連載小説
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#28.もうひとつの「決戦」
 予てから続いていた管理者の暴走は、すでにレイヤード第一都市区の主要都市であるトレーネシティまでも、破壊の渦の只中に突き落としていた。
 白と黒のモノトーンで彩られたACが、地で染まった様な赤いセンサーアイを光らせ、道行く者を――戦闘員、民間人、そして老若男女の区別無しに――次々に殺戮して回っている。それに追随する球形メカの大群も、ビルが建ち並ぶオフィス街を、燃え盛る巨大な炉の集まりへと変貌させていた。
 それらの兵器に共通して刻まれる、赤い斜線の入った無機質な六角形と「DOVE」の4文字が、彼等を管理者実働部隊であると物語っていた。
 無論、この事態にシティガードや、この町を監督する立場であるミラージュも黙って見ている訳も無く、ACやMT部隊を動員し、応戦を試みた。しかし、実動部隊の強大な戦力の前に死闘を強いられ、消耗した者や力の劣る者から順に倒されていった。
 我らに恐れる者などないと驕るかの如く、我が物顔で街を破壊するその様は、地獄から這い出た悪魔が人間界を蹂躙する様にも、天使が神の怒りに触れた人間を断罪する様にも見えた。
 その中の1機が、頭上を飛ぶ輸送機に気がついた。そして、ミラージュの社章がプリントされているのを確認するや、ロケットを放った。
「砲撃されているぞ! ACの投下準備急げ!」
「駄目です! 砲撃でハッチが変形して開きません!」
「ぶち破っても構わん! 早く降下を!」
 輸送機を立て続けに襲う激しい衝撃。コックピットに響くアラーム。爆発音。飛び散る破片。輸送機とAC、それぞれの乗員は炎に包まれながら最期の瞬間を悟った。
 やがて輸送機は激しい炎を吹きながら、瓦礫の山へと落ちて行った。
<ターゲット消滅>
 輸送機の墜落を確認したACだが、その刹那、そいつは横から振り下ろされた青白い刃に薙ぎ払われた。右腕が切り落とされる中、ACは右に旋回する。
<敵対信号確認、排除行動開――>
 しかし青白い刃は、実働部隊ACよりも遥かに早く動いていた。
<左腕部切断――CAW-DMG-0204 攻撃機能消失>
<頭部切断――全センサー機能消失>
<左肩装備――CWR-HECTO 発射不能>
<右肩装備――MWC-XP/75 発射不能>
<コア搭載自律攻撃機構L――分離不能 射出装置損傷>
 刃を叩き込まれるごとに、エラーメッセージが次々と流れていく。
<動力系破損>
<火器管制システム ブレイクダウ――>
 コアから激しい閃光と爆発が発生し、ACは瓦礫の一部と成り果てた。


「此方ヴィエルジュ、一機始末した」
『了解、敵AC一機撃破確認』
 輸送機に注意を向けていた為に、隙を見せた実働部隊ACを斬り捨てたヴィエルジュは、更なる実働部隊ACの破壊の為、炎に包まれた市街地を進み始めた。
 火災が街中の至る所で発生し、外気温は、高い所だと80度近くに達していたが、ACの冷却システムを考えれば、この程度の外気温ならばOBで疾走する事も出来るとアストライアーは見た。
「シューメーカーよりオペレーター、敵AC一機撃破」
「オペレーター、機体の様子がおかしい、確認してくれ!!」
「誰かその瓦礫をどけろ!」
「しまった、脚が!」
「誰でもいい、助けてくれぇ!!」
 入り乱れる通信から察する限り、一部戦果を挙げ続けているものも中には居るようだが、他のレイヴン達も、やはり実働部隊の戦力に押され気味と伺えた。ノイズや砲声、爆発音や断末魔を最後に途切れた通信も少なくない。
 そんな中、何かがヴィエルジュの前方を、右から左へ、猛スピードで横切った。それがACだったと事が判るには、殆ど時間を要さなかった。
 横切ったACが通った道とは目と鼻の先だったこともあり、すぐにアストライアーは愛機を動かし、後を追わせた。
 そして、彼女は凍り付いた。
 かなり離れていたが、アストライアーの眼は、ヴァージニティーとルキファーの後姿を捉えていた。
(アキラに直美……それに管理者部隊………)
 女剣豪に見つめられているとは知らず、2機は前方に現れた管理者部隊の所属と思しき球状の戦闘メカを破壊すると、そのまま、何処へと姿を消した。
 実働部隊は元来、レイヤードの安定を乱す存在に対する粛清を第一目的としている。では、彼等が此処に現れた理由は、やはりアキラの抹殺なのだろうか。だがそうだとしてはやり方が大げさだ。標的となる者を抹殺する為なら、匿名の依頼と言う形でレイヴンなり何なりにでも頼めば良い。人間一人狙う為に、実働部隊の大群を繰り出してトレーネシティを丸ごと焼き払う必要があるのだろうか?
 それ以前に、アキラと直美が何故トレーネシティに姿を現したかも気に掛かる。この街に拠点を構えていたのだろうか? 或いは拠点に戻る途中に実働部隊に出くわしたか。実働部隊に襲撃されているトレーネシティを横切っただけと言う事も否定出来ない。
 ただ少なくとも、アストライアーと同じ依頼を受けて戦って居る可能性は無かった。ヴィエルジュのIFFが味方だと告げていないし、友軍信号も発していなかったからである。
 疑念を抱き、追跡しようとするアストライアーだが、すぐにそれを思い止まった。同型のメカが、ヴィエルジュの周囲に多数浮遊している事に気がついた為だ。それだと判る理由はメインモニターに表示されたその形状と、レーダースクリーンに赤い反応を示す点が確認出来た事による。
 それらは球状の外殻を開き、内蔵された短照射・連射性重視型の小型レーザー砲をヴィエルジュ向けて照射。先手を取られたが、ヴィエルジュもバズーカから砲弾を2発放つと、手近なビルに身を潜める。並大抵のMTの一機や二機など、その一撃で葬り去るほどの火力を有する砲弾である。
 最初の砲弾は外れたが、次の砲弾は直撃した。球状メカの一機程度など木っ端微塵となっている筈だが、しかし着弾の直前、敵機は堅固な外殻を閉じていた。直撃だったにも拘らず、砲弾は分厚く堅固な外殻に遮られ、大きなダメージを与えるには至らなかった。
 それどころか、女剣士の後を追って来た戦闘メカは全て健在だった。
 通常時の攻撃は外角に遮られて効果が薄い事が分かった。ならば、外殻が開いたときに一撃を見舞ってやろう。そう、彼女は決した。
 球状メカの外殻が開きかかる。
 アストライアーはファイアーボタンを押し込もうと、親指に力を入れた。
 しかし、球状メカは後ろから攻撃され、ヴィエルジュの攻撃を待たずして次々に爆発した。
 爆発の向こうから、新たにACが姿を現す。見た所、重量級2脚をベースとした、多武装・高汎用型ACの様だ。メタリックシルバーに彩られた無骨な外見だが、戦火の影響からか、橙色の鮮やかな光に照らされて暗闇に浮かび上がっている。装備は右腕にクレスト製のマシンガン、左腕にムーンライト、肩にはロケットとミサイルをそれぞれ搭載している。
「大丈夫か?」
 重量級ACの搭乗者から通信が入る。アストライアーは見慣れる者の接近に、無意識のうちに警戒心を強めた。いらぬ気遣いだと、自分の戦果を横取りされた事に対する怒りは面に出さぬよう。
「無事だが……お前は誰だ?」
「シューメーカー。レイヤード第2アリーナのレイヴンだ。トレーネシティガードの依頼で、管理者部隊の迎撃に当たっている」
 落ち着き払った印象の声と、通信内容から察するに、どうやら味方機らしい。実際、IFFは目前のACに反応、つまり味方として認識している。
「同業者か。私はアストライアー。レイヤード第3アリーナ在籍だ」
「アストライアー――レディ・ブレーダーか。その機体からまさかとは思っていたが……」
 少々警戒していたシューメーカーの口調から、途端に警戒の色が消えた。いや、警戒はしていたが、それ以上に、まさか此処で会えるとは思っていなかったのだ。
 何せ、彼は以前、レヒト研究所の戦いや、アヴァロンヒルでの巨大機動兵器進行阻止戦において、ヴィエルジュの残骸を見て来た身である。アストライアーが生きていたとは思っていなかったのも、無理もなかった。
「で、何だ? 私に話でもあるのか?」
 驚くシューメーカーの前で、アストライアーは以前と同じ冷静さを保っていた。
「管理者はかなりの数のACを投入したらしい。此処は一つ共同戦線を気はありませんかな?」
「共闘……!?」
 アストライアーの答えを待たずして、2人は直ちに共同戦線を張る必要に迫られた。
 ヴィエルジュの後方に建つビルから、新たな実働部隊ACが姿を現していた。
 四角柱型のレーザーライフルに携行型グレネードランチャー、オービットキャノンで固められ、EOとの同時併用によるラッシュを得意とする、高火力仕様の中量級2脚ACである。実際に目撃した事のない二人は知らないが、この機体は以前、かつてクレストの中央研究所を襲撃したACと同型であった。
「……選択の余地は無いな」
 すかさず、ヴィエルジュは実働部隊ACへと接近しつつバズーカを叩き込む。それに続いて、シューメーカー駆るシルバーウルフも小型ミサイルを放ち、実働部隊の動きを牽制しようとする。
 今回の戦場は比較的入り組んだ市街地で、ビルが立ち並ぶために動きが制限される。ビルの上に登れば機動戦闘も出来そうと判断し、ヴィエルジュはビルの上へと上昇、シルバーウルフはあえて追撃を行わず、地上からマシンガンを撃ち放つ。
 ビル街の上へと移動すれば回避出来るスペースもあるが、シューメーカーはそれを躊躇った。激しく動いたならば、愛機の自重で足場のビルが崩壊しかねないと危惧したのである。
