連載小説
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セラの町で
「イエロードック、撃破。」

リンダ君はすばやく本部と通信する。

「確認した。パイロットの回収に向かえ。」

「了解!」

”イエロードック”は崖下のネラトン川を越え、セラシティーの住宅街へ落下したようだ。住宅街からは火の手が上がり、消防隊の赤い回転灯が見え隠れしている。
輸送機が破壊されたため、回収にはACで行く他はない。
”ダークネススカイ”は大きすぎるため、リンダ君は、一人、ACで町へ降りることにした。

「チューマー、私はこれからパイロットの回収に向かいます。貴方はここで待機。」

「…わかった。気をつけていけ。」

リンダ君はAC”ジャンネッタ”を跳躍させ、崖下へ降下した。
ネラトン川の河川敷へ着地し、市街地へ進む。
”ダークネススカイ”のパワーは凄まじく、”イエロードック”の落下地点まではかなりの距離があった。

「まったく、とんでもない馬鹿力ですわ。時間がかかっては、パイロットに逃げられてしまいます。」

リンダ君が落下地点に到着したとき、そこは修羅場であった。
大破した”イエロードック”が住宅2棟を押しつぶし、周りには消防隊と救急隊がひしめいていた。
黒煙の中に回る回転灯、けたたましいサイレン。
住宅の前で狂ったように助けを求めているのは、そこの住人だろうか。
リンダ君は、ふん、と鼻で笑い、周囲へ拡声器で呼びかけた。

『クレスト・インダストリーの部隊のものです。
その落下ACのパイロットの回収を行います。場所を空けなさい。』

すると、答えが返ってきた。

「パイロットは、病院へ収容した!ここにはいない、さっさと行ってくれ!」

『そう。余計な協力に感謝しますわ。』

リンダ君は、AC”ジャンネッタ”のブーストを吹かし、跳躍した。
周囲の人々の状況など、知ったことではなかった。

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リンダ君は病院の前にACを停め、玄関へ降り立った。
病院の救急搬入口には幾台もの救急車がとまり、慌しい空気に包まれていた。
リンダ君は人々を押しのけ、病院へ踏み込んだ。

「クレスト・インダストリーのものです。落下したACのパイロットを回収します。こちらに渡してください。」

そのとき、リンダ君の前に、一人のナース姿の女性が立ちふさがった。
美しい橙の長髪、燃えるグリーンの瞳。
コロン=トランスバース君だ。
コロン君は、かつて、クレストの救護部隊に所属していた女性仕官で、クレストを自主退社した後、ボランティア活動を行っていた。
ここで、リンダ君とコロン君が鉢合わせたのは、奇遇としか言いようがない。
コロン君は怒りに満ちた目でリンダ君をにらみつけた。

「ちょっと待ちなさいよ。あんたたちが何をやったか、わかってるんでしょうね。」

「なにって…」

リンダ君の返答をさえぎるように、奥から医師の声が飛んできた。

「コロンさん!ボスミン1アンプル!急いで!」

「はい!…あんたも手伝いなさいッ!」

コロン君はリンダ君の腕をぐい、とつかむと、人ごみを分けて奥へ入った。
そこで、リンダ君が見たものは。

血まみれで横たわる一人の少年。

”イエロードック”の落下で受傷したのだろう。その顔は血まみれで誰かもわからない。右手の先は真っ黒に焼け焦げ、指は形を成していない。口に入ったチューブからは、時折、血の混ざった泡が噴出してくる。
医師の、懸命の心臓マッサージ。
少年の隣でがたがたと振るえながら、必死でその手を握っているのはその少年の母親だろう。

「あんた、軍で習ってるでしょう!?心臓マッサージ、代わって!」

「な、なんで私が?」

「つべこべ言うなッ!!」

コロン君の迫力に押されるままに、リンダ君は、少年の冷たい小さな胸に両の手のひらを乗せた。
冷たい。
ぞっとするような冷たさ。
少女のころの、両親の死のおぼろげな記憶がよみがえる。
この冷たさは、自分たちがもたらしたもの。
リンダ君の背中を、どっと冷汗が流れた。

医師は、険しい顔のまま、モニターをにらみつけている。
そして、ふ、と顔を上げた。

「残念ながら、回復の見込みはありません。
ティム=クラビット君、7月15日、15時30分、死亡確認とさせていただきます。」

リンダ君は、こわばった表情のまま、その手を止めた。
少年の母親はわなわな震えながら、少年のその血まみれの体を抱きしめた。

「ティム…!目を開けて!ほら、自分で息しなさい!お母さんの言うことを、いつも聞いていたでしょ?
ティム…!」

母親は、その場に崩れ落ちた。
歯を食いしばったコロン君の頬を、一筋の涙が伝う。

「あの…ACのパイロットは…。」

リンダ君はおずおずと問うた。いつもの元気はない。

「…2階の病棟よ。元気だから、勝手に連れて行きなさい。」
10/02/28 08:03更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50