連載小説
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死闘
「あの日、俺は重巡洋艦”ジュピター”のカタパルトデッキにいた。雲は低く垂れ込め、昼だというのに薄暗い、嫌な天気だったのを覚えている。艦艇は、ミクリッツシティーの沖合いに接近していた。
『クレスト管轄のミクリッツシティーに入り込んだミラージュの部隊を殲滅し、外敵より市街を防衛する』というのが作戦内容だった。作戦指令はノルバスク中将。俺以外の戦力として、リンダのAC"ジャンネッタ”、アルサーのAC”ヴィオラ”、そしてジャックのAC”ドゥルカマーラ”があった。さらに、”ジュピター”の僚艦として、軽巡洋艦の”イオ”と”エンケラドス”がつき、それらの艦にもかなりの規模の部隊が搭乗していた。
1個大隊に匹敵する凄まじい戦力だが、この際、ミラージュを徹底的に叩いてしまうつもりだったのだろう。
俺は本来、新型兵器”ダークネススカイ”で出る予定だったのだが、AIの調子が悪かったらしく、予定を変更し、愛機のAC”メタスターシス”で出ることになった。まあ、今から考えれば、このせいで命拾いしたわけだがな。

出撃準備を終え、AC”メタスターシス”のコクピットに収まった俺は、妙な胸騒ぎを覚えた。これは体験したこともない嫌な感覚だった。全身の血が足に下がり、頭は総毛立ち、口はからからに渇いていった。

『何かが起こる。』

俺の第六感が、全力でそう告げていた。
AC”ジャンネッタ”のリンダも何かを感じたらしく、発進直前の足を止めた。

”なにをしている、ACジャンネッタ、発進せよ。”

艦橋のロドムから通信が入る。
AC”ジャンネッタ”は、一瞬ためらうように足を引きずった後に、カタパルトから発進した。アルサーのAC”ヴィオラ”もそれに続いた。一足先に発進したジャックのAC"ドゥルカマーラ”は既に上陸を果たしたようだ。
俺も愛機を発進させようとした、その時だった。艦橋から緊急通信が入った。

”作戦中止!全機帰艦せよ!発進中の者は停止、その場で待機だ!”

薄暗い雲の彼方から、戦闘機ほどの大きさの何かが、信じられぬほどの大群をもってこちらに押し寄せてくるのが見えた。それを見た俺は、かつてないほどの恐怖に包まれた。
フェアレ、お前も体験しただろう、アレがやってきたのだ。
前世紀、世界の終わりを告げる予言者がいたが、まさにその終わりを予感させる何かが、そこにはあった。

”全機、緊急発進!全火砲開け!上空の未確認兵器を撃退せよ!!”

ロドムの金切り声が飛ぶ。
2度にわたる作戦の変更に、カタパルトは大混乱となった。
見よ、奴らは、もう目前に迫っている。
各艦に搭載された無数の砲塔が、次々に火線を引いた。
俺も、愛機”メタスターシス”を艦外へ発進させた。
飛来した”奴ら”は、群れをなして直線的にこちらへ向かってくる。こちらの攻撃を回避しようとはしないため迎撃は容易だったが、何しろ数が多すぎた。いや、多すぎるなんてもんじゃない。大空を埋め尽くすほどの、絶望的な数だ。誰が、何の目的で差し向けたものか全くわからない。上空いっぱいに群がった”奴ら”は、体当たりによる自爆攻撃を仕掛けてきたのだ。
まず、僚艦の”イオ”が襲われた。
全力をもっての迎撃もむなしく、”イオ”はその全身に”奴ら”の体当たりを受け、艦体を真っ二つに轟沈した。
並走する”エンケラドス”から展開した戦闘機部隊はなすすべなく、”奴ら”の体当たり攻撃の前に消えていった。
俺はAC”メタスターシス”を”ジュピター”の後部甲板上に着地させ、”奴ら”にありったけの銃弾をぶち込んだ。
しかし、きりがない。予備弾倉をいくら取り替えても、”奴ら”は無限に押し寄せてくる。前部甲板にいるAC”ジャンネッタ”とAC”ヴィオラ”も同様のようだ。開きっぱなしの通信回路から、リンダの涙交じりの悲鳴が聞こえてくるが、構っている余裕などありはしない。
僚艦”エンケラドス”が、遂にその限界を超えた。弾幕を抜けた無数の”奴ら”が雪崩を打って命中し、大音響と共に左舷が吹っ飛んだ。舞い上がった破片は”ジュピター”にまで到達し、俺の機体を打ちつけた。艦中央の弾薬庫をやられたのか、”エンケラドス”はその甲板上に展開したACとMT数機を巻き込み、断末魔の悲鳴を上げた。あっというまだった。”エンケラドス”は艦尾を高々と上げ、吸い込まれるように海面に没した。沈没により発生した大渦は、海面に残された哀れな兵たちを飲み込んでいった…。」
10/02/28 08:28更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50