連載小説
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#10:バグ・ハンティング -地獄で同業者-
 カーブを曲がろうと減速した際、背後の敵機は減速が間に合わずクオレの目の前をフライバイした。トンボと複葉機を異種交配させたようなドラグーンフライのフォルムは、彼には見間違いがなかった。そいつがすぐに目の前で反転し、バルカンを連射しかかる。
 クオレ機は即座にオーバードブーストで離脱し、弾幕から逃れた。
 しかし、ドラグーンフライは丸腰の獲物に執拗に追いすがってくる上、振り切ったはずのバレットライフは蛇の様な執念深さを伴って追跡して来ていた。
 しかも、もう1機ドラグーンフライが飛来し、バルカンを発砲しながら迫って来る。
 グラッジパペット以上に方向転換や切り返しの素早いスティンガーなので、現在の所致命的なレベルでの被弾こそ免れているが、この送り狼はやはりしつこい。このままエンジン全開で戦っていると、燃料切れで此方が息切れする危険も考えられた。
 スティンガーは防御性のなさが槍玉に挙げられているが、運動性重視機体の常として、戦闘では殆ど常時ブースターを吹かして戦う性質上、燃料消費にも難を抱えていた。
 少なくとも、長距離を高速で移動しての戦いには向かない。
 幾ら初期型のAC用ジェネレーターでも全く問題なく動く省エネ性でも、その元である燃料が尽きてしまえば話にならない。しかし、だからといって状況を好転させる手段も現状では見当たらない。
 いっその事オーバーシュートを狙い、どこかにドラグーンフライだけでもぶつけてやろうかと考えながら、クオレは丸腰の機体を飛ばして逃げ回った。
「誰でも言い、援護してくれ!」
 咄嗟に叫ぶクオレだが、通信を聞いたのは人間に限らなかったようだ。と言うのもドラグーンフライがまた現れて、2機の仲間共々バルカンを撃ちかかってきたためである。
「この野郎、お前は来なくていい! ってかむしろ来るな!!」
 咄嗟にオーバードブーストで距離を離すが、モノアイがあるだけで装飾要素の無い皿頭をした飛行メカ5機は縦列隊形でクオレ機を追い続ける。バレットライフは大きく遅れていたが、生前のパイロットが抱えていた歪んだ人間性が残っているかのごとく、確実に後を追っていた。
 グラッジパペットと比較してスティンガーが機動性で勝っている事はクオレも否定しないが、ドラグーンフライに追い回されているとその実感は全くない。ドラグーンフライがクオレ機に劣っているのは火力と耐久性ぐらいのもので、運動面に関してはスティンガーをも上回っている。特にその3次元機動力はあらゆる有人ACを凌駕し、MTやACBでも対抗出来る機種はスカイシミターなど、高機動の飛行型機種中でも数えるぐらいしか存在しない。
 事実、クオレ機が急カーブを交えながらビルの谷間をすり抜け、立体交差を潜ってもエンジンノズルやラダー(翼舵)、更には翼そのものを絶妙に稼働させて姿勢制御を行い、脱落者を出さずに追撃を続行。最後尾の1機だけはビル壁面に右の翼を擦らせ、姿勢を崩したもののすぐに立て直した。
 他の機はクオレの進み方とビル街を飛ぶコツを掴んだと見え、やがてバルカンを撃つようになった。ビルのコンクリートが崩れ、窓ガラスが割れ、デスクやOA機器が人間諸共吹き飛び、丹念に彫られた石像や彫刻が粉々になって落ちていく。想像すると胸の悪い光景だが、内心で許せと思いながらクオレはスティンガーを激しく旋回させ、ビル街を進む。バルカンの火線と複葉機の様な機械兵が後に続く。
「この野郎ッ、これならどうだ!」
 クオレは突然ブレーキをかけた。ビルが並ぶ中で急減速し、予想外のタイミングで、一瞬にして距離を詰めた相手に接触する事を恐れ、ドラグーンフライ5機は百分の数秒の間に状況把握と判断を余儀無くされた。
 左右には逃げられないと判断し、ドラグーンフライたちは急いで上昇に転じた。しかし、1機は速度を出し過ぎており、前方の仲間を避けようとして急減速するも、無理な減速が祟って姿勢を崩し、立て直すも間に合わずにビルへと突っ込んだ。
 無事に上昇離脱したドラグーンフライは、クオレ機が再び逃げるのを確認するや、再び下降、またもバルカンを撃ちかかった。しかしクオレも易々と機体を傷つけるわけがなく、機体を上下左右に振りながら火線を避け、ビルの破片を撒き散らしながら逃げて行く。
 すぐに後を追うドラグーンフライだったが、地面から2メートルという低高度を飛行してブースターを狙っていた1機だけは運に見放され、僚機が誤射でばら撒いた瓦礫にぶつけられて姿勢を崩し、地面に接触。アスファルト上を回転しながら翼以下各パーツを千切り飛ばし、乗り捨てられていた自家用車数台を巻き込み、大音響を上げて木っ端微塵になった挙句、後から続いていたバレットライフに頭脳ユニットを踏み潰された。
