苦戦 ＯＫ
ナストロファージが地下トンネル内を駆け抜ける。
最近近くで大規模な戦闘が行われたとの情報が入り、本当なのかを確かめる為だ。
ナストロファージの横には大和開発部が造った新型の高速軌道型ＭＴ二機。
ＡＣに近い機動力を有し、トンネル内を探索するに十分なブースト能力と対ＡＣ戦に耐えられる複合粒子加速砲と閉鎖空間用特殊ミサイルを搭載して居る為万が一近付かれても対応出来る機体だ。
『正面、敵弾』
『ミサイルだ』
自動機銃での迎撃と回避を同時に行うＭＴ、及び胸部機銃の自動攻撃によりミサイルを撃ち落とすナストロファージ。
浄水場へ流れる下水に突っ込んだ所でロックオン、マシンガンを掃射する。
暗くて分かり難かったが、相手は赤い二脚のＡＣらしい。
三連パルスを辛うじてバックブーストで辛うじて回避するも水柱でＡＣの姿を見失う。
「ぬうっ、右！？」
『隊長、こいつ速過ぎます！！』
『ぬおお、こ、こんな奴が今の今迄近くで暴れてたのかよ！！』
死角に回り込まれた所で僚機が弾幕型ミサイルを発射、複数の壁となったミサイル群が敵ＡＣへ向かうも、右水平グラインドブーストにより、回避される。
数回の発射後、外付けされた弾幕型ミサイルの発射コンテナをパージ、チャージパネルを近づけて複合粒子加速砲を撃ち放つ。
もう一機のＭＴとナストロファージのマシンガンとショックライフルのダブルトリガー攻撃、特にショックライフルに被弾した際の強烈な衝撃に、挙動停止した際に受けた弾幕型ミサイルによって既に損傷が目立ち始めていた敵ＡＣへ直撃するも、直後に左背部に装備したグレネードランチャーを発射、ＭＴの左後部に着弾、回避し切れずダメージとなる。
「ぐああっ！！」
『大河ぁあ！？』
「…っ、無事だ。
この程度で騒ぐな、山田…！！」
敵ＡＣがもう一機の僚機に左腕の近接兵装を使おうと接近する。
その挙動はレイヴンなら誰でも知っているブレードホーミング機能による物だった。
（フライトナーズの奴と同じシールドとの一体型か！！）
レーザーブレードを振るわんとする敵ＡＣをダブルトリガーの衝撃で固めて、グラインドブーストの勢いを利用して、着地の挙動で蹴り飛ばす。
着地制御の為一瞬硬直モードになったＡＣへ更にダブルトリガーを叩き込みながらエグが叫ぶ。
「加速砲を叩き込め！！」
『『了解』』
瞬時に二発の粒子弾が直撃、敵ＡＣの沈黙が確認された。
ＡＣの残骸を回収部隊に任せ、最低限の補給の後三人は更に奥を調べていた。
「エレン、この下水施設の番号は？」
『ＢＴＡＳ−３７３。
３年前、稼働停止してるわ』
「まだ水が来てるぞ？」
『元々ネオ・アイザックシティ計画があったから、それ関係だと思うわ。
約８万キロの複合ユニットシステムと３キロに及ぶ都市エリアを運用するには尋常じゃ無い水量と必要としていた…。
その結果、この施設が建造されたのよ。
でも当時は経済安定率も低かったし反企業的な風潮も強かった。
５０年起業計画の折に、その計画阻止の為に雇われたレイヴンが当時の一大企業であるクロームを崩壊させたって…。
噂では、その後行方不明になったのは企業連合の前身、複数の企業が戦闘を長引かせてお金儲けする為のネストって組織があったらしいわ。
その戦力に潰されたからって…。
真実は知らないけども』
『ネオ・アイザック計画は知ってます。
でも、これ程大規模だと純粋な生活水運用だけには思えません』
１号機の言葉にエレンも肯定する声を漏らした。
『実際、此処は公式情報でも軍事基地の影が見え隠れしていたわ。
でも潰えたのもクローム崩壊に際しての事よ。
政治家が何を考えたかは…分からないわ』
「だが、基地が残っていて、それに此処も不明勢力の活動が報告された付近だからな。
