連載小説
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#03:蟲の襲来
「そう言えばなんですが」
「何だ」
 後輩のつぶやきに、前方を行くクオレは不意に愛機の足を止めた。
「僕等……ジナイーダを潰す為に出撃したんですよね?」
「一応、その筈だったんだがな」
 本来、クオレとアルジャーノンのコンビは旧大陸東部に位置する都市・インファシティ周辺の警護をしていた筈だったのだが、ファシネイターが出現したに及びその追撃を命ぜられ、ここまで来ていたのだった。追撃開始から2時間、二人はインファシティから、直線距離にして400キロほど北西に移動していた。
「出向いた先で、機械軍団とドンパチやらかすハメになるとは思わなかった」
「クオレさんはご苦労様です」
 先行していたグラッジパペットを追って、ポットベリーが到着した時には既にファシネイターは他のACと合流、グラッジパペットに攻撃を仕掛けていた。数の暴力にグラッジパペットは押され気味だったが、ポットベリーが来た事で事態が好転し、分断した戦力を互いに捌いていたのだった。
「大丈夫ですか? 相当弾使った上、結構ボディもやられてるようですけど」
「心配ない。こいつはまだ動ける」
 そうだと良いんですがとアルジャーノンは呟いた。
「それにしても……随分遠い所まで来てしまったものですね。奴を追跡していた時は気付かなかったのですが……」
 アルジャーノンは周囲を見渡した。赤土向き出しの大地だが、所々に草木が生え、所々に森林が散在していた。
 このあたりは小高い丘が連なっており、過去の戦闘によって荒野となっていたのだが、嘗ては豊かな森林が広がっていたと言う話を、ハインラインから聞いている。そして、この辺は降水量が多く、その為に砂漠化は辛うじて免れており、現在森林が自然再生している兆候もあるという。
 現在赤土剥き出しの荒野と成り果てたこの大地だが、所々に木々や下草が生えており、人の手を離れて野生化した牛や馬、山羊などが遠くを集団で動き回っている。バーテックス戦争の末に世界が崩壊し、環境まで破壊されてしまっている事が多い今日だが、ここにはまだ野生の営みが残っていた。
 だが、荒野には場違いなシロモノまでもが生えている。
 普通の植物に混じり、どう見ても恐竜時代以前から時間軸を横滑りして出現したとしか思えない、茶色い巨大シダや、先端部が渦巻状になった奇怪な巨大植物が生えている。
 その正体も、クオレ達には分かっていた。
 これは生物兵器を培養する際、その餌として用意された植物たちと、その成れの果てだった。具体的には、遺伝子操作されて異常な成長スピードを手に入れた植物が、世界崩壊によって外界に放たれてそのまま定着したものである。一部では、そうした人為作成植物が、戦争に伴う環境破壊や、化学兵器・ウィルスによる汚染などにより極端な変容を遂げ、異常化した成れの果ても存在する。
 この、異常なスピードで成長する植物を草食生物が食べ、それを肉食生物やモンスターどもが食らう。現在世界を覆っている、異常な生態系の欠くべからざる基本がこの異常な植物達なのだと、クオレは学んでいた。
 だが、クオレが出来るのはそこまでだった。化け物たちを餓死させられるならこの植物も破壊したい所だったのだが、いかんせん弾が足りない。恐らく、幾らも処理は出来ないだろう。その上、達が襲って来る可能性も否定出来ない。
 そんな事に無駄弾を使うなと、狩人としてのクオレの心が、強く自身を律していた。
 こういう、何もこない時は下らない私語にでも興じたい所だったが、自分の周囲に居るのはアルジャーノンだけ、逆に敵は何が来てもおかしくない状況下である。
 油断のならない状態の中で、クオレは愛機にマシンガンを構えさせ、周辺を警戒する。
 その時、機体に大質量の物体が何度もガンとぶつかった事で、クオレは反射的に機体をバックステップさせた。何かが意図を持って足にぶつかっている――そう判断するや、MWG-MG/800が足元に火を噴いた。悲鳴と共に、赤茶けたキチン質の欠片が飛び散る。
「ガンガンうるせぇな!」
 クオレの怒鳴り声など意に介さず、巨木の陰から巨大な虫達が飛び出し、更に頭上からもどさりと音を立てて落下して来た。
 若きハンターの前に現れた巨大蟲は、彼にとっては既にお馴染みの生物だった。
 それは、俗にヴァンパイアと呼ばれる巨大なノミの様な蟲であった。
 元々はバーテックス支援企業のひとつ・複合コングロマリット“レオーネ”グループの製薬部門であるレオーネ・バイオニカが培養した生物兵器で、元はちっぽけなノミか何かだったのだろうが、遺伝子操作を施された結果、全長2メートルの巨体に成長していた。
 レオーネはこいつに、吸血鬼伝説のモデルにもなった中世の女性“エリザベート・バートリ”のコードネームをつけていた事が知られているが、ハンター達はヴァンパイアと呼んでいる。
 吸血鬼の名のとおり、人間を捕獲してその血液は勿論、髄液やリンパ液など、あらゆる体液を生きたまま吸い尽くすおぞましい生物としても知られていた。更に、自分よりも大きな生物にも平気で飛び付き、ACにも襲い掛かってくるなど、その性質は非常に凶暴である。
 その巨大ノミは血で染まったようなグラッジパペット目掛けて飛び掛ったが、クオレも易々と愛機をかじらせるほどお人好しではない。その吸血蟲を蹴飛ばし、脚に引っ付いたものをMWG-MG/1000で叩き落として踏み潰す。
 しかしまだ1匹、コアを這い回っているヴァンパイアがいた。そいつは背後にしがみ付き、OBハッチを穿とうとしている。
「だからガンガンうるせぇっつーの!」