 その間にもクオレは逃げ続けていた。しかし前方にはバルバトス10機からなる群れが出現、クオレ機を見るやビームガンやガトリングガンを発砲しかかった。ハードフィストだけでこれだけの群れを裁くのは無理だと判断し、クオレは逃げの一手を取った。
 バルバトスは逃がすまいと攻撃の手を緩めない。背後からクオレを追いかけている味方もお構い無しに発砲する。だが彼等が捕らえたのはクオレの命ではなく、最後尾を飛んでいたドラグーンフライだった。最後尾の機はバルバトス軍団が見えなくなった頃には、翼を全て砕かれ、蜂の巣同然になっていた。
 まだ2機のドラグーンフライが追撃を継続している。どこかに自分を助けられそうなものがないかと期待したクオレは、レーダー前方に表示された味方機反応と、交差点に姿を現したACを見て咄嗟に叫んだ。スチールブルーのスティンガーと紺と白のスティンガー、ガトリングガンを装着した黒いスティンガーも居たが、それまではクオレの視界には入っていない。
「ヘルファイアー!」
 叫んだ先には、バレットライフそっくりな4脚ACがいた。
 確かに、未だ一線で活躍するMHD-RE/005、高次元でバランスの取れたコアMCM-MI/008、4脚としては最大級の積載と防御性能を有するMLF-MX/007はまったく同じだ。だが、腕部は軽量級腕部MAL-RE/REXとなっている上、フレームはバレットライフに見られる黄色と黒の迷彩ではなく、白とグレーの迷彩となっていた。関節部も青く塗られている。
 そして、手にしているのは旧型番YWH13M-NIXの頃から連射力で定評のあるMWG-MGH/700二挺で、エクステンションには追加装甲CSS-IA-42Sが装備されていた。
 そのAC「バレットストーカー」の搭乗者――ヘルファイアーは眼前を火線が横切った事で、何事かと旋回した。そこには、逃げて来たクオレのスティンガーと、その後を追うドラグーンフライ2機、そして3機の遥か後ろから追跡してきたバレットライフの姿があった。
「そいつらを何とかしてくれ! 弾切れで応戦できねぇんだ!!」
 過ぎ去ったスティンガーからクオレの声がした事で、彼を知るヘルファイアーは一瞬疑問を抱いたが、バレットライフを前にして、その疑問はすぐに霧散した。そしてすぐに通信モニターを開く。
 彼の目の前では、黒いスティンガーがガトリング砲でドラグーンフライを粉砕していた。
「クオレか……」
 バレットライフが、バレットストーカー達を新たな獲物と見なし、空中よりマイクロミサイルを放ったのは、その直後の事だった。
「少しの辛抱だ」
 スティンガーが左右に避け、紺と白のスティンガーがドラグーンフライと交戦する中、白い迷彩の4脚はマイクロミサイル群を容易く回避してみせると、右肩に背負ったリニアガンCWC-LIC-100をバレットライフに向け、間髪入れずに発砲した。たて続けに繰り出された3発の砲弾は、スティンガーを追いかけていたバレットライフのコア後部に直撃。36年前の機体を忠実に再現した為にフォースフィールドがない機体はブースターを破壊される。
 ブースターを壊され、バレットライフは着地した。そして、今度はバレットストーカーに狙いを定め、速力が著しく落ちながらも接近しながらチェインガンを撃ち出した。
 バレットストーカーは即座にオーバードブーストを起動、チェインガンの有効射程より逃れた。
「タンザナイト、お前は下がった方がいい」
 まだ若いうちに死ぬもんじゃないと、ヘルファイアーは傍らに降り立った青いスティンガーを駆るタンザナイトに下がるよう促した。月明りの夜を思わせる青い髪と瞳をした、まだ少年と言っても良いイェーガーは頷き、レーザーガンを照射しながらそそくさと後退した。
 その間に、紺と白のスティンガーはバルカンを見舞われるが、レーザーガンで反撃し敵機の皿型の頭部を貫く。頭脳を失ったドラグーンフライは姿勢を崩し、傾いたビルの屋上に正面から突っ込み、原形を留めたまま停止した。
「アイザックス、オニキス、何とか時間を稼いでくれ」
 数秒で十分だとヘルファイアーが言い出す前に、オニキス駆る黒いスティンガーと、アイザックスの操る紺と白のスティンガーが、バレットライフの左右に回り込んだ。
「お前も殺してやる……!」
 暗く冷たく、ドスの利いた声を響かせるバレットライフだが、ヘルファイアーは動じない。その間にオニキス機がガトリングガンを、アイザックス機はレーザーガンを発砲してバレットライフの脚を穿つ。
 その隙にヘルファイアーは愛機を後退させ、マシンガンを撃ちながら、左肩のレールガン・KWG-RG20の砲身を展開した。かつてミラージュがWB14RG-LADONの型番で生産・販売していたレールガンだったが、今はキサラギに生産・販売権が売却され、それ故型番もミラージュ風のそれから変わっていたものだ。
<レールガン メイン電源オン。発射体制に移行します>
 長砲身がバレットライフに向けられ、砲口がスパークを帯びる。
 レールガンとは言え、この砲から撃ち出されるのはプラズマである。これと砲身のレールに電磁気をかけて撃ち出すのだが、その性質ゆえ、最初の発砲前に砲身に電気を通さねばならない。その為、起動後は機体に回されるエネルギーが減少する。
