――爆炎が晴れ、そして姿が見える。
「嘘だろ…！？」
武装は無い。
装甲も溶けている事から、レーザーで破壊したと思われる。
だが、稼働している。
「あれだけ物理的に消し飛んでおいて、まだ生きてるのか！？」
上空へ旋回し、機体を傾ける。
　黒鋼が両腕をラプターへ向ける。
『回避しろ、攻撃が！！』
慌てて回避運動を取ったラプターだが、時既に遅かった。
機体の多くを焼き取った魔法弾が市役所に直撃、隣の保育園と一緒に消し飛んだ。

　自衛隊最新鋭ユグラドライヴの不知火が街を駆け抜ける。
『目標１、市民防衛だ！
敵は一機だが、米軍の最新鋭戦闘機が一機撃墜された。
現在在日米軍基地から同型機による応援部隊が本空域へ急行中との事。
我々は陸上自衛隊と連携して市民避難を護衛する。
敵機撃墜より護衛を優先しろ。
　尚敵は黒鋼、先月の強奪事件の犯人と思われる。
現在確認されているだけで被害は大きい、これ以上民間人をやらせるな！！』
　隊長機からの連絡の後、今度は指示が出る。
『防衛目標は各部隊で担当しろ』
各機の視界にウィンドウが表示される。
表示内容は目標座標と現在の避難完了率、敵のレーダー反応である。
『第一機動連隊はＡ地点、Ｂを第五攻撃部隊。
第五攻撃部隊はＡ地点を防衛する連隊の後方火力支援だ。
　Ｃを第二機動連隊、Ｄ地点を総合作戦エンジニア部隊と第四機動連隊。
第四機動連隊は本作戦に於いてエンジニア部隊による二次指揮下に入る。
　作戦内容は以上。
各隊員が、これを遂行して防衛作戦構築とする。
防衛作戦は全区画の避難完了。
完了次第敵機撃墜任務へと移行する。
　――状況開始！！』
　それぞれが散会、指定の場所へ急行する。
　（何だよ、この状況は！！）
Ａ地点へ向かう部隊の隊員の一人が心の中で困惑している。
　『３番機、バイタル不安定だ。
何かあったか？』
「い、いえ。
問題ありません」
『…その割には脈搏が……。
具合が悪いなら、任務の邪魔にもなりかねん。
一旦下がれ』
「大丈夫です！！」
『…まあ、それ位声を出せるなら多少は目を瞑ってやろう』
　其処へ更に緊急通信。
『敵、建御雷撃破！
建御雷、市内の総合病院へ落下！
激突を阻止して下さい！』
「こんな時に！？」
ハッと空を見上げると制御不能となった建御雷が病院へ一直線である状態が見えた。
『あの病院の地下はシェルターだ！！
落ちるのを阻止しろ。
最寄は…第一機動連隊３番チームか。
　３番チーム、急行しろ』
『任務の一部変更を了解。
３番機、置いてけぼりにならない様に必死こけ！！』
「了解！！」