 クオレの怒鳴り声と共に、グラッジパペットはオーバードブーストハッチを開放、チャージ無しで噴射炎を放出した。天使の翼を髣髴とさせる蒼白い噴射炎は、人間の狂気が産んだ吸血蟲を容赦なく焼き払った。
「おい、アルジャーノン」
 新たに現れたヴァンパイアを踏み潰し、クオレは後輩を急かす。吸血蟲の襲来は、若きハンターにいささかも動揺をもたらさなかった。
「無理は言わねぇけど、ちょっとでも急いでくれると助かる」
「はい、なるべく」
 元軽量2脚を採用しているグラッジパペットはオーバードブースト無しでも軽快に動く事が出来るのだが、速度任せに突き進むと、どうしても鈍重なポットベリーが置いて行かれてしまう。クオレは愛機を少し進ませ、また停止して周辺を警戒し、後輩が行くとまた後を追い、追い越して周辺を伺う事を繰り返し、突き放してしまわない様に気を配った。
 時に、ヴァンパイアをマシンガンで迎撃する事もあった。
 暫く進むと、行く手にコンクリートと鉄骨の混ざり物が広がっていた。周辺には赤土がむき出しになっており、巨大植物も周辺には全く生えていない。
 典型的な廃墟であった。
 嘗てこの辺一体はバーテックス――正確には、それを裏で操っていた企業が支配していた都市だったが、大崩落(グレート・フォール)によって、他の都市共々滅んでいた。現在では破壊しつくされた瓦礫と骨組みだけが、辛うじてここが都市だった名残をとどめているに過ぎない。
 ミサイル攻撃によって壊滅した、とクオレは聞いているが、その弾頭が何だったのかまでは、彼には分からなかった。もしここに核ミサイルや水爆が飛来したならば残留放射能を危惧しなければならず、万一にでも外に出ようものなら被爆の危険性もある。人体細胞をガン化するバリア発生装置のパルスも嫌だが、これもまた真っ平御免であった。
 更に、此処がもし、バーテックス支援企業であったローゼンタールやレイレナード等が支配している地域だった場合、彼等の兵器によるコジマ粒子汚染の危険性まであった。大崩落の際、レイレナードのコジマ粒子リアクターがメルトダウンした結果、半径120キロ四方がコジマ粒子汚染され、人間の住めない環境にした重罪まであるぐらいである。
 しかも、そのコジマ粒子は人体に深刻な汚染をもたらすのみならず、どう言う訳かモンスター達の適応能力を高めるばかりか、脳細胞を冒して凶暴化させる効果まで確認されているのをクオレは知っていた。そのため彼からすれば、コジマ粒子汚染は放射能汚染よりも相当性質が悪かった。
「おい……ここは放射能汚染されてるとかそういう事はないよな?」
 不安がクオレの口をついて出た。
「いえ、ここに核ミサイルやコジマ粒子兵器が直撃したと言う情報はありません。10年前に地球政府が行った調査では、放射能は検出されなかったと報告書にあります。付近で戦闘したハンターが被爆したと言う情報もありません」
 どうやら放射能汚染の心配はしなくて良いらしい。一瞬安堵したクオレとアルジャーノンだったが、しかしそれは慰めになり得ない。
 この地域ならともかく、他地域に行けばコジマ粒子汚染や環境変化、流出した化学物質等によって異常な変化を遂げたモンスターが襲ってくる可能性は常にある。しかもそれは、人類生活拠点たる都市から外れれば、どこに行こうが似たような状況なのである。
 中には生物兵器がいない地域もあるが、今度は機械生命体の襲撃に備える必要がある。
 それすらもいないようなら、残念ながら人間――レイヴンや強盗団の襲撃を警戒しなければならなかった。
 バーテックス戦争は世界中を戦渦に巻き込み、親や社会との繋がりを失った子供達は戦闘員に身を投じたり、強盗やテロリストに落ちぶれたりと、進化を逆行した。クオレは、そうした子供たちを嫌と言うほど目の当たりにし、時として命を奪われかけた事もあった。
 しかし、クオレはそうした子供達すらもその手に掛けて生き延びている。強さを追い求めた末に人の心を失い、悪逆無道・冷酷無情・極悪非道の悪魔と化したジナイーダを殺す為には仕方のない事だと割り切った上で。
「何か来てます」
 アルジャーノンが廃墟を抜けたあたりで、レーダーに何か反応があると訴えた。
「何かって何だ? こっちはレーダーがイカレてて良く分からん」
「生物です」
 ポットベリーの生体探知レーダーは、脈打つ心臓の如く一定周期で収縮を繰り替えす赤い点を幾つも表示していた。
 生物の一声で、クオレは即座に警戒態勢に移行した。
「どこだ!?」
「2時方向!」
 グラッジパペットは即座にマシンガンを向けた。確かに、南西に銃を向けるとロックオンマークがメインモニターに表示された。MHD-MX/QUEENに型番変更して以来、この頭部は生体センサーが搭載されるようになった為、生物相手でも対応が可能なのである。
 そのまま、クオレとアルジャーノンはモニターをズームする。蒼白い燐光を発しながら、木の葉に似た緑色の薄っぺらい生物の群れが進軍しているのが分かった。
「ユーグレナですね」
「何だ」
 途端にクオレは戦闘態勢を解除した。
 ユーグレナ自体は生物兵器というわけではない。より強力な生物兵器を育成し、その餌とする為に作出された生物である。半透明の本体に体内に共生藻を大量に宿しており、その為に体が緑色に見える。この共生藻が光合成で作り出したエネルギーを分けてもらって生きているのである。
 彼らには戦闘能力などなく、無論こちらを攻撃してくる事もない。よって、相手にするだけ弾薬の無駄であり、単体では脅威になる要素など全くなかった。
 唯一懸念すべきは、他の敵を相手にしているときだった。他に狙うべき相手をロックオンしたつもりでユーグレナをロックオンした、と言う事があったりするのである。