 しかも、発射の際にエネルギーをチャージしてプラズマを膨張させる必要もある為、射出にタイムラグが出来ることも欠点だった。
 実際、その隙を突いてかバレットライフはミサイルを撃ち出して来たが、それで動じるヘルファイアーではなかった。ミサイルを足に受けたが、ダメージはフォースフィールドと脚部装甲で減衰された。そして次のミサイルが飛んでくる前に、ミサイルを撃たせまいとマシンガンの射程内へと踏み込んだ。
 バレットライフはエネルギー反応を察知してマシンガンとチェインガンを連射しかかるが、重量級4脚とは言え、CR-B90T2にも匹敵する高出力を有するIDA-10モデルMk.11ブースターを装備したバレットストーカーには、動き回れる程度の機動力は備わっている。距離もあるため、円運動によるマシンガンの回避程度は、ヘルファイアーにとっては苦とはならない。ブースターの発熱量こそB05-GULLに匹敵していたが、バレットストーカーもまた、ナービス戦争時代やその後の戦乱時代のACとはまるで違う。当時なら過剰発熱でエネルギーが低下してマトモに動く事も出来ない有様であるが、この機もブースターの発熱で熱暴走を起こし、機体の足が止まる事は決してない。
 その間にも、プラズマが砲身でチャージされていく――膨張したプラズマによる、緑色の光が砲身から生じていた。
<発射準備完了>
 バンクと左右の細かい踊りを交えながら、機体を降下させてヘルファイアーは発する。
「アイザックス、オニキス! 離れろ!」
 愛機が接地する一瞬の間に、アイザックスとオニキスは互いのスティンガーを急速後退させた。バレットストーカーの攻撃を確実なものとするため、互いの得物を牽制に使いながら。
 間髪入れず、ヘルファイアーは無言のままファイアーボタンを押した。刹那、ナービス戦争時代から変わらぬ緑色の光線が繰り出され、一瞬でバレットライフに突き刺さった。このレールガンはメーカーこそ変わったが、外見と弾速は往時から変化がなく、しかも出力に関しては、「変態企業」と言わしめたキサラギの技術陣によって、旧型番時代比の約2倍と言う大幅なパワーアップが施されていた。チャージの後に繰り出された緑色の光線は超高速でバレットライフのコアを捉え、コア前面の装甲を派手に吹っ飛ばした。
 そして、コアを抉られたバレットライフはスティンガー2機にとどめの掃射を見舞われ、その動きを止めた。
 バレットライフに殺されずに済んだクオレは振り返り、バレットストーカーへと機体を向ける。白い重量級4脚は、既に機能停止したバレットライフのコア目掛けてリニアガンを見舞い、コックピットのあるあたりを叩き潰していた。
「助かった。危ねぇ所だったぜ……」
 所々傷付きながらも、何とか戻って来たクオレ機に気が付き、ヘルファイアーは攻撃を止めた。
「……貸しにしとくぞ」
 ヘルファイアーは表情を崩さずに答えた。
「無事だったかい?」
「大丈夫ですよ」
 クオレは通信を入れてきたアイザックスに、暴言の目立つ彼としては珍しく敬語交じりで返した。金髪に黒い瞳をした、精悍な印象を漂わせる男性が、それは良かったと頷く。
 一方、癖が何一つ見当たらない黒髪と黒い瞳、そして贅肉のない細身から生真面目な衣装を漂わせるオニキスは無言で、感情を表に出さないままであった。だが、クオレが礼の意味でサムズアップすると、彼も親指を立ててみせた。
「しっかし、お前らが来てたってのは知らなかったぜ」
「今日来たばかりだ」
 オールバックにしたグレイの頭髪、青い眼で眉間から頬にかけて傷がある顔のヘルファイアーだが、物騒で闘争的なイメージのあるその名とは裏腹に、彼の口調は抑揚に乏しい。傍目には冷たい奴という印象を抱かれる事だろうが、クオレには既にそれは分かっている事だった。
 何故なら、ヘルファイアーとスティンガーを駆る3人は皆、クオレと同じ都市を拠点としているイェーガーまたはハンターなのだ。そして、ヘルファイアーは必要以上の事は口にしない比較的寡黙な男であり、明朗快活なアイザックスはクオレの面倒を何かと見てくれた事、更にはオニキスが、クールを通り越して無表情一歩手前な青年であるのも、クオレには分かっていた事だ。
 クオレについて認知のあるイェーガー及びハンターもまた、彼がスティンガーに乗っていた事について、問う事はしなかった。大体、愛機が破壊された際などに、MTやACBをレンタルする事も少なくない同業者達である。クオレがスティンガーに乗っている理由も、恐らくはグラッジパペットの大破が原因だろうと察していたのである。原因が何であるのかまでは分からないにしても。
 そして、眼前のハンターに随伴しているアルジャーノンの姿がないことも、ヘルファイアーは指摘しなかった。
 第一、13歳でイェーガーをしているとは言え、彼にとっては全く関心のない事であるのだから。年端も行かぬ少年がACに乗っている事を不安視するのは、人間的に仕方ないとしても。