 敵機の接近を感知した実働部隊ACは上空へと退避、それと共に、自立型小型兵器オービットをヴィエルジュとシルバーウルフに向けて放った。
 厄介な代物を出してきたかと警戒する二人だったが、オービットは周囲のビルに次々にぶつかり、自慢の追尾性能を発揮するどころか、一発のレーザーを撃つ事もなく消滅した。
 これを好機と見た2人はすかさず反撃。ヴィエルジュからはバズーカが、シルバーウルフからはロケットが放たれる。
 だが実働部隊ACも、オービットの効果が望めないと判断してか行動を変更、ビル街を飛び抜けると、眼下のヴィエルジュにEOを放つ。
 その実働部隊を一目見て、シューメーカーは叫んだ。
「下がれ!」
 何だと思ったアストライアーは、とっさに後退した。
 ヴィエルジュの後退と同時に、実働部隊ACは携行型グレネードを放った。グレネードは、先程までヴィエルジュが居た場所に着弾。直撃こそしなかったものの、衝撃でヴィエルジュは7メートルほど後方へ吹き飛ばされ、道路のアスファルトには深々とした穴が明けられた。
 実働部隊ACはまだも滞空し、眼下の敵ACに向けて更なるグレネードを放とうとする。
「2発も撃たせん!」
 発射するであろう瞬間に、ヴィエルジュは急上昇、紙一重でグレネード砲撃を回避。
 ブースターの出力にものを言わせて一気に頭上へと舞い上がったヴィエルジュは、頭上から実働部隊を斬りつけんと、急降下でのアプローチからブレードを振り下ろした。
 実動部隊ACもブレードを振り上げ、斬撃をブロックする。
 ヴィエルジュと実働部隊ACが組み付き、荒々しく着地すると、入れ替わりにシルバーウルフが舞い上がり、実働部隊ACの頭上からマシンガンの弾幕を降らせた。実働部隊ACも携行型グレネードで反撃するが、榴弾はシルバーウルフの頭上へと飛び去った。続けざまに放たれた砲撃も同様。重量級2脚のシルバーウルフだが、ヴィエルジュ同様、現行最高出力ブースターの搭載により、中々身軽な動きができるのだ。
 さらに、シルバーウルフはビルから落ちて着地する寸前、実働部隊にロケットを放った。ロケットは実働部隊ACの左肩に着弾し、ヴィエルジュをブロックしていた左腕が反動で仰け反る。
 すかさずヴィエルジュはムーンライトを一閃。さしもの実働部隊ACもこの斬撃を止めることは出来ず、左腕ごとコアを一撃された。左腕を斬られてたたらを踏んだ実働部隊が崩れないと見るや、ヴィエルジュは蒼白い光刃による一撃を再度叩き込んだ。この一撃が致命傷となった実働部隊ACは炎に包まれ、数秒後には爆発と共に崩れ落ち、瓦礫の一部と化した。
 実働部隊を撃破した2人だが、しかし息つく間もなく敵の接近を感知する。
 グレネードでも発射したかのような轟音が、2人の耳に届いたのだ。音の大きさや響き具合から、2人のいる場所から爆発音のした地点までは、そう遠い距離ではないと思えた。近くで実働部隊と誰かが交戦しているのだろう。
 更に、ノイズ交じりで少々判り難いが、誰かの声も聞こえる。
「近いな」
「ああ、また誰かが実働部隊にやられたらしい……」
 ノイズ混じりの声は、アストライアーには聴き慣れた声のように聞こえた。
「知人か?」
「いや……それに近い存在らしいのだが……」
 珍しく、あまりはっきりとした答えを出さないアストライアー。ノイズ交じりで声の主が良く分からないと言うのもあるが、もしかしたらと彼女はこの時思っていたのだ。
『くそっ、ミルキー! ミサイル撃て!』
『ダメ、瓦礫が…』
 再び聞こえて来た声を聞き、アストライアーは確信した。その声の主はストリートエネミーとミルキーウェイだと。あの2人も実働部隊と交戦しているのか。
「あいつら……」
 すぐにヴィエルジュを向かわせるアストライアーだが、シューメーカーに呼び止められた。彼の愛機が、ヴィエルジュの行く手を塞ぐようにして、先に回る。
「何のつもりだ、貴様!?」
「待ってくれ、かなりの数の管理者部隊がうろついているんだ。いくら君が名うての剣豪でも、ここでの単独行動は危険過ぎる。ここは手を組もう」
 確かに、この街に展開する管理者部隊の数が判らない以上、アストライアーにとっても単独行動は慎みたい所であった。加えて、ヴィエルジュは一対一のAC戦に主眼を置いた構成のACであり、装甲も比較的薄い。いくら彼女が腕利きのレイヴンとは言え、剣一本で敵の大群のど真ん中に突っ込んでも玉砕するのがオチだろう。ヴィエルジュを手足の如く操る事の出来る技量を有し、それでいてミラージュのデータバンクで、ユニオンが雇ったレイヴン達――特にイレギュラーと、それに付き従う謎多き女レイヴンの前に敗北を喫した彼女だからこそ、それは痛いほど分かっていた。
 だが、かつてレイヴンに裏切られた彼女の過去が、他のレイヴン、それも他のアリーナに在籍している、自分にとってはあまり面識の無いレイヴンとの共同戦線を無意識的に拒絶していた。
『ねえ、誰も近くにいないの!? いたら早く来て!! 早くしないとお兄ちゃんが……!!』
 葛藤の間にも、悲鳴にも似たミルキーウェイの通信がヴィエルジュのコックピットを満たす。その声が、かつて、BBに襲撃された直後、瀕死で助けを呼ぶ家族と、唯一軽症で助かり、助けを求めていた、あの「忌まわしい日」の自分に重なった。
 ミルキーウェイの泣き出しそうな声とシンクロして、あの日の自分の声が、残響音、あるいは亡者の怨念の様にアストライアーの脳裏に響いてくる。数時間前に宿敵であったBBを殺し、それを最後に決別した筈の過去が。
「……団体行動は好かないが、しかし止むを得ない。共同戦線といこう」
 結局、僚機の命がかかっているアストライアーは共同戦線を選ぶ事となった。
「じゃあ早速、君の僚友を救ってやらないと」
 自分があの2人と一緒に居る所を見ていたのか。アストライアーは一瞬だけだが動揺した。
「知っているのか?」
「以前君がストリートエネミー、ミルキーウェイと行動していたのを見た事があるので、もしかしたらと推測しただけだ。それより、急ごう」
 促されるままに、ヴィエルジュはOBを起動して市街地を駆け出す。遅れてシルバーウルフもOBを起動し、先行した女剣士を追った。


「やれやれ、認めたくは無いがこれじゃジリ貧だな……」
 ダメージが蓄積しつつある愛機であったが、ストリートエネミーは先程から実働部隊ACの攻撃を掻い潜りながら、ミサイルやライフルで応戦を続けしぶとく抵抗していた。
 これが1機だけならまだ良く、実際彼としても、相手が1機だけならば勝てる自信は十分にあった。だが今や、その自信は喪失し、額から浮き出た冷や汗が頬を伝っている。
 なぜなら今、スタティック・マンは軽量級2脚と重量級2脚の2機を同時に相手取っていたのだ。
 彼が元々相手にしていたのはMLL-MX/EDGEベースの軽量級2脚型だけで、空中を飛び回りながらオービットやレーザーライフルMWG-XCW/90で攻撃するものの、ネージュとのミサイル攻撃で追い詰める事は出来た。
 だが、それと交戦している最中に、CLH-STIFFベースの重量級2脚型が突如出現し、4連レーザーキャノンで砲撃。スタッティク・マンは砲撃を逃れたものの、後ろにいたネージュは砲撃で倒壊したビルの瓦礫に挟まって身動きが取れなくなり、1機だけでの抵抗を余儀なくされていたのだ。
 多勢に無勢とは言え、他の実働部隊ACとの交戦でダメージが重なっていた機体で2機のACを同時に裁く事は、彼にとっては苦しいものであった。戦いを記録する監視カメラか何かがあれば、次第に追い詰められていく彼の様子が分かるだろう。
「あいつの攻撃は食らったらマズイ、か……」
 重量級2脚型のグレネードライフルと4連レーザーキャノンは辛うじて回避出来ているものの、軽量級2脚型の放つオービットやレーザーは回避し切れず、徐々に耐久力が削られて行く。これ以上攻撃を食らうと、とてもではないが機体が持ちそうにない。ストリートエネミーは戦慄を覚えていた。
 だがその戦慄は、直後には驚きに変わっていた。突如として眼前の軽量級2脚型が上半身と下半身を切り離され、爆発。爆風の中からは、それを斬り捨てた張本人がスタティック・マンの前に躍り出た。
「命拾いをしたな」
「アスか!」
 崩れ落ちた軽量級2脚の残骸を踏み越え、スタティック・マンの前に躍り出ると、ヴィエルジュは上腕部の補助ブースターを吹かして急速旋回、重量級2脚にも斬撃を見舞おうとする。さらに遅れて到着したシルバーウルフのロケットとミサイルが、続けて重量級2脚に着弾する。
「他のアリーナのランカーも一緒か。アスにしては珍しいな」
「成り行きだ」
 後退するヴィエルジュと入れ替わり、シルバーウルフはロケットを放ちつつ重量級2脚型へと接近、至近距離からブレードで一撃を加えた。
「ぬっ…!?」
 斬撃を命中させた筈だが、シューメーカーの顔に苦味が走った。重量級2脚型は、左腕に装備した十字架を思わせる装置からシールドを発生させ、斬撃をブロックしていたのだ。さらに、肩に装備した4連レーザーでシルバーウルフに反撃する。
 直ちに後退したシルバーウルフだが、引き遅れた右足が4連レーザーに焼かれる。脛の装甲は抉られたが、間接部に被弾しなかったのは幸いだった。
 ならばと、今度は頭上からヴィエルジュがバズーカを放つ。それに反応し、重量2脚型のシールドがヴィエルジュの方に向けられる。
 すかさず、シルバーウルフは踏み込みから再び斬撃を叩き込んだ。青白いレーザーブレードは重量級2脚型の上半身と下半身を切り離し、上半身は地面に転がった。