 クオレは戦闘態勢を解除し、ユーグレナの群れが飛び去るのを見送った。
 その頃、ハインラインは素早く手元のパッドを叩き、周辺一体を監視している衛星から送られるデータを呼び出していた。そしてすかさず通信モニターに向かう。
「後方より大型動体反応を感知! 警戒願います!」
 モニター上で、グラッジパペットとポットベリーの後方の土中から、振動を示す反応が検出され、それが徐々に接近している事を伝えていた。
 ハインラインがデータに目をやっていた頃、クオレはオペレーターの発言に従うように、即座に後方へ向き直った。視線の先で地面が盛り上がり、かなりのスピードで迫って来ていた。
「来るぞ、備えろ!」
 クオレが叫び、グラッジパペットが横に飛んだ刹那、地面の盛り上がりが爆発した。土煙と砂埃が派手に立ち上がる中、2メートルを悠に越える直径の巨大な筒が出現し、グラッジパペットの左手側を通り抜けた。その先端部を緋と黒の中量級2脚に向け、先端部を包む外壁を捲れ上げ、格納されていた6本の巨大な牙を剥き出しにする。
 星印状に配された牙の内側で、赤黒い粘膜がおぞましく蠢く。
 クオレはこの、全長30メートルを悠に超えるミミズの化け物が、「ランドワーム」のコードネームでミラージュが培養していた生物兵器の成れの果てであると知っていた。
 グラッジパペットは両腕に備えたマシンガンを一斉に撃ちかかった。これがAC相手であるならば、多少の損害を与える事も出来ようものなのだが、大質量で土中を自在に這い回るこの化け物には傷一つ付かなかった。しかし口元に被弾した衝撃に巨躯は若干身じろぎし、グラッジパペットが距離を稼ぐ時間が出来たのは確かだった。
 ランドワームはグラッジパペットを食い殺そうと牙を繰り出すが、後5メートルのところで牙は虚しく空を噛んだ。
 視覚の存在しないランドワームは、振動を頼りに狩を行う。よって、地上を動くものは全て獲物として認識するのである。勿論、無意識的に牙をかわすクオレには大人しく食われてやるつもりなどない。
 そしてそれは、鈍足ACポットベリーを駆る少年も同じ事だった。
「これでも食らえ!」
 爆発するような砲声と共に、CWG-BZH-40の砲筒から火薬をたっぷり詰めた砲弾が飛び出す。旧型番のCR-WH05BP時代、そのあまりの性能ゆえにアルティメットバズーカ等と呼ばれ、アリーナにおいて使用禁止が通達されるほどのシロモノであった。
 あれから30年以上経過した今も、その性能は全く損なわれていない。
 その直撃を受け入れた途端、爆発したランドワームの表皮が肉もろとも抉り取られた。身の毛もよだつ絶叫を上げて巨大ミミズは地面に倒れたが、軋む様な唸りとともに、すぐにポットベリーへと向き直る。
 だが、バズーカが2度、3度と立て続けに砲弾を繰り出し、ランドワームの表皮を深々と抉った。
 ランドワームは口から溶解液を吐き出してポットベリーを狙ったが、吐き出された黄色い噴水を見るや、ポットベリーは素早く左腕のシールドを展開した。ターコイズブルーのエネルギーフィールドが発生し、強酸体液は力場に触れて白い煙を上げながら、その表面を伝って地面に落ちた。
 その間に距離を取る事が出来たグラッジパペットが反撃に転じた。インサイドカーゴを開き、秘密兵器の内装式ミサイルを口元にお見舞いする。インサイド内臓の為、威力は小型ロケットと同水準程度で、その弾数も両肩合わせて10発と少ない。
 しかし口元に着弾したミサイルは牙を吹き飛ばし、ランドワームに苦痛の絶叫を上げさせる程度には十分な威力だった。牙を折られた巨大ミミズは残る牙を外皮の下に収容し、地面に潜って逃げ出した。
「クオレさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、心配いらない」
 クオレが言うとおり、グラッジパペットはランドワームの攻撃を無傷で生き延びていた。
 再び帰還を急ぎ出した2機だったが、暫く進むと、アルジャーノンはすぐに背後から迫る反応に気がついていた。彼の背後で、凄まじい土煙を上げて何かが迫っている。
 土煙の中に見えた三葉虫の様なフォルムを認め、少年は叫ぶ。
「サンドローチ!」
 ミラージュが培養した生物兵器が野生化した成れの果てとは言え、三葉虫の様な無骨な外見からは、砂ゴキブリと言う名前は想像しづらい。しかし集団で素早く動き回るその姿を見たならば、誰もがゴキブリを思い浮かべる所であった。
 アルジャーノンが叫んだ直後、正面にある第3の眼の様な器官から、蒼白いパルスレーザーが次々に繰り出され、ポットベリーの背中に当った。それはフォースフィールドに守られた重量級コアを貫くには程遠いが、それでもパルスライフルと遜色ない出力のエネルギー弾である上、複数から一度に撃ちかかられるので厄介だった。
「俺がやる! 先に行け!」
「すみません!」
 アルジャーノンは先輩に急かされて先へと進んだ。この素早い相手を狙うには、幾らアリーナでの使用禁止武器とは言え、バズーカは不向きだった。
 足止め役を買って出たグラッジパペットはすぐにサンドローチへ向けて、マシンガンを撃ち、更にその群れに突っ込んでいった。
 ランドワームとは違ってサンドローチの外骨格は脆く、弾幕に襲われた5匹が、まず派手に体液を撒き散らしながら吹っ飛ばされた。続いてグラッジパペットの手近な所にいた3匹が立て続けに射殺された。
 一瞬にして仲間8匹を殺されたサンドローチの群れは四散を始めた。一部、死んだ仲間に食らい付き、その遺体を引き摺っていく個体もいた。その逃げて行く個体の一部にも、マシンガンの弾が叩き込まれ、更に撃破スコアを伸ばす。
