ARMORED CORE X Spirit of Salvation
※初めに 本作品は、アーマード・コアXを元にした二次創作作品です。 原作にはない設定、用語、単語が登場する他、筆者のフロム脳で独自解釈した世界観の見解が含まれます。 ARMORED CORE X Spirit of Salvation 5.『最後の攻防戦(前篇)』 ジュン・クロスフォードにとって、今回の事件は青天の霹靂だった。 ざわめく周囲の喧騒の中、いつも飄々としている彼が、一人黙って冷静に物事を見つめていた。 理由は、その事件を起こした人物の中に、知っている者がいたから。 “テレーゼ・マルファッフィよ” その者は別れ際、彼に名乗った。だが、彼には“彼女が嘘を言っている”と薄々感じていた。 その者が持つ独特の空気が、本能的な“カン”に引っ掛かった。 それは技術屋故の職業病的なモノか…。 はたまた、自分自身のこれまでの経緯によるものか…。 「―ジュン。とりあえず、お前はタイプ0の整備へ戻ってくれ」 リュークの声にジュンは我に返り、“分かった”と答えた。 実際、リュークが話した内容はほとんど彼の頭の中には入っていなかった。 ただ、聞かずともやることは明確だ。 例の異教徒テロリストによる再度の襲撃に備え、戦う準備を万全にしておくこと。 それが、ジュンが此処へ居る理由だ。 「奴らに何かしらの動きがあった時は、私の“タイプTR”とコンビで対処に当たる。レオナには、仮だがオペレーターをやってもらう」 指示を飛ばすリュークの話を一通り聞き、彼はこれからの流れだけをもう一度確認して、元の持ち場に戻った。 急造した仮設の整備ドックとはいえ、ACをある程度整備できる道具が揃い、また整備に専念できる環境は、技術屋として助かる。 これまで多数の戦線に技術屋として出張してきたが、ここがこれまでで一番“まとも”だ。 その環境の中、曰くつきの脚部が壊れたACが鎮座していた。 『タイプ0』 周囲がそう呼ぶそのACは、左足を始めいくつか補修しなければならない個所が見つかった。 昼からの作業で、他の所も痛んだ装甲板を街までの道中回収したACの残骸から使える部品やソルジットの余剰パーツを使い、補修に充てる。直せるところは直し、取り替えるところは取り替える。その繰り返しだ。 昼よりもかなり修繕が進んだと改めて機体の前に立ち、ジュンは思う。 「ジュン。言われた通り、左脚部の避けた装甲板を溶接しておいたわ。それと膝関節のジョイントパーツもタイプTLの余剰パーツで交換しておいた」 彼の隣へ整備服を着たレオナがピックアップした修理個所のリストをもって現れる。 「サンキュー。頃間から少し休んでいてくれ。残りは俺がやるから」 彼女からリストを受け取り、目を通しながら再び整備用のキャットウォークへと昇る。 「ジュン、貴方も無理しないでね。此処へ来てから、ほとんど動きっぱなしだから」 つけていた整備用グローブを取りながら、レオナは心配そうな顔でそう告げた。 言われてみれば、確かにそうだ。広杉邸に到着して以降、この機体とリュークのタイプTRの整備でずっと動き回っている。 “大丈夫だ。無理はしないよ”と答えて、ジュンはキャットウォークの上に置いてあった工具を手にし、作業へ入った。 ため息をついて、レオナはその場を後にする。作業をしつつ、それを気配で感じ取りながら、ジュンは考えていた。 (この今回の一件は、単純に依頼だから、とかだけじゃないからな…) “追い続けている男”の影。それをこの街で起こっている出来事に感じていた。 (全てはあの男に探す為−) そうでなければ、人の機体の整備なんてやるはずがない…。 “シュバルツガルト”− そこは、“陽だまりの街”より南西に位置する地域。 その名の通り、この時代では珍しく森林地域である。 