 だが、敵ACは上半身だけになりながらもブーストで浮かび上がり、シルバーウルフにグレネードライフルを向ける。
「往生際の悪い奴……」
 グレネードが火を噴くかと思われた直後、上空に浮かび上がっていたヴィエルジュが、重量級ACの右手側に降下し、落ち際にムーンライトを一閃した。
 剣戟は右肩を斬り落とし、続けて繰り出された二度目の斬撃はコアを吹き飛ばすように破壊し、敵ACを今度こそ沈黙させた。
「大丈夫か?」
 実働部隊ACを撃破したアストライアーとシューメーカーが、互いのACを操ってスタティック・マンへと歩み寄る。
「俺は大丈夫だが、ミルキーが…」
「どうした?」
 スタティック・マンの頭部が瓦礫と化したビルへと向けられ、他2機も、頭部を同じ方向へと向ける。
「誰かぁ……助けてくださいぃ……」
 うつ伏せの状態で瓦礫に挟まり、身動きの取れなくなったネージュの中で、ミルキーウェイが半ベソをかきながら助けを求めていた。
「待ってろ、瓦礫をどかしてやる」
 シューメーカーはそう言い、瓦礫の前へとシルバーウルフを進ませた。そしてムーンライトを一閃、瓦礫を横一文字に薙ぎ払った。
 瓦礫を取り除かれたネージュはゆっくりと立ち上がる。見たところ少々傷ついてはいるが、まだ戦闘を続行出来そうな状態ではあった。
「あ、ありがとう……??」
「……シューメーカーだ。レイヤード第2アリーナの」
 ミルキーウェイが少々言い難そうな表情をしているのを見て、自分の名前を知らないからだろうと察したシューメーカーの口から、反射的に自分のレイヴン名が出た。
「し、シューメーカーさん……とにかくありがとう」
「何、良いって事だ」
「うん……」
 助けて貰いはしたものの、何となく不満なミルキーウェイであった。出来る事なら兄と慕うレイヴンに助けてもらいたかった、とでも言いたげな表情である。乙女心に敏感な人間なら、それに気が付いた筈だが、生憎この場には、その様な人種はそろっていなかったようだ。
 出し抜けに、ネージュの左後方のビルが突如倒壊した。一同の視線の先では、激しい土煙と爆風が巻き上がっており、闇夜も相まって視界が殆ど利かない。
 だが土煙の中からは、またも実働部隊ACが姿を現した。
「また奴らか!? 冗談じゃねぇぞ!」
 悪態がストリートエネミーの口から漏れる。
 今度の実働部隊ACは4脚タイプ。両腕はそれ自体がレーザー砲となっており、肩にはパルスキャノンMWC-XP/75と大型ロケットランチャーを搭載した砲撃戦主体の高火力ACである。エネルギー消費に難を抱える4脚の特性を考慮すると、普段は殆ど見られないアセンブリである。それはパーツ性能が劣悪なのではなく、攻撃するにしても移動するにしてもエネルギー消費が莫大だからである。
 だが、姿を現したのは実働部隊ACだけではなかった。若い男性の声と共に、白銀の重量級2脚ACが、OBを吹かしたのか猛スピードで実働部隊ACに突っ込んで来たのだ。肩には白馬のエンブレムが張られ、右手に射突型実体ブレードKWB-MARSを、左腕にヴィエルジュやシルバーウルフが装備している「月光」の名を冠したレーザーブレードを携えた近接戦闘用のACである。
 それを見て、アストライアーの脳は、レイヤード第3アリーナの若手出世頭的ランカー・インパルスが駆るスタリオンだと判断した。
「あいつも此処に来ていたのか……」
 元々インパルスもアストライアーと同様、父親がレイヴンであり、また同じアリーナに所属し、同じく接近戦を得意とするレイヴン同士と言う事で、彼の活躍はアストライアーの耳にも届いていた。
 ただ、彼の愛機スタリオンは極めて扱い辛いと言われるキサラギ製射突型実体ブレードを搭載しており、考え様によっては、ヴィエルジュ以上に近接戦に特化したACともとれる。今回の実働部隊との戦いでも、インパルスは右腕の射突型ブレードによる一撃を狙っている様に見えた。
 だが実働部隊ACは接近してくるスタリオンの左手側に回り込み、パルスキャノンとEOの一斉照射で迎え撃つ。スタリオンは上腕部の補助ブースターを吹かし、左方向へ急速旋回。正面から向かい合う形になったスタリオンに、実働部隊ACはさらにラージロケットを放った。インパルスは、ストリートエネミーやシューメーカーと言った面々は、眼中に入れていなかった。
 アストライアーには、射突型ブレードの一撃を恐れ、あくまでも近づかせないとしているように見えた。そう考えながら、現れた球状メカにバズーカを撃ち込んで黙らせる。
「これでも食らえ!!」
 スタリオンはラージロケットの直撃を浴びながらも、射突型ブレードを構えながら実働部隊ACに突撃、密着状態から、超硬質の金属製の杭を打ち込んだ。
 射突型ブレードに一撃され、甲高い金属音を響かせて吹き飛んだ敵機を、スタリオンはブーストダッシュからのブレードで追撃。実働部隊ACを一太刀の元に切り伏せた。
「……良い腕だ」
 アストライアーが呟く。
 今回インパルスのした行動は、突撃して射突型ブレードで一撃したに過ぎない。だが、射突型ブレードは一撃必殺とも取れる威力を誇るものの、FCSによるブレード攻撃の際の誘導が働かず、前述の通り極めて扱いが難しい。インファイトを得意とするアストライアーも使用した事があったが、ACとの模擬戦闘時でさえも満足に命中させる事が出来ず、結局装備を断念したほどの代物なのである。
 当然、これを使いこなせるレイヴンなどそうそういるものではなく、事実、アストライアーの知る限りでは、射突型ブレードを実戦で使いこなせた者は、インパルスを含めても数名しかいない。その為、たとえ戦闘スタイルが強引であっても、実戦で射突型ブレードを使える事は確かな格闘スキルの証明だと、アストライアーは認識しているのだ。
 そんな彼女の声に反応したのか、実働部隊ACを叩き潰したスタリオンがヴィエルジュに向き直る。
「あのAC……もしかしてアストライアーさん?」
 スタリオンのコックピット内の通信モニターに映ったアストライアーは無言で肯いた。
「やはりそうでしたか! こちらスタリオン、ここでお会い出来て光栄です!」
「ああ、だが此処で対面を喜ぶ暇はない」
 アストライアーの言う通り、管理者部隊はまだ全滅したわけではない。
 それどころか、まだどれ位残っていて、いつ自分達に牙を剥くかすらも分からないのだ。無駄話の間に奇襲され、撃破される事も十分有り得る。
「しかしこのままではキリが無い……何とかならんものか……」
 シューメーカーが新たに出現した球状メカをマシンガンで破砕しながら呟く。現在もトレーネシティには相当数の管理者部隊が徘徊・跳梁している。各個撃破しても時間に見合った成果は上がらないし、市街地への被害も大きくなる一方である。
「ですが、僕等にもこの状況を打開出来るほどの有効策が無いのも事実……これではどうすれば……」
 各個撃破しているのでは何時まで経っても状況は好転しない、だがそれ以外に出来る手は無い。インパルスはどうにもならないこの戦況に、訝るしかなかった。
 シティガードがこの戦場に居る鴉達に向けて通信回線を開いたのは、その時だった。
『トレーネシティで作戦行動中の全レイヴンに告ぐ。実働部隊に命令を発する司令塔らしき反応を確認した。これより、オペレーターを介してレーダーにその位置を送る』
 シティガードが通信を入れた直後、マップ機能を搭載した頭部を持つACのマップに、作戦目標を示す「TARGET」の文字と、それを示す位置が表示された。
 管理者操る実働部隊ACは、その何れもが直接操作されているのではなく、統一された命令系統の元、自立的な戦闘行動を行う無人ACである。そして、彼らが受信している司令信号の出所を、シティガードならびにミラージュが突き止めたと言う訳だ。
 そしてその司令信号は、アストライアー達が戦っている区域から5キロほど南の、トレーネシティ中心街に程近い広場から発せられていた。
「此方リバイバル、敵司令機を発見」
「くそッ、砲火が激し過ぎる!」
 いち早く指令機に遭遇したメンバーの通信だったが、直後にそれは凄まじい銃声と爆発音に取って代わられた。
 全員が、彼の位置を確かめるべくレーダーを見ると、マップ上の「TARGET」付近で、緑色の点が複数の赤い点に追い回される様子が移っていた。
「オペレーター、ミラージュ戦力はどうなってる?」
『損失20%、現在も被害拡大中。近隣セクションへ増援を要請している』
 アストライアーの通信モニターには、ミラージュの依頼を受けた際、毎度のように彼女をナビゲートしているミラージュの通信士の顔を映し出していた。彼のネームプレートには、ミラージュの社章と共に「オリバー=ヴィステージ」と言う名が記されていたが、ミラージュの通信士がシティガードの依頼で出てくる事に、異を唱える者はいない。
 何故なら、トレーネシティはミラージュが管轄する都市であり、当然そのシティガードもミラージュの治安維持部隊が有する戦力の一つである。
『今、アダンシティから援軍が出動した』
 オリバーがそう伝えた。
『コーテックスも、周辺セクションからレイヴンを派遣する事を決定しました』
 ストリートエネミーのオペレーターも言った。
「戦力の追加投入とは珍しい」
 アストライアーが呟いた。
 本来レイヴンは、企業なり何なりが金で引き入れている便利屋、酷い場合となると生殺与奪の権利をクライアントに握られている捨て駒として認知されている場合が殆どであり、必要以上の増援が送られる場合は基本的にないと言って良い。
