ノデュール=べナイン
再び、私の工房に戻ってきました。
救急室のほうから声が聞こえますね。少し覗いてみましょう。
少し消毒薬のにおいのするベッドの上には、体中に包帯を巻かれた一人の男が座っています。
それに向き合うようにフォーラさんが立っています。
そしてフォーラさんの後ろのイスには、これまた頭に包帯を巻いたコロンさんが座っています。
「話は大体わかった。ようするに、俺たちが昔雇ったレイヴンのせいで、お嬢さんの仲間が死んだんだな?」
そう言う包帯の男は、コロンさんとフォーラさんが助け出したテロリストでしょう。
浅黒い肌に、傷のある骨ばった顔。いかにも百戦練磨といった風格の男です。
「はい。あなたたちの雇ったレイヴンが、私から大切な人たちを奪ってしまったんです。
ですが、この際、あなたには責任を問いません。
そのかわり、その雇ったレイヴンのことを教えてください。」
いつもどこか怯えたような感じのフォーラさんが、きっぱりと言い切りました。その緋色の目は、いつもより赤みが強いようです。
決意の表情。
「なんだ。敵討ちでもするつもりか?いまどき流行らねぇとは思うが…。まぁ、こっちは助けてもらった身だから、細かいこたぁ言わねえ。教えてやろう。」
「…。」
一言も聞き漏らすまいとしているのか、フォーラさんの眼差しがいっそう厳しくなります。
「あいつは”チューマー=マリグナント”ってやつでな、こっちでは”癌”とか、”キャンサー”とか言われてるやつだ。
ナービス社が試作した強化人間らしいんだが、詳しいことはしらねぇ。ただ、あいつには関わらないほうがいいぞ。なにしろ、人間じゃないからな。
俺たちの仲間も、何人か殺されている。」
「人間じゃないって、どういうことですか?」
フォーラさんが詰め寄ります。
「強化手術の域を超えてやがるんだ。ありゃ、ほとんどサイボーグだね。どこまで人間のパーツが残っているのやら。」
「…。アークに登録されたレイヴンにはいませんね。」
「ほとんど、裏世界の野郎だからな。企業に名前を登録したりしないだろうよ。
やつは、いつも決まった場所で依頼を待っている。会いたきゃ、そこへ行ってみな。」
男は小さな紙をフォーラさんに手渡しました。
チューマーという男の居場所を書いたものでしょう。
「…この喫茶店ですね。協力、感謝します。」
フォーラさんは、その紙をしばらく見つめた後、丁寧にたたんでポケットにしまいました。
「でさー。あんた、名前聞いてなかったよね。なんてゆーの?」
フォーラさんの後ろから声をかけたのは、いままで半分居眠りをしていたコロンさんです。
包帯の男は少し驚いたように、コロンさんに視線を向けました。
「おれか。ノデュール。ノデュール=ベナインだ。」
「へー。よろしく。あたし、コロンだよ。コロン=トランスバース。コントラバスと呼ばないで。」
「コントラバス、か。くはは。
…もういいかい。テロリストの俺が、こんなところにいると、お嬢さんたちはクレストに狙われるぜ。」
ノデュールはベットから立ち上がりました。
「はい、結構です。傷の手当ては一応大丈夫とは思いますが、無理はしないでください。」
「ご親切に、どうも。俺も仲間はみんなやられちまったし、隊は解散だなァ。捕まらねぇように、しばらく隠れとくとするか。」
がたん、と音を立ててノデュールは出て行きました。
仲間を失った男の背中は、どこか寂しそうでありました。
「ねー。フォーラちゃん、本当にやる気?相手は強化人間だってよ?」
コロンさんは心配そうです。
「はい。ノデュールさんの下さったメモには、チューマーの人相まで書いてあります。
私、やります。」
「あらら…。ノデュールさんもずいぶん親切ね。」
「あの人、『俺たちの仲間も何人か殺されている』と言ってました。あの人も、きっとチューマーを憎んでいるんです。」
「仲間割れがあったのかな?それとも、他の人からの依頼で逆に襲われたのかな?ああ、もうドロドロしてるわね。」
コロンさんは大きく伸びをして天井を見つめます。
フォーラさんは落ち着きなく、メモをみながら調べ物のようです。
フォーラさん、早まったことをしなければいいのですが…。