正確には、度重なる汚染や戦闘の影響で汚染地域でも生息できるように進化した植物の社ではあるが…。 この最奥には、かつての学術研究都市が当時のまま残っていると言われ、数多くのミグラントがそこにある資源を狙って、そこへと足を踏み入れていた…。 「−だが、ここもどんな人間も受け入れてくれるような生半可な場所じゃない。その多くは、目的地へ着く前に森で迷ってしまって、帰る道も分からずになり、遭難死している」 森の入り口。街から持ってきたガスマスクを装着し、おぞましく漆黒に染まった森を見上げながら、イグニスは語った。 「それで…。こんな曰くつきの場所に、貴方の恩人が依頼した物があるの?」 その隣でエリーゼが訊ねると、彼は“あぁ”と短く答え、バックを下ろし、中身を漁り出した。 そして、中から愛用の端末を取り出す。 「シスター・リトナは、かつて此処に立ち寄った時、ここに“何か”を隠した。それをネロから読み取った記憶の中で、彼女は『万が一の時は、此処へ来て、それを回収しろ』と言った」 いくつかキーを叩き、画面に地図データらしき物を表示させる。 興味深そうに、ガスマスクを着けたネロとステラがそれを覗きこんでいた。 「今の俺には、彼女への恩返しはこれぐらいしかできない…。この力が、あの人の言う通り、“意味があるもの”というのなら…」 何か強い決意を瞳に秘め、彼は端末を閉じて、歩み出した。 「待ってよ、イグニス兄ちゃん!」 彼の後を追うように、ネロ、ステラ、エリーゼも歩き出す。 「エリーゼさん。もう一度言うけど、無理についてこなくてもいいんだぜ?」 先頭を行くイグニスは、振り返らず訊ねた。 それにエリーゼは肩を落とし、“愚問ね”と短くため息交じりに答えた。 「私も此処に用があるの。貴方が言う“ミグラント”のカンっていう奴なのか、分からないけど…」 そして、そう言葉を続けた。それに“そうか”と一応の返事を聞き、エリーゼは呟く。 “先から聞こえるのよね、何かが…” 言葉に出さず、彼女は呟いて光が届かぬ漆黒の森の奥を見つめた…。 「行くぞ、皆」 イグニスを先頭に、ネロ、ステラ、エリーゼの4人はその森へと足を踏み入れた。 “陽だまりの街”は、これまで幾度の破壊と再生を経験してきた街だ。 元々、広杉・フィーナの父親であり、初代“代表”である“広杉・ユーリ”が、誰も手をつけることがなかったこの街を取得し、コロニーを創り上げたのが始まりだ。 そして、現在へ至る過程の中で、様々な勢力がその街を狙い、襲撃してきた。 当然そこで破壊が生まれ、その度に“代表”は再生と発展に力を尽くしてきた。 リューク・ライゼスも彼の生前、その一端を見てきた人間だ。 「リューク…。父は、こういう時、どうしていたかしら…?」 虚ろな瞳でフィーナはリュークに訊ねた。 無理もない。騒動に告ぐ騒動の連続の日々。それがフィーナを追いこんでいた。 そして、自分の部屋。その中では、彼女も“代表”ではなく、年相応の少女だ。 その中で、窓際の椅子に座り、窓の外を眺めている。 外の向こう、行政区では復興に向けた準備が始まっている。まだ警戒態勢は解除されていない。 「先代代表は、どんな状況下でも決して自分の信念を曲げない、強い意志をもった方でした」 部屋の中心にあるテーブルでお茶を入れる準備をしながら、リュークは落ち着いた口調で、彼女の問いに答えた。 「それはよく分かっているけど…。やはり、気持ちが弱いわ。私は…」 それを聞いたフィーナは、薄ら呆れ笑いにも似た笑みを浮かべる。 「当然です。先代は先代、貴方は貴方です。そして、今起きている事象も、過去起きた事象も全て同じではない」 流れるような動きで紅茶を華麗にティーカップへ入れるリューク。その姿は、さながら執事でなくても、喫茶店でやっていけるように思えた。 「貴方は自分が為すべきことを、自分の考えを持って行えばいい」 そして、茶菓子と共にそれらをフィーナの前に差し出した。 