 アストライアーは、レイヴンの立場が所詮その程度である事を知っていた。
 しかし今回は話が違う。都市レベルでの戦いであり、たかだか数人では市外全域をカバーするのは到底無理があった。
 レイヴンとは言え、数十人――もしかしたらそれ以上の人員を投入しなければ、この事態を鎮圧する事は困難だった。それに、トレーネシティには多くのレイヴンが居を構えている。放置しておけば、グローバルコーテックスへの影響も計り知れない。そうして利害の一致したミラージュとグローバルコーテックスが、トレーネシティとその周辺の全レイヴンへ、緊急の依頼を発したのだ。
 最も、実働部隊の存在がある以上、ミラージュとしては自社戦力の消費及び喪失は極力抑えたかったのが本心である。否、実働部隊が無かろうと有ろうとそれは同じ事だろう。その為、増援にレイヴンが駆り出されるのは情勢上必然だった。
「さっさと来い! 何やってるんだ!!」
「誰でも良い、援護を頼む!」
「早く来てくれ!」
 オリバーの通信にハードエッジ達の叫びが割って入った。語調が変わった所から察するに、相当旗色が宜しくない様である。
 ヴィエルジュがまず動き出し、その後にスタティック・マンとネージュが続き、白銀の重量級AC2機はそれより少し遅れて後を追い始めた。


「し、死ぬかと思った……来るのが遅いぞ!」
「いやー、悪ぃ悪ぃ」
「すみませんねぇ」
 冷や汗たらたら、息も絶え絶えのハードエッジとは裏腹な、まるで茶化すようなストリートエネミーとミルキーウェイの謝罪が飛ぶ。この、彼から言わせれば「バカップル」に分類される輩に誠意があるのか、それで誤った心算かと、ハードエッジは疑った。
「こっちは片付いた」
 ストリートエネミー達から少し離れた所で、ヴィエルジュは重量2脚MLH-MX/VOLARベースの実働部隊ACを斬り捨てていた。
 ハードエッジのAC「リバイバル」を追い詰めていた元凶はこのACで、真っ先に駆けつけたヴィエルジュが背後からこのACを強襲、腕部MAM-MX/REEが切り裂かれた。
 続けてネージュの小型ミサイルとスタティック・マンの中型ミサイルが相次いで着弾、ヴィエルジュからの攻撃と判断したのか、既に満身創痍となっていたリバイバルから離れ、ヴィエルジュに向かったが、結果はこの通り。
 大口径レーザーキャノンCWX-LIC-10も、エネルギーライフルMWG-XCB/75も、更にはムーンライトですら、ヴィエルジュを撃退するのには全く役に立たなかった。
 一行がハードエッジの元に辿り付いた時、周囲には彼と同じく戦っていたレイヴンのACが、残骸となって転がっていた。更にその近場では、ミラージュの社章が張られた、曲線的フォルムを有する複数のACも展開していた。
 中量2脚ACがその大多数を占める中で、1機だけ重量2脚の姿が見て取れる。レッドアドミラルと言う名前はあるが、一般にはミラージュ重装型として知られている機体であった。そのACは、巨漢の如き体躯には不釣合いな、火花を散らすマシンガンを携えていた。
 そのACに、アストライアーは見覚えがあった。
「グローサー隊長?」
「君も来てくれてたか」
 目前の巨体を操っていたのは恩師だった。何故此処に居るのかと疑問が浮かんだアストライアーだったが、良く見ると、ミラージュのACの向こう、8車線道路を挟んだ反対側には、同じミラージュの社章が掲げられた摩天楼が見て取れた。
 あのビルは、恐らくミラージュの本社、あるいはそれに順ずる重要拠点なのだろう。アストライアーはミラージュの本社の位置等を知らされていない為、そのビルが本社かどうかは推測に頼るしかなかったが、自分の推測が正しければ、恩師がこの場に現れても不思議は無かった。
 その根拠はラルフ=グローサー率いるミラージュ第5AC部隊の面々の他にも、ビル周辺にはかなりの数のACやMT、高射砲の様なものが配備されていたことから見て取れた。そのACやMTの中にも、被撃破機は少なくなかった。実働部隊の戦力に押され気味という状況の悪さが窺えた。
「拠点の防衛……を命ぜられたのですね?」
「いかにも」
 グローサーの頷きとほぼ同じくして、少し遅れてきたスタリオンとシルバーウルフもミラージュの拠点ビル前に到着。
「例のACはどうなりました?」
 インパルスが尋ねた。
「逃げられたよ、AC数機を残して……逃がすまいと我が隊総出で一斉攻撃を試みたが、何しろ異様に足の速い奴でね……」
「追撃はしないのか?」
 ストリートエネミーの問いかけに、グローサーは首を縦には振らなかった。
「追撃要請を出しても却下されるのが分かっている。我々はあくまでもトレーネシティ支社の防衛を命ぜられた番犬だ。持ち場を離れるわけには行くまい」
 やはりあのビルは、ミラージュの本社ではなかった。しかし女剣士は、本社に順ずる重要拠点であることを、グローサーの発言から察した。同時に、公園を良く見てみると、8車線道路の目前には何が発進するのだろうか、地下に伸びるゲートが設置され、その先にはACが通れるほどの幅の通路が整備されていた。有事の際は此処から戦力が此処から放たれて行くのだろう。
「ましてや今は時勢が時勢だ、お偉方としても――」
 ミラージュのACパイロットが発した「敵襲!」の一言で、グローサーの台詞は途切れさせられた。アストライアー達がこれまでに叩き潰して来たのと同型の球状メカの軍団が、一同目指して驀進していた。
「各機撃て! 敵機を近付けるな!」
 号令一過、グローサーの部下達が操るACが、レイヴン達と入れ替わるようにして実働部隊の前に進み出ると、手にしたマシンガンやライフルを発砲。
 周囲の各ACやMT部隊も、オーケストラの如く一斉に銃撃を開始した。トレーネシティの混乱に伴って通行止めとなっていた8車線通路を横切り、公園へと前進してくるミラージュのACやMTも少なくない。その攻撃の殆どは外殻に防がれるが、中には攻撃と外殻開放のタイミングと一致したのか、外殻を開いた瞬間に爆発した個体もいた。
 レイヴン達も、企業戦力に続いて実働部隊への攻撃を開始した。
「キリが無いな……」
 ヴィエルジュもレーザーブレードを振りかざし、外郭を展開していようとしていなかろうと構わず、手当たり次第に球状メカを次々に叩き割っていく。しかし、その右腕に握られたバズーカからは、砲弾が放たれる事はなかった。
「ダメだ、隊長!」
 まだ少年とも言って良いACパイロットが、グローサーに通信しながらライフルを発砲、球状メカの1機は破壊したが、残る2機からのレーザー連射を浴び、よろめきながら、ヴィエルジュの右手側まで後退して来た。
「あれだけ撃ち込んだのに、もう増援が来てますよ!」
「弱音を吐くな、MTの数機相手に音を上げていてはACパイロットは務まらんぞ」
 しかしながら、その他のACパイロットも、やはり相手が実働部隊、それも複数の機が相手だけあってか、次第次第に押されている感が見え隠れしている。MT部隊の被撃破数も増加していた。
「しかし後から後から敵が来るのは事実のようだ。やはり司令塔の撃破するのが手っ取り早いだろう。だが――」
 愛機のマシンガンが被弾し、発射不能となったが、グローサーは動じることなく言葉を続けた。
「私はあくまでもミラージュの軍人、従って本部の命令を無視して動けない。とは言え、それなりの協力はしてやるつもりだ」
 自らの置かれた状況を淡々と語りながらも、グローサーは最早使い物にならない愛機のマシンガンを投棄する。
「私達は此処で増援を抑える、司令塔は任せたぞ!」
 言葉を続ける間にも、レッドアドミラルはAC輸送車両からバズーカを引き抜くと、部下達が応戦を試みている実働部隊ACに砲口を向け、発砲した。ヴィエルジュが携えるバズーカよりも更に大掛かりなフォルムを有する砲身から、臓腑に響くほどの重い砲声と共に放たれた砲弾は、初弾が実働部隊AC――クレスト中央研究所を襲撃したものと同アセンブリ機の右足を、第2射が左腕を砕いた。
「さあ来い、私が相手になってやる!」
 レッドアドミラルが大型EOを起動。強力なエネルギー弾が地面に崩れた実働部隊ACに突き刺さり、コアの装甲を打ち砕く。間髪居れずにバズーカが三度放たれ、内部機構もろともにコアの装甲を吹き飛ばし、実働部隊ACを動かぬ鉄屑へと変えた。
「行け、レイヴン! 早く!!」
 スタティック・マン、ネージュ、スタリオン、リバイバル、シルバーウルフが相次いでレッドアドミラルに背を向け、敵の司令塔を潰しに向かう中、ヴィエルジュだけはその場に佇んだままだった。
「どうした?」
 一向に進まないヴィエルジュを見たグローサは、ヴィエルジュがバズーカを自分に向けている事に気が付いた。ただし、その砲口はレッドアドミラルの方を向いてなかった。
「預かってて下さい、弾切れになったので」
「……必ず取りに来るように。さあ、君も行け。私はここで己の責務を果たす、君も使命を全うするんだ!」
 グローサーの言葉を受けながら、無用の長物となったバズーカを投棄し、レッドアドミラルの近場に置くと、身軽になったヴィエルジュも彼等の後を追い出した。
 だが、ヴィエルジュは暫くして立ち止まり、自身の後方へと振り返った。
 流線型のヘッドパーツに取り付けられたスリット状のセンサーアイは、恩師が駆るACが、部下を率いて実働部隊と戦う様子を見つめる。先ほどスタリオンが撃破したものと同型の4脚ACが新手として出現していたが、レッドアドミラルは早くもバズーカで左の前足を潰し、部下のAC3機が彼に続き、ライフルを見舞っていた。
