連載小説
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やってきた男
私がコーヒーを飲み終わる頃、後ろから可愛い声がしました。

「フェアレ、ここにいた!」

私の後ろでにっこり笑っていたのは、今年5歳になる男の子、リン=ヘルベッサー。
リンの両親は、私もお世話になったクレスト社員でしたが、大破壊のときに行方不明になってしまいました。リンはしばらくクレスト社の施設に保護されていましたが、クレスト社の衰退と共に施設は立ち行かなくなり、引き取り手を募集ところを私が見つけたのです。リンの両親には返しきれないほどの恩がありましたので、無視することなどとても出来ませんでした。引き取ったときは1歳。一番手がかかるときは過ぎていたものの、育児の経験などない私にとっては苦難の連続でした。リンを背負って、廃墟の町を彷徨ったのもつい昨日のようです。

「リン、勝手に出てきたらだめよ。どうしたの?」

「うん。おなかすいた!」

「はっはっは。」

可愛いお客さんに、喫茶店のマスターの顔もほころびます。

「あらあら…。マスター。この子に何か作ってくれる?」

「いいとも。坊主、なにがいい?」

「アイスクリーム!」

「よしよし、まかせとけ。」

マスターの差し出した、白くて丸いアイスクリームに、リンは大喜びです。

「わー。いただきまーす。」

「リン、お行儀よくしてね。」

アイスをぱくつきながら、リンは気になることを言い出しました。

「あのね、怖ーい顔のおじさんが、フェアレを探してたの。」

「誰?」

「うん。左目が、虫眼鏡なの。でね、髪の色が半分フェアレとおんなじで、もう半分黒くって…」

要領を得ない説明ですが、私には思い当たる人がいました。
きっと、私の顔色は変わっていたに違いありません。

「リン、その人はどこにいたの?」

私がそう言った時、不意に、後ろに人の気配がしました。

「…あっ、今、フェアレの後ろに来てるよ。」

「えっ…。」

私が振り向くと、そこには、忘れもしない、あの男が立っていました。
チューマー=マリグナント。
私が4年間探し続けた恩人にして、最大のライバル。
クレスト社専属の強化人間で、極めて高い戦闘力を持ち、社内外から恐れられた男。
あの大破壊の日、行方不明となり、私と同じく死亡扱いとされていた人。

「…フェアレ。生きていたか。」

4年前と変わらない、枯れ木の風穴のような声。
私は足が震えました。

「ええ。チューマー。久しぶり。探したんですよ?」

「探したか。それは光栄だな。」

チューマーは、一つ席を空けて私の横に座ります。
リンは、きょとんと私とチューマーを見比べています。

「またあえて嬉しいです。チューマー、今まであなたはどうしていたのですか?」

「聞きたいか。だが、その前に、水を一杯もらおうか。」

マスターがチューマーに水を渡すと、彼はそれを一気に飲み干しました。

「そこの小僧は?」

チューマーに指差されて、リンはさっと私の影に隠れます。

「ええ。リンちゃん。ほら、アーテリー中佐とヴェーナさんの息子さん。」

「ああ、そうか。面影があるな。…それで彼らは?」

「大破壊から行方不明。」

「…そうか。で、今は貴様が母親代わりというわけか。」

「まあ、そういうことね。チューマー、あなたの番よ。あなたはどうしていたの?」

「…俺の話は長いぞ?」

そして、チューマーは語り始めました。
大破壊のときのこと、その後のこと。
その内容は、突飛で、やや信じがたいものでした。
10/02/28 08:28更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50