「…強いわね、リューク。まるで悟りを開いているみたい」 「どうだが…。ただ、戦場に長く居たもので、それ故にこのような語り口になっているのだと思います」 彼の言葉を聞きながら、ティーカップを手にとり口に運ぶ。 この時代では紅茶そのものが希少なものだ。その中でも、この紅茶は屋敷の敷地内でリュークが育てたものらしい。 紅みが強く、やや渋みが強い。それがリュークの味だった。 しかし、それは同時に自分の父親が愛した味でもあった。 「うん、ちょっとやる気が出てきたわ。もうじきこの騒動も終わる。一刻も早く決着をつけて、次のステップへ進まないと」 自分に言い聞かせるように彼女は言って、もう一口運ぶ。 「それでこそ、広杉代表だ」 元気が出てきた彼女の姿を見て、リュークはほほ笑んだ。 −と、そこへドアを慌しくノックする音が。 次の瞬間、息が上がった様子で一人の警備部隊隊員がドアを開け、部屋へ入ってきた。 「どうした?今、代表は休息中だ。何か保安上のことなら、私が聞くが−」 眉をひそめ、リュークは隊員へ訊ねる。 「代表!隊長!大変です!phantomChildrenが動き始めました!一個師団の規模で−!!」 隊員の言葉に穏やかだった部屋の空気は一瞬で、緊迫した空気へと変わった。 森に入ってから2時間余り。 今のところ、噂で聞く奇怪な植物は見当たらない。 それどころか、ここは思っていたより、汚染が少なく、静かな落ち着いた場所だった。 その証拠に、森へ入ったイグニス一行は装着していたマスクを外し、森の中を進んでいた。 ふと、エリーゼは目の前をイグニスの背中を見ながら、チラリと後ろをついて歩くネロとステラを見た。 やはり、二人とも疲弊している。さすがに子供にこの悪路はきつい。 大人でも足元を取られそうな未舗装の獣道。 その上、元々大きく茂った樹木によって日差しは悪い上、雲も出ているせいか、足元が見づらい。 「イグニス、子供たちが…」 彼女の掛け声でイグニスは振り返り、はっとした顔をした。 「少し休もう。どうやら噂話は狂言のようだったし…」 そう告げながら、彼は周囲を見渡し、休めそうな場所を探す。 “あそこだ”と次の瞬間、声に出して指差す。 そこは、周囲と比べてやや低地なった大きな木の麓に木漏れ日が差し込む、開けた場所だった。 「お兄ちゃん。ステラを…」 ネロが心配そうにイグニスへ告げる。ネロの隣、ステラはかなり体力を消耗していた。 「ステラ、僕の背中に乗って」 そう告げて、イグニスは辛そうに頷いた小さな少女をおんぶし、その場所まで向かう。 その彼の後ろをエリーゼがネロの手助けをしながら、目の前の休めるポイントまで向かう。 そして、彼らはその場所まで辿りついた。 「ふぅ…」 一息着き、イグニスは腰を下ろした。 彼の背から降りたステラが、興味深そうに見回しながら、走り出す。 「あっ!ステラ!勝手に変なところいったら危ないってば!」 その後を、慌ててネロが追う。 イグニスははしゃぐ子供らを流し眼で視て、改めて周囲を見回した。周囲の暗さがここでは嘘のように明るい。 「何かの建物があったのかしら…」 地面にコンクリートが混じっている。ここが周囲に対して低地になっている理由だった。 これまで歩いてきたところは異常繁殖した木々が創り上げた土地だ。それに対し、ここは奇麗とは言わないが、それなりにかつての地形の面影を残している。 ふと、見てみると一際大きい広葉樹の根元でコンクリートの建物がその大木の幹の一部と化していた。 「どうやらここが、リトナさんがネロたちに残したポイントらしい」 取りだした端末を叩き、そう告げると周囲を再び見渡した。 「彼女は俺に此処に行け、と告げた。ここに”大事な情報があるから”と」 そして、左手のグローブを外し、膝間づく。 