 そうして20匹ぐらい倒し、クオレはもう十分だろうと判断し、その場から逃げ出した。
 再び合流した2機は、その後も荒野を急ぎ進んだ。
 その間、先程蹴散らしたものとは別の、サンドローチの団体が3回出現したが、それらは全てグラッジパペットに追い払われた。
 クオレはこの手の生物の対応を知っていた。人間同士の戦いならいざ知らず、弱肉強食の生物界でヘタに逃げ出す事は自分の命を危険に晒すのと同じ事である。この事を、クオレはくどいほどに叩き込まれた。
 世に放たれた生物兵器達に限らず、肉食生物の類は、一度逃げようとすると執拗なまでにそいつを狙ってくる事をクオレは知っていた。何故なら逃げる事は即ち相手との対峙の放棄、弱者を意味し、その瞬間に標的となるのである。一方、捕食者は獲物の逆襲には弱く、逆襲されて逃走と言うケースも数多く知っていた。
 サンドローチにも同じ事が言えた。ここでもし、引き撃ちに転じたならば、連中はそのACを弱い生物、すなわち獲物として認知し、どこまでも追いかけて来る事だろう。その為圧倒的な力を持って逆襲し、群れを退散させてしまう方がよいと、クオレはハンターとして実体験していた。大抵の野生動物同様、彼等は分断されて襲ってくる事はなく、皆揃って逃げるのが常だった。
 二挺のマシンガンで突撃と言う戦法も、その実経験に基づくものだった。
 24時間戦争と、その後のバーテックス戦争のように「CR-B83TP積んだ中量2脚で、ライフルやマシンガンを二挺構えて引き撃ちしてればよい」と言う、安易なアセンブリと戦法だけで生き延びられる時代は既に終わっている。世界に蠢くモンスターや機械生命体の類には、ライフル程度の弾では傷一つ付かないと言うシロモノが当たり前のように存在しているのだ。
 事実、機械生命体側に寝返ったデバッガーや、ランドワームの外皮はマシンガンでは傷一つ付かなかったのだ。しかも、このランドワームは世界各地で出現が確認されており、時にはコンクリートの壁や鉄管をぶち破って下水道に侵入する事すらあった。
 その大ミミズの化け物がまた来ないうちに急げと、クオレとアルジャーノンは互いを急かせ、急いでその場を後にし出した。
「また赤い点がありますよ……」
「今度は何だ?」
 答えはすぐ傍の巨大なシダの影から現れた。青黒い外骨格に身を包み、所々に刺を生やした、巨大なハエに似た化け物が、カマキリの様な前足を振りかざしてグラッジパペットに飛び掛ってきた。が、すぐにマシンガンで粉砕された。
「今度はベルゼバブか……」
 魔界屈指の大悪魔の名を口にするクオレだが、勿論、この巨大ハエが伝説の大悪魔であるわけがなく、単にハエに似た姿をしていることからそう呼ばれているに過ぎない。
 例によって、正体は野生化した生物兵器の成れの果てだ。
 クオレが悪態をついた直後、新手のベルゼバブが飛び掛ってきた。しかし、またしてもマシンガンの餌食となって終わった。
「気を付けて下さい、新手が来ます!」
 アルジャーノンが言うとおり、枝の粉砕音と葉擦れに続き、巨大なハエが8匹飛び掛ってきた。ポットベリーはオーバードブーストで逃げ、グラッジパペットはマシンガンでハエを撃ち落しに掛かる。だが、ベルゼバブは動作がかなり素早く、周囲を飛び回られるとマシンガンでも中々捕捉出来なかった。
 それでも、ポットベリーを追いかけた3匹は即座にマシンガンで撃墜。後輩の一時的安全を確保する事には成功した。
 結果、グラッジパペットはハエの集中攻撃に遭うことになった。
 ベルゼバブは口から溶解液を吐き出し後、急速離脱すると言うヒットアンドアウェイでグラッジパペットを痛め付けに掛かった。しかも、一部個体はファイアーボールまでも繰り出して攻撃して来た。
 その正体は、彼等が体内で生成した、大気中の酸素に反応して激しく燃焼する性質を持つ化学物質だったのだが、それをコア後方から浴びせられ、機体温度が急上昇。遂には危険域に達し、警告アラームがコックピット内に響く。クオレの全身から汗が噴き出し、赤いパイロットスーツに汗染みが広がった。
 これにはたまらず、クオレは一度愛機を離脱させる。
 しかし、この巨大ハエは、ちょっとやそっとのブースト移動で振り切れる相手ではなかった。軽量級2脚にも匹敵する俊敏性で追いすがり、フラフラと飛び回り、時に溶解液やファイアーボールを繰り出す。クオレも激しく愛機を切り返し、回避に徹しながらも攻撃の隙をうかがった。
 その中で、突如飛来したミサイルがハエ1匹を木っ端微塵にした。
 ミサイルの主はポットベリーだった。本来両肩を占有するはずのCWX-DM32-1と、MWX-VM20/1を左右に一つずつ積み、そこからミサイルを1発ずつ交互に撃って援護を始めたのだ。これにより、立て続けに3匹のベルゼバブを撃墜し、残る4匹には回避行動を取らせた。そのうち1匹はグラッジパペットがマシンガンで撃墜した。
 バーテックス戦争後、FCS等各種システムに調整が加えられ、現在では左右で同じ武器を持ち歩く事や、肩武器の同時発射、籠手のように腕に装備するタイプの火器と手で持つ銃器タイプの同時装備、両肩を占有する武装の片方装備等が可能になっている。
 これにより、本来は右腕装備だったWR05L-SHADE改めMWG-XCW/90の二挺装備や、グラッジパペットのようにレーザーブレードと左腕用銃器の同時装備、右肩にかつての両肩装備の片割れを積みながら左肩にレーダーを装備する等、24時間戦争時代では不可能だった芸当が、当たり前のように可能となっていた。
 勿論、ポットベリーとてその例外ではない。