「あれ、アルジャーノンは? それに何でスティンガーに乗ってるんだ?」
 年長者が気にも留めぬ事を、タンザナイトは尋ねた。
「RKにやられた」
 そのため、止む無くスティンガーを借りて害虫退治に勤しんでるんだとクオレは言った。ハインラインは、その横からアルジャーノンが生きている事を付け加えた。
「で、担当ハンターとイェーガーがダブルでやられたってのに、お宅のハインライン殿は図々しくも生きているんですか」
 タンザナイトのハインラインに対する姿勢は厳しい。発言の随所に、隠そうともしない刺が感じられる事からも明確だ。
「……やめとけ」
 オニキスが宥めるが、タンザナイトは聞く様子を見せない。
「彼もナビゲートミスでバチが当ればいいんですよ。いつだったか、姉さんをヘドロの沼に沈めた時みたいにね」
「いい加減にしろ!」
 クオレが怒鳴った。
「たかだか1度の失敗なんか気にしてどうすんだテメェはよ!? それともテメェは何か? ナビ無しでガラクタとクソ蟲とクソジナの群れに放り込まれたいのか!?」
 3年前にタンザナイトの姉であるディアマントが、ハインラインのナビゲートミスでヘドロの沼に沈む羽目になり、タンザナイトはその事を未だに根に持っている事をクオレは知っていた。幸い、ディアマントはアイザックスを初めとした同業者達によって救助され、現在もイェーガーとして活動しているものの、姉を敬愛するだけに、タンザナイトの怒りは大きかった。ハインラインがオペレーターと言う、時としてイェーガーの生死を左右しかねない立場の人間であるだけに、尚更。
 だが、クオレにとっては最早過ぎた事である。ジナイーダのような存在なら兎も角、ディアマントも生きている事だし、根に持ったってしょうがないと見ているのだ。何より、自分を常に支え、また彼自身も信頼を惜しまないオペレーターである。他人とは言え、貶されれば不愉快にもなろうものであった。
 ましてや、激情家のクオレが黙っていられるはずもない。
「大体お前、俺よりハンター暦短いくせに、俺をナビゲート出来んのか? 出来ないってんなら、黙ってろ」
「……すみません」
 そんなクオレに怒鳴られ、タンザナイトはすごすごと引き下がった。
 タンザナイトは18歳でイェーガー暦は半年過ぎたばかりのルーキーである。年齢としてもハンターのキャリアとしても、クオレが圧倒的に上であり、喧嘩を吹っかけた所で勝ち目など無い事は明確であった事は彼にも分かっていることであった。
 それ以上に、ジナイーダが全ての根源とは言え、クオレの偏執狂じみた問題児ぶりはタンザナイトも知る所である。相手の説教に説得力があるのかどうかは疑問だと感じているが、かと言って反論したり、下手に喧嘩を売って事をややこしくするべきではないと見ていたと言うのが正直な所であった。
 一連の流れの中でも、ハインラインは無言のままであった。生真面目さと律儀さを両立する彼の事である、オペレーターは常に冷静沈着でなくてはならないと己を律し、感情を押し殺していたのだった。クオレが強引ながらも自分を庇っていた事は、彼としては喜ばしい事ではあったが。
「で、お前の姉ちゃんはどうしたよ?」
 そのクオレは、ディアマントの行方をタンザナイトに尋ねている。
「基地に居る。マシンセッティングに苦労しているみたいなんだ」
「じゃあ殺されてはないんだな」
 直接かかわりのないはずの他人を気にするクオレであるが、彼の機の状態が状態だけに、それどころではない事にハイラインは思い当たっている。
「それよりクオレ、良いのですか? 君、武装してないも同然なのでは?」
「確か、お前……弾切れしたとか言ってたようだが」
 先程から沈黙していたヘルファイアーも、一切の武装をしていないクオレ機を思い出した。
「ああくそ、武装取りに戻らねぇと」
 ブリューナクが弾切れしたんだったと思い出し、同業者と別れたクオレはオーバードブーストを起動し、チェイン基地まで大急ぎで戻り出した。だが彼は、コンデンサ容量が悲鳴を上げて一度停止した時、紺と白で彩られたアイザックスのスティンガー――カニス・マヨルが付いて来ている事に気が付いた。
「どうしたんですか? 害虫駆除に行くんじゃなかったんですか?」
「弾切れで一人で戻るには厳しいだろう? 付いていってやるよ」
「害虫駆除は任せろ」
 ヘルファイアーは付け加えた。
「何か悪いな」
 気にするなとだけ返すと、ヘルファイアーは同業者2名を引き連れ、モンスター狩りに向かって行った。
「姉さんに会ったらよろしく言ってくれ」
「わぁってる」
 相変わらずのシスコンだなと毒づきながらも、会ったら伝えとくとだけ言ってクオレはそそくさと通信回線をカニス・マヨルへと切り替えた。
「アイザックスさんも……すいませんね、俺に付き合わされて」
「いや、謝る事はないさ。同じハンターのよしみだろ?」
 アイザックスはそう笑うが、クオレには少々気の引ける、人の悪い話であった。