「貴方、もしかしてサイコメトラーだったの?」 「まぁ、そう呼ぶ人もいる」 エリーゼの問いに答えながら、イグニスは正確にここの情報を読み取ろうと、辺りを探索し始めた。 「そういうエリーゼは、どうなんだ?」 「えっ?」 「屋敷の塀から出る時、偶々左手がアンタに触れた。だけど、俺はアンタの情報を読み取ることができなかった」 「…イグニス、それってどういうこと?」 「さぁね、俺が知りたいよ。こんなこと初めてだから…」 しばしの沈黙。その中で、イグニスは淡々と正確な情報が読み出せそうな場所を探し、 (…私が“この世界”の人間じゃないから?) エリーゼは自問しながら、周囲を見回した。そして、ふと…。あの二人の姿がないことに気づく。 「ちょっと…、イグニス!子供達の姿がないわ!」 「えっ!?」 イグニスも探索をやめ、周囲を見渡す。そして、二人は気づいた。 “何者かに囲まれている“と。 「二人さん、友達をお探しかな?」 背後からの声に振り返ると、そこには着古した軍服をまとった柄の悪そうな大男が立っていた。 そして、周りに武器をもった数人の男たちが現れる。ざっと見ただけで、7、8人はいる。 「おにいちゃん…!!」 ネロの声がした方へ視線を向けると、彼とステラが兵士たちに捕まり、首元にナイフを突き付けられていた。 二人の顔が恐怖で強張っている。その兵士もニタリと気味悪く笑いながら、そのリーダー格の男の側へ二人を連れて行った。 「悪いね。コレも仕事なんだ。アンタらが持っているモノ、全てこちらへ寄こしな」 その男―フリードはニヤニヤしながら、二人へ語りかける。 「クソッ、こんなときに野良のミグラントかよ…。目的は何だ!?放せよ!!」 怒りをむき出しに、イグニスが叫ぶ。 「おいおい、お兄ちゃん。この多勢に無勢の中で、よく強がるな。感心するぜ」 「黙りなさい、外道が。臭い息吐くな」 「あぁん?」 ナイフで突き刺すような澄んだ声にフリードはエリーゼの方を見た。 「聞こえなかったかしら?黙れと言っていたのよ」 静かに、強く、鋭い眼光でエリーゼはフリードを睨みつけた。 ギリッとフリードは口元を怒りで滲ませると、 「このアマ、どういう状況か、分かってしゃべっているのか!?子供達がどうなってもいいのかぁ!?」 語尾を荒げ、エリーゼに銃を突きつけた。 「…エリーゼ?」 「まかせて−」 心配そうに視るイグニスに、エリーゼは短く強く答え、一歩前に踏み出した。 「状況?えぇ、分かっているわ。よく分かっているわ」 そう語りながらエリーゼはフリードへ向かって歩いていく。 「残念だけど…、貴方達―」 そして、一定の間隔まで来て、 「この罠は最初から失敗よ」 エリーゼがそう告げ、歩を止めた次の瞬間、鼓膜を激しく震わす爆音と共に、周囲に複数の火柱が立ち上った― 瞬く間に彼らの陣形が崩れる。それをエリーゼは逃さなかった。 規格外の脚力で、一瞬でステラを捕えている兵士たちの懐へ踏み込むと、その勢いのまま大きく上半身を倒して、右腕を前へ振り出す― 次の瞬間、その先に作った拳が兵士の顔面を大きく変形させ、刹那兵士の体が地面へなぎ倒される。 (次…!) 伸びた兵士に目をくれることなく、首だけ振り返り、隣のネロを捕えている兵士を睨みつけた。 こちらの動きに対応しようと、兵士の持つナイフの刃先がこちらを向く。 だが、それよりも先に彼女の繰り出した回り蹴りが炸裂した。兵士の首がまるでゴム人形のように直角に曲がる。 「このアマ!!殺せッ!」 フリードの怒号が轟く。 「エリーゼ!伏せろッ!」 それと同時にイグニスが叫ぶ。 イグニスの声で先から感じていたモノを読み取ったエリーゼは、ステラとネロを掴み、地面に伏せた。 次の瞬間、けたたましい銃撃音が周囲に轟く。 それはフリードたちのライフルではなく、森の中から飛んできたモノだった。 「クソッ…!!」 