「背後より巨大生物接近!」
 ハインラインの警告にアルジャーノンは即座に反応、連動ミサイルMWEM-R/36も併用し、両肩のミサイルを一斉発射した。
 合計8発のミサイルを目で追った先に、クオレはまたしてもランドワームが出現し、地面に出たり入ったりしながらこちらに迫っているのを確認した。
 直進した6発のミサイルはランドワームの外皮に着弾し、残る2発は頭上からランドワームに直撃した。頭近くが抉られ、派手に体液をばら撒きながら大ミミズは地面に潜り、そのまま逃走した。
 大ミミズが去ると、ミサイルに追い回されているベルゼバブを尻目に、ハンター2人はオーバードブーストで逃げ出した。あのハエをミサイルで落とせるとは思えないが、逃げ回っている間は自分たちには向かってこないだろうとアルジャーノンは確信した。
「クオレさん、何か追って来てますよ!」
「くそッ、もうハエが戻って来たか」
「違います!」
 振り向いたクオレの先に、ベルゼバブの姿はない。あるのは地面の盛り上がりが3つ。それが、またしてもハンターたちに迫っている。
 しかし、上がっている土煙は随分と大人しい。
「小さいな。グラトンワームか?」
「多分そうでしょう。僕がやります、クオレさんは援護をお願いします」
 分かったとクオレは頷き、ポットベリーの背後に愛機を移動させた。
 直後、土煙を上げてグラトンワームが飛び出してきた。ただしその全長は5メートル前後と、先ほどのランドワーム達をそのまま小型化したような外見である。だが、小さくとも立派な捕食用の牙がある。
 ポットベリーはすぐさまMWX-DM32-1を繰り出し、最初のグラトンワームを撃破。続く2匹目はインサイドハッチを開放し、内部に収納されたバルカンで迎え撃った。両肩から繰り出された小口径機銃の弾幕など、巨蟲にとっては苦もないはずだったが、そのミミズは蜂の巣になり、悲痛な断末魔を上げてポットベリーの足元で息絶えた。こいつらの表皮は、遥かにでかい同属と違い、それほど強靭ではなかった。
 最後の1匹はポットベリーに飛び掛ろうとした所、グラッジパペットのマシンガンで撃ち落された。
「何万に一つの可能性とは言え、大きくなる前に倒せて良かった」
 全くだなとクオレは同意した。
「これも、恐らくは……」
 アルジャーノンは足元で息絶えている幼虫に目をやった。
「……あと1ヶ月そこいらで、ランドワームになってしまうはずですから」
 この巨大ミミズは、成長すると30メートルを悠に超える化け物となるのだが、その子供は誕生当初は1メートルにも満たないサイズであった。ただし産卵数は凄まじく、1回の産卵で1万を数える数の卵を産む。
 そうして生まれた幼生は生物の血液や死骸、人間の垂れ流した生ゴミを主な栄養源とし、更には仲間同士で共食いまで行い、歪んだ生態系で生き残る為に急激な成長を遂げる。
 そしてそれがグラトンワーム、即ち「大喰らいミミズ」と呼ばれる所以でもあった。
 かくして養分を摂取したグラトンワームは、やがて脱皮を繰り返して成長し、誕生から4ヶ月も経とうという頃には、巨大な成体ランドワームになってしまうのだった。ただし、歪んだ生態系の中では、力のない者は容赦なく餌食となる定めにあった。研究者によれば、ランドワームの卵のなかで無事に成体に育つのは、数万匹から十数万匹に一匹と推測されている。
 クオレもアルジャーノンも、ハンター組織内部資料として研究機関からの報告書を受け取り、ランドワームのこうした生態は知っていた。無論、産卵数の異常な多さと、それと比べれば異常とも思えるほどの少ない成体の数も。もっとも、ランドワームにまで育った異常な巨大ミミズの数が更に多かったら、今頃地上の人間は食い尽くされてしまっていても何ら不思議はないだろうとクオレは思っていたのだが。
 それに、異常なのはランドワームだけではない。先程のヴァンパイアやベルゼバブ、サンドローチ、他の地域に行けば更に巨大な蛆やクモ、ムカデ、ワラジムシ、巨大な牙を持つ不気味な巨大甲虫、カニやザリガニに似た節足動物等が犇いている。
 これらの生命体は、既存の生物種及びその生物学上では考えられない身体能力を持っている為、ひと括りにモンスターと総称されている。
 彼等に付いて、クオレをはじめとして人類が知っている事は少ない。
 何せ、元が生物兵器として秘密裏に生み出された存在であるため、その情報が公開されず、公となった頃には、彼等の情報は世界の崩壊に伴って散逸したり、或いはそれ以前に人為的に闇に葬られてしまっている事が殆どだったのだ。だから彼らとの研究や戦いは、ゼロから始められ、現在も発展途上のまま進行している。
 だから、クオレやアルジャーノンは勿論、ハンター達もモンスターについては、まだ未知の部分が多かったのである。
 しかし、それでも、クオレとアルジャーノンには分かっていた事がある。
 それは、バーテックス戦争と、その後に続いた世界崩壊やバイオハザードが、世界に取り返しのつかない傷を残したことであった。
 その結果が今の世界であり、都市から一歩外に出ればそこは異界。バーテックスとアライアンス、双方の醜きエゴと狂気が現出させた、人類の理屈や常識が通じぬ世界なのである。
 そんな所に留まってはいられないと、2人は更に道なき帰路を行く。


 やがて荒野は過ぎ、舗装こそされていないが草原を縫って伸びる道が現れた。何本もタイヤ紺が見受けられる所からすると、車道として使われている道であろう。
 グラッジパペットは即座に横切り、次いでポットベリーが足を踏み入れた直後だった。
「そこの同業者、どいてくれ」
 通信が入り、アルジャーノンは一瞬だけだが動きを止めた。だがすぐにブーストで上昇、道の脇に降り立った。 
