連載小説
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獄中で
ミクリッツシティー第4区画には、クレスト社の管理する保安施設があります。
周りは堀と高い壁で囲まれ、各所には監視等が立ち、さながら刑務所のようです。
ここは、いわば警察署と刑務所を兼ね合わせたような施設で、クレスト社の管理する地区の治安に重要な役割を果たしています。
その2階、鉄格子のはまった狭い独房の中に、フォーラさんがいました。
薄暗い部屋の隅で膝を抱え、生気のない目で、未だ手をつけていない夕食のトレーを見つめています。

独房の外で声がします。

「アルピニー准尉、視察お疲れ様です。」

「あら、自分のかかわった罪人に、ちょっと興味がわいただけですわ。」

「恐れ入ります。」

「ちょっとよろしくて?この人と話したいことがありますの。席を外してくださる?」

「ハッ!」

バタンとドアが閉まる音がして、人が出て行く気配がしました。
そして、鉄格子のはまった小窓から、青いいたずらっぽい目がのぞきました。
リンダ=アルピニー准尉です。

「フォーラ=ウィンスローさん?コンクリートの壁のお味はいかが?」

フォーラさんはうつむいたまま黙っています。

「話を聞いた限りでは、変な人じゃなさそうなんですけどねー。
なにを血迷って、あんなことをしでかしたのかしら?ん?」

「…。」

「カタキ、とかいってたじゃない?あのチューマーとかいう男に、恨みでもあるの?
それで拳銃なんか振り回して、返り討ちにあって、しかもこんなところにぶち込まれて、
ザマァないですわね、ヲホホホホホ。」

フォーラさんがキッと顔を上げました。
涙交じりの怒りの表情。

「…貴女なんかに、なにがわかるもんですか!」

「あーら。怖い怖い。ふーん?じゃぁ、ワタクシにもわかるように、てーねーに、ご教授をお願いできるかしら?」

「…!」

フォーラさんは、堰を切ったように、これまでの事を話しはじめました。誰かに聞いてもらわないと、心が耐えられなかったのでしょう。
MT乗りだった自分をスカウトした警備部隊のこと。
活発で、正義感にあふれ、そしてとても優しかった警備部隊のメンバーのこと。
レイヴンを目指し、いつも自分に夢を語ってくれたクレアのこと。
自分に好意を抱きながら、結局告白してくれなかったデュオのこと。
そして、一機のACに、それらの全てを無残に奪われたこと。
ただ一人生き残った自分を支えてくれた、コロンさんのこと。

語り終わると、フォーラさんの目からまた大粒の涙が溢れ始めました。
しかし、アルピニー准尉は、冷徹にこう言い放ちました。

「ーそれは、単にあなたが悪いのですわ。」

「…!?」

フォーラさんは、何を言われたのかわからない、といった様子で、
大きく目を見開いてアルピニー准尉を見つめました。

「喫茶店で拝見しましたが、貴女、 弱 す ぎ ですわ。
弱いものは喰われて当然。自然の摂理でしょう?
私はね、弱いくせにぐだぐだ言うヤツが、一番嫌いなのです。
いいこと?悔しかったら、強くおなりなさい。
今の貴女、はっきり言って、ザコですわ。」

アルピニー准尉は、ふふん、と鼻で笑って言いました。
フォーラさんは、唇をかんだまま、何も言えません。

「あーら。なんにも言わないのね。そりゃそうですわ。
本当のコトですもの。ヲホホホホホ!」

と、その時です。
大音響でサイレンが鳴り響きました。
アルピニー准尉が、はっとしたように顔を上げ、衛兵を呼びます。

「衛兵!何事か。」

「ハッ!不法侵入者です!天井裏の赤外線センサーが探知しました。今、警備隊が向かっているところです。
あっ、映りました。こいつです!」

独房の外、天井から下がったモニターには、
青いパイロットスーツを着込んだコロンさんが映っていました。
天井裏を這うように移動しています。

「コロン先輩!?」

鉄格子の窓から覗いていたフォーラさんが声を上げます。

「あーら。お知り合いかしら?お友達思いねぇ。ふふ〜ん。
…おい、お前たちも行け!」

「ハハッ!」

アルピニー准尉の指示で、衛兵たちはバラバラと飛び出していきました。

「さぁ、これは面白いことになってきましたわ。」

アルピニー准尉は腕組みをしながら、モニター越しのコロンさんを見ています。
少し考えた後、いたずらっぽい目で、フォーラさんをチラッと見て、
ポケットから鍵を取り出しました。
フォーラさんとアルピニー准尉以外、誰も見ているものはおりません。
10/02/25 18:52更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50