次々とやられていく仲間を見て、フリードは場が悪いと感じたのか、身を低くしたままその場から駆けだした。 そして、そのまま火線から逃れるように森へと姿を眩ませる。 『撃ち方、止めっ!!』 それを確認してか、女の声が木霊した。 そして、その声と共に周囲の森から武装した兵士たちが姿を現す。 先のミグラントとは何かが違う、まるで軍隊というに相応しい者たちだった。 「エリーゼ、この人たちは?」 周囲を囲む兵士たちを前に、イグニスはエリーゼに耳打ちした。 「さぁ、だけど先から彼らはずっと私たちを監視していたわ。私たちがここに到着したからね…」 周囲を囲む兵士たちを前に、エリーゼはそう答える。 「イグニス・ロード・セリングだな?」 先の声の主だろうか、顔面に抽象的なドクロのペイントが施されたガスマスクをした者が二人の前に立ち、そう訊ねた。 「リトナから話は聞いている。待っていたぞ」 そう告げ、その者はガスマスクを取った。露わになったその顔を見て、イグニスは思わず声を詰まらせ、大きく目を見開いた。 「レベッカ・ブラッドだ。かつて“初代代表”と共に街建造の為に戦っていた者の一人だよ」 死んだリトナと瓜二つの顔立ちの彼女は、イグニスらに自らそう告げた…。 街より矢のごとく飛び出す二つの光があった。 それは、人の形をした鉄の巨人兵−アーマード・コア。 一機は、リュークが駆るソルジットタイプTR。 そして、もう一つはジュンが駆るソルジットタイプTL。 兄弟機でありながら、設計コンセプトが違う二機は、現状“陽だまりの街”にとって、希少な、そして、唯一の対抗手段であった。 (思っていたよりも早く動いたな…) コクピットの中、機体を地上スレスレで飛ばしながら、ジュン・クロスフォードは回想していた。 今から一時間前、”phantom-Children”が行動を起こしたとの連絡が入った。 すぐさま、タイプ0の修復作業を一通り終わらせ、稼働できる状態にすると、リュークの指示のまま、自分の機体へ飛び込んだ。 (タイプTLは、リュークの機体を模造した機体だ) チラリと隣を飛ぶタイプTRを見る。 (そして、この機体は俺の“信念”が籠った機体でもある−) アラート音。有視界に複数の敵機が見えた。 タイプが違う機動兵器の混成部隊。相手はついに単なるテロではない、本格的な武力制圧を仕掛けるため、軍隊を組織したらしい。 「リューク。俺が切りこむ。アンタはカバーを頼む」 タイプTLは、両手の武装を、ヒートパイル“KO−4H/JIFEI”、ブレード“BD−0 MURAKUMO”に切り替え、構えた。 「了解した。久しぶりの戦闘なんだろう?無理はするなよ」 同じくタイプTRも、両手のライフルを構え、ブーストのパワーを1段階引き上げた。そして、同時に戦闘機動へ機体の動きを切り替える。 「心配するなって−」 ジュンも時同じくブーストをフルパワーへ上げ、 「近接戦じゃ…、俺は誰にも負けねぇ…!!」 次の瞬間、右に構えたヒートパイルを眼前に迫った敵機へ大きく振り出した。 刹那、周囲に激しい金属音とけたたましい銃声、そして、爆発が木霊した− それをはるか遠くから眺める巨大な影。“GLK”だ。 「街の防衛隊。リュークとその仲間か」 中継される戦闘の様子をモニターで眺めながら、リグシヴは口元に薄ら笑みを浮かべた。 “例のACは修理中” “パイロットも現在所在不明” “防衛設備に不備あり” 街に忍び込ませた内通者から、その情報を聞いたリクシヴにとって今は絶好の機会だった。 街を、物量を持って制圧できるまたとない機会だからだ。 (リューク・ライゼスと仲間のACだけ出したということは、余力はそれほど残っていないな) 冷静に彼は戦況を分析する。 自分が扇動した信者兵が駆る複数の機動兵器の部隊は、ほぼ100近い。 