突然の強襲 OK
――物凄い勢いで二機のACが駆け抜ける。
「っ、この先は外に出られるぞ」
『分かっている』
彼らが追っているのは2機の戦闘機である。
それもホバリング機能を持った最新鋭機である。
二人の仕事は、これの破壊だ。
だが、予想以上の機動力なので、見つけた後は今の様に逃げ回られる。
不意にレーダーに前方からの反応が表示される。
『ミサイル!?』
『何て数だ』
散会した二機を追い、ミサイルが壁を破壊する。
『地下で、こうも撃てるとは』
『恐らく何かしら中継地点を介している筈だ。
そうでなければ、入り組んだトンネル内を誘導の一切受けず、ミサイルが来れる筈ない』
まずはリコン探しから、と云う事だ。
只、それならリコンを辿れば戦闘機の所へ行ける筈だ。
二機は、その考えを元に足を進めた。
『今回の仕事は、最近AC活動が盛んになってる、この地化区域の見回りよ。
企業のACが居たら即刻撃破して』
「了解。
それにしても随分過激だな。
企業のACじゃなかったら如何するんだ?
それに、どっちに雇われた傭兵かが分らないんじゃ、手の付けようがない」
『専属ACは一応確認されてるわ。
それ以外なら対処は考えないと』
サイドディスプレイにACの情報が出る。
『警戒すべきはGAグループのレイヴン。
特に、この機体』
大きく映し出されたのはクォースィオアと言う機体だった。
防弾性に於いて尋常ならざる防御力を持つ機体だ。
エネルギー兵器に対しての防御力――耐熱性も同様だ。
防弾性程驚異的な硬さではないが、それでも並みのエネルギー火器ではブレード位しか通りそうな物が無い。
化学エネルギー弾に対する対爆性こそ一般的な重量級の平均数値だ。
皮肉ではあるが、それでもグレネード類で攻撃した方がよさそうだ。
「偉い防御力の高い機体だな。
何だ?
特殊装置だと?」
『エネルギーの幕を張ってシールド、ブレード両方として使えるらしいわ』
ブレードの威力こそ、低いがシールドのカット率が高すぎる。
しかも左腕に、そんな物を装備しておきながら肩の側面に装備するインサイドと肩の接続部の後ろにある背面装備部分すら両方にエネルギーシールド装置が装備されている。
数値を見る限り、重量級ならざるエネルギー性能を持っているが、エネルギー効率が良い訳でもないらしく、シールドの一括起動だけの為に高性能化した様な数値だ。
右腕には巨大な三連プラズマブレードが装備されている。
オーバードブーストの発生熱量や、その他の性能がかなり高い様なので、硬さに任せた特攻紛いの一撃を食らわせるつもりらしい。
それに、地味に両腰に予備火器と思われるパルスライフルが装備されているとも情報にある。
地上戦なら的だが、場所の限られた地下なら、全くの桁外れな力を見せつけてくるだろう。
幸い、今回の作戦区域は地上都市への出入り口が張り巡らされているので外に誘き寄せられない事はない。
だが、その殆どが企業区域や、その近くなので非常に厄介だ。
それでも、このトンネルは大陸の殆どのプラントに繋がっている。
モンスター犇めく地上を移動するより遥かに安全なので、レジスタンスで無くても、此処を制圧する価値は非常に高く、極めて重要な交通網なのである。
今回の仕事が出て来たのは、企業がトンネル制圧に乗り出したのか、MT部隊を数多く投入し出したからであり企業間での武力衝突が激しく、かつそれに乗じて暴走し出すレジスタンス勢力も多くなって来たからである。
自分達も、そうかは自分では分からないが、それでも比較的落ち着いていた地区の制圧を開始し、既に数か所の整備が始まっている。
其処を襲撃されこそしていないが近くに所属不明のACがうろつき始めたのだ。
情報が入ったのは数時間前で、それより先に所属不明の航空機らしき反応も侵入しており、此方のルートを辿ると、同盟コロニーが所有するプラントへの出口へ向かっている模様だ。
逃げる方か追う方かは分からないが、トンネルを通過する以上、其処迄大きな期待ではない筈だ。
なら襲撃の先行部隊の類と考えられる。
偵察情報をACに流し、ACがそれに従って各拠点を攻撃すると考えれば妥当な作戦行動だろう。
今回の仕事は、本当に襲撃者か、如何かの調べる事と共に両者の排除が目的となる。
修理のついでに改造して貰ったナストロファージに乗ってトンネルの一番近い入口から入るエグ。
「シャッターが吹き飛んでるぞ…?」
『…出たのかしら』
「…」
操縦桿の先にある小さなレバーを動かして頭部カメラを動かす。
何かを見つけたエグがレバーを押し込んでから、表示されたマーカーをレバーで動かして、それに当てる。
もう一度レバーを押し込み、コンソールを叩いて操作する。
「…リコン?