 と言うのもこの男――フルネームで言えばヴァンキスタ=アイザックスは、クオレが今の拠点都市に落ち着いた後、当時まだ18歳だった彼の面倒を、色々と見てくれた先輩ハンターだったのである。当然、クオレは暴走や暴言などで、ハインラインと共に迷惑を掛けまくって来たのだが、アイザックスはこの問題児に対し、ミス等を咎める事はあっても軽蔑や軽視などは絶対にせず、依頼でも度々サポートしていた。クオレの生活が苦しい時には借金に応じてくれた事さえある。
 そうして敬意や感謝の念を抱くようになってから、クオレは自然と彼に頭が上がらなくなり、いつしか敬語で話すようになったのであった。これは、担当オペレーターであるハインラインや、今現在の上司に当るダビッドソン相手でもしなかった事であった。もっとも、ダビッドソンは兎も角ハインラインはクオレの生活にまでは介入・干渉しない姿勢で、個人の問題としてびた一文たりとも貸さなかったので、それも仕方のない事ではあったのだが。
 やがてコンデンサ容量が回復したクオレは、アイザックス機を伴って再びオーバードブーストを起動。基地へと向かい始めた。
「クオレ、整備中のためハンガーが空きません。ただ君の機の破損状態は軽微ですので、ブリューナクを取り替えた後、燃料だけ補給して再発進して下さい」
「分かった」
「燃料補給は敷地内の、手の空いたどこかしらの補給車からお願いします」
 クオレが了解する間に、スティンガー2機の行く先にインファシティ基地が見えて来た。
 基地では、確かにハンガー周辺に補給用車両や整備作業用MTが展開し、戻って来たイェーガー・ハンター側機動兵器に応急修理や補給を施し、時として損傷したパーツを交換していた。中には損害の嵩んだ機体が乗り捨てられている区画さえ存在した。誰かにレンタルされていたと見える、イェーガーズチェインの紋章が入ったスティンガーやサイクロプスがその殆どを占めている。
 滑走路脇にはカリバーン隊の6機を初めとしたワスプが駐機されているが、その近くでさえスティンガーが立ち並べられたまま整備を受けている。その脇の滑走路からは別のワスプが離陸して行った。
「俺はここで待っている。補給が終わったら一声頼むよ」
「了解」
 クオレは一度アイザックスと別れ、スティンガーがあった地下格納庫に戻った。
 地下格納庫の中でも機体の修復は行われており、デス・マーチを余儀無くされている事でストレスが極限に達しつつある整備士達が怒鳴るように部品をよこせ、工具をよこせと声を張り上げている。色合いから、他地域から遠征して来たと分かるイェーガーの機体も数多く見られた。
 中にはイェーガーから何か注文を押し付けられたのであろう、それは俺達の管轄じゃないだの他所に頼めだのと大騒ぎになっている集団もいた。この非常時に何をやっているんだと一瞥し、クオレは偶然近くにいたタンクローリーに燃料補給を頼んだ。
 タンクローリーのドライバーが承諾し、すぐさまクオレ機に燃料補給を行う間に、当のパイロットはスティンガーを降り、発見したエージェントにブリューナクの弾切れを連絡。エージェントは現在多忙である事を理由として、格納庫内の武器ラックにある武器なら持ち出して構わない事、そして使用済みのものはあそこに置いておくようにと手で示した。
 確かに、ハンガーの隅には弾切れした武器が転がされており、作業用MTがそれを運び出しては弾倉を交換し、武器ラックに戻している。補給に来たスティンガーが、早速ブリューナクとマシンガンをラックから引っ張り出して装備し、再び戻って行った。
 クオレはエージェントに礼を言うと、スティンガーに戻った。
 その途上、純白に塗装され肩にヴィクトリア様式の蒼白い紋章がマーキングされたサイクロプスが視界に入った。そしてその前で、整備士と話をしている白銀のロングヘアをした女性が目に付く。タンザナイトが言っていた姉で、嘗てのハインラインの担当イェーガー・ディアマントだ。
 ディアマントは整備士と向かい合って何か話をしていたが、続いて彼女のサイクロプスの方に、一緒に眼をやっている。整備士の手が武器か機体に向いているのかは分からないが、機体についての説明――恐らくは整備状況についての状況説明を行っていだろうとクオレは見た。
「燃料補給完了しました」
 タンクローリーのドライバーから連絡を受けるや、クオレはディアマントに背を向け、作業員がタンクに繋がるパイプを一緒に取り外してから、コックピットに戻って機を再始動させた。指定された場所で弾切れのブリューナクを武装解除し、エネルギー残量が最大まで蓄積されていたものを拾い上げて装備、急ぎ地上にとって返す。
「アイザックスさん! 補給完了!」
「分かった。行こう!」
 オーバードブーストでインファシティへと舞い戻っていくクオレ機に、カニス・マヨルが続く。フラフラと飛びながらレーザーとプラズマを撃って来たソラックス3機を生贄にし、クオレは狩りに戻って行く。
