連載小説
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クレスト
ちょっと場所を移動しまして、ここはクレスト本社ビル地下5階、クレスト軍の作戦司令部です。
機密性が高く、幾重にも警戒がしかれ、実に物々しい雰囲気です。
作戦司令部の一角の小会議室では、先日コロンさんたちに出し抜かれた機動第二大隊による会議が行われているようです。
ちょっと覗いてみましょう。

大きなスクリーンの前に少し高くなった演台があり、そこにクレストの軍服を着込んだ大男が立っています。
ジャック=ファイザー少佐です。

「…作戦はおおむね成功、テロリスト集団”ステージフォー”は壊滅しました。
ただ、作戦終了間際に、AC1機、MT1機による奇襲を受け、ロキ上等兵のAC”ヴィオラ”が小破しております。
現在、襲撃犯を割り出し中ですが、難しい状態です。」

「難しいなら、深追いせずともよかろう、目的は達したのだ。ご苦労。」

最前列に座り、腕組みをしながらそう言ったのは、総司令官のノルバスク中将です。
痩せた初老の男ですが、右目は見えないのか、硬く閉じられたままです。顔に深く刻まれたしわが、苦労人であることを物語っています。

「では、本題に入ろうか。
ザンタック中佐。例の件について、発表を頼む。」

「はい。」

ファイザー少佐に代わって、いかり肩の鋭い目つきの男が演台に上がりました。
ロドム=ザンタック中佐です。

「かねてより本社で開発中でありました新兵器、”ダークネススカイ”が実動段階に入りました。
これは、ミラージュ社が開発を続けている新兵器に対抗するものであり、ACを上回る圧倒的な火力を保持しております。」

部屋の照明が暗くなり、スクリーンに大型の人型兵器が映し出されました。
胴体はACのものより少し大きめで、足は細く、しかし腕は片方でAC一機分に相当しようというオーバーサイズで、人型というにはやや異形の機体です。

「全高25m、グレネードランチャー4門、垂直ミサイル2器、5連装リニアガン2器、小型グレネードランチャー2門を備え、近接戦闘用として両腕にブレードを内蔵しています。移動にはフロート機構を採用し、大型機ながら、ACを上回る機動性を有しています。
特筆すべきは、両肩に装備した強化型エネルギーシールドで、展開すれば、敵のエネルギー兵器をほぼ無効化することが可能となっています。」

ザンタック中佐はここで一旦話を切り、会場を見渡します。
そこここから、感嘆の声が漏れます。

「ふむ、これだけの性能があれば、ミラージュの新兵器など、どうということはないな。」

ノルバスク中将も満足げです。

「しかし、この性能を確保するために、パイロットへの安全性がかなり、犠牲になっております。
はっきり申し上げますと、普通の人間では乗りこなすことができません。」

「…それは、聞いた。強化人間でなければだめなのだったな?パイロットの確保の目処はついたのか。」

ノルバスク中将の言葉に、ザンタック中佐は少し眉をしかめました。

「条件が厳しすぎました。専属レイヴンとして取り込める、”まともな”強化人間を探していたのですが、残念ながら適合する人材がありませんでした。」

「ふむ、すると?」

「はい。”まともな”者でなければいたのです。
裏世界のレイヴンです。ナービス社による強化人間実験の被験者であり、もはや正常な精神の持ち主ではないとの情報もあります。」

「名前は。」

「チューマー=マリグナントといいます。」
10/02/25 18:51更新 / YY
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まろやか投稿小説 Ver1.50