 程なくして、レーダー上に多数の友軍反応が出現。ポットベリーは道脇で足を止め、味方が横切るのを待った。
 右手側から土煙を上げ、車両の列が現れた。
 まず最初に目に付いたのは、黒光りの装甲を有する反重力駆動の装甲車両群だった。
 若きAC乗り達は、それが「アーマード・カファール」と呼ばれており、ハンター達からは「武装ゴキブリ」と仇名され、レイヴン達から「ゴキブリ戦車」扱いされて忌み嫌われるシロモノだと気付くのに、時間は掛からなかった。
 名は体を表すの言葉通り、この反重力駆動の戦闘車両は頑丈さには劣るものの、ブースターの併用によって時速600キロと言う最高速度をマークし、驚異的な小回りをも発揮する。量産性にも優れており、その敏捷な動作と群れを成して動き回る姿はまさにゴキブリであった。
 更にいえば、容姿も何となくだがそれっぽい感じであった。ただし、触覚は戦闘機の尾翼を思わせるアンテナブレードになっており、機体正面、ゴキブリの上翅に当る部分は装甲で覆われ、その下にコックピットやフォースフィールドジェネレーターが内蔵されている。
 武器は車体前面のバルカン。他に、車体上面にはレーザーキャノンやミサイルランチャー等を、状況やパイロットの好みに応じて装備する事が出来た。事実、15台を数える武装ゴキブリ達は、ガトリングガンやレーザーキャノン、120ミリカノン砲、10インチ口径榴弾砲など、様々な装備を施していた。彼らには、いずれも地元ハンター組織のエンブレムが刻まれていた。
 その後ろから、大型トラックやトレーラーの車列、スティンガーと呼ばれる人型機動兵器7機が出現した。
 スティンガーは過去に存在したとされる、面倒臭がりで有名な同名のレイヴンとは全く関係のない、ACよりも一回り小柄な機動兵器である。
 装甲こそ脆弱だが、小柄である為に機動力に優れ、さらにエンジン出力の高さから瞬発力・最高到達速度はACを凌駕する。そのメイン武装である携行型電子砲「ブリューナク」は出力の調整が自在に可能で、最高出力時は現行の重量級ACコアに致命的打撃を与えられる程だった。
 その為、高機動・高火力・低コストと3拍子揃い、バーテックス戦争末期にデビューして以来、物量にモノを言わせた組織的戦闘も相まって、アセンブリが意味を成さなくなったACを戦場から駆逐するまでに至った。
 そしてこのスティンガーをきっかけに、MTはそれまでの機種とはかけ離れた性能を得るに至り、やがて今日における戦場の主役となる新世代型機動兵器へと進化したのだった。
 これらの機動兵器は、今日ではACB――アーマード・コア・バスターと総称されている。
 勿論、ハンターの中でもスティンガーを初めとするACBを愛用する者は多い。クオレの同期ハンター達にも、スティンガーのパイロットが何人もおり、そのうちの一部とは実際に共闘もした事があった。
 クオレも、最初ジナイーダを殺す為、単機でのAC撃破報告も多数出ているスティンガーのパイロットになろうと考えていた。しかし、彼は最終的にACのパイロットとなる事を選んだ。
 と言うのも、彼がハンターとなったのは今から5年前――西暦3092年の事だったが、その頃既に、ACは現在と殆ど代わらない性能となっており、性能面でならACB機動兵器と拮抗しうる存在になっていたのである。「拮抗する」ではなく「拮抗しうる」としたのは、やはりコスト面で水を開けられている上、アセンブリ如何ではACBに敵わない事も多い為である。
 それでも、今のACは、バーテックス戦争末期とは違ってACBに一方的に蹂躙される存在ではなくなった上、武装換装が精々のACB機動兵器とは違い、フレームそのものも換装可能なACは、戦場適応は勿論だが、「自分流の愛機」を構築出来る点に魅力があった。それに惹かれる者はハンター達でも数多く、クオレもその例外ではなかった。
 川のように続く通商団とその護衛軍団だったが、スティンガー3機と逆間接型AC、2脚型ACを最後に、何も現れなくなった。
 そのACも、やはり地元のハンターが乗っていたが、2脚ACを見たクオレの目が変わった。
「……インクリアーか?」
 2脚ACを見つけ、クオレはすかさず通信モニターを開いた。
「その声はクオレか!?」
 インクリアーと呼ばれた彼も応じた。赤毛のクオレとは対照的な、オールバックの黒髪に茶色い瞳の青年が映し出され、驚きと安堵の混じった微笑を浮かべる。
「久しぶりだな! 乗ってるACが随分派手に変わり過ぎてたから誰かと思ったぞ」
「いやー驚かしちまって悪いな。ちょっと色々あってな、こんな風にしてしまったんだ」
 旧友と思いがけない再会を果たしたクオレは、帰還を忘れて友に歩調を合わせ始めた。
「……クオレさんの知り合いですか?」
 クオレは頷いた。
「3年前まで同じハンター組織に居たんだ。俺はアルビオンに渡って、その後お前に出会った訳だけどな」
 後輩から旧友に視線を移し、クオレは続ける。
「お前は変わっちゃいないな。3年前のクソ真面目なアセンブリのままだ」
 インクリアーの愛機・レギュリナは、旧型番CR-H97XS-EYEの頃からレイヴン・ハンターを問わず支持され続け今も一線で活躍するCHD-SKYEYE、これまた旧型番CR-C75U2時代より標準的な中量級コアとしての地位を保つCCM-00-STO、CR-A72F時代から実弾防御に定評のあるCAM-01-MHL、24時間戦争時代から若干の重量増加と引き換えに実弾・エネルギー両面の防御性能が強化され、今日ではもっともスタンダードな中量級2脚であるCLM-02-SNSKと言う堅実指向のフレームに、ミラージュ社のものより連射力はやや劣るが口径の大きいクレスト製マシンガンCWG-MG-500、ハンター達に支給される一般的なレーザーブレードCLB-LS-2551をその手に携えている。