 この時点で、クオレが戦闘を開始してから4時間が経過している。ACBとは言え、時にオーバードブーストを吹かすなど激しい戦いが目立っており、常人なら体力的にはかなりの消耗となっている所であるが、強化人間であるが故に、クオレは体力的にはまだまだ戦える状態であった。つい数時間前まで生死の境を彷徨っていた男だと言われたなら、誰も信じないだろう。
 そんなクオレは、早速飛来したベルゼバブを拡散ビームで撃ち落し、ビルの陰から這い出して来たアミダの群れを連射モードに切り替えたブリューナクで退治にかかる。カニス・マヨルも途中から加わったため、アミダ全滅には殆ど時間が掛からなかった。近くにはフライペーパーが飛行していたが、これは全く障害にならないと見なし、見逃す。
「クオレ! 右!」
 アイザックスに叫ばれ、クオレは咄嗟にスティンガーを左手側に飛び退かせた。振り向くと、ブラッディランサーが倒壊したビルを乗り越えて接近してくるのが分かった。
「アレは倒しましょう! 放置するとマズイですよ!」
「俺もそう思ってたところだよ」
 クオレは即座にブリューナクを収束モードにし、エネルギーチャージを開始。その間にカニス・マヨルはブラッディランサーに急速接近、繰り出される爪と尾の一撃を上昇して回避してのけると、右腕のランチャーから砲弾を発射、着弾するや沸き立つ液体が即座に白い煙を上げて巨蟲を霜で包んだ。軋むような悲鳴を上げ、ブラッディランサーは攻撃を忘れてのた打ち回った。
「冷凍弾?」
「都市部でリーサルドラグーン使うとなると、これしか撃てるのがないんでね」
 アイザックスは苦笑した。
 おおいぬ座を意味する機体名を冠しているカニス・マヨルには、クオレが操っている標準仕様のスティンガーに見られるハードフィストはない。パイロット自身が格闘戦を不得手とし、更にオーバードブーストを標準装備しているスティンガーの運動性を以ってすれば距離を離す事も容易であったため、自分には近接武器の必要性が薄いと判断、取り外されていたのだった。
 その代わり、ハードフィストが取り付けられていた左腕には、出力こそ抑えられているが故障や破損、そしてエネルギー切れにならない限りは無制限に撃てるレーザーガン“リベリオン”が装備されていた。これはタンザナイトのスティンガーにも装備されているシロモノである。
 AC装備用のレーザー兵器は、威力を優先した為にレーザーの出力が銃の耐久力に比べて高くなっていたため、レンズや発射系統を磨耗させてしまい、それゆえ発射に際して回数制限があった。だが、リベリオンを初めとするACB搭載用レーザーガンはランニングコストや銃自体のメンテナンス性も考慮され、出力を軽量級エネルギーEOと同レベルにまで抑えている。そのため、発射系統そのものが故障しない限りは、一応無制限に使用可能であった。
 ただ、出力を抑えているとは言え、放たれる切れ目のないレーザーはドラグーンフライやソラックス、バルバトスに代表される量産型機械兵を撃墜するには十分な火力を持っている。
 右腕に装備されているリーサルドラグーンだが、これはACB用に開発された最大装弾数18発のグレネードランチャーで、先程の冷凍弾を発射したのもこれである。
 冷凍弾の弾頭にはマイナス170度の液体窒素が詰められており、着弾すると弾頭が容易く壊れて液体窒素を噴出、生体組織を容易く凍傷を負わせ、密閉空間で使用すれば酸欠に陥らせる事も出来る。さらに熱を奪われた空気を吸引させる事で、呼吸器系を凍結させて相手を窒息死させる事さえ可能としている。場合によっては電池やジェネレーターなどを凍らせてエネルギー兵器を無力化するのにも使われる。
「さあクオレ、とどめは任せたよ」
「はい」
 エネルギー充填率が65%に達したブリューナクを構え、クオレはブラッディランサーに向き直る。再び巨蟲が攻撃しようとするや、カニス・マヨルは冷凍弾を撃ち込んで弱らせ、動きを鈍らせた。
 ブラッディランサーの急所――口がブリューナクの砲口に向く。
 クオレは間髪居れずに蓄積されたエネルギーを開放、指向性を与えられた光の帯が口腔に突っ込み、貫通するまでは至らずとも内部組織をズタズタに引き裂いて焼き焦がし、本日2度目のブラッディランサー撃破スコアを記録する。
「クオレ、補給は終わったか?」
 丁度モンスターが息絶えた所で、ヘルファイアーが訊ねてくる。
「終わった。で、何の用だ?」
「ちょっとばかり面倒な事になった。手伝ってくれ」
 クオレは了解し、すぐに向かう旨をヘルファイアーに伝えた。
「よし、オーバードブーストで戻るぞ!」
 カニス・マヨルに先導される形で、クオレは再発進から5分も経とう頃にはヘルファイアー達との合流を果たしていた。
 ハンター達は機械生命体との交戦の余波で陥没し、下水道への口をあけた通路の周辺で戦っていた。アミダやマガットを這い出した端から撃ち抜き、ブラッドサッカーを踏み潰していく。
「全く、数が多すぎますよ!」
 のべつ幕なしに襲い掛かってくるマガットやアミダ、ブラッドサッカーと言った怪物たちに、タンザナイトは早くも手を焼いている様子だった。