機能停止して随分経つらしいが」
『…これは…』
コンソール操作で送信した画像をエレンが見る。
「フォールドさん!」
エレンが、先輩を呼ぶ。
「このリコンって旧国日本の…」
「ええ、そうね」
ACやMTとは違う、ACのアセンブル思想の基本となった人型高機動戦闘兵器――ランガスと総称された機体郡。
その基本思想は嘗て全世界の大半の軍事主力兵器となった。
プラズマブースターの基礎も、その頃に発案された物で第三世代が開発される頃には、第一号プロトタイプ、及び実用化された物が基本装備となっていた。
今のAC程、自由度があった訳ではないが、様々な方式の兵器を搭載出来たランガスは組み上げ設計こそ違うが、発想の基本に於いてはACの先祖でもある。
その内、世界初の戦闘用高機動無人索敵ユニット『リコン』が開発され第四世代型機体郡の一部に搭載され始めた頃、企業の暴走化が始まり、一部であった、それが他社に広がり現在の社会と化している。
『敵反応!!』
次いでシステムからの警告
『トンネル内部より高エネルギー反応!!』
感情を持つ筈のないAIの声が、叫ぶ様に報告する。
自分が緊張や高潮しているから、そう聞こえたかもしれない。
そう思いながらエグは音声マイクを起動させた。
「戦闘モード スタンバイ!!」
『戦闘モード スタンバイ』
次いでエレンの声が聞こえる。
『距離を取って!
この音紋、かなり多いわよ!!』
バックブースターを吹かした瞬間、嫌な感が警告する。
「戦闘モード起動!!」
『メインシステム 戦闘モード、起動します』
戦闘用の出力に変化し、ジェネレーターのエンジンコイルが音を煩くする。
ディスプレイの防御スクリーンの出力ゲージが一気に溜まり、戦闘用の表示に変化する。
叩き付けたブーストペダルとサイドブースターペダル。
その刹那に、高出力レーザーが唸る。
四脚の黄色い迷彩柄のACが両手のロケットを乱射してくる。
『敵AC確認』
エレンが送信したデータがディスプレイに映る。
『敵AC、サンドストーン。
高火力のロケット弾による熱暴走に注意して下さい』
その後ろからレーザーの発射主であろうタンクACが出てくる。
オーバードブーストを多用し、タンクならざる動きを見せるが使用する脚部は明らかにGA社の重量タンクである。
タンクの側面部から出て来た大型バズーカを二丁持ってドバスカ連射してくる。
「っく、このっ…!!
数で押そうってか!?」
今日は左腕にレーザーブレードを選んだ。
「っ、おお!!」
ブーストジャンプした四脚ACへオーバードブーストで接近し、高さを合わせる。
左操縦桿でトリガー入力。
ヴァオン!!…ヴァォォオン!!