正直誰か潜んでる気がしてならん。
降りてみるか。
そのＭＴでも十分戻って来れるだろう」
『ええ、問題ないです』
『じゃあ、潜んでる人が居たら声を掛けてみましょう。
ぶっちゃけ、悪鬼の奴みたいに襲い掛かられるの嫌ですけどもねェ…』
２番機が嫌そうに誰へとなく言った。
激しい水音のみが聞こえる施設へ、激しいブースト音が轟く。
着地した三機は、そのまま施設内部へ侵入し始める。
『此処はガレージだな。
ガレージを繋げる通路でもある』
エグが言いながら、機体を進ませる。
『三人共、正面、稼働部分があるわ。
下水施設、廃棄された筈だから誰か居るわ。
レーダーを最大限に展開して』
「ナストロファージ、了解」
『１番機了解』
『２番機了解』
直後にダムの様子が急変する。
『隊長、流れる量が激増してます！！』
「馬鹿な、何故！？」
『このままじゃ下水処理力を超えて施設諸共俺達水没してしまいます！！』
「何が起こったか知らんが、兎に角上に戻るぞ！！」
其処に大量のＭＴがブースト降下、ロングレンジ系スナイパーキャノン型ＭＴ数十機がキャノンの射角を確保次第、攻撃を開始して来る。
「１、２番機。
奥へ隠れろ！！
足場が悪くて応戦出来ん！！」
『了解』
『うおおわあ、やばいやばいやばい！！』
騒ぐ２番機。
「あれが近いか」
待ってろ、と一言。
ナストロファージがコンクリートの道路を蹴ってブースターの推力で浮き上がる。
素早く接近し左へ機体を傾ける。
真横を弾丸が通過した所でショックライフル、相手は装甲を穴だらけにしながら水の中へ落ちた。
続いて下水パイプ状に着地、左へグラインドブーストし、敵弾を回避する。
ブーストダッシュに繋げながらマシンガンで撃破、そのまま此方へ砲身を動かしているＭＴもマシンガンで撃破し、その足場から飛び上がる。
真上からマシンガンで弾丸の雨を降らせて、足場の下の柱の一部へ着地、正面のＭＴへグラインドブーストで接近し、そのまま上昇、すれ違い様にショックライフルを放ちに起動時に撃破、火災が始まった足場へ着地し、最後の一機が撃った弾丸をグラインドブーストで右に回避、オーバードブーストを起動、途中で停止し慣性に流されるまま旋回、ダブルトリガー攻撃で足場諸共破壊して残骸を下水の中に叩き落とす。
『これで最後、近場は片づけた』
（俺達居る意味あったんだろうか）
逃げる三機。
応戦しながらの、それは正に逃走戦と言うに相応しい物だった。
「応援が間に合うか厳しいけど…。
２番機、右！」
ナストロファージの頭部カメラに一瞬映った映像で判断したエレンが叫ぶ。
２番機のセンサーカメラの映像が揺れ、機銃で撃破した火達磨の残骸が映る。
「っは、っはあっはあ！！
…こいつ等、数が！！」
２番機の山田が歯を食いしばりながら、トリガーを入力する。
逆関節重量型レーザー砲搭載ＭＴ一機をミサイルで撃破するも、既にモニターの右上に接近中の人型重量級ＭＴのブースト機動する姿が。
『俺がやる』
エグの声が通信回線に轟き、マシンガンの弾丸がモニターに映る。
ＭＴの装甲が飛び散り、火災したまま壁に激突、そのまま落下して鉄道網のエリアへ姿を消した。
「どけ、邪魔だ！！」
上を取ったナストロファージのダブルトリガー攻撃により装甲が潰されたＭＴ達の爆発がトンネル内を照らす。
エグからの攻撃に対応遷都し始めた所を二機の高機動ＭＴから放たれたミサイルによって阻止され、追撃部隊の被害が増える。
『開けたぞ！！』
先頭をナストロファージが軽く浮いた状態でオーバードブースト。
エグを追おうと旋回し始めた瞬間、１番機が２番機に言う。
『ミサイル、マルチロックしろ！
最大ロックになり次第自由発射！
