連載小説
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地下トンネル内調査前編 OK
 水を掻き分けながら灰色の軽量二脚のACがトンネル内をブーストダッシュする。
 機体は肩が丸みを帯びており、脚は追加装甲の余りを取り付けた軽い割に防御性能の高い脚部である。
元々は、スナイパー系のACやMTに使う予定だったのが、予定機体含めた部隊が飛龍に壊滅させられており、それをエグがコロニー内部のマーケットで買い取り、担当ガレージの整備士に頼んだ物である。
 彼の愛機、ナストロファージは軽さと防弾性に優れる反面、エネルギー兵器に弱めで、対爆性は軽さと相応程度である。
上半身中心の数値では、そうでもないが全体的には驚異的な硬さを誇る。
 そんなナストロファージは専用ジェネレーターを使用している。
特に供給エネルギー量に気を配り、余剰容量を元より削った物である。
関節モーターも幾つか試し、納得出来る運動性に引き上げる頃には、一般的な企業社会のひよっこレイヴンがベテランになる頃に機体強化している平均期間を大幅に超えていた。
しかし、腕自体はベテラン以上の水準を持つ。
 そんな彼に苦を感じさせた、入り口での敵襲は、本人には負担になっていた。
あの二機は残骸が余剰スペースに一緒に纏められてキャリアに積まれている。
どうせ、帰りは最大限安全を確保したルートをMT達に護衛されて帰るのだ。
回収部隊に採用されている機種も、余裕を確保する為に配備されているので呼んで貰おう、とエグ達は考えた。
 暗視機能を使った視界は、僅かに配置されたランプの姿が前から後ろへ流れるのみである。
 『そろそろ中央部。
本当、静かね』
「これが普通なんだろうな。
だが、お蔭で余計に怖い」
表情こそ、通常の任務モードだが、多少強張って居る所は、怖さがあるからだろう。
 「…忌々しい亡霊共が…」
小さく舌打ちしながら呟くエグ。
 だが例の幽霊もどきの事は、関係ないと思考の外に追い出した。
 「…おいおい、本当に中央部に到着したぞ」
そう呟いたのは数分後だった。
機体を左に軽く旋回させて、右肩のサイドブースターをブレーキ出力で一時的に噴射して止まるナストロファージ。
 だだっ広い空間に水が落ちる。
滝その物である。
「これは…何の水だったかな?」
『確か、此処に繋がっているのはジオ社が30年前に破棄したダムからじゃなかったかしら。
水力発電所』
「例の古代技術を起動させる為の電源施設か。
企業連合会議とやらで、古代兵器の類は全て研究禁止になって、それ関連の他のジャンルも、ちょこちょこお互い違反し合って牽制し合っている関係ってのが、数グループあったな」
 此処の水の流れ元を話していると、行き成り揺れが走った。
『地下最下層…駄目、深すぎて確認出来ない』
「だが、かなり危険だ。
離脱する、キャリアを用意してくれ」
『分かったわ』
急いで機体を反対に向かせてオーバードブーストを作動させる。
ブースター・パッケージが開きノズルが回転しながら現れる。
次いで、エネルギーをチャージする。
ブーストエンジン機関部が唸りを上げ、プラズマを生成する。
凄まじい濃度のプラズマをブラスター機構で破壊し、そのエネルギーをノズルから解放、莫大な推進力で機体を進める。
 『最下層より大規模な連鎖爆発と思われる熱源、連続出現!
出現速度、加速!』
コクピットに衝撃が伝わってくる。
「何が起こった!?
何故爆発した、一体何が!?」
『分からないわよ!
でも…嘘、すぐ後ろが爆発した!!』
「今爆発したのは…」
『――、――!!』
「!?
お、おい!!」
突然、高濃度のプラズマが発生し、通信が切れる。
 「幽霊もどきが出たのか!?」
だが、その様子はなさそうだ。
仮にあっても、この調子では幽霊もどき諸共トンネルが総崩れしてしまう。
(畜生が!!)
コンパターを操作して戦闘出力の全てをオーバードブースト機構に多く回し、残りをブースターの高出力噴射へ回す。
F1カーの如く、直線カーブをサイドブースターを駆使して曲がり、曲がりきれなければ壁を蹴ってでも曲がり切る。
水につからない様にして、無駄な浪費を避け、出口付近へ来る頃には、その水もなくなっていたが、爆発は迫るばかりである。
 『――、――エグ!!』
通信が復帰する。
目の前のドアはハッキングしたりすれば開くだろうが、そうでない可能性も高い。
それ以前に、どの道ハッキングする余裕もないのでマシンガンで破壊を試みる。
それでも破壊しきれないと悟ったエグが左腕部装備のレーザーブレードへ全出力を回して至近距離で振るう様に機体に命じる。

 ―――――ジュオン!!