独特の音を轟かせ、その刃を叩き付ける。
『敵脚部損傷』
「近づくな、こいつ!」
レーザーを掠めながら、マシンガンを撃つエグ。
『左腕、肩部被弾 損傷極小』
「ぬううっ!!」
タンクACの上を陣取り弾の雨を降らせる。
『敵頭部被弾 敵コア損傷 敵右腕部破損』
『右!!』
突然のエレンの声に、ブーストカットし落下する。
頭上にロケット弾を飛ばした四脚ACが着地時に大きく姿勢を崩した。
ブースターで立て直して居る所へレーザーブレードを直撃させる。
『敵頭部破壊 敵コア破壊』
損傷の酷くなったコアから放電と黒煙が吹き荒れる。
左サイドブースターを吹かして離脱した所へレーザーが襲い掛かる。
『左腕肩部被弾 損傷大。
破損域に突入』
「くっ…!!」
タンクACが爆発する味方機を半ば踏み付ける様に着地し、超信地面旋回する。
バズーカをタンク内に格納していたガトリングガンに交換して、此方へ向ける。
「甞め――っ!!」
突っ込もうとするも、刹那に冷静な判断で否定する。
左側をオーバードブーストで駆け抜け補助ブースターのペダルを踏み付けつつ旋回する。
スラスターを吹かしながら着地したナストロファージを、そのまま旋回させタンクACへ直進させるエグ。
マシンガンを浴びせようとするもサイドブースターで右によけられる。
「あれだけの重量で、あんなに動けるのか!?」
ディスプレイには外見からの想定パーツと、それらを組み合わせた場合の推定重量値が表示されている。
ジェネレーター等の所謂『内装』を含んでいない数値だが、それでも3万台である。
3万台と言えば、尋常ならざる装甲を持ったフレームで機体を組む場合であろう数値である。
当然、回避は絶望的で、『攻撃を耐えながら火力で潰す』、非常に分かり易い戦い方となる。
それこそブースターを上手く使えば立ち回れない事もないが、逆を言うと、その程度なのだ。
当然ながら、回避できる筈もない。
が、目の前のタンクACは推力任せな機体に多くなりがちな直線的な動きで動いているが、速度だけなら重量二脚を採用した高火力ACの様だ。
現状、相手の腕部運動速度を上回る為、オーバードブーストを多用して居る為、当然だが近距離に持ち越せない。
「エレン、タンクの火力とスピードで近づけない!!」
『隠れる所は…周囲は何もないけど、地形の起伏は激しいわ。
谷に隠れて』
「そうは言うが…」
それでも、彼女の言に間違いはなかった。
それに、『砂漠』と表現する程、荒れている訳でもない。
足場が崩れる心配は、化学エネルギー弾による落盤位だろうし、しても高さ的に10メートル前後あるACには何の問題もない。
自動制御バランス感知システムもダメージを負っていないので、転倒しかけても自動噴射で立て直せるだろう。
世の中には、態々機体をひっくり返して、直上の爆撃機へ背部合わせて四門のグレネードカノン砲を直撃させられる荒業ばかりで戦うレイヴンも居るのだから。
オーバードブーストで距離を取りつつ、様子を窺う。
『敵AC、接近!
オーバードブーストを使用!』
「もう気づいたのか、結構鋭いな!」
丘になっていた部分が土煙で覆われる。
だが、砂漠で起こった場合程ではないので視界の妨げにならない様だ。
敵ACがルート後方に乗り込み、ガトリングガンで抱きの様に弾丸を叩き付けんとする。
寸前で斜線から飛び出したナストロファージが着地様にオーバードブーストを再点火し、一気に加速する。
エネルギー消費で表示されるゲージが0になる前に右旋回し、補助ブースターで何とか旋回を間に合わせる。
―自動姿勢調節システム作動―
―チャージング―
二つのサインが画面上に入る。
エネルギーゲージが空になり、ゲージが回復する間、エネルギーを使う一切の行動が不能となったのだ。
だが、エグとてミスでチャージングさせている訳ではない。
外気排熱口を全て開き、機体温度を下げる。
機体周囲の景色が歪み、温度ゲージが減り始める。