 自分に技量を叩き込んだ師はまだ健在、しかも彼には部下もおり、女剣士の瞳には、彼等が簡単にやられる様子はなかった。
 あの場は恩師達に任せておくのが最善だろうと判断し、アストライアーも先行したACの後を追った。バズーカと言うデッドウェイトがなくなった事で、ヴィエルジュの速力は更に上昇していた。いまや、その最高速度は時速430kmに達している。
 そのヴィエルジュと、2機のACがすれ違った。
 一瞬だけ見えた機影だが、アストライアーにはその機影は見慣れたものだった。何せ、1機はカーキ色でアンテナ型の頭部、そしてカラサワ以外の一切の武器を装備していなかったのだ。こんなのを駆るレイヴンは、アストライアーの記憶領域にはテラしかいない。
 もう1機はエメラルドと言うかターコイズグリーンと言うか、そんな色合いのフロートACである。こちらは、ヴァッサーリンゼ操るウォータースプライトだとすぐに分かった。
 その根拠は、汎用頭部MHD-MM/004、軽量コアCCL-01-NER、オーソドックスな中量腕部CAM-11-SOL、現行脚部では最も旋回性能が高いと評判のMLR-MX/QUAILと言うフレームに、エネルギーショットガンMWG-GS/54と投擲銃KWG-HZL50、デュアルミサイルMWM-DM24/1に連動ミサイルMWEM-R/24と言う、以前から全く変わらぬ武装を施していた点にある。
 2機揃って一体どこに行くのだろうと思ったアストライアーだが、行く先から銃声と砲声、爆発音が相次いで響いた事で、すぐに彼等は関心外となった。
 行く先では、先行するACが新たな実働部隊と交戦状態に突入していた。
 しかも、ヴィエルジュの周囲にはまたしても球状メカの群れが迫っていた。
「アストライアーか?」
 自身を呼ぶ声と共に、マシンガンの火線が迸ると共に、球状メカの数機が爆発した。
 爆発と共に、無骨な上半身をしたオレンジ色の中量2脚と、青黒い4脚が姿を現した。以前に共闘した、スマトラとクールヘッドのコンビだとすぐに分かった。
 通信モニターに浮んだブラスの顔が、それを物語っている。
「この間は世話になった。礼をする為にも、これより、グローライトと共にお前を援護する!」
 思ってもない幸運だった。
 スマトラとクールヘッドが互いの得物で球状メカを叩き潰していく間に、アストライアーは先行した同志たちとの合流を果たす事が出来た。
 遅れて、スマトラとクールヘッドもマシンガンで球状メカを撃墜しつつ、味方機の元へとやって来た。新たなACに誰も警戒する様子はなかった。
「味方は一人でも多い方が良い」
 集結した8人全員が、通信モニター越しに互いの顔を見やり、そう頷いた。


 もし、アストライアーが最後までウォータースプライトとスペクトルに視線を向けていたならば、2機がトレーネシティ中心街の外れの住宅街に、荒々しく降り立ったと分かるだろう。
 この区画も他の地域同様、随所で実働部隊とレイヴン、シティガード等との交戦の後が見て取れ、瓦礫と化した建造物が累々と折り重なっていた。住人の焼死体や轢死体も散在していた。
 テラとヴァッサーリンゼは、周辺に実働部隊の反応がない事を確認すると、急いで互いの愛機から降り、半分炎上しているマンションへと突入、大急ぎで階段を駆け上がった。
「あいつ生きてるだろうか?」
「生きてる方に賭けるしかないでしょう!」
 互いをそう呼び合う中、4階の踊り場までやって来た二人は、寝間着姿のまま、うつ伏せで倒れている黒髪の女性を見つけ、即座に起こしにかかった。
「しっかりしろ!」
 上体を起こすと、半分外れかかっていた眼鏡が落ちた。
 だが、眼鏡がなくても、二人は倒れていたのがスキュラだとすぐに分かった。
「あ……貴方達か……」
 スキュラは二人の姿を認め、立ち上がろうとするのだが、その動作は超が付くほど緩慢だった。テラとヴァッサーリンゼには、何とか此処から脱出しようと足掻いているのだと分かったのだが、膝が崩れ、両手から床に倒れてしまう。
「すまない、腹痛と体の鈍りで思うように動けない……」
「カゼ治ってないのに無茶するからだ!」
 しかし、だからと言ってヴァッサーリンゼにはスキュラを見捨てる気などなかった。何せ、後でコーテックスから咎められるのを覚悟の上で、彼女を救出しに来たのだから。
「テラ、手を貸せ」
 ヴァッサーリンゼは左側から、テラは右手側からスキュラを起こし、大急ぎで愛機へと取って返した。自身もウィルス感染する可能性がある事を二人は懸念していたが、人命のかかっている今、そんな事も言っていられない。
「ふらついているぞ……?」
「私より、ご自身の心配をなさった方が良いですよ」
 足取りが重いながらも、テラはスキュラの肩を持ちながらウォータースプライトへ歩んで行く。
 今日一日、スキュラの看病、その最中にエースからの緊急呼び出しに応じてアヴァロンヒルに急行、そこに到着して幾らも立たないうちにアストライアー共々帰還、そしてヴァッサーリンゼ共々トレーネシティでの戦いに借り出されと、一日動き尽くめだった。
 だが、それは自身の気の持ちよう、ネガティヴな事象続きでは精神的にも参って、ありもしない感じを覚えるもの。自身を奮わせることで乗り切るのみだと、テラは己に忍耐を課していた。
「どこへ行く気だ……?」
「とりあえず俺のガレージに連れてく。お前の所と違って地下のガレージだから、襲撃されても簡単には壊滅しないはずだ」
 向かう途中はどちらにスキュラを乗せるべきかでの話し合いが持たれたが、「俺のACの方が速い、その分迅速に逃げられる」と言う事で、ヴァッサーリンゼが自機に乗せると提案。テラもそれに同意し、病んだ体に掛かる負担がいかほどになるのかと言う懸念こそあったが、スキュラの命を最優先にという方針から、止む無くウォータースプライトに乗せる運びとなった。
 狭いコックピットにスキュラを何とか押し込むと、ヴァッサーリンゼは大急ぎでウォータースプライトを発進させた。スペクトルがその後に続く。
 単座のACに二人乗りは無理があるが、この状況下ではそんな事も言っていられなかった。
 トレーネシティを駆ける間、2機を破壊しようと実働部隊ACが追撃して来たが、二人はOBを連発し、ひたすら逃げ続けた。この場合、望みは逃げ続ける事にあり、無理に交戦してスキュラを死なせる心算はなかった。
 相手にするのはスキュラを降ろした後だと留意していた二人は、ACも球状メカも、その他の無人戦闘メカ達も悉く振り切り、ヴァッサーリンゼのガレージへ、飛び込む様に入って行った。
 アストライアーは当然、この事は知らない。
 いや、知らない方が良かったのだ。予てより行方を案じていた旧友の姿を目の当たりにし、そちらに気を取られれば、実働部隊に付け入る隙を与える事になるのだから。


「またヤツが来たぞ!」
 シューメーカーが叫んだ直後、一同の視線が前方へと向く。携行型グレネードキャノンCWC-GNS-15、オービットキャノンMWC-QC/15、レーザーライフルMWG-XCB/75で武装し、嘗てクレストの中央研究所を襲撃した、実働部隊ACとしてはもっとも普遍的なタイプの機体が接近していた。
 新たな敵機の出現に際し、一同はすかさず攻撃を開始した。ミサイルやマシンガン等が一斉に放たれ、次々に実働部隊ACに突き刺さる。これが1機程度の攻撃ならば、強引に突っ切って反撃に転じる事も可能だったが、これだけ多数の火線の前ではそうも行かない。
 実際、実働部隊ACは距離を詰めに掛かったものの、AC8機から一斉に繰り出される圧倒的な手数の前に、あっと言う間に鉄屑に変貌。結局、反撃のグレネードキャノンをスタリオンの左足に着弾させ、装甲を抉るのが精一杯だった。
 そして、続いて現れた同型のACも同じ末路を辿った。その横ではヴィエルジュが接近していた球状メカを叩き割り、クールヘッドの重散弾砲が残る2機を同時に始末していた。
「さすがこの数だけある、見事に敵機は鉄屑だな」
 目前に現れた実働部隊ACが全て鉄クズと化すと、ストリートエネミーが呟いた。一斉攻撃で敵機を葬る様子に、同郷のレイヴンと共に依頼をこなしていた、嘗ての記憶が蘇っていた。
「孤高のアウトローを気取っているつもりだったが、こう言うのも悪くねぇ」
 ストリートエネミーは、そう自画自賛した。
 続いて現れたのは、武器腕レーザーキャノンMAW-DLC/POWERやパルスキャノン、大型ロケットで武装した4脚タイプの実働部隊AC2機だった。以前、エネルギー炉に侵入した実働部隊ACと同型で、今回のトレーネシティ戦にも多数投入されているタイプだった。しかしレイヴンチームは、たいした手間も損失もなく2機を片付けた。
 続いて現れたのは、初めて目の当たりにするタンク型実働部隊ACだった。
 お馴染みのコアと頭部に、丸々としたMAH-RE/GGとMLT-TRIDENTを接続し、グレネードランチャーCWG-GNL-15とプラズマキャノンMWC-IR./20を搭載。選択のバランスを取る為か、腕部はパルスライフルMWG-KP/150と投擲銃KWG-HZL50を手に取り、ターンブースターKEBT-TB-UN5で旋回性能を補っている。
 それが3機、並んで姿を現した。
 だが、数の暴力の前では愚かな挑戦と言わざるを得なかった。まずヴィエルジュとスタリオンがその陣形を突破し、敵を分断。ヴィエルジュを狙う間に、シルバーウルフとスタティック・マンが孤立した1機をブレードで叩き壊し、もう1機はクールヘッドの火炎放射とスタリオンの大型ロケットの前に屈した。残る1機はネージュを狙っていた所、スマトラとリバイバルの同時攻撃を喰らった挙句、ネージュとスタティック・マンに斬られて崩れた。