一階だけで充分だ、撃ったらフルブースト！！』
『了解！！』
殺到するミサイル群が叩き付けられ、混乱する敵部隊。
燃え盛る炎の中、二機のＭＴが噴射火を光らせながら突っ切る。
『隊長、切り抜けられました』
「良し、エレン。
次のポイント、及びルートを指示してくれ」
『次は、そのまま直進…。
直進してたら前方に隔壁が閉まってる所があるわ。
３０メートル手前がＴ字路になってるから右折して』
「了解」
三機のカメラの映像を固唾を呑んで見守るエレン。
手は常に三人の生還を実現する為にキーボードを叩き続けている。
「補給状況は如何なっている？」
ケティーナが訊ねる。
しかし答えたのは三機の機体状況を随一確認している男性副オペレーターだった。
「現在、三機の消耗率は３０％、更に各機の消耗割合はナストロファージが４０％で、隊長機のみで考えると、ＡＣ自体、繊細なので激戦が来る前に引き上げて欲しいのが山々ですが…」
「成程、作戦遂行率が、それを許可出来ない理由なのか」
「ええ、きっと。
まだ、要請はしていないですが、此方で準備要請は出した方が良いかと」
「ふむ、俺の名前で要請しよう。
まあ他のコロニーと違って、俺達の上層部は頭が固くない。
…勿論、少々柔らかいに過ぎるのも感じざる得ないが…」
画面上で三機のマッピング機能によって構築されて行く地下トンネルの姿。
見る限り、過去最大級の規模と複雑さらしい。
「消耗率よりも、このマッピング状況と機体状況を合わせた方が良いな…」
要請する為に受話器を握ったケティーナが大型モニターを見やり、ふと呟く。
「此方作戦支援課オペレート室。
現在、調査任務を遂行中のＡＣ一機と僚機ＭＴ二機に関する補給を求む。
三機は既に消耗率が３０％に達しており内、ＡＣ一機が占める割合は４０％。
調査対象の作戦エリア自体も規模と複雑さは過去最大級と思われ、最悪三機の遭難の可能性も感がる事が出来てしまう状況にある。
これを理由に作戦遂行中の三機へ一時補給の許可を要請する。
尚、任務遂行中のパイロットは僚機ＭＴ≪ハヴィター≫一番機の搭乗者、黒井 大河、二番機の搭乗者、山田 隆平、ナストロファージ搭乗者、エグ・エルードの三名です」
酷く大きな砲撃音と銃声、爆音。
『こいつ等何者だ！？』
『兎に角撃て！
敵の正体なんざ後回しだ、撃破しろ！！』
『撃て撃て撃て撃て撃てぇええええ！！』
地下都市にて突如発生したテロ。
混乱しながらも対応している治安維持部隊だが、徐々に防衛ラインを押し込まれつつあった。
敵は強奪された有沢重工製グレネードランチャーに腕部を乾燥した旧ＧＡ主力ＭＴで、現在３０機前後が地下都市治安維持部隊と交戦中である。
強奪数は優に６０を超えており、低ランカーレイヴン達を大量に雇っての強奪だったらしく、その際の景気の変化を嗅ぎつけた企業が調査隊を派遣、光線の結果、雇われたとされていたレイヴンを搭乗者とするレイヴンズ・コンコード登録ＡＣ、及び強奪された該当機、強奪犯を追っていた有沢重工のタンクＡＣをリーダーとする大規模な追撃部隊との合流とも相まって、今回の事は、既に企業社会全体に知れ渡っている。
既に自営団は壊滅、地下都市も壊滅的打撃を受けており、極めて重大な事件となるであろう事は、誰にでも明らかであった。
使っているのが有沢製のグレネードランチャーともあって、企業側の被害拡大速度は平均的データを遥かに凌ぎ、一流レイヴンとして名高い傭兵は、愛機と共に地上と地下を激しく出入りする事となった。
結果、地上の対ロシア部隊の戦力が不安定になり始め、最終的には現在、その戦力は拮抗状態にあり、企業連合は今回のテロをロシア側の工作と判断。
大規模なノーマル旅団を旧ロシア領土へ差し向け、護衛としてレイヴン部隊を派遣したのであった。