エネルギー供給に余裕のない状態では、冷却機に充分な供給が出来ず、通常冷却で終わってしまう。
この行為は、それを物理的に――排熱で行っているのだ。
チャージングさせるのには、ジェネレーターの供給を一旦通常値に戻す為だ。
戦闘に集中すると自然と機動が過激になる。
それを支えているのはブースターであり、その燃料の供給源は、それに応じてエネルギー供給量を増やすのである。
ACのジェネレーターは良く、人の心臓に例えられるが、実際に激しく動くと血液を多く送ろうと、心臓の鼓動が早まる。
ACのジェネレーターも同じだが、人の心臓と同じく、『供給量その物』を増量する為、ブースターには好都合でも、稼働フレーム――腕部や脚部の関節を動かしているモーターには食い過ぎ、つまり過負荷になる。
過負荷を受け続けたモーターは、次第にパーツとしての寿命が縮まる。
この程度なら整備レベルの話だが、(それでも長い目で見れば大問題)これが長時間続くと戦闘レベルの問題、即ち故障の原因になる。
戦闘中の故障は、敵の攻撃以上に恐ろしい物だ。
特に関節モーターが戦闘中に停止すると、機動力が大幅に低下してしまうのだ。
ACの機動力の支えの座にブースターが君臨するのは間違いないが、だからと言って、ブースターだけではACは戦闘はおろか、キャリアの乗り降りすら出来なくなってしまう。
縁の下の力持ち――と言うには明らか過ぎる当然の話だが、だからこそ関節モーター、特に脚部のモーターの停止等は極めて危険率が高いのだ。
しかもナストロファージの脚部は二脚だ。
重さの種類は兎も角、二本足と言うのは物凄く不安定なタイプだ。
殆どの動物が四本足なのも安定性を求めた結果、その様に進化して来た。
ACも同じで四脚やタンクの方が圧倒的に安定していて、事実安定が命の狙撃系はタンクや四脚が圧倒的に多い。
話が逸れたが、モーターの過負荷を避ける為のチャージングなのだ。
動物程、安定値に戻る時間が長くないので、距離が充分あれば有効な手段だ。
一旦、防御スクリーンの出力を落として、余裕を持たせる。
こうする事で、より安定した出力値の低下を求められるのだ。
ディスプレイに表示されているジェネレーター出力と供給数値が落ち着いた所でコンパターを操作して、通常の戦闘モードの出力値へ戻し、戦闘へ復帰する。
チャージング開始から20秒程、後ろに歩きながら小休憩を挟んで、敵ACの動きをみる。
相手はオーバードブーストを幾ばか停止と使用を繰り返しているらしい。
やはり供給出力が上昇していた様だ。
ディスプレイに表示されたオーバードブースト機構の残熱量ゲージが、それなりに残っている。
それでも機体の冷却は出来た。
通常冷却に変更し、機体を一歩進ませる。
『…』
エレンの息遣いが細心の注意を以て敵ACへ向けられている事を示す。
本来、オペレーターのしてはならない行為だが、エグは何も言わない。
「…」
機体の姿勢を低くして、ペダルにかける足に力を入れて踏む準備をする。
――チリリッ。
センサーが敵ACを感知する。
――ピリッ。
今度は戦闘距離と認識したFCSが敵を攻撃目標として認識する。
――ッチ。
ロックオン。
瞬間、ナストロファージが躍り出す。
ブースター全開で前へ出たナストロファージが左右に身を揺らし、攻撃を躱す。
反対に、一気に距離を縮めてレーザーブレードを当てる。
『敵左腕肩部破損』
AIが淡々と報告する。
『今』
次いでエレンが言う。
左方向へ甞める様にして標的を中心に円を描いてマシンガンを非近距離で乱射していたナストロファージが再びブレードを振るう。
『敵右腕破壊』
何とか正面へ捉えようとするタンクACがサイドブースターやバックブースターのノズルを調節するが、捉える前にジャンプしたナストロファージがマシンガンでトップアタックする。
『敵頭部破損』
滞空中に旋回して背後に着地、レーザーブレードのブレード形成装置を直接当てて発動させる。
――ジャブッ!!