「いいぜお前等、見事に決まってたぜ」
 ストリートエネミーが親指を上に立てた。
「数が揃うだけでこんなに違うとは……」
 ハードエッジは、ランクが低く貧弱な機体を駆る自分でも、同志達の連携如何で実働部隊ACも倒せると言う事実に驚いていた。
「勝てる! これなら生き残れるぞ!」
 グローライトの声が明るくなった。実働部隊が来た時は、いよいよ今日がオレの命日かと思っていたが、実働部隊を次々に撃破している自分の姿に気が付き、生還を確信したのだ。
「さあ薄気味悪い無人機ども! どこからでもかかっておいで! お兄ちゃん達とあたしとで全部鉄くずにしてあげるから!」
 調子を良くしたミルキーウェイは、通信回線を開いて実働部隊を挑発した。インパルスとブラスは何も言わなかったが、それでも互いに、このまま実働部隊をトレーネシティから追い払えるのではないだろうかと頷きあった。
「油断するな、勝ちを確信した時に足元をすくわれるとも限らない」
 シューメーカーが一喝し、浮き足立つメンバーを抑える。
「気持ちは分かるが落ち着け。アキラさんや直美さんなら、口を酸っぱくしてそう言うだろう」
 私も同意見だと、アストライアーはシューメーカーに頷き返す。
 それでも、見た目こそ市販品だが性能は全く別物である実働部隊ACを相手に、此処までたいした損害も無く戦って来られたと言う自信が、メンバーに楽勝ムードをもたらしていた。
 だが、暫く進み、無残にコアを破壊されたACの残骸が目に入った途端、そのムードは嘘のように消えうせた。
 それも1体だけではない。視認出来る範囲では、20機以上を数えるACが確認されたが、その何れもが、コアに風穴を開けられた――とまでは行かないにしても、無残にコアを破壊された状態で転がされていたのだ。
「一体何にやられたんだ?」
 ブラスが訝った。
「これって……まさかな、とは思いますけど……」
 無残な残骸を一通りあらためた後、インパルスはレイヴン達の顔を見渡し呟いた。彼の目をひときわ引いたのが、コアに風穴を開けられた無残な姿で放置されている中量2脚ACの姿であった。
「何か知ってるの?」
 ミルキーウェイがインパルスの顔を覗き込んだ。
「父が生前、不吉な事を僕に教えた事があります……」
 インパルスは己の記憶を頼りに、自身の可能範囲でその事を語った。
 それは、管理者実働部隊の中でも特に戦闘能力の高い「逸脱者抹殺分子」の事だった。
 インパルスによると、それは世界情勢すら左右しかねず、レイヤードの安定を乱す危険性を孕んだ存在――即ちイレギュラー抹殺の為に派遣される、管理者実働部隊中でもとりわけ能力の高い存在であると言う。
 そのACは如何なるデータベースにも記載されておらず、一切の個人情報が謎に包まれており、遭遇例が出てデータが記録されても、必ずそのデータは人的抹消されているので、搭乗者の姿を含め、不明な点が多いと言う。ただ、たまに目撃証言が出ることから、確固としたものではないが、一応存在はしていると言う事が判っている。
 そして彼等を不気味な存在としている最たる理由として、多くのレイヴンが彼等に葬られて来た事、倒したACのコアに風穴を開けて行く事を、インパルスは挙げた。最も、風穴を開ける際に燃料の詰まった区画も破壊する為、風穴を開けられたACは、燃料がからっけつにでもなっていない限り、爆発炎上して木っ端微塵に破壊されるか、半端に原型が残った無残な姿を曝す羽目になるのだが。
 風穴を開ける場所は決まってACのコックピットブロック周辺で、それ故「遭遇する事は死と同義」とすら言われたほどであり、死神の様な存在として畏怖されている。
「最近、ユニオンの依頼で動いているレイヴンが、アレに殺されているという噂も聞いています」
「……状況は把握した」
 アストライアーは周囲を警戒しながら返した。それが現れるには十分な理由があった事に気がついたのだ。
「さっきアキラと直美を見た」
「二人に会ったのか?」
 即座にシューメーカーが反応した。そうだったな、彼はアキラと直美に随伴していたなと、アストライアーは思い出した。
「見ただけだ。二人とも、市街地を突っ切って、そのままどこかに行ってしまった……多分、イレギュラー排除因子が出て来たのもその為だろう」
「そうか」
 シューメーカーはそれ以上は言わなかったが、その顔が安堵していたように見えたのは気のせいだろうかと、アストライアーは感じた。
「そんなロクでもない奴が居るんだったら、後で3倍ぐらい報酬を水増しで請求しとくか?」
「お兄ちゃん……こんな状況でよくそんな事が言えるね!?」
「それぐらい金懸けてもいいんじゃねえの? 相手が死神なんだしよ」
 ストリートエネミーはあくまでも金に拘るスタンスと、楽観的姿勢を崩してはいなかった。
 だが、その考えは唐突なマシンガン銃撃で中断させられた。
 同時に、リアルタイムで更新されるマップ上におけるマシンガン銃撃の出所には、攻撃目標を示すマーカーが表示されていた。
「TARGET表示……司令塔だな!!」
 目標指定された存在は、上空をフワフワと飛びながら、マシンガンをスタティック・マンへと見舞って来た。機体を左右に振って回避を試みるが、EOも交えての弾幕にはさしたる効果はなく、コアや腕部を穴だらけにされ、CHD-SKYEYEのバイザーも破壊される。弾丸はモノアイにも命中し、メインモニターは唐突に砂嵐となった。
 すぐさまメインモニターの接続先をコアのセンサーへと切り替えると、司令機はなおも自分に銃撃を繰り返している事をストリートエネミーは悟った。各部コンディションを示すランプがダメージ累積を示す黄色やオレンジ色を示しており、「緊急事態」「損害甚大」を示す赤い光に切り替わるのも時間の問題だ。
「お兄ちゃんになんて事をするの!!」
 ネージュの肩から合計6発のミサイルが放たれた。自身が狙われている事を察してか、司令機はマシンガンを、今度はネージュへと見舞って来た。幸い、軽量ACであるネージュはその弾幕を軽やかに回避。一方ネージュの放ったミサイルは途中で誘導が狂い、周囲のビルや住宅に向けて迷走。
「レーダーから消えた!?」
「何処に行ったんだ?」
 シューメーカーとインパルスが相次いで声を張り上げた。他のレイヴン達も搭乗機のレーダー・コンソールに目をやるが、司令機の反応は消えていた。
 マシンガンの弾幕も消失していたが、しかし奇襲を恐れた一同は、ACの頭部パーツを一斉に左右に振り、旋回し、一様にして周囲を警戒し始めた。当然、ファイアーボタンに指をかけ、いつでも発砲出来る状態にしたうえで。
 しかしこの時、司令機は一同の頭上へと逃れていた。一部がライトグレーに塗装されていたものの、漆黒の体躯は夜空に見事に溶け込んでおり、更に上腕部に装備されたステルスユニットを起動させてレーダーを電子的に妨害していた為、容易には発見出来なかったのだ。
 海洋生物を髣髴とさせる曲線的なコアに接続された、シルクハットとも、ドラム缶とも取れる円柱形の頭部に取り付けられた赤い瞳が、怪しく明滅を繰り返しながら、ACを見つめている。
 そのまま“彼女”は、ACの視界から逃れ、近場の倒壊しかかったマンションの影へ音も無く降り立つと、身を潜め、再び様子を伺った。
 すぐさま戦力分析がなされる。目前の8機のACの所属、アセンブリ等が、超速度で表示されて流れていく。人間の目には一瞬で点滅するデータの奔流にしか見えないが、数百分の1秒で物事を認識し処理する“彼女”の頭脳なら、そのデータを完全に読み取る事が出来る。
 そうしてデータを解析し、インターフェイスも加味しての総合戦闘能力はいずれもDからCマイナスという評価であった。要するに「大した脅威にはならない」ということである。
 そのうちの1機――クールヘッドが、何も知らずに彼女へと背を向けていた。
 時間にして数秒後、静が動へと一瞬にして切り替わった。現行機種の中ではずば抜けた速力を有するフロート脚部から繰り出される恐るべき機動性でクールヘッドへと詰め寄り、背後から死の一撃を加えるべく動き出したのだ。
 だが、更に早いタイミングで動いていたものが居た。
「させるか!」
 ヴィエルジュだった。
 ちょうどクールヘッドの左後方に位置していた彼女は、偶然にもマンションの影でターゲットが蠢くのを確認した搭乗者に従い、戦友を斬らせんと、振りかざされる斬撃を自らの剣でブロックした。収束された光の刃が重なり合い、力場同士の反発で蒼いスパークが走る。
 驚いたクールヘッドはすぐさま愛機を前進させつつ旋回、同志のACと組み合うターゲットへと、マシンガンと火炎放射器を浴びせかかった。
 司令機は一瞬のうちに離脱したが、アストライアーの鋭敏な視覚は、そいつの左肩にペイントされた、王冠を頂く異形の天使が描かれたエンブレムを見て取った。
「間違いない! あのエンブレムは僕も見たことがある!」
 インパルスが声を荒げた。彼にも、同じエンブレムが見えていたようである。
「逸脱者排除分子だ!」
「こいつが……」
 実働部隊の司令機が逸脱者排除分子――その事実に、全員は己の表情が凍りつき、背筋が冷たくなるのを感じていた。恐怖と驚愕は、喉に張り付いたまま出てこない。
 だが、ストリートエネミーだけは別だった。
「この死神を仕留めりゃ大金だぜ!!」
 浅ましい事に、彼は追加報酬を期待して追放者逸脱分子に喧嘩を吹っかけたのだった。