　建御雷を撃墜した黒鋼。
その黒鋼に突如衝撃が走った。
下を確認すると、迎撃戦闘トレーラーが荷台に搭載してある二門のレールガンを此方へ向けており、一門は煙を軽く吹いていた。
　隣のレールガンが充填を開始する。
「第二電磁投射砲、充填開始！！」
　させん、とばかりにまっすぐ突っ込む黒鋼。
左腕全体を媒体にマジックソードを展開するが、充填阻止を他の自衛隊員が行う。
　邪魔だ、と声に出さぬまま魔力弾を放ち、対魔術結界突破用大型バレットガンを撃っていた自衛隊員達数名を建物の屋上毎吹き飛ばす。
　瓦礫が落ちる中、真下の駐車場から飛び出して来た１０式戦車が主砲を放つ。
が、砲弾をマジックソードで斬る。
当然爆発に巻き込まれる黒鋼だが、自身の損傷等知らぬが如くマジックソードを再展開、フルブーストで接近を再開するも、投射砲の直撃を受け、右肩から先の装甲が吹き飛ぶ。
そのままビルに激突するも、やはりマジックソードを再展開、電磁投射砲のバッテリーにマジックソードを突き立て、電流でダメージを受けながら、グイグイと奥へマジックソードを入れようとする。
　「白昼堂々と目の前で！！」
アサルトライフルを至近距離で使用する多数の自衛隊員達。
ブースターにダメージが入った所で、マジックソードの出力を上げて横へ振って、爆発させる。
　至近距離での銃撃と爆発を食らいながら、ゆっくりと空中で旋回、魔力弾を乱発して建物の瓦礫で、或いは直接発射で攻撃する。
　「こ、こいつ！？
何て滅茶苦茶な攻撃を…！？」
　「援軍求む！！」
　黒鋼が巨大な魔力弾を形成する。
「チャージショットだ、止めろぉお！！」
縦に一回転しながらショットを放つ。
魔力弾に押し潰される形で、爆発しながら攻撃車両が自動車専門店へ突っ込んだ直後、魔力弾が盛大に大爆発する。
自動車が次々と巻き込まれ、爆発し、同時に強大なプラズマが展開させる。
一体が電子レンジ状態となり、歩兵や一部のユグラドライヴパイロットが消し飛び、他にも車両等が制御を失って建物等に激突する。
電子系の兵器の誤作動が多発し、勝手にミサイルが発射されたり、と大変な事になってしまった。
　『何だよ、あれ！！
黒鋼に、あんなのねェって！！』
　プラズマに焼かれた影響で、連鎖的に発生している爆発の中、黒鋼が頭部のモノアイユニットの色を蒼く光らせる。
装甲の無くなった部分から強い光が放たれ、次の瞬間には右腕を媒体にした【何か】が発射される。
　【何か】が落下中の建御雷を貫き、完全破壊する。
当然、二機の不知火のパイロットが驚いて動きを止めるが、知らぬと反転した黒鋼が再び飛び上がる。
　後方より魔道砲撃。
重支援砲撃型兵装――不知火三式だ。
避けようと軌道姿勢変更しようとするも、ブースターの不具合によって被弾。
ブースターが爆発し、黒鋼自体が故障し、機能不全に陥る。
右手を突き出してシールドを展開、黒煙を吹いたまま物流センターの倉庫に激突、コンテナや防犯装置を滅茶苦茶にしながら数十メートルを突き進む。
　『敵機、大蔵物流センター、第８区画倉庫に侵入。
機能不全に陥った模様』
『了解、センターの該当区画へ全方位から同時突入せよ。
後方より三式部隊を配置、何かあれば全方位から砲撃できる様に準備しろ』
『了解』
多数の不知火が物流センターへ急接近する。
　先頭を飛んでいた不知火が、減速と言いながら減速し、高度を落とす。
後に続く不知火と共に隊長機がブーストダッシュ、大穴へ近付く。
穴は３メートル程高い所にあった。
　穴の左右に配置、停止作用のある魔術装置を放り込んで様子を窺う。
しかし幾ら赤い電撃が走ろうが、センサーに引っ掛かる変化はない。
『電灯が止めっている、全機暗視機能を使用しろ』
言いながら隊長機が入ろうとした時だった。

　ドゥウウウォオオンッ！！

謎の波動。
直後――

『うあ！？――』
隊長機に何かが激突、隊長が気絶してしまった。
「コ、コンテナ！？」
　隊員が隊長機が目をやった瞬間、青い光が点を突かんと伸びた。
『だ、第８区画倉庫より正体不明のエネルギー高周波を目視！！
だ、誰か、あれを説明してくれ！！』
天井や装置諸々が周囲で浮いている。
『おいおいおい、床も剥がれてねェか、あれ！？』
『あれマジ黒鋼じぇねぇ』
　黒鋼と思しき機体が、黒煙を上げながら倉庫から浮き上がる。
装甲に光が走り、其処を基準に装甲が強制分断される。
魔道装置やジェネレーターも無理矢理引き剥がされた為、電流漏れや魔力漏れが発生し、周囲の機材に干渉して爆発が大小多発している。
だが、それも――爆発エネルギーが一か所に集められる。
右の掌に、ゆっくりと他のエネルギーも一緒に集められ、次第に――急速に拡大し始める。

　ズドドドドドォオン！！！

凄まじい揺れと共に大地が崩壊し、破片を其処に置いたまま、揺れのエネルギーすらも吸収される。
『き、機体の電力が…』
次々と機能停止するユグラドライヴや戦闘車両。
三式部隊が砲撃を始めるも、直後圧縮され尽くしたエネルギーが解放され、ミサイルや砲弾、コンクリートや高速道路等の全てが吹き飛ばされる。
　『コントロール不能、コントロール――』
衝撃波でビルに激突する戦闘ヘリ。
倒れるビルすらも、正面が消し飛ばされる。
　何とか瓦礫に掴まる事の出来た歩兵の内、大半が瓦礫毎壁に叩き潰されてしまった。
　何とか生き残った隊員が見た光景は最悪だった。
「原爆…！？」
被害半径が計り知れない。
何故生き残れたか全く分からない。
只、中心部こそ全て消し飛んでしまっているが、少し距離が空き始めると消えていない不自然な個所が多い。
自分が、その不自然に無事な個所に居た事に気付いたのは数秒後だった。
　「何じゃ、ありゃ……」
壁に減り込んだ戦車の砲塔から出て来れた車長が望遠鏡で敵影を確認する。
黒鋼の姿は何処にもなく、宙に浮いていた残骸すらない。
代わりに一機、ユグラドライヴなのかも分からない――人型から若干逸脱した姿の蒼いロボットが佇んでいた。

■作者メッセージ
周囲の全ての何らかのエネルギーを、種類関係無く一か所に圧縮し、一挙に放つハイパーアーマーとでも名づければ良いのか…。
でもアーマーではないよな？
オーバーブレイク…？