強烈な熱膨張により被害が拡大し、大穴が開くドア。
其処からナストロファージがオーバードブーストの余剰慣性に身を任せて飛び出す。
 瞬時に通常出力値に戻し、機体を止める。
サイドディスプレイに表示されているオーバードブースト機構の熱量ゲージが満タンになり、オーバーヒートの警告文字が点滅していた。
 『…生きてるわよね?』
エレンの不安げな声が聞こえる。
「ああ……。
生きてる」
 静かに、自らの生存を報告したエグはディスプレイやモニターの表示から愛機の状態を確認していた。
ジェネレーターは負荷が掛かり、修理しないと今後調子が出ないであろう事は明らかだ。
他のブースター、特にサイドブースターとバックブースターは、噴射負荷は問題無かった様だが、熱で変形したのか、―ノズルダウンーの警告文が点滅していた。
 こいつは修理費が嵩むな、とエグは溜息をついた。
『溜息つくと幸せ逃げるよ?』
「お前と居るんだ。
遠ざかる訳がなかろう」
 呆れていったエグの言葉の直後、レーダーに反応が現れた。
『エグ。
随分酷い有様だな。
オーバーヒートだらけじゃねぇか』
「エオルド、あんたが運転してるのか?」
ナストロファージ専属整備班の班長にして、MT一番大隊所属1番部隊に所属する第1ガレージの副ガレージ長である、年配手前の男性である。
その手腕からエグ達も良く羨ましがられる。
 『ああ、兎に角乗れ』
整備班長と言え、普通MT部隊の隊長に言う言葉ではない。
それこそ、幾らエグが自分より年下であろうと、敬語でないのは普通として、言い方は乱暴である。
だが、エグもエレンも相応の腕を持ち、自分達を支えていると思っているので文句もなく、二つ返事で指示に従った。
彼に掛かればキャリアに機体を乗せれば邪魔が入らぬ限り、機体は完璧な状態になる。
ある種、常識のルールの様な類になっているが、決して彼が凄腕である事を忘れてはならない。
他のガレージでは皆腕は良いが、彼に敵う整備士は居ない。
同盟コロニー内でも、他コロニーで彼の名を聞くと、遠征から帰ってきたパイロットや整備員からも聞くので、相当な腕であろう。

 整備が始まって数分。
エグはコクピットから出て、エレンの入れたお茶を楽しんでいた。
このキャリアのクルーもそうだが、コロニーには如何も当たり前の様に日本文化が往来している。
神社や寺はあるし、その数は住人の数からしても少々多い気がするとエグは感じる。
だが、それぞれ祭ってある仏像や神様の意味は全く違う。
その為、コロニー内の感覚で神様と言うと、他のコロニーでは通じないのが常だ。
その大体が神道や仏教ではなく、宗教な上に、そもそも宗教概念がないのが多かったりする。
それ以上に文化と云う概念すらないのが普通だ。
企業社会なら宗教は企業にとって利益になりえないし、それ以外の小型社会やレジスタンス社会でも、あまり意味をなさない。
レジスタンス社会なら小型社会程無宗教が広がっている訳でもなく、寧ろ神が存在し、それを信仰し、その教えに背く企業に対して反抗する、と云うのが大体のケースだ。
だが自分達のコロニーでは、それ自体が戦う理由ではない。
 何にせよ、文化を維持できる程、安定出来ているのはプラントコロニーの恩恵だろう。
だからこそ、食事の際は、「頂きます」と言ったりするのだろうが。
 ともあれ、プラントコロニーは、それだけ重要度が高いだ。
無論、それを潰せば、レジスタンス勢力は一気に力を落とすし、接収出来れば、企業社会に於いても莫大な利益が獲得出来る。
企業間でのプラントコロニー争奪戦が勃発すれば、レジスタンス経済にも大打撃を与えるのは確実だ。
だから、レジスタンス勢力は、他勢力と共同で、プラントを共有し防衛する。
生半可なドラゴンやACの襲撃が「へっちゃらだ」と言える程に。
その必要があるからこそ、複数のプラントコロニーとレジスタンスコロニーを結ぶ地下通路の制圧状況は非常に重要で、故に企業部隊が制圧を目論むのは当然の理である。
 只、企業のプラントは必要最低限の食材を生み出す程度の、乏しい生産能力しか有さず、規模や数はレジスタンス社会のそれと比べ物にならない程小さい。
単に文化が発生すれば宗教も発生するから、という流れを阻止したいのが最大の理由な上、企業社会は、それこそ中世の平民と貴族、といった具合にレベルに明らかな差があるのだ。
しかも同じ平民、貴族の中でさえ、ばかばかしい程さが大きいのだ。
 「ふう。
緑茶も茶葉が結構安定して来たな…」
「他の所じゃ絶対手に入らない、超高級品だけどね」
「下手なAC用パーツより滅茶苦茶高いだろうな。
まあ、その辺の経済能力があって漸く企業と渡り合えて入るんだがな」
 百年程前迄は世界中が、様々な国で覆われていた。
企業に社会を乗っ取られてからは、文化や宗教等を奪い取られる事を嫌う者達がレイヴンに何万と虐殺された。
故に、レジスタンスでなくても外部コロニー市民達にとってレイヴンは勿論、企業社会市民さえ恨みの対象になる。
 「整備は終わった。
取り敢えず、冷却系と出力系は大丈夫だ。
応急処置だから他も含めて帰ったら本格的な仕事だけどな。
安心しろ、でかい訳じゃない」
「安心だな」
「そうね、戦力が落ちなくて助かるわ」
「一週間は動けないが、まあドラゴンもMTで対処できるし。
ACが来なきゃ問題ねぇさ」
「よかった」
 
 だが彼らの後を追う影があった。
それに気づくのは後の事だった。
13/03/07 12:48更新 /
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■作者メッセージ
AC恒例の探索ミッション。
けど、敵がいない!!
幽霊もどきは勿論、そもそも碌に敵MTの描写が出来てません。
特に区切りがある訳でもないですが後編へ。

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まろやか投稿小説 Ver1.50