 スタティック・マンに続き、シルバーウルフ、リバイバルが逸脱者排除分子へと得物を向け、発砲する。だが彼女それを悉く回避してのけると共に、リバイバルへ銃撃しながら上空へと舞い上がった。上腕部ステルスユニットの発動も同時に行ったが、一同がそれに気付いたのは上空へと舞い上がった後だった。
 逃がすまいと、すぐさま各々のACは、得物を黒い機体に向けた。
 だが、集中攻撃は許されなかった。
「オイ、見ろ! 俺等の周囲敵だらけだぞ!!」
 愛機を中破状態にまで追いやられたハードエッジが、悲鳴にも似た声で注意喚起した。
 司令塔を守ろうと、少数の実働部隊ACと多数の球状メカが、レイヴン達の周囲に姿を現していた。恐らく戦闘中に召集を促す指令を送ったのだろう、プログラムされた命令に従って緊急呼び出しに応じた連中が次々にやって来たのだ。
「ザコは任せろ!」
 スマトラは進み出ると、マシンガンを球状メカの軍団へと連射し出した。外殻がまだ開かれていなかったものの、弾丸を浴びせられた球状メカの軍団はスマトラへと一斉に狙いを向けた。即座に外郭を展開し、レーザーによる一斉攻撃を開始しようとする。
 シルバーウルフとリバイバル、クールヘッドがマシンガンを撃ち、スマトラもそれに続いて撃破スコアを上積みして行く。
 シューメーカー、グローライト、ハードエッジ、ブラスが球状メカや新手のACを押さえている間に、残りの4機は司令機兼逸脱者排除分子へと総力戦を仕掛ける。ミサイルの硝煙が過ぎり、ライフルやハンドガン、マシンガンの火線が過ぎり、命中弾とならなかった攻撃が次々に周囲の建造物を破砕する。しかし有人機から放たれた何れの攻撃も、彼女を傷つけるには至らない。
 逸脱者排除分子は流れるような動きでレイヴン達の攻撃を避けつつも、マシンガンを連射しかかる。時折、EOから放たれたエネルギー弾の雨霰がそれに加わる事もあった。それを、敵ACへと接近しながら放ち、突然攻撃を停止して全速力で離脱するというヒットアンドアウェイ戦法で繰り出してくる。
 遠距離へと逃げていく逸脱者排除分子に攻撃を当てるのは、機動性の差や装備武器を考えれば早々無理な話だが、しかしネージュもスタティック・マンもスタリオンも、各々のミサイルを逸脱者排除分子に見舞う。
 だが、彼女は回避においても優秀だった。ただブーストを吹かし、アメンボが水面を素早く走るようにしてダッシュしているだけで、ミサイルを振り切れる速力を有しているが、更にジグザグに前進しながらミサイルの軌道の内側に入ったのである。
 追尾性能に優れたミサイルだが、そんな相手を追撃するという器用なマネは出来ない。そのまま前進し、4機のACの只中に突入してはマシンガンを撃ちかかる。こうなってはミサイルは役に立たず、他の武器への切り替えの合間にマシンガンで削られるだけだ。
 ヴィエルジュはブレードを振りかざすが、司令機は彼女の剣戟を同型のブレードを弾くとそのまま急速離脱していく為、斬りかかる隙すら殆どなかった。スタリオンは追撃を試みるも、重量2脚とフロートと言う脚部から来る機動性の差があっては、無駄な事だった。
「何なのアイツ!? 全然当らないよ!」
 ミサイルを悉く回避されたミルキーウェイが、驚愕と憤懣と絶望とが入り混じった複雑な嘆きを発する。
「私達を弄んでいる様だな……」
 アストライアーは呟き返しながらも、当るはずの無いブレード光波で司令機を牽制する。
「また来る!」
「畜生、冗談じゃねぇぞ!」
 インパルスの叫びに呼応したかのように、逸脱者排除分子は再び接近を開始する。コアからEOが切り離され、先頭に居るヴィエルジュへとエネルギー弾を連射する。蒼い装甲を焼かれたヴィエルジュはブレード光波による牽制を中止、敵が迫る中、距離を離そうとOBで右へと飛ぶ。
 逸脱者排除分子は分断孤立したヴィエルジュを狙って速力を早めた。その直後、マシンガンの火線が幾度も彼女の背後から飛来し、コア後方の装甲を破壊、更に弾幕がEOにも叩きつけられた。
 EOは火を噴いて機能停止すると、本体からの操作に応じ、逃げるようにしてコアに戻された。同時に、彼女も攻撃を中止し離脱していく。
「外堀は埋まったな!」
 その声と共に、先程まで司令機が支配していた場所に、似たようなカラーリングのフロートACが飛び出した。ハードエッジ駆るリバイバルの姿だった。
「同じフロートならどうだ!?」
 この場に居並ぶ2脚ACとは違い、重量が重いとは言えフロート脚部、過積載を施していなければ速力は出せる。リバイバルは速力任せに禍々しい敵ACを追撃し、更にマシンガンを撃ちかかる。相手はステルスユニットを起動し、レーダーとロックオンを封じていたが関係なかった。
 相手の武器の一つを封じた勢いで、狙いの付かない相手を更に追撃しようとするリバイバルだが、その後方に、レーザーライフルを構える軽量級2脚タイプの実働部隊ACが飛び出してきた。フレーム自体は、これまでにも散見されたMHD-MM/003、MCM-MX/002、CAL-44-EAS、MLL-MX/EDGEというセッティングだったが、追加弾倉とオービットキャノンが外され、代わりにチェインガンが搭載されていた。
 レーダー上の赤い点に反応し、咄嗟にマシンガンの銃口を向けた刹那、リバイバルにチェインガンが撃ち込まれ、既に半壊状態だったフロートユニットに止めを刺し、更にコアの内部機構を焼いた。シルバーウルフがそれに気付き、迎撃しようとした時には、既に手遅れだった。
「ちっくしょう、ついてねぇ……」
 ジェネレーターが損傷したリバイバルは、この一撃で戦闘不能となった。一切のエネルギー供給が断たれ、コックピットは四方を装甲と機械に囲まれた暗闇へと変貌した。冗談じゃない、こんな所で死ぬのかと、ハードエッジはコックピットハッチをこじ開けようと試みた。
 ただし彼にとっては有難い事に、実働部隊ACと、新たに現れた球状メカは動かなくなったリバイバルを無視し、新たなる獲物であるシルバーウルフへと目標を切り替えていた。無論、当人はその様子を知らないし、知っていたとしても、この敵の群れの只中では、そんな事は慰めにもならないが。
 黄泉道を辛うじて免れたハードエッジをよそに、リバイバルを戦闘不能に追いやった実働部隊ACはチェインガンを乱射しながらシルバーウルフへと突進。
 しかしシルバーウルフはセレクターをロケットに切り替えると、連続で砲弾を叩き込んだ。頭部、両腕が相次いで吹き飛ばされ、コア前面も抉られる。機関部を損傷したACは、見る見るうちにその速力を低下させていく。ショックでAIが狂ったのか、チェインガンの狙いもおぼつかない。
 そしてシルバーウルフは最後に、弾切れとなったチェインガンをカラ連射する敵ACに向けてブースト突進すると、ムーンライトを一閃、コアを横一文字に薙ぎ払った。上半身を失った実働部隊ACの下半身はよろめきながらも暫く進んだ後、地面に倒れこんだ。
 加勢してきた球状メカ達も、装甲開放の瞬間をマシンガンで狙い撃たれ、次々に爆発炎上する。
「くそっ、またも新手が!」
 ブラスが言うより早く、新たな実働部隊ACがネージュとスタティック・マンの前方へと降り立った。マシンガンCWG-MG-500と支給されたACも装備している安価なブレード、円柱形のフォルムを持つミラージュ製小型ミサイルポッドMWM-S42/6で武装した、先と同じフレームの軽量級2脚タイプである。その華奢な機体が視界に現れるや否や、マシンガンとEOによる同時射撃が繰り出される。
 すかさずスタティック・マンは中型ミサイルでの攻撃を仕掛けるが、実働部隊ACは上空に逃れて中型ミサイルを回避した。だが、ネージュが放った小型ミサイルは実働部隊ACに殺到し、コアを穿った。
 この時点でレイヴン達は、新たに現れた球状メカや実働部隊ACの対処に追われ、最早逸脱者排除分子に気を配れるだけの余裕などなかった。
 そうした中で彼女は、まずは目前のヴィエルジュに風穴を開けてやろうと狙いを定める。レーザーブレードを構えながら、急激に間合いを詰め出した。それも先程までの浮遊とは違い、地に降り立っての高速ダッシュを仕掛けたのである。だが、それに気を配れるレイヴンは皆無だった。
 故に、逸脱者排除分子から一切の銃撃が放たれていない事に、彼等は気が付かなかった。
 既にマシンガンは弾切れとなっており、更にEOもリバイバルのマシンガンで破壊されていた為、いまやブレードしか使用出来る武器はなかった。しかし現行機種中最高出力を誇るブースターを内蔵したフロート脚部の機動性を以ってすれば、敵の攻撃から逃れる事は容易であるし、中量2脚程度の相手に追いつき、斬殺する等は雑作もない事だ。当然被弾する危険性を冒すわけだが、彼女は攻撃後の迅速な離脱で被弾率はカバー出来ると見たのか、狂気じみた速度で突撃してくる。
 最も彼は気付いていなかったかも知れないが、ヴィエルジュから射撃武器による反撃の可能性はなかった。バズーカは既に弾切れし、既に牽制用のミサイルポッドを乱戦の最中に失っている。ブレードから放つ光波ならばまだ使用可能だが、司令機は全速力で一挙に肉薄し、地上でしか使用出来ないそれを使わせる猶予など与えなかった。
 異様なフォルムに黒い体躯、そして赤い瞳。悪魔的なイメージが強く、それで居て敵ACのコアに風穴を開ける行為で恐れられているこの禍々しいACが一瞬で相手に肉薄し、切り刻み、粉砕する光景は、敵対者にとって十分な畏怖と成すだろう。
 しかしアストライアーは逃げる事はない。レーザーブレードを構え、この神速の死神を迎え撃つ。
