連載小説
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アンタレスの光 OK
 エグの愛機、ナストロファージ。
最近、どうも調子が悪く、今はシステム系の調整をしている。
 「これは…エネルギー系が調子悪いな。
幾らシステムで調節しようが、故障迄誤魔化せない。
 一体何で、こうなったんだ?」
「訊かれても分からないな。
俺は調子が悪いから、相談しただけで」
「例の幽霊もどきが悪さしたのかな?」
整備員は困った様子で頭を掻いた。
 「取り敢えず、今日辺りの仕事はないんだし。
嫁さんとデートしたらどうだ?」
「仕事は区切りついたんだが、行く所がなくてな。
コロニーの外は空気が悪くて話にならない。
環境保護区域は企業が担当してるから無理だし。
それ以前に、あの類は凄まじく遠いんだよなぁ…」
「仕方ないだろう。
 それよりコロニー間の同盟がある訳だし。
お前さん、傭兵業はしないのか?」
レイヴンと言えば傭兵である事は、一般的には普通だ。
だが、エグは違う。
「俺はACのパイロットであって傭兵って訳じゃないしな。
乗ってるのだって同意こそすれ、発端はリーダーが持ちかけた訳だし」
外を延々と放浪するしかなかった彼を保護してくれた当時のコロニーリーダーは寿命を全うしており、今のリーダーは、その息子である。
 「まあ、あいつが言うんなら、別に如何って訳でもないんだけども」
今の所、それらしい事は知らない。
エレンに訊けば教えてくれるだろうが、必ずしも仕事が来る訳ではない。
それ以上に、エグはMT部隊の指揮官も任されている。
隊長が隊を放って外に出るのは論外だ。
かと言ってMTを引き連れる位なら余程の事でない限り、一人で出撃した方が良い。
 「で、結局時間はどれ位必要なんだ?」
「まあ、今の所原因は不明って感じだな。
原因を探すのも、システム面じゃなくて、パーツ面からアタックした方が良い訳だ。
だから、全部調べるなら総当たりで一月と一週間って所かな?」
「それだけあれば、充分なんだな?
その間、俺は別の仕事をすればいい、と?」
「そりゃあ、リーダー様に訊きな。
仕事があるかないかは、あの人が決めるんだし」
「りょーかい、っと」
 「俺はリーダーに機体の調整を報告する。
点検は怠ってた訳じゃねぇんだが、最悪の事も考える必要があるしな」
「あの人の様にMTに乗って戦える訳じゃないんだ、とは言ってくれ」
「あいよ」


 同じ頃、エレンは会議室で驚いていた。
「そんなっ、あれが兵器!?
ジオ社のですか!?」
「可能性の話だ、エレン」
 資金運用者のケティーヴァ・ルフドルトフ。
おっさんの愛称で親しまれる彼は、資金面だけでなく諜報面でも相当の腕利きだ。
元は企業側だったが、失敗を部下に付け込まれて、卑劣な計画の踏み台にされたらしい。
其処を現リーダーがリーダーになる前、腕試しの旅の最中、拾ったらしい。
 「あれが実際がどうかは俺も分からん。
だが、気を付けた方が良いのは事実だ。
あれが廃棄ドームの監視カメラならジオ社に俺達のルートを知られた可能性が高い。
あのプラントコロニーは俺達だけでなく同盟を結ぶコロニーにも重要な施設だ。
この荒れ果てた世界で数少ない、真面に野菜や果物が育てられる貴重な所だ。
ルートを辿られて、あれが知られた可能性が高い以上、同盟間会議に出す議題の最優先事項だ。
分かるな、エレン」
「それは分かります。
分からないのは、あの幽霊もどきが監視カメラや兵器だなんて――」
「――実際、システム介入されている以上は、だエレン」
言葉を遮って強調するケティーヴァ。
「……あれが…監視員。
監視員…なんですか」
「そうだ」
(…本当に…そう、かな…?)
あの恐怖は何だろう。
見た目に惑わされた、と言われれば納得せざる得ない。
只、それだと分からない部分が確かにあるのだ。
あの時、エグやトラックの運転手を含めた出撃した全てのパイロット達が口を揃えて「モニターに顔が映った」と言っていた。
その後も近距離通信は出来たらしいが、結局エレンとエグが通信出来たのは、それ以降の事だ。
ドームから運搬部隊が出る迄、通信に不自然な雑音が紛れていたのも事実だ。
 だが、ケティーヴァは、それを含めた大部分に関してはエレンに事を言うつもりはないらしい。
「まあ、一介のオペレーターが全部知っても意味はないからなぁ
同盟グループ内でも、このコロニー自体、兵器開発を請け負ってるだけで、重要視されているプラント能力は皆無だから、結構下だし。
 せめてエグが、もっと強ければなぁ」
「エグが悪いんですか?」
ついカッとなって口を出してしまうエレン。
「まあ、アームズフォートは倒せないだろう?」
そう言われたエレンは、自分自身の事を言われた訳でもないのに、あからさまに怒った。
「じゃあアームズフォート狩りさせるんですか!?
知ってるでしょう、腕が突出したレイヴンが片っ端から暗殺されるのを!!」
「それはオペレーターの情報収集が悪いからじゃないか?」
「…フランス人って嫌味ばかりで!!」
そのままエレンは会議室を出てしまった。
 「ありゃ担当レイヴンが嫌な風に言われたから、じゃなくて夫が悪く言われたから、の反応だなぁ…」
 「そう思うなら何故嫌味ばかり言うんだい?」
「うおっ!?」
突然の声に振り向くケティーヴァ。
「アンタレスさん!!
い、居たんなら居るって言ってくれれば…!!」
「言ったら仕事仕事煩いでしょ?」
「だっ、そりゃあ、そうですよ。
何で、こんな所に?」
「僕が此処に居て駄目な事が?」
「そりゃ屁理屈ですよ」
ケティーヴァは溜息交じりに言うがアンタレスは気にしない様子だ。
それがアンタレスらしいと言えば、アンタレスらしいが、もう少し此方の事を考えて欲しいと願うのは仕方ない事かも知れない。
少なくとも今のケティーヴァは、そう感じる。
 「そうそう」
唐突にアンタレスが話題を放り込んで来た。
「例の幽霊もどき、地下トンネル全域を走り回ってるよ」
「何で貴方が、それを知ってるんですか?」
「リーダールートって奴だよ。
君も言ったろう、一介のオペレーターが知っても無意味だって。
要は、そう云う事だね」
(教える気はない、と)
「そゆ事」
「!?」
口に出した筈のない言葉の返事をされてケティーヴァは驚いた。
 「見え見えだよ」
「見え見えって…」
アンタレスの左目が青く輝く。
それは比喩ではない。
そもそも彼の瞳の色は黒だ。
そして青色に変わった訳でもない。
 「気にしても仕方ないよ。
知れば君も潰れかねないから」
そう言ってアンタレスが自分の横を通り過ぎようとする。
「待ってくださ――えっ!?」
その手の動きは、確実にアンタレスの肩を掴んだ筈だった。
だが、感触がなかった。
アンタレスの姿もない。
急いで部屋から飛び出て左右を確認するも、やはりアンタレスは居なかった。
 ケティーヴァは自分の掌を見ながら、首を傾げるばかりだった。
13/03/07 12:46更新 /
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■作者メッセージ
メイン文章だと思ってたら目次でした。
そして誤字が。
直し方が分かりません。

アンタレスは謎多き者です。

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まろやか投稿小説 Ver1.50