背後に装甲を配置しているコアは少ない。
この機体も、同様だった。
急いで旋回した為、オーバードブースト機構の右肺の一部が焼け消え、大きな放電を始める。
バックブースターで後退すると、タンクACは大きく爆発してしまった。
『敵反応消滅』
『お疲れ。
一旦キャリアに戻って』
「了解」
「っ、この先は外に出られるぞ」
『分かっている』
彼らが追っているのは2機の戦闘機である。
それもホバリング機能を持った最新鋭機である。
二人の仕事は、これの破壊だ。
だが、予想以上の機動力なので、見つけた後は今の様に逃げ回られる。
不意にレーダーに前方からの反応が表示される。
『ミサイル!?』
『何て数だ』
散会した二機を追い、ミサイルが壁を破壊する。
『地下で、こうも撃てるとは』
『恐らく何かしら中継地点を介している筈だ。
そうでなければ、入り組んだトンネル内を誘導の一切受けず、ミサイルが来れる筈ない』
まずはリコン探しから、と云う事だ。
只、それならリコンを辿れば戦闘機の所へ行ける筈だ。
二機は、その考えを元に足を進めた。
『今回の仕事は、最近AC活動が盛んになってる、この地化区域の見回りよ。
企業のACが居たら即刻撃破して』
「了解。
それにしても随分過激だな。
企業のACじゃなかったら如何するんだ?
それに、どっちに雇われた傭兵かが分らないんじゃ、手の付けようがない」
『専属ACは一応確認されてるわ。
それ以外なら対処は考えないと』
サイドディスプレイにACの情報が出る。
『警戒すべきはGAグループのレイヴン。
特に、この機体』
大きく映し出されたのはクォースィオアと言う機体だった。
防弾性に於いて尋常ならざる防御力を持つ機体だ。
エネルギー兵器に対しての防御力――耐熱性も同様だ。
防弾性程驚異的な硬さではないが、それでも並みのエネルギー火器ではブレード位しか通りそうな物が無い。
化学エネルギー弾に対する対爆性こそ一般的な重量級の平均数値だ。
皮肉ではあるが、それでもグレネード類で攻撃した方がよさそうだ。
「偉い防御力の高い機体だな。
何だ?
特殊装置だと?」
『エネルギーの幕を張ってシールド、ブレード両方として使えるらしいわ』
ブレードの威力こそ、低いがシールドのカット率が高すぎる。
しかも左腕に、そんな物を装備しておきながら肩の側面に装備するインサイドと肩の接続部の後ろにある背面装備部分すら両方にエネルギーシールド装置が装備されている。
数値を見る限り、重量級ならざるエネルギー性能を持っているが、エネルギー効率が良い訳でもないらしく、シールドの一括起動だけの為に高性能化した様な数値だ。
右腕には巨大な三連プラズマブレードが装備されている。
オーバードブーストの発生熱量や、その他の性能がかなり高い様なので、硬さに任せた特攻紛いの一撃を食らわせるつもりらしい。
それに、地味に両腰に予備火器と思われるパルスライフルが装備されているとも情報にある。
地上戦なら的だが、場所の限られた地下なら、全くの桁外れな力を見せつけてくるだろう。
幸い、今回の作戦区域は地上都市への出入り口が張り巡らされているので外に誘き寄せられない事はない。
だが、その殆どが企業区域や、その近くなので非常に厄介だ。
それでも、このトンネルは大陸の殆どのプラントに繋がっている。
モンスター犇めく地上を移動するより遥かに安全なので、レジスタンスで無くても、此処を制圧する価値は非常に高く、極めて重要な交通網なのである。
今回の仕事が出て来たのは、企業がトンネル制圧に乗り出したのか、MT部隊を数多く投入し出したからであり企業間での武力衝突が激しく、かつそれに乗じて暴走し出すレジスタンス勢力も多くなって来たからである。
自分達も、そうかは自分では分からないが、それでも比較的落ち着いていた地区の制圧を開始し、既に数か所の整備が始まっている。
其処を襲撃されこそしていないが近くに所属不明のACがうろつき始めたのだ。
情報が入ったのは数時間前で、それより先に所属不明の航空機らしき反応も侵入しており、此方のルートを辿ると、同盟コロニーが所有するプラントへの出口へ向かっている模様だ。
逃げる方か追う方かは分からないが、トンネルを通過する以上、其処迄大きな期待ではない筈だ。
なら襲撃の先行部隊の類と考えられる。
偵察情報をACに流し、ACがそれに従って各拠点を攻撃すると考えれば妥当な作戦行動だろう。
今回の仕事は、本当に襲撃者か、如何かの調べる事と共に両者の排除が目的となる。
修理のついでに改造して貰ったナストロファージに乗ってトンネルの一番近い入口から入るエグ。
「シャッターが吹き飛んでるぞ…?」
『…出たのかしら』
「…」
操縦桿の先にある小さなレバーを動かして頭部カメラを動かす。
何かを見つけたエグがレバーを押し込んでから、表示されたマーカーをレバーで動かして、それに当てる。
もう一度レバーを押し込み、コンソールを叩いて操作する。
「…リコン?
