連載小説
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大破壊
あの大破壊から、4年の年月が過ぎました。
謎の特攻兵器による世界の崩壊、そして”レイヴン”と呼ばれた傭兵たちと、生き残った企業による最後の戦い。世界は疲弊の極みにありました。


特攻兵器の襲来の日、クレスト社で新兵器のテストパイロットとして働いていた私は、本社ビルの13階にいました。突然空が暗くなったと思った直後、ビルは倒壊し、私は一時、瓦礫の下に生き埋めとなりました。しかし、私の体は薬剤による強化を受けていましたので、何とか自力で這い出すことができました。
私の見たものは、見渡す限りの瓦礫の山。
あの美しかった世界は、理不尽に破壊されてしまいました。
怪我をした私は、幸いにも民間の医療施設に収容されました。リハビリも進んだある日、風の噂で、私がクレスト社で死亡扱いになっていることを知りました。私のお世話になった大切な人たちも、どうなったのか、生死も不明です。たくさんの人が死に、世界はさながら地獄絵図のようでした。
その半年後、僅かに生き残ったレイヴンたちと企業による最後の戦いがありました。長かった企業による統治は終わり、レイヴンたちも遂にその姿を消しました。混沌の時代を経て、今、ようやく人々は立ち直りつつあります。微力ながら市民は自治を獲得し、平和への一歩を踏み出そうとしていました。
病院を退院した後、私は医療ボランティアの一員として働きながら、いなくなってしまった私の大切な人たちを必死に探しました。民間看護師でレイヴンのコロンさん、ACの一対一では誰にも負けなかったフォーラさん、命の恩人のリンダさんとチューマーさん。可愛がってくれた、ノルバスクのおじさん。でも、リンダさんとノルバスクおじさんの乗っていた巡洋艦が大破壊の日に沈んでしまったということ以外は、何も知ることはできませんでした。
大切な人たちだったのに、思い出すと私の胸は張り裂けそうになります。でも、いつか必ず会えると信じて、私は毎日毎日を一生懸命生きています。

そして、その日は突然にやってきました。
それは、ある晴れた日曜日。
私は馴染みの喫茶店にいました。
喫茶店と言っても、屋根があるだけマシといったプレハブ小屋です。
マスターは気さくなおじさん。元レイヴンだった方ですが、大破壊でACを失い、ここで喫茶店を営んでいます。

「マスター。モカブラック、一つくださいな。」

「おや、フェアレちゃん。今日もご機嫌だね。ちょっと待っておくれよ。」

口ひげをもごもごと動かしながら、マスターは後ろを向いてカップの用意をしています。
空はどこまでも青く、白い雲がすじを描いて流れています。
建設中の家々やビルが、日の光を受けて輝いています。

「はい、おまちどう。」

マスターの出したコーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込むと、幸せも胸いっぱいに広がります。

「フェアレちゃん、お友達はまだ見つからないのかい?」

「うん。でも、きっと生きてます。私、あきらめません。」

「はっは。その調子だ。私も何か聞いたらすぐに教えるよ。」

「ありがとう、マスター。」

私は暗くなりがちな気持ちを立て直し、コーヒーを口に運びました。
みんな、必ずどこかで生きていると、そう信じて。
10/02/28 08:27更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50