「こいつら、いっそ殺虫剤ぶちまけて皆殺しにすればいいんですよ」
「バカ野郎! テメェ正気か!?」
 通信回線越しのクオレが凄まじい形相で怒鳴ってきたため、タンザナイトは思わずたじろいだ。
「街中で殺虫剤なんざばら撒いたら人にも影響出るだろ!!」
「その通り」
 少しは考えろと続けようとしたクオレは女性の声に遮られ、右手にマシンガン、左手にリーサルドラグーンを携え、バックパックの右側にミサイルポッド、左側に筒状のロケットランチャーをそれぞれ据え付けた、青白い紋章を持つ純白のサイクロプスが、クオレ機とタンザナイト機に割って入った。ディアマントがやっと出撃してきたのだと、周辺のハンター達には分かった。
「モンスターを殺したとしても、人に被害が出ては意味がない。いつも言っている筈よ」
 殺虫剤が本格的に使われるようになったのは、まだ国家が地球を支配していた頃――第二次世界大戦の後だが、当時より多用されていたDDT等の有機塩素系殺虫剤は自然界で分解しにくく、動物やヒトの体内に蓄積するために有害性が問題視され、多くの国で製造販売禁止、あるいは生産が中止されるまでに至った。その後殺虫剤は人畜に対してはなるべく毒性が低くなるように開発が進められたが、それから10世紀近くが経過した今でさえ、人体に対する毒性はゼロとはなっていない。
 ましてや、モンスターを毒死させるほどの殺虫剤となればその量も膨大なものとなり、大量散布によって人体及び環境に影響が出る可能性は否定出来ない。事実、発展途上国で大量の殺虫剤を用いた所、鳥類や水棲生物、更には無害な昆虫までも大量殺戮した事で生態系破壊が生じる一方、天敵が居なくなった事で殺虫剤に耐性を持つ害虫を蔓延らせる結果になったという記録が残っている。
 そうかと言って量を減らすとなると、今度は少量での結果を出すために効果――つまり毒性を強めねばならないが、昆虫型モンスター用の殺虫剤となれば化学兵器も同然の猛毒性であり、人間がうかつに吸引・経口摂取すれば重大な危険が伴う。しかも、今のハンター達は市街地で戦っているのであり、そんな中で大量の殺虫剤を使用する事は化学テロも同然であった。
 クオレもその辺りは知っており、ゆえにタンザナイトのあまりにも短絡的な考えを咎めたのだった。
「レイヴンじゃないんだから、手段を選ばないような言動はやめて」
「……すみません」
 クオレが噛み付いてきたのは不服であるが、姉を慕うタンザナイトとしては、彼女に反抗する気などなかった。リベリオンでアミダを打ち倒して頭を下げた。
「口より手を動かしてくれないか?」
 タンザナイトを咎めたディアマントだったが、今度はヘルファイアーから苦言を呈される。彼は2丁のマシンガンで、這い寄って来たアミダを片っ端から倒していた。
 失礼、とだけ返すと、ディアマントは愛機「ブランネージュ」の左手に握られたリーサルドラグーンを発砲した。これから放たれた榴弾もまた液体窒素を満載しており、低温を嫌うマガットから一瞬で体温を奪い、体側の気門を凍結させて窒息死に追い込む。
 その隣では、無言を保つオニキスのスティンガーがガトリングガンを撃ちまくっている。クオレ機とカニス・マヨルも、それぞれ射撃に加わった。
 更に、航空機が陥没地点めがけてミサイルを射出、クオレたちには見えなかったが下水道内に蠢いていたアミダをブラッドサッカーの群れもろとも吹き飛ばし、陥没地点から炎を吹き上げた。
「くっ!?」
 鉄が軋む音に咄嗟に振り返ると、バレットストーカーが機を激しく揺さぶっている。その背中には、ビルの影あたりから這い出して来たのだろう、翅が生えた飛行可能なアミダの亜種が取り付いている。
 咄嗟に、クオレはハードフィストで翅付きアミダを払い落とし、間髪居れずに連射モードのブリューナクで焼き払った。
「……貸しはチャラだな」
 助かったと小さく呟き、ヘルファイアーは荒げる息を静める。腕は確かなこの男だが、クオレとは違い格闘戦には滅法弱く、懐に潜られると手も足も出ないのが弱点であった。
「陥没地点はどうなりました?」
 ハインラインに尋ねられ、クオレは怪物たちの射殺体が累々と転がる穴蔵を見下ろした。
「化け物は出てこなくなったようだ」
「了解」
 ハインラインが返す間に、アサシンバグがブランネージュに飛び掛った。だが、ディアマントの反応は早く、リーサルドラグーンによる一撃の下に撃墜してのけた。一瞬で冷凍処理されたアサシンバグは陥没箇所に転げ落ち、砕け散る。
「だが、まだあちこちに化け物が居るみたいだ」
「そうですね。チームを分割してみてはどうですか?」
 ディアマントに提案されてから少し考え、クオレはハインラインに意見を仰いだ。
「化け物の出現とハンター達の展開状況はどうなってんだ?」
「湾岸地域除いてほぼ全域に展開してます」
 ハインラインは上空の偵察機からリアルタイムでデータ更新されているマップを見やって答えた。