救急室のほうから声が聞こえますね。少し覗いてみましょう。
少し消毒薬のにおいのするベッドの上には、体中に包帯を巻かれた一人の男が座っています。
それに向き合うようにフォーラさんが立っています。
そしてフォーラさんの後ろのイスには、これまた頭に包帯を巻いたコロンさんが座っています。
「話は大体わかった。ようするに、俺たちが昔雇ったレイヴンのせいで、お嬢さんの仲間が死んだんだな?」
そう言う包帯の男は、コロンさんとフォーラさんが助け出したテロリストでしょう。
浅黒い肌に、傷のある骨ばった顔。いかにも百戦練磨といった風格の男です。
「はい。あなたたちの雇ったレイヴンが、私から大切な人たちを奪ってしまったんです。
ですが、この際、あなたには責任を問いません。
そのかわり、その雇ったレイヴンのことを教えてください。」
いつもどこか怯えたような感じのフォーラさんが、きっぱりと言い切りました。その緋色の目は、いつもより赤みが強いようです。
決意の表情。
「なんだ。敵討ちでもするつもりか?いまどき流行らねぇとは思うが…。まぁ、こっちは助けてもらった身だから、細かいこたぁ言わねえ。教えてやろう。」
「…。」
一言も聞き漏らすまいとしているのか、フォーラさんの眼差しがいっそう厳しくなります。
「あいつは”チューマー=マリグナント”ってやつでな、こっちでは”癌”とか、”キャンサー”とか言われてるやつだ。
ナービス社が試作した強化人間らしいんだが、詳しいことはしらねぇ。ただ、あいつには関わらないほうがいいぞ。なにしろ、人間じゃないからな。
俺たちの仲間も、何人か殺されている。」
「人間じゃないって、どういうことですか?」
フォーラさんが詰め寄ります。
「強化手術の域を超えてやがるんだ。ありゃ、ほとんどサイボーグだね。どこまで人間のパーツが残っているのやら。」
「…。アークに登録されたレイヴンにはいませんね。」
「ほとんど、裏世界の野郎だからな。企業に名前を登録したりしないだろうよ。
やつは、いつも決まった場所で依頼を待っている。会いたきゃ、そこへ行ってみな。」
男は小さな紙をフォーラさんに手渡しました。
チューマーという男の居場所を書いたものでしょう。
「…この喫茶店ですね。協力、感謝します。」
フォーラさんは、その紙をしばらく見つめた後、丁寧にたたんでポケットにしまいました。
「でさー。あんた、名前聞いてなかったよね。なんてゆーの?」
フォーラさんの後ろから声をかけたのは、いままで半分居眠りをしていたコロンさんです。
包帯の男は少し驚いたように、コロンさんに視線を向けました。
「おれか。ノデュール。ノデュール=ベナインだ。」
「へー。よろしく。あたし、コロンだよ。コロン=トランスバース。コントラバスと呼ばないで。」
「コントラバス、か。くはは。
…もういいかい。テロリストの俺が、こんなところにいると、お嬢さんたちはクレストに狙われるぜ。」
ノデュールはベットから立ち上がりました。
「はい、結構です。傷の手当ては一応大丈夫とは思いますが、無理はしないでください。」
「ご親切に、どうも。俺も仲間はみんなやられちまったし、隊は解散だなァ。捕まらねぇように、しばらく隠れとくとするか。」
がたん、と音を立ててノデュールは出て行きました。
仲間を失った男の背中は、どこか寂しそうでありました。
「ねー。フォーラちゃん、本当にやる気?相手は強化人間だってよ?」
コロンさんは心配そうです。
「はい。ノデュールさんの下さったメモには、チューマーの人相まで書いてあります。
私、やります。」
「あらら…。ノデュールさんもずいぶん親切ね。」
「あの人、『俺たちの仲間も何人か殺されている』と言ってました。あの人も、きっとチューマーを憎んでいるんです。」
「仲間割れがあったのかな?それとも、他の人からの依頼で逆に襲われたのかな?ああ、もうドロドロしてるわね。」
コロンさんは大きく伸びをして天井を見つめます。
フォーラさんは落ち着きなく、メモをみながら調べ物のようです。
フォーラさん、早まったことをしなければいいのですが…。
10/02/25 18:50更新 / YY