくれる事と、自分がエレノアの元に行けるようになるまでにアストライアーが死なないよう、新手のヤゴにミサイルを撃ち込みながら願う他なかった。
16/05/21 18:33更新 / ラインガイスト
前へ 次へ

■作者メッセージ
 第37話で不在だったブルーネージュの話。タイトルも彼女の胸中そのままです。
 ダム警備の為に駆り出されたかと思えば、原作でもあった毒物混入阻止(一応今回の話のベース。ただしテロ屋の存在や複数のレイヴンで実行など、随所をアレンジ)のミッションをやらされる羽目になり、しかもそこでまた化け物出現と流れが変わっている今回ですが、当初メインは別のところにありました。
 今回は本来、次話(現時点では執筆段階につき、内容についての詳しい言及は割愛)でも冒頭あたりで触れ、今後も何度か問題となるであろうアストライアーとエレノアの関係について、現時点でのブルーネージュの考えを描写するための回だったのですが……思えば、それだけの為にミッションやらせるのではなく、アス姐とエレノアの処遇を話し合う会にしても良かったような気がします。
 何せ次の相手が相手ゆえ……。

 今回現れたヤゴの化け物についても劇中で言及……しようかと思ったのですが、この手の奴はフロム脳に基づくと大抵キサラギ謹製になってしまい、面白みがないだろうと言う事で、結局ボツにしてしまいました。

 で、オリジナルは2015年2月21日投稿と前回から半年もブランクが……。

TOP | 目次

まろやか投稿小説 Ver1.50