ともあれ、現状不利な事に変わりがない企業側は、その弾薬の補給路を売ら戦力として雇われたミグラントによる物とし、これを裏ミグラントと仮称、対裏ミグラント用特殊部隊としてワイヤーアクションを得意とする特殊高性能型ＭＴ部隊を差し向けた。
最近近くで大規模な戦闘が行われたとの情報が入り、本当なのかを確かめる為だ。
ナストロファージの横には大和開発部が造った新型の高速軌道型ＭＴ二機。
ＡＣに近い機動力を有し、トンネル内を探索するに十分なブースト能力と対ＡＣ戦に耐えられる複合粒子加速砲と閉鎖空間用特殊ミサイルを搭載して居る為万が一近付かれても対応出来る機体だ。
『正面、敵弾』
『ミサイルだ』
自動機銃での迎撃と回避を同時に行うＭＴ、及び胸部機銃の自動攻撃によりミサイルを撃ち落とすナストロファージ。
浄水場へ流れる下水に突っ込んだ所でロックオン、マシンガンを掃射する。
暗くて分かり難かったが、相手は赤い二脚のＡＣらしい。
三連パルスを辛うじてバックブーストで辛うじて回避するも水柱でＡＣの姿を見失う。
「ぬうっ、右！？」
『隊長、こいつ速過ぎます！！』
『ぬおお、こ、こんな奴が今の今迄近くで暴れてたのかよ！！』
死角に回り込まれた所で僚機が弾幕型ミサイルを発射、複数の壁となったミサイル群が敵ＡＣへ向かうも、右水平グラインドブーストにより、回避される。
数回の発射後、外付けされた弾幕型ミサイルの発射コンテナをパージ、チャージパネルを近づけて複合粒子加速砲を撃ち放つ。
もう一機のＭＴとナストロファージのマシンガンとショックライフルのダブルトリガー攻撃、特にショックライフルに被弾した際の強烈な衝撃に、挙動停止した際に受けた弾幕型ミサイルによって既に損傷が目立ち始めていた敵ＡＣへ直撃するも、直後に左背部に装備したグレネードランチャーを発射、ＭＴの左後部に着弾、回避し切れずダメージとなる。
「ぐああっ！！」
『大河ぁあ！？』
「…っ、無事だ。
この程度で騒ぐな、山田…！！」
敵ＡＣがもう一機の僚機に左腕の近接兵装を使おうと接近する。
その挙動はレイヴンなら誰でも知っているブレードホーミング機能による物だった。
（フライトナーズの奴と同じシールドとの一体型か！！）
レーザーブレードを振るわんとする敵ＡＣをダブルトリガーの衝撃で固めて、グラインドブーストの勢いを利用して、着地の挙動で蹴り飛ばす。
着地制御の為一瞬硬直モードになったＡＣへ更にダブルトリガーを叩き込みながらエグが叫ぶ。
「加速砲を叩き込め！！」
『『了解』』
瞬時に二発の粒子弾が直撃、敵ＡＣの沈黙が確認された。
ＡＣの残骸を回収部隊に任せ、最低限の補給の後三人は更に奥を調べていた。
「エレン、この下水施設の番号は？」
『ＢＴＡＳ−３７３。
３年前、稼働停止してるわ』
「まだ水が来てるぞ？」
『元々ネオ・アイザックシティ計画があったから、それ関係だと思うわ。
約８万キロの複合ユニットシステムと３キロに及ぶ都市エリアを運用するには尋常じゃ無い水量と必要としていた…。
その結果、この施設が建造されたのよ。
でも当時は経済安定率も低かったし反企業的な風潮も強かった。
５０年起業計画の折に、その計画阻止の為に雇われたレイヴンが当時の一大企業であるクロームを崩壊させたって…。
噂では、その後行方不明になったのは企業連合の前身、複数の企業が戦闘を長引かせてお金儲けする為のネストって組織があったらしいわ。
その戦力に潰されたからって…。
真実は知らないけども』
『ネオ・アイザック計画は知ってます。
でも、これ程大規模だと純粋な生活水運用だけには思えません』
１号機の言葉にエレンも肯定する声を漏らした。