その手のACに対し、個々の戦力では劣るものの、物量では彼らを極限まで疲弊させるには十分である。 何よりも、その後に控える『例の兵器』と自分がいる。 (ユーリ。あの世で見ているか…?貴様が、最後まで守ろうとした“街”−。今日、この世から消させてもらうぞ−) リグシヴは、機体のスイッチを入れた。目も回るような速さで機体が目覚め、“GLK”は戦闘モードでその場を飛び立つ。 その後ろ姿を追うように、ACよりも巨大な鉄の化物が目を覚まそうとしていた。 そこは秘密基地と言ってもおかしくない、それは立派な施設だった。 廃墟と化した研究施設の地下に造られたそこは、この時代には立派というほどの諜報設備に囲まれていた。 レベッカによれば、巨大化した樹木も手伝って、諜報施設を作るには打って付けの場所だったらしい。 「ここを作ったのは初代代表だ。代表がまだミグラントだった頃、ここでこのエリア一帯の情報を仕入れていた」 指令室らしきそこで、レベッカは机をはさんでイグニスらと向かい合うように立ち、そう告げた。 イグニスは不思議な気持ちでいた。目の前にシスターと瓜二つの顔立ちの人物がいる。そして、彼女は言う。“どこから話せばいい?”と― 「ちょっと…、俺がここに来たのは、貴方の妹さんから『此処に来れば、全ての問題は解決するから』という遺言を預かったからだ。そんな謎かけな言い回しはやめてくれ」 困惑するイグニスに、レベッカは黙って振り返り、後ろにあった本棚から古びたフォルダーの一つを取りだした。 そのフォルダーに書かれているタイトルは、『魂の電子化』。 「あの時の…」 エリーゼは表情を変えず、小さく言葉を漏らした。 「“陽だまりの街”を舞台にした戦いは、全てはこの一冊のファイルから始まった。世界の崩壊直前に提唱されつつも、受け入れられなかったある実験の全てがここに書かれている」 そう告げて辞典並の厚さはあるそのファイルをイグニスの前に差し出した。 「私があれこれ語るよりも、これを君に”視て”貰った方が早いわ。今はゆっくり語っている時間はないようだしね」 そう告げて、駆け寄ってきた兵士の方を振り返る。 「隊長、先ほど“陽だまりの街”の郊外で大規模な戦闘が確認されました。街からも防衛機と思われるACの反応が二機出撃して、大量の機動兵器相手に戦闘を繰り広げています」 「二機の相手は”phantom-Children”ね」 「リグシヴめ。欲に目が眩んだ亡者が…」 ギリッと口元を噛み締めるイグニスを横目に、レベッカは“例のACを手配して”と部下に指示を出した。 「イグニス。貴方が、貴方がこの情報を知りたければ、まずは目の前の問題に決着をつけて来なさい。それが私からの条件よ」 そして、その手に持ったファイルを見せながら、レベッカはそう告げる。 「…シスター・リトナといい、貴方達姉妹は卑怯者だ」 「悪態つかれるのには、慣れているわ」 悪びれる様子もなくさらりと言葉を返すレベッカに、イグニスは大きく肩を落とし、 「上等だ。約束だからな?」 「えぇ、約束は守るわ。そして、その為にACも用意してある」 レベッカがそう告げると、側に控えていた兵士の一人が“こちらです”とイグニスを呼んだ。 それにイグニスは無言で兵士の案内についていく。 「私も行くわ」 兵士に誘導され、部屋を出たイグニスを追うようにエリーゼも跡を追う。 “僕も−”とその後を追うとしたネロとステラを、レベッカの手が邪魔をした。 「駄目。子供はここにいなさい」 強く、そして、優しさに満ちた口調でレベッカは、子供たちに諭す。 「心配しなくてもいいわ。彼らは必ずここへ来るからね」 ニコリっと笑って彼女は、子供たちの目の前でクルリと両手をまるで蝶のように廻すと、何もないところからその手の中に飴玉が現れた。 