機能停止して随分経つらしいが」
『…これは…』
コンソール操作で送信した画像をエレンが見る。
「フォールドさん!」
エレンが、先輩を呼ぶ。
「このリコンって旧国日本の…」
「ええ、そうね」
ACやMTとは違う、ACのアセンブル思想の基本となった人型高機動戦闘兵器――ランガスと総称された機体郡。
その基本思想は嘗て全世界の大半の軍事主力兵器となった。
プラズマブースターの基礎も、その頃に発案された物で第三世代が開発される頃には、第一号プロトタイプ、及び実用化された物が基本装備となっていた。
今のAC程、自由度があった訳ではないが、様々な方式の兵器を搭載出来たランガスは組み上げ設計こそ違うが、発想の基本に於いてはACの先祖でもある。
その内、世界初の戦闘用高機動無人索敵ユニット『リコン』が開発され第四世代型機体郡の一部に搭載され始めた頃、企業の暴走化が始まり、一部であった、それが他社に広がり現在の社会と化している。
『敵反応!!』
次いでシステムからの警告
『トンネル内部より高エネルギー反応!!』
感情を持つ筈のないAIの声が、叫ぶ様に報告する。
自分が緊張や高潮しているから、そう聞こえたかもしれない。
そう思いながらエグは音声マイクを起動させた。
「戦闘モード スタンバイ!!」
『戦闘モード スタンバイ』
次いでエレンの声が聞こえる。
『距離を取って!
この音紋、かなり多いわよ!!』
バックブースターを吹かした瞬間、嫌な感が警告する。
「戦闘モード起動!!」
『メインシステム 戦闘モード、起動します』
戦闘用の出力に変化し、ジェネレーターのエンジンコイルが音を煩くする。
ディスプレイの防御スクリーンの出力ゲージが一気に溜まり、戦闘用の表示に変化する。
叩き付けたブーストペダルとサイドブースターペダル。
その刹那に、高出力レーザーが唸る。
四脚の黄色い迷彩柄のACが両手のロケットを乱射してくる。
『敵AC確認』
エレンが送信したデータがディスプレイに映る。
『敵AC、サンドストーン。
高火力のロケット弾による熱暴走に注意して下さい』
その後ろからレーザーの発射主であろうタンクACが出てくる。
オーバードブーストを多用し、タンクならざる動きを見せるが使用する脚部は明らかにGA社の重量タンクである。
タンクの側面部から出て来た大型バズーカを二丁持ってドバスカ連射してくる。
「っく、このっ…!!
数で押そうってか!?」
今日は左腕にレーザーブレードを選んだ。
「っ、おお!!」
ブーストジャンプした四脚ACへオーバードブーストで接近し、高さを合わせる。
左操縦桿でトリガー入力。
ヴァオン!!…ヴァォォオン!!