 背部には、右に小型ミサイルポッドMWM-S42/6、左に中型ロケット砲CWR-M30を搭載し、4発連動ミサイルCWEM-R20で攻撃力を高めているが、その左肩装備のロケットを見て、クオレは違和感を覚えた。
「おい、ガトリングガンはどうした?」
 クオレの記憶によれば、3年前のレギュリナは左肩にCWC-CNG-300が携えられていたはずだが、久々に見るその機体に、それが見当たらない。
「この前ランドワームの溶解液でオシャカにされた」
 なら仕方ないかとクオレは納得した。
 一方のインクリアーは、旧友駆るACに続き、その隣に佇む重量級2脚ACを見やった。その左肩に刻まれた「人間じみた口を開けている壷の口から青い手が伸びている」エンブレムを見て、彼は目を丸くした。
「へぇ、噂通りだな。イースト・バビロンに天才少年ハンター現るって聞いたんで耳を疑ったんだが……」
 少しの間を置いて、ポットベリーの通信モニターにインクリアーの顔が浮かんだ。
「君、アルジャーノンと言うんだろ? レイザーバック少佐の息子の」
「ええ、仰るとおりです。初めまして、以後お見知りおきを」
「凄い、噂どおり礼儀正しい人なんだ……ああ、此方こそ宜しく」
 思わず頭を下げながら、インクリアーは目前のハンター少年に面食らっていた。
「それにしても……クジラを名乗っている大人物の息子が、天才ネズミを名乗っているのも不思議な話だ」
「そうですか?」
 天才ネズミと言うのは、少年のハンター名の由来となった、ダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束を」に登場する、実験により知能が高まった白ネズミの事である。人間のアルジャーノン自身も13歳と言う破格の若さでACを手足の如く操っている為、そう例えていたのだ。
 ちなみに、アルジャーノンが今の名前を名乗ったのには、件の小説を学校の課題だった読書感想文の題材にしようと読み、大変な感銘を受けたためであった。それゆえ印象に強く残り、後に彼がハンターとなるに及び、名前を拝借したのだった。
「ところで、今は何をなされてるのですか?」
「運送業者の護衛だ。彼等に頼まれ、セージシティまで同行する事になった」
 何もモンスターや機械生命体の抹殺が、ハンターの仕事に限らない。都市間を移動する非武装の民間人を、外敵から護衛する依頼もハンターが請け負っている。
「500キロも南下ですか……大変ですね」
 アルジャーノンはポツリと呟いた。あれほどの護衛を連れて歩いてなおも命懸けである運送業者の一団と、その護衛に駆り出されているハンター達、双方にその言葉が向けられていた。
「私語は慎んだ方が良いと思う」
 逆関節ACのパイロット・バグコレクターがインクリアーにそう促した。毒々しい紅色に塗装された彼の愛機スワローテイルが、運送業者団の後にぴったり付いていた。
 多機能・高性能の頭部MHD-MX/RACHIS、現行機種中最低防御水準だが高性能のイクシードオービットで支持を集める軽量級コアCCL-02-E1、CR-A92XS時代よりの省エネと軽量振りで、ナービス戦争以来根強い支持を獲得し続けるCAL-66-MACH、標準的性能の逆関節脚部MLB-SS/FLUIDでフレームを構成。
 逆間接としては軽量な機体は、レーザーライフルMWG-XCB/75と、レーザーブレードMLB-HALBERD、アルジャーノンも愛用しているCWX-DM32-1を2つ搭載し、エネルギー回復装置KEEP-MALUMを装着しているのが、クオレにも確認出来た。
「ところで、この辺に蟲はいたか?」
 居たとクオレは肯定した。
「砂ゴキブリに、ハエに、ヴァンパイアに、でっかいミミズがな」
「おお、だとしたら気をつけなければ」
 バグコレクターが周辺を警戒しだしたが、その顔を見てクオレは違和感を覚えた。警戒しているようには見えなかったのだ。
「おい、何故に笑う?」
「そう言う奴なんだよ、彼は……」
 虫好きで知られるバグコレクターは当然のように昆虫採集を趣味としており、それが高じてハンターになったと言う異色の経歴を持っていた。巨大な蟲を見るのは勿論だが、それを倒す事にも生き甲斐を感じていると公言した為、同業者から変態や蟲オタクのレッテルを張られてしまっていると言う。
 インクリアーが、小声でそうクオレに教えた。
「大丈夫なのかよ……」
「心配ない、ああ見えても腕は立つ。一応ランカーだからな」
 どうやら腕前の方は確からしい。だが、どこか依頼中に笑っているようなヤツが、いざ戦いになって真価を発揮できるのか、クオレには少々怪しかった。
「まあ、何かあったら俺もどの道奮闘する事になるから心配はいらない。お前も覚えてるだろ? 3年前に俺と戦ったのを」
「覚えてるさ……まあ、あの時より強くなってるだろうから大丈夫だろうとは思うが、しっかりお守りしてやってくれ」
 クオレは3年前、ハンター組織主催のACバトル大会でインクリアーと手合わせし、あと一歩の所まで追い詰めて置きながら判定負けを喫していた。その記憶がまだ残っているので、お前が居るなら大丈夫だろうなと、偽り無しで言ったのだった。
「クオレ、アルジャーノン」
 ハインラインが二人を呼んだ。
「お話の途中で悪いですが、ヘリが君達を発見しました。接続し、当領域を離脱して下さい」