「モンスターは相当広範に渡って行動していますが、出現が報告された種の戦闘能力を考慮するに、スティンガー単機および小集団でも作戦行動は可能と思われます。勿論万が一の事も考えられますので、その辺は君の裁量次第ですが」
「分かった」
 クオレ機の通信回線が、ハインラインからディアマントに戻される。
「ディアマント、2チームに分かれて蹴散らそうぜ」
「分かりました」
 提案を容れたのだろう、バレットストーカーがすぐに離れて行った。
「ヘルファイアーさん、私はクオレさんとアイザックスさんを連れて行きます」
「分かった」
 オニキスは何も言わないが、概ね賛成の意であろう。だが、タンザナイトは疑問を呈している。
「僕と一緒には行かないんですか?」
 ディアマントは機を止めて返した。
「私以外のハンターやイェーガーから、戦い方や考え方を学んだ方が良いと思う。それに、私が居なくなった時でも行動出来るようにした方が良い」
 私のこの体も永久不滅じゃないのだからと、ディアマントに優しく諭され、弟も納得した。
「分かりました」
「よし。付いて来い」
 ヘルファイアーに促され、タンザナイト機は先行するオニキス機とバレットストーカーに続いた。
「クオレ、アイザックスさん、姉さんを頼むよ!」
「任せてくれ」
「テメェこそ姉ちゃん置いてくたばるんじゃねーぞ?」
 当たり障りのないやり取りを返すアイザックスと、相変わらずラフな姿勢のクオレに見送られ、タンザナイトとディアマントは互いの武運と生還を祈りながら別れた。
「ねーちゃんもよ、愚弟置いて死ぬなんてマネはするなよ。あのうるせぇガキの面倒見るの嫌だぞ俺は」
「承知しています」
 どこに行っても口が悪い人だとはディアマントも思っていたが、しかし彼女はこの悪口も許そうと言う気でいた。何せ、いつクオレの言葉が聴けなくなるのか、全く分からない時勢なのだから。事実、レイヴンキラーの攻撃の当たり所が悪ければ、クオレはすでに帰らぬ人となっていた可能性が極めて高い。
「ま、そうはさせないけどな」
 とはいえ、問題児とはいえ過去に家族を失う辛さを目の当たりにしているクオレである。口煩いとはいえ、今回組む事となった仲間の弟とあれば死んで喜ぶような精神は持ち合わせていないし、その姉をみすみす死なせるつもりはない。
「さて、話はその辺にしよう」
 アイザックスに促され、クオレとディアマントはカニス・マヨルのリベリオンが向く先へと、互いの機を向けた。
 青白いレーザーに射抜かれた原種アミダが爆発し吹っ飛んだが、爆風が晴れた先では、新たなアミダが、8車線道路を堂々と這って迫っていた。
14/08/07 15:38更新 / ラインガイスト
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■作者メッセージ
 どこまで引っ張るんだと指摘されそうではありますが……ともあれ蟲退治ミッションその3です。
 今回は前半部が単機での逃走、後半部で同業者の皆様方登場と、ちょっと劇中での展開を変えてみました。
 逃げるだけのクオレ君とはいえ……雑魚メカのやられっぷりの描写は個人的には結構頑張れたかなと思います。

 後半部では、前の話でネタにし損ねた「ACの武器に殺虫剤」も(形はどうあれ)記述しています。
 てか、ジなんとかが居ない時のクオレ君だったら絶対戦場で殺虫剤は使わんでしょうな……。
 でも正直な所、ジなんとかが居たら絶対「ばら撒け」とかいいそうだなと(どっちだ)。

 今回はレールガンと殺虫剤の描写で結構神経使いました。殺虫剤は過去のデータをあれこれ参考にできるのでまだ良いのですが、レールガンはまだ確立してない技術なので、こちらは完全妄想構成になってしまいました。
 その為私としてもこれが正しいのか、全く自信が持てない所ですが……それは言わぬが吉ですか(爆)。
 だって本作は教養や学術などとは縁のないシロモノですから(滅)。

■そう言えば
 この作品、こうして10話執筆しているのですが、今まで「ヒロイン」と呼べる存在が一人も居ない事に気が付きました。
 と言うかそもそも女性キャラ自体目立ってないですね。クオレ君のお母様と姉と妹はそろって死んでいるし、第4話で説得した孤児の少女も展開上、現在音沙汰なし。しかもエキストラ的に登場している女性はまともな死に方をしていない始末(滅)。
 本作では主人公・クオレ君のオペレーター自体も男性だったりで、原作シリーズでも見られないような女っ気のなさはある意味自慢してもいいかな、なんて思ったりするのですが、今回始めて主人公と共に戦列に立つタイプの女性キャラとしてディアマントを出しました。
 しかし女性の扱いが総じて宜しくないラス潰だけに、今後どうなることやら……。

 あ、そうそう。
 ジなんとかはヒロインじゃありません。あれはただの破壊可能物です(ぇ)

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まろやか投稿小説 Ver1.50