独特の音を轟かせ、その刃を叩き付ける。
『敵脚部損傷』
「近づくな、こいつ!」
レーザーを掠めながら、マシンガンを撃つエグ。
『左腕、肩部被弾 損傷極小』
「ぬううっ!!」
タンクACの上を陣取り弾の雨を降らせる。
『敵頭部被弾 敵コア損傷 敵右腕部破損』
『右!!』
突然のエレンの声に、ブーストカットし落下する。
頭上にロケット弾を飛ばした四脚ACが着地時に大きく姿勢を崩した。
ブースターで立て直して居る所へレーザーブレードを直撃させる。
『敵頭部破壊 敵コア破壊』
損傷の酷くなったコアから放電と黒煙が吹き荒れる。
左サイドブースターを吹かして離脱した所へレーザーが襲い掛かる。
『左腕肩部被弾 損傷大。
破損域に突入』
「くっ…!!」
タンクACが爆発する味方機を半ば踏み付ける様に着地し、超信地面旋回する。
バズーカをタンク内に格納していたガトリングガンに交換して、此方へ向ける。
「甞め――っ!!」
突っ込もうとするも、刹那に冷静な判断で否定する。
左側をオーバードブーストで駆け抜け補助ブースターのペダルを踏み付けつつ旋回する。
スラスターを吹かしながら着地したナストロファージを、そのまま旋回させタンクACへ直進させるエグ。
マシンガンを浴びせようとするもサイドブースターで右によけられる。
「あれだけの重量で、あんなに動けるのか!?」
ディスプレイには外見からの想定パーツと、それらを組み合わせた場合の推定重量値が表示されている。
ジェネレーター等の所謂『内装』を含んでいない数値だが、それでも3万台である。
3万台と言えば、尋常ならざる装甲を持ったフレームで機体を組む場合であろう数値である。
当然、回避は絶望的で、『攻撃を耐えながら火力で潰す』、非常に分かり易い戦い方となる。
それこそブースターを上手く使えば立ち回れない事もないが、逆を言うと、その程度なのだ。
当然ながら、回避できる筈もない。
が、目の前のタンクACは推力任せな機体に多くなりがちな直線的な動きで動いているが、速度だけなら重量二脚を採用した高火力ACの様だ。
現状、相手の腕部運動速度を上回る為、オーバードブーストを多用して居る為、当然だが近距離に持ち越せない。
「エレン、タンクの火力とスピードで近づけない!!」
『隠れる所は…周囲は何もないけど、地形の起伏は激しいわ。
谷に隠れて』
「そうは言うが…」
それでも、彼女の言に間違いはなかった。
それに、『砂漠』と表現する程、荒れている訳でもない。
足場が崩れる心配は、化学エネルギー弾による落盤位だろうし、しても高さ的に10メートル前後あるACには何の問題もない。
自動制御バランス感知システムもダメージを負っていないので、転倒しかけても自動噴射で立て直せるだろう。
世の中には、態々機体をひっくり返して、直上の爆撃機へ背部合わせて四門のグレネードカノン砲を直撃させられる荒業ばかりで戦うレイヴンも居るのだから。
オーバードブーストで距離を取りつつ、様子を窺う。
『敵AC、接近!
オーバードブーストを使用!』
「もう気づいたのか、結構鋭いな!」
丘になっていた部分が土煙で覆われる。
だが、砂漠で起こった場合程ではないので視界の妨げにならない様だ。
敵ACがルート後方に乗り込み、ガトリングガンで抱きの様に弾丸を叩き付けんとする。
寸前で斜線から飛び出したナストロファージが着地様にオーバードブーストを再点火し、一気に加速する。
エネルギー消費で表示されるゲージが0になる前に右旋回し、補助ブースターで何とか旋回を間に合わせる。
―自動姿勢調節システム作動―
―チャージング―
二つのサインが画面上に入る。
エネルギーゲージが空になり、ゲージが回復する間、エネルギーを使う一切の行動が不能となったのだ。
だが、エグとてミスでチャージングさせている訳ではない。
外気排熱口を全て開き、機体温度を下げる。
機体周囲の景色が歪み、温度ゲージが減り始める。
エネルギー供給に余裕のない状態では、冷却機に充分な供給が出来ず、通常冷却で終わってしまう。
この行為は、それを物理的に――排熱で行っているのだ。