「それに、妹から君たちの事、よろしく頼むって頼まれているからね」 手品に驚き、飴玉を貰う二人の子供をなだめながら、レベッカは再度、戦いへと向かう二人の背中を見た。 (本当に、彼がシステムに選ばれた者なら…。あの絶望的な状況を打破できるわ。例え、その腕が“素人レベル”であっても−) “陽だまりの街”から北へ数キロ。 廃棄され、朽ち果てたかつての市街地が戦場となっていた。 けたたましく鳴り響く、鉄が裂ける音。 「喰らえッ…!!」 ジュンの咆哮と共にタイプTLの左腕が、宙に弧を描く。 次の瞬間、オイルを血しぶきの様に吹きあげ、防御型の機動兵器“R2B SHCHIT”(R2B)以下がその場に崩れ、爆散した。 それを見送ることもなく、タイプTLは大きく機体を旋回させ、眼前に迫った別のR2Bの腹部へ右腕をめり込ませた。 射突された灼熱の鉄杭が戻ると、腹に風穴を開けたR2Bはその場に倒れ、爆散する。 だが、その爆発も束の間、朽ちた仲間の残骸を押しのけて、また別の機動兵器が複数現れる。 「クソッ…。次から次へと…。ちょっとは休ませろ…」 顔の汗を拭いながら、ジュンは苦笑いする。 敵機の数は、ほぼ半分。タイプTRとの連携でかなりの数は倒した。 「ジュン、一度補給に戻れ。近接型じゃ、大部隊には部が悪い」 通信機越しにリュークがそう語る。 先から空中から敵を見下ろすように、空を飛びながら精密射撃を繰り返すタイプTRもそれほど余裕はない。 銃撃主体のタイプTRは、弾が切れたその時が最大のピンチだからだ。 それをカバーする意味で、対となるタイプTLは造られた。 近接と銃撃の連携運用。それがこの双子のACの最大の利点であり、同時に最大の欠点でもある。 「それはありがたいけど、今は遠慮しとくわ。もうすぐこの苦行もゴールが見えそうだしな!」 視線を画面の中央、敵機の壁の向こうにやる。 この部隊のボスらしき影がある。 「リグシヴッ!!」 リュークが叫ぶ。 その影の正体は、この部隊“phantom-Children”のリーダー、リグシヴ・ウェーバーが駆るAC“GLK”だった。 「さすが…と、いうべきか。たった2機で、この大部隊をここまで数を減らすとは…」 荒れた大地へ無数に散らばる機体の残骸を眺めながら、リグシヴは落ち着いた様子でそう告げた。 「どういうつもりか知らないが、数で我々を押しても、倒すことはできないぞ」 「…だな。だが、消耗させることはできる。そして、ここで足止めもできる」 「チッ…」 リュークは強く舌打ちした。想定していた通りの展開だからだ。 「息子の為に、お前たちへ何を施そうか、ずっと考えていた…」 GLKがゆらりと動く。敵が動く− 「そうだな…。お前達にも味あわせてやろう!!圧倒的な喪失感を…!!」 刹那、武器を構え、複数の機動兵器を従え、GLKは襲いかかってきた。 (これは…。覚悟が必要かもしれないな…) リュークは乱れ飛んでくる銃弾を避けながら、そう思った。 この状況は最初から予想はできた。いくらACとは言え、2機で大部隊を対処するには限界がある。 必ず、不利な状況になる。しかし、彼にも、一つの計算があった。 イグニスとタイプ0の存在である。 あの男とACは、戦況に不確定要素を持ち込む。先の戦いで、リュークはその一片を垣間見た。 玄人のACに、素人が駆るACが戦闘不能直前になるほどのダメージを喰らわせた。しかも、異常な機動で。 再びそれに期待したいのだ。 「イグニス…。早く戻ってこい…」 小さく叫び、リュークは愛機に鞭を打った。 5.終 あとがき 次回は、9月5日予定です。 近況は、オンとオフのバランスが難しい…(汗 やりたいこと、行きたいところ、一つ一つ順番つけてやらないといけませんね。 でわ、また…。 | ||||||||||||||||
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