連載小説
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沸騰点
さて、こちらは廊下の天井裏のコロンさんです。
鳴り響くサイレンの中、下の様子を伺っています。

「あちゃ〜。もう見つかっちゃった。やっぱり、簡単には行かせてくれないか。」

どかどかと衛兵たちがやってくる音がします。

「ここだ!そこの天井裏だ!」

コロンさんが天井裏から飛び出し、天井に手をかけて勢いよくぶら下がりました。

「いたぞ!?ぐわっ!」

一人目の衛兵は、天井からぶら下がったコロンさんの膝蹴りを顔面に受け、あっというまに沈黙しました。

「このアマぁ!!」

二人目の拳銃を構えた衛兵は、足元にもぐったコロンさんの掌底を胸にくらってひるんだところに、サマーソルトキックが炸裂、もんどうりうってひっくり返りました。

「おのれっ!」

三人目の棍棒を振りかざした衛兵は、突き出した手を一本背負いにとられ、壁に激突して昏倒しました。

強い強い、滅茶苦茶です。

四人目のライフルを持った衛兵は、ひるんだところにジャンプからのかかと蹴りを後頭部に受け、沈黙。
五人目のナイフを構えた衛兵は、ナイフを振りかざした腕を十字ひしぎに取られ、うめきながら転倒。
六人目の衛兵は、曲がりがどで出会い頭に大外刈りにとられ、
七人目の衛兵は、みぞおちに肘鉄を食らってうずくまり、
八人目の衛兵は、回し蹴りを顔面に受けて鼻血を流しながらひっくりかえりました。

行く手を阻むものをことごとくなぎ倒しながら、コロンさんは廊下を風のように駆け抜けます。

「フォーラちゃん!どこー!?返事して!」


と、廊下の突き当たりのシャッターがスッと開き、大男が現れました。
短く刈り込んだ金髪、2mはあろうかという体躯、見るものを威圧する、サングラスの奥に光るグレーの瞳。
ジャック=ファイザー少佐です。

「アルピニーの付き添いでたまに来てみれば、なんだ、これは。」

ファイザー少佐の眼前には、衛兵たちがうめきながら倒れています。
コロンさんはファイザー少佐の前で止まりました。

「そこをどいて!」

「ふん。威勢のいいお嬢さんだ。だが、丸腰の小娘に、武器を使うのは主義ではないな。」

ファイザー少佐は、腰のホルスターから大型のマグナムを抜き、床に放り投げました。

「…こい。相手になってやる。」

「言われなくたって!」

コロンさんは身を低くしてファイザー少佐の足元へ駆け込み、あっという間に間合いを詰めます。

「テァ!」

コロンさんの渾身のパンチ。
しかし、鎧のような筋肉に守られたファイザー少佐はびくともしません。

「なんだ。その程度か。痛くも痒くもないぞ。」

「…!」

続いて、コロンさんは蹴りをわき腹に見舞いますが、ファイザー少佐は眉一つ動かしません。

「ぬるいな。では、こっちの番だ。」

瞬間、ファイザー少佐が身をひねったかと思うと、暴走するダンプカーのような右ストレートが、コロンさんを襲いました。
コロンさんは、パイロットスーツに付けられた盾で防ごうとしましたが、盾ごと紙くずのように吹っ飛ばされ、壁にたたきつけられました。
物凄いパワーです。

「ぐっ…!」

うめくコロンさんに、ファイザー少佐が近寄り、首根っこを左片手で掴んで吊り上げました。

「あっ!…」

コロンさんはもがきますが、首が絞まるばかりで逃げることはできません。

「…貴様、コロン=トランスバースだな?
クレストの兵として、3年ほど前にノルバスク閣下の下で働いていたことがあろう。
見たことがあると思えば、ふん。そういうことか。
何のつもりで来たか知らんが… 終わりだ。悪く思うな。」

「…ぐ」

ファイザー少佐が右手の拳を大きく振りかぶりました。
ああ、これを受ければ、コロンさんの綺麗な顔はぐしゃぐしゃに潰れてしまうでしょう。

が、突如、ファイザー少佐の後ろから誰かが飛びつきました。

「なぬ!?」

ファイザー少佐は体勢を崩し、よろけます。
フォーラさんです!
フォーラさんが、ファイザー少佐の首っ玉に背中からぶら下がっています。

「コロン先輩!」

「…!フォーラちゃん!?」

フォーラさんの目には、これまでなかった強い光がありました。
振りほどこうともがく、ファイザー少佐。

「くぉの、小娘がァ!!!はなせッ」

「ッ、離しません!私…、もう負けないんです!」

コロンさんを掴んだ、ファイザー少佐の手が緩みます。
その刹那、コロンさんの両足が電撃の速さで跳ね上がり、ファイザー少佐の顔面を捉えました。

「がっ!?」

両足蹴りを顔面に受け、サングラスを砕かれたファイザー少佐がよろめきます。
コロンさんはファイザー少佐の手から逃れ、素早くフォーラさんの手を掴みます。

「逃げるわよ、フォーラちゃん!」

フォーラさんを背負ったコロンさんは窓ガラスを突き破り、外へ飛び出します。
二階の高さですが、壁の凹凸を器用にジャンプし、華麗に着地を決めました。
コロンさん、ここまで来るともはや超人です。

しかし、脱出するには、施設を囲む堀と塀を越えねばなりませんが…
なんと、門が開いて橋が下りているではありませんか。

「あっ?なんだか知らないけど、ラッキーよ、フォーラちゃん!」

コロンさんとフォーラさんはそのまま門をくぐり、橋を渡り、留めてあったサイドカーに飛び乗りました。
土煙を上げて発進するサイドカー。
…なぜか追っ手は来ません。

「コロン先輩…ありがとうございます。私…。」

「ううん、いいのよ。フォーラちゃんが無事でよかった。
でもフォーラちゃん、さっき、ちょっとカッコよかったわよ?」

「はい…。」

工房へ向かうサイドカーの中で、フォーラさんはアルピニー准尉の言葉を思い出していました。

”逃がして差し上げます。内緒ですわよ?貴女がどこまで強くなれるか、見てみたくなってしまいました。
まぁ、単に、私がチューマーのヤツが嫌いだってのもあるんですけどね。
ちょっと細工すれば、私が逃がしたなんて、わかりっこないですわ。
ただし、お約束。無事逃げたら、1週間後の夜、ACに乗って、ウェルファーマシティーの闘技場に来ること。
お待ちしていますわ。”
10/02/25 18:55更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50