 アストライアーにとっても、突進するこのACの姿には悪意すら感じている。ある意味、嘗ての自分に近いものがあった。理由としては「目標達成の障害となるものは容赦なく殺す」と言った戦闘機械的な行動と、軽量級EOを除いた武器がマシンガンとブレードしかない逸脱者排除分子のアセンブリが、ヴィエルジュに通じる部分があったからだ。
 だが、彼女にはそれに同情する気も、勿論死ぬ気も毛頭なかった。このまま奴を放置しておけば、奴等は間違いなく自分達の街を襲うだろう。そしてそこでは、自分を母と慕う天涯孤独の少女――エレノア=フェルスが、女剣士の帰りを待ち続けている。
 既にこの世の者ではなくなった暴君への憎しみが原動力だった事は否定しないが、しかし彼女がいたからこそ、此処までアストライアーは戦い抜いて来られたのも確かだった。そしてエレノアも、アストライアーの為に、時に笑い、時に励ましてくれる。そんな彼女の笑顔が街諸共破壊される喪失感が、耐え難い苦痛と悲しみとなって襲って来るのは想像出来る。
 あの少女は、絶対に私が守らねばならない、だから奴を生かしては返せない。全てはエレノアが笑顔で居られるために――その想いがアストライアーを突き動かしていた。
 マシンガンで満身創痍となったヴィエルジュに止めを刺すべく、逸脱者排除分子が高速で接近。コアに風穴を開けようと、月光とは名ばかりの血塗られた刃を振りかざす。
 だが、ヴィエルジュの斬撃の方が一瞬早かった。
 レーザーブレードはコアに届き、曲線的フォルムを有する装甲を切り裂き、内部機構にまでダメージを負わせた。すかさず司令機もムーンライトを振るい、光波と刀身を同時に叩きつけようとするが、すぐさま右手側にジャンプして回避していたヴィエルジュを斬りつけるまでには至らない。
 更に、ヴィエルジュはもう一撃を加えようと肉薄した。ブレードがまだ戻らないイレギュラー排除因子は即座に離脱、剣戟から逃れる。
 彼女はすぐに、現在の破損状況とヴィエルジュの動きを即座に分析しにかかる。データの奔流の後、解析は完了した。
<レイヤード第3アリーナ所属機 ヴィエルジュ 登場者名:アストライアー>
<総合戦闘評価――Aマイナス>
 強化人間であり、機体に神経やケーブルを接続しての直接操作、その反応速度、機体そのものの機動性を顧みると、この場の有人機の中では最も戦闘評価は高い。イレギュラーではないにしても、この状況下においては脅威となる存在であった。
 当然抹消するべき存在ではあるが、現在の状況を顧みるとどうか。彼女は分析を終え、再度繰り出されたヴィエルジュの剣戟から逃れるや、即座に自己診断にかかった。
 AC本体の診断はすぐに終了した。コア前面装甲欠損を知らせる文字列に続き、戦闘領域のコンディションが表示される。
<MWG-MG/1000:残弾なし>
<EXCEED ORBIT:損傷 使用不能>
<戦闘回路:一部欠損 戦闘行動に軽度支障の可能性>
<総合勝率評価:52.539%>
 剣戟のみで戦う事となるが、勝算がないわけではない。周辺の同胞達に命令を下し、即座に排除にかかるべきだったが、そこまで判断し、彼女はその意向を撤回した。
 周辺の無人ACは、既に有人AC破壊されるか、戦闘不能にされているものが殆どであり、しかも球状機体D-C019-Sは、向かってくるたびに破壊されている。
 かくなる上は、自力破壊より他ない。
 全ての分析が終わると、逸脱者排除分子はすぐに反撃に転じた。ブレードを振るい、接近するヴィエルジュを迎え撃ったのだが、剣戟も光波も当らなかった。
 しかも、その光波は付近でストリートエネミー・ミルキーウェイ組と交戦していた、味方であるはずの実働部隊ACに直撃、右腕のマシンガンを吹き飛ばした。
「武器が無くなれば勝負ありだな!」
 すかさず、ストリートエネミーとミルキーウェイはミサイルで反撃。放たれたミサイルは小型ミサイルが3発、中型ミサイルが2発。しかし、既に損害が大きくなった軽量級2脚型の実働部隊ACに止めを刺すには十分な火力だった。
 回避行動に移る敵ACだが、回避行動をとろうとした際にビルに引っかかり、身動きが出来なくなった所にミサイルが直撃、抗い様も無く大破した。
「これでも食らえ化け物!」
 ミサイルを叩き込まれたACが泥人形の如く崩れるのと同時に、スタリオンも、逸脱者排除分子に大型ロケットを発射した。
 だが着弾寸前、逸脱者排除分子は右にダッシュ、着弾する筈だった大型ロケットは高層ビルに直撃した。ビルは倒壊し、周囲に激しい土煙を舞い上がらせた。ただし破片にぶつけられた逸脱者排除分子のムーンライトからは火花が散り出し、生成される蒼白い刃は元の長さの三分の一もなかった。瓦礫で損傷した様子が窺えた。
 彼女はすぐさま状況分析に入る。
<MLB-MOONLIGHT:損傷 機能低下>
<MLR-MM/PETAL:反重力ユニット損傷>
<センサー稼働率:50.349%>
<総合勝率評価:28.254%>
 これ以上戦えば破壊される可能性も有り得る――彼女はそう判断するや、イレギュラー抹殺に派遣された6機の姉妹達を呼んだ。彼女達が使命を全うしていれば、それ以上の事はない。
 しかし、返答はなかった。再度打診、しかし返答なし。3秒それを繰り返したが、遂に返答どころか、反応すら無かった。
 管理者のネットワークに強制接続し、姉妹達の状況報告を要求する。しかし、帰って来たのは6機全ての反応が途絶えた事のみだった。
 そこから導き出される結論はただ一つ――姉妹達は任務を達成する事無く破壊されたことだ。
 イレギュラー抹殺の為の陽動作戦を行ってきた彼女だが、最早、戦う理由はなった。ならば、残された貴重な戦力を、無駄に消費する事を避けるべきであった。
 逸脱者排除分子の命令に応じ、残っていた実働部隊ACは上腕部からECM発生装置を放出し、レイヴン達のレーダーを封じる。自分達を察知出来なくなっただろうと判断すると、この隙に逸脱者排除分子は、残った実働部隊ACやMT達と共に土煙の向こうへと逃亡した。
 司令機を取り逃がした事を理解したインパルスは、舌打ちした後、唇を噛んだ。
 ストリートエネミーもまた、コックピット内で罵詈雑言を吐き散らしている。多額の褒賞金を背負い込んでいる相手を仕留められなかった事に対しての文句である事は明らかだった。
15/02/21 16:11更新 / ラインガイスト
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■作者メッセージ
 本作は元ネタも何もなく、ただ「AC3ベースなんだから管理者実働部隊との戦いも書かねばならないでしょう」と言う、なんとも安直な所から書き始めた作品だったりします。
 ただ、プロットを立てる段階で、
「原作中は4機しか登場しなかった実働部隊ACだが、実際はあの程度の数ではなかったはずだ」
「原作劇中でプレイヤーが戦ったのとは別に、他のレイヴン達も(たぶんプレイヤーが見た数以上の)実働部隊ACを相手にしていたはずだ」
 など考え、次第に規模が飛躍してしまい、後は最早語るまいな結果に。

 アセンブリについては、原作で戦う事になる4種類のほかに、本作オリジナルのアセンブリを施した機体や、原作出現機の武器パーツだけ変えたものを登場させています。
 その辺は、一応、原作で1度以上エンディングに到達出来たACパイロットの皆様方なら分かるように書きました。
 もちろん、MHD-MM/003とMCM-MX/002はどの機体も共通で(笑)。

■アス姐、史上最大規模の戦い
 それだけ肥大化した実働部隊を相手取るとなると、アス姐+レギュラー勢だけでは最早対処不能となりました。そんな事したらアス姐が心機一転なこの戦いで早くも戦没、と言う笑えない事態になります(爆)。
 ですが誰を当たらせるかと言う段になると、トラファルガーが負傷しているのでダメ、スキュラは風邪、テラとヴァッサーリンゼは彼女の救出の為にどうしても戦列に加えられないと言う問題があり、かと言ってエースを戦列に立たせると、エースが出しゃばり過ぎそうで、いろいろ弊害が出そうなので却下。
 心機一転なアス姐が戦うんだから、「若く、人間味のある奴を入れるべきだ」と言う事で、お馴染のバカップルランカー(爆)にインパルスとハードエッジ、本来なら敵である筈のシューメーカーを加えた、第24話のインスタントACチームの拡張版みたいな感じに落ち着きました。

 それをまとめる為に1年近く構想に費やしましたが、その甲斐あってか執筆そのものは1ヶ月そこいらで完了と、割とスムーズに行きました。

■アストライアー、史上最長の戦い
 登場人物の増大にともない、文章量もとてつもない事になりました。
 元々AC3LBは工房における他の小説よりも1話あたりの字数が長め(これは誇るべきなのか、恥じるべきなのか……)で、2万オーバーはザラ、長いのとなると3万オーバーもありました。
 しかし今回はそれを遥かに凌ぐものに……。

 何せ、今回は序章と本章、後劇とを合わせた文字数が4万オーバー、テキストファイルサイズ86KB超と言う、AC3LBでは類を見ない作品となってしまいました。
 AC3LBは分量よりはキャラの行動ありきな所はあって、ついつい文字数を無視しがちになるのですが、これは流石にやり過ぎましたね(爆)。
 我ながら、ここまでよく書き連ねたもんだ……。

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まろやか投稿小説 Ver1.50