対面
クレスト第二大隊旗艦「ジュピター」内ビュッフェ、「エヌセード」。
カウンターのリンダ君の表情は、冴えなかった。
あの後、”イエロードック”のパイロット、フェアレ=フィーと対面した。歳はわずかに13歳の少女であった。強化人間であるためか、はたまた運が良かったのか、フェアレ君はかすり傷と軽い打ち身程度の傷であった。同行を求めた所、あっけないほど簡単に受け入れられ、リンダ君はフェアレ君を旗艦に連れ帰った。そして、つかの間の休息のため、艦内ビュッフェに戻ってきたのである。
そこへ、赤いモヒカン頭をふらふらさせながらやってきたのは、アルサー=ロキ君だ。
「リンダのアネゴ、作戦お疲れ様ですぜ。いい仕事なすったじゃないですか。」
リンダ君は、ちょっと眉をひそめて顔を上げた。その目の下には、珍しくクマができている。
だが、アルサー君はおかまいなしだ。
「で、捕獲した例の強化人間…えーと。フェアレですかね。いま、どうしてるんですか。」
「…医務室で寝てますわ。このあと、ブリッジで謁見。」
「へー。なんでも、フェアレはほとんど無傷っていうじゃぁないですか。凄いもんですね。セラの町では死傷者多数だってのに、まったく大したもんだ。」
リンダ君の顔が明らかに曇った。
「…死傷者多数、ね。」
「ま、市街地で掃討戦やるよりはマシってもんでさぁ。アネゴなら慣れたもんでしょう?」
がたん、とリンダ君は立ち上がった。
「慣れてないッ!」
「お…」
アルサー君は目を白黒させてたじろいだ。
しかし、リンダ君はすぐに、ふぅ、と小さなため息をついて、再びカウンターについた。
「ごめんなさい。私、疲れていますわ。」
「へ、へぇ…。そのようで。時間ないでしょうが、くつろいで下せぇ…。俺はこのへんで。」
アルサー君はそそくさと出て行った。
一人残されたリンダ君は、カウンターに頬杖をつき、窓の外を眺める。
「…私、どうしたのかしら。あの子の血の色が、目に焼きついて離れない…。」
リンダ君には、病院での出来事があまりに重かったようだ。
自分たちが奪った、無抵抗な、小さな命。
その手は、硬く、冷たかった。
元気なときはどんな子だったのか、その冷たさからは、リンダ君は想像できない。
死は、あまりにも残酷だった。
艦内放送が重たく響く。
『アーテリー=ヘルベッサー中佐、リンダ=アルピニー准尉、ブリッジへ上がってください。繰り返します…』
「ああ、時間ですわ。」
リンダ君は立ち上がり、ブリッジへ向かった。
------------------------------------------
ブリッジ。
ロドム中佐と、アーテリー中佐、そして、リンダ君。他、数名の仕官が集まっていた。
ロドム中佐は、全員をぐるりと見回して言った。
「リンダ=アルピニー准尉。作戦、ご苦労だった。
我々は目標通り、強化人間フェアレ=フィーの確保に成功した。これにより、我が社の強化人間に関する兵器開発は大きく前進すると、私は確信している。
…入れたまえ。」
奥の戸が開き、医官と共に、小さな少女が入ってきた。
フェアレ=フィー。
紫色のショットカットの髪に、金の、どこか生気のない瞳。
強化人間の被験者だったために成長が妨げられたのか、低い身長に、細い手足。
「かけたまえ。全員、着席。」
ロドム中佐の声で、フェアレ君を囲むように、全員が席に着いた。
ロドム中佐は、フェアレ君を見据えて言った。
「フェアレ=フィー。先に詫びておこう。手荒なことをしてすまなかった。
ここに来てもらったのは、他でもない。君に、我が社の兵器開発に協力してもらうためだ。
君は、ナービス製の強化人間と聞く。我が社は今、強化人間用の兵器の開発を進めているが、肝心の強化人間が足りないのだ。
君の力を借りたい。」
フェアレ君は、うつむいたまま答えた。
「…私が必要なの?…それとも、私の力が必要なの?」
「…?」
しばしの沈黙。
沈黙を破ったのは、ロドム中佐だった。
「よく意味がわからん。どっちも同じだ。我々に協力するかどうかを聞いているのだ。」
「…いいよ。協力する。でも、ひとつ約束して。
…私を捨てないで。」
「わかった。君が我々に協力する限り、約束は守ろう。」
そこで、フェアレ君は初めて顔を上げた。
「本当?約束だよ。絶対に捨てないで…!」