チャージングさせるのには、ジェネレーターの供給を一旦通常値に戻す為だ。
戦闘に集中すると自然と機動が過激になる。
それを支えているのはブースターであり、その燃料の供給源は、それに応じてエネルギー供給量を増やすのである。
ACのジェネレーターは良く、人の心臓に例えられるが、実際に激しく動くと血液を多く送ろうと、心臓の鼓動が早まる。
ACのジェネレーターも同じだが、人の心臓と同じく、『供給量その物』を増量する為、ブースターには好都合でも、稼働フレーム――腕部や脚部の関節を動かしているモーターには食い過ぎ、つまり過負荷になる。
過負荷を受け続けたモーターは、次第にパーツとしての寿命が縮まる。
この程度なら整備レベルの話だが、(それでも長い目で見れば大問題)これが長時間続くと戦闘レベルの問題、即ち故障の原因になる。
戦闘中の故障は、敵の攻撃以上に恐ろしい物だ。
特に関節モーターが戦闘中に停止すると、機動力が大幅に低下してしまうのだ。
ACの機動力の支えの座にブースターが君臨するのは間違いないが、だからと言って、ブースターだけではACは戦闘はおろか、キャリアの乗り降りすら出来なくなってしまう。
縁の下の力持ち――と言うには明らか過ぎる当然の話だが、だからこそ関節モーター、特に脚部のモーターの停止等は極めて危険率が高いのだ。
しかもナストロファージの脚部は二脚だ。
重さの種類は兎も角、二本足と言うのは物凄く不安定なタイプだ。
殆どの動物が四本足なのも安定性を求めた結果、その様に進化して来た。
ACも同じで四脚やタンクの方が圧倒的に安定していて、事実安定が命の狙撃系はタンクや四脚が圧倒的に多い。
話が逸れたが、モーターの過負荷を避ける為のチャージングなのだ。
動物程、安定値に戻る時間が長くないので、距離が充分あれば有効な手段だ。
一旦、防御スクリーンの出力を落として、余裕を持たせる。
こうする事で、より安定した出力値の低下を求められるのだ。
ディスプレイに表示されているジェネレーター出力と供給数値が落ち着いた所でコンパターを操作して、通常の戦闘モードの出力値へ戻し、戦闘へ復帰する。
チャージング開始から20秒程、後ろに歩きながら小休憩を挟んで、敵ACの動きをみる。
相手はオーバードブーストを幾ばか停止と使用を繰り返しているらしい。
やはり供給出力が上昇していた様だ。
ディスプレイに表示されたオーバードブースト機構の残熱量ゲージが、それなりに残っている。
それでも機体の冷却は出来た。
通常冷却に変更し、機体を一歩進ませる。
『…』
エレンの息遣いが細心の注意を以て敵ACへ向けられている事を示す。
本来、オペレーターのしてはならない行為だが、エグは何も言わない。
「…」
機体の姿勢を低くして、ペダルにかける足に力を入れて踏む準備をする。
――チリリッ。
センサーが敵ACを感知する。
――ピリッ。
今度は戦闘距離と認識したFCSが敵を攻撃目標として認識する。
――ッチ。
ロックオン。
瞬間、ナストロファージが躍り出す。
ブースター全開で前へ出たナストロファージが左右に身を揺らし、攻撃を躱す。
反対に、一気に距離を縮めてレーザーブレードを当てる。
『敵左腕肩部破損』
AIが淡々と報告する。
『今』
次いでエレンが言う。
左方向へ甞める様にして標的を中心に円を描いてマシンガンを非近距離で乱射していたナストロファージが再びブレードを振るう。
『敵右腕破壊』
何とか正面へ捉えようとするタンクACがサイドブースターやバックブースターのノズルを調節するが、捉える前にジャンプしたナストロファージがマシンガンでトップアタックする。
『敵頭部破損』
滞空中に旋回して背後に着地、レーザーブレードのブレード形成装置を直接当てて発動させる。
――ジャブッ!!
背後に装甲を配置しているコアは少ない。
この機体も、同様だった。
急いで旋回した為、オーバードブースト機構の右肺の一部が焼け消え、大きな放電を始める。
バックブースターで後退すると、タンクACは大きく爆発してしまった。
『敵反応消滅』
『お疲れ。
一旦キャリアに戻って』
「了解」
13/03/07 12:47更新 / 天