 その言葉どおり、クオレの耳にはローター音が響き、遠くには機動兵器輸送用のヘリがホバリングし、二人の接続を待っていた。ぶら下げられているスティンガー2機は、ヘリの護衛を担当させられたハンターであった。
「此処でサヨナラか……」
「そんな寂しそうなツラすんなよ、機会があればまた会えるからな。武勇伝とかはその時にでも、ゆっくり聞かせてもらうとするぜ」
「また、お会い出来ると良いですね。それでは、僕等はこれにて失礼します」
 クオレとアルジャーノンはインクリアーと別れ、来た道を急ぎ戻ってヘリに接続した。インクリアーはヘリに回収され離陸した旧友を見送ると、レギュリナを操ってスワローテイルと運送業者達の後を追った。
「イェーガーズチェインからの命令により、これより急ぎ帰還します」
 どう言う事だとヘリパイロットに返そうとしたクオレだったが、ハインラインの顔が逼迫していたので、口を噤んだ。
「レイヴンとイェーガーズチェインが交戦状態に突入、周辺ハンター及びイェーガー達に協力要請が届いています。2人は帰還次第、燃料・弾薬を補給して再出撃願います!」
 畜生とクオレは悪態をついた。仕事帰りで疲れているって時に、よりにもよってレイヴンが襲来して来たか。
「分かりました」
 アルジャーノンは即座に了解していた。
「分かった、援護に向かう。燃料・弾薬を準備するよう頼む」
 後輩に遅れ、クオレも援護要請を受諾。ただしこれは、個人的感情によるものではない。アルジャーノンが援護要請を受けた事によるものだった。
 クオレ一人だけの時だったなら、この要請は受けなくても良い所だったのだが、今はアルジャーノンがいる。暴言の多いクオレだが、彼には13歳の少年を戦場に放置して死なせる程の薄情さは備わっていないのである。
「ハインラインさん、応急修理もお願いしたいのですが」
「了解、しかしハンガーが帰還機で塞がっているかも知れません。現在の状況を問い合わせた上で手配は致しますが、少々時間が掛かります、ご了承を」
 35歳のハインラインは、20歳のクオレや13歳のアルジャーノンに対しても敬語を使っていた。
 そのハインラインは即座に手元のパッドを叩き、イェーガーズチェイン兵站部へとハンガーの利用可能状態を尋ねると共に、補給要請の打診に入った。  ヘリが着くまでまだ1時間はかかるだろうから、それまでにハンガーの一つや二つ空く筈だとクオレは内心思ったのだが、口には出さない。変な事を言ってオペレーターの信用を損ねるべきではないと見ていたのだ。年下の自分達にも敬語を使う程の人格者である事を知っているから、尚更と言えた。
 しばらくヘリに揺られているうちに、ハインラインから再び通信。
「クオレ、アルジャーノン。双方の補給許可が下りました。帰還次第、第2ハンガーのCブロックに向かって下さい。そこで補給と応急修理を行います」
「了解……助かります、バズーカが弾切れになっていたもので……」
「俺もレーザーキャノンが後2回しか撃てない有様だからな……」
 二人が返答する間にも、ヘリはイェーガーズチェイン・インファシティ基地に急行していた。
 ヘリの下では、ランドワームやサンドローチ等の巨蟲がうろついていたが、二人は関心を示さなかった。二人の関心は、既に次なる任務へと向けられていたのだから。
13/10/19 14:13更新 / ラインガイスト
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■作者メッセージ
 もうコレについては言う事はありませんな……紛う事なき蟲小説です(爆)。
 と言うか、世界観が世界観だけに半ば風の○のナウ○カやらバイ○ハ○ードの如き様相を呈しているような気がしないでもない(爆)。

 両肩装備を一つずつ、と言うのはAC4系列を参考にしています。
 AC4のパーツ評価を覘くと、左右腕武器が統合されていると言う記述があったので、「肩装備も同じことをしてもらいたかった!」とか「N系でもこれやって欲しかった!」との願望があったので、劇中に実装(ぉ)しました。
 グラッジパペットが、原作なら右腕武器である1000マシと800マシを左右それぞれの腕に装備しているのも、AC4系統の装備システムを踏まえたものです。

 N系でも左右で同じ武器がいくらか存在するので、擬似的に同じ事が出来るのですが……4のあれを見てしまうと最早納得行かないものがあります。

■パッチワーク・ワールド
 よく二次創作系のACユーザーが描くAC小説であるのが、「主人公が世界を揺るがす程の大事件や陰謀などに巻き込まれ、それを切り開いていく」と言うのがあると思います。
 多分、大抵の人はこの流れに踏まえて色々書いているのではないでしょうか。
 そこ行くと、この小説は異常としか言いようがないと思います。
 何せ、この小説では肝心の世界(原作)が既にぶっ壊れ、バラバラになったものをなんだかわけのわからない部品諸共チグハグに繋ぎ直した結果、もうACとは名ばかりの別世界になってしまっていますので(爆)。
 しかも主人公は初期衝動とジなんとかへの憎悪、そして腕の赴くままに動くと言う、無計画無節操も良い所です。

 ちなみにインクリアーとバグコレクターの出典元はマスターオブアリーナです。ただし、元ネタとは何の接点もないパラレルワールド的な別人ですのでその辺はご理解の程を。

 こうして思うんですが、世界観を色々ツギハギして作っているので、パッチワークに通じる所がありますね、この作品(ぉ)。
 でも面白く書けているので万事OKって事で(いいのか、おい)。

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まろやか投稿小説 Ver1.50