カウンターのリンダ君の表情は、冴えなかった。
あの後、”イエロードック”のパイロット、フェアレ=フィーと対面した。歳はわずかに13歳の少女であった。強化人間であるためか、はたまた運が良かったのか、フェアレ君はかすり傷と軽い打ち身程度の傷であった。同行を求めた所、あっけないほど簡単に受け入れられ、リンダ君はフェアレ君を旗艦に連れ帰った。そして、つかの間の休息のため、艦内ビュッフェに戻ってきたのである。
そこへ、赤いモヒカン頭をふらふらさせながらやってきたのは、アルサー=ロキ君だ。
「リンダのアネゴ、作戦お疲れ様ですぜ。いい仕事なすったじゃないですか。」
リンダ君は、ちょっと眉をひそめて顔を上げた。その目の下には、珍しくクマができている。
だが、アルサー君はおかまいなしだ。
「で、捕獲した例の強化人間…えーと。フェアレですかね。いま、どうしてるんですか。」
「…医務室で寝てますわ。このあと、ブリッジで謁見。」
「へー。なんでも、フェアレはほとんど無傷っていうじゃぁないですか。凄いもんですね。セラの町では死傷者多数だってのに、まったく大したもんだ。」
リンダ君の顔が明らかに曇った。
「…死傷者多数、ね。」
「ま、市街地で掃討戦やるよりはマシってもんでさぁ。アネゴなら慣れたもんでしょう?」
がたん、とリンダ君は立ち上がった。
「慣れてないッ!」
「お…」
アルサー君は目を白黒させてたじろいだ。
しかし、リンダ君はすぐに、ふぅ、と小さなため息をついて、再びカウンターについた。
「ごめんなさい。私、疲れていますわ。」
「へ、へぇ…。そのようで。時間ないでしょうが、くつろいで下せぇ…。俺はこのへんで。」
アルサー君はそそくさと出て行った。
一人残されたリンダ君は、カウンターに頬杖をつき、窓の外を眺める。
「…私、どうしたのかしら。あの子の血の色が、目に焼きついて離れない…。」
リンダ君には、病院での出来事があまりに重かったようだ。
自分たちが奪った、無抵抗な、小さな命。
その手は、硬く、冷たかった。
元気なときはどんな子だったのか、その冷たさからは、リンダ君は想像できない。
死は、あまりにも残酷だった。
艦内放送が重たく響く。
『アーテリー=ヘルベッサー中佐、リンダ=アルピニー准尉、ブリッジへ上がってください。繰り返します…』
「ああ、時間ですわ。」
リンダ君は立ち上がり、ブリッジへ向かった。
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ブリッジ。
ロドム中佐と、アーテリー中佐、そして、リンダ君。他、数名の仕官が集まっていた。
ロドム中佐は、全員をぐるりと見回して言った。
「リンダ=アルピニー准尉。作戦、ご苦労だった。
我々は目標通り、強化人間フェアレ=フィーの確保に成功した。これにより、我が社の強化人間に関する兵器開発は大きく前進すると、私は確信している。
…入れたまえ。」
奥の戸が開き、医官と共に、小さな少女が入ってきた。
フェアレ=フィー。
紫色のショットカットの髪に、金の、どこか生気のない瞳。
強化人間の被験者だったために成長が妨げられたのか、低い身長に、細い手足。
「かけたまえ。全員、着席。」
ロドム中佐の声で、フェアレ君を囲むように、全員が席に着いた。
ロドム中佐は、フェアレ君を見据えて言った。
「フェアレ=フィー。先に詫びておこう。手荒なことをしてすまなかった。
ここに来てもらったのは、他でもない。君に、我が社の兵器開発に協力してもらうためだ。
君は、ナービス製の強化人間と聞く。我が社は今、強化人間用の兵器の開発を進めているが、肝心の強化人間が足りないのだ。
君の力を借りたい。」
フェアレ君は、うつむいたまま答えた。
「…私が必要なの?…それとも、私の力が必要なの?」
「…?」
しばしの沈黙。
沈黙を破ったのは、ロドム中佐だった。
「よく意味がわからん。どっちも同じだ。我々に協力するかどうかを聞いているのだ。」
「…いいよ。協力する。でも、ひとつ約束して。
…私を捨てないで。」
「わかった。君が我々に協力する限り、約束は守ろう。」
そこで、フェアレ君は初めて顔を上げた。
「本当?約束だよ。絶対に捨てないで…!」
10/02/28 08:04更新 / YY