『実際、此処は公式情報でも軍事基地の影が見え隠れしていたわ。
でも潰えたのもクローム崩壊に際しての事よ。
政治家が何を考えたかは…分からないわ』
「だが、基地が残っていて、それに此処も不明勢力の活動が報告された付近だからな。
正直誰か潜んでる気がしてならん。
降りてみるか。
そのＭＴでも十分戻って来れるだろう」
『ええ、問題ないです』
『じゃあ、潜んでる人が居たら声を掛けてみましょう。
ぶっちゃけ、悪鬼の奴みたいに襲い掛かられるの嫌ですけどもねェ…』
２番機が嫌そうに誰へとなく言った。
激しい水音のみが聞こえる施設へ、激しいブースト音が轟く。
着地した三機は、そのまま施設内部へ侵入し始める。
『此処はガレージだな。
ガレージを繋げる通路でもある』
エグが言いながら、機体を進ませる。
『三人共、正面、稼働部分があるわ。
下水施設、廃棄された筈だから誰か居るわ。
レーダーを最大限に展開して』
「ナストロファージ、了解」
『１番機了解』
『２番機了解』
直後にダムの様子が急変する。
『隊長、流れる量が激増してます！！』
「馬鹿な、何故！？」
『このままじゃ下水処理力を超えて施設諸共俺達水没してしまいます！！』
「何が起こったか知らんが、兎に角上に戻るぞ！！」
其処に大量のＭＴがブースト降下、ロングレンジ系スナイパーキャノン型ＭＴ数十機がキャノンの射角を確保次第、攻撃を開始して来る。
「１、２番機。
奥へ隠れろ！！
足場が悪くて応戦出来ん！！」
『了解』
『うおおわあ、やばいやばいやばい！！』
騒ぐ２番機。
「あれが近いか」
待ってろ、と一言。
ナストロファージがコンクリートの道路を蹴ってブースターの推力で浮き上がる。
素早く接近し左へ機体を傾ける。
真横を弾丸が通過した所でショックライフル、相手は装甲を穴だらけにしながら水の中へ落ちた。
続いて下水パイプ状に着地、左へグラインドブーストし、敵弾を回避する。
ブーストダッシュに繋げながらマシンガンで撃破、そのまま此方へ砲身を動かしているＭＴもマシンガンで撃破し、その足場から飛び上がる。
真上からマシンガンで弾丸の雨を降らせて、足場の下の柱の一部へ着地、正面のＭＴへグラインドブーストで接近し、そのまま上昇、すれ違い様にショックライフルを放ちに起動時に撃破、火災が始まった足場へ着地し、最後の一機が撃った弾丸をグラインドブーストで右に回避、オーバードブーストを起動、途中で停止し慣性に流されるまま旋回、ダブルトリガー攻撃で足場諸共破壊して残骸を下水の中に叩き落とす。
『これで最後、近場は片づけた』
（俺達居る意味あったんだろうか）
逃げる三機。
応戦しながらの、それは正に逃走戦と言うに相応しい物だった。
「応援が間に合うか厳しいけど…。
２番機、右！」
ナストロファージの頭部カメラに一瞬映った映像で判断したエレンが叫ぶ。
２番機のセンサーカメラの映像が揺れ、機銃で撃破した火達磨の残骸が映る。
「っは、っはあっはあ！！
…こいつ等、数が！！」
２番機の山田が歯を食いしばりながら、トリガーを入力する。
逆関節重量型レーザー砲搭載ＭＴ一機をミサイルで撃破するも、既にモニターの右上に接近中の人型重量級ＭＴのブースト機動する姿が。
『俺がやる』
エグの声が通信回線に轟き、マシンガンの弾丸がモニターに映る。
ＭＴの装甲が飛び散り、火災したまま壁に激突、そのまま落下して鉄道網のエリアへ姿を消した。
「どけ、邪魔だ！！」
上を取ったナストロファージのダブルトリガー攻撃により装甲が潰されたＭＴ達の爆発がトンネル内を照らす。
エグからの攻撃に対応遷都し始めた所を二機の高機動ＭＴから放たれたミサイルによって阻止され、追撃部隊の被害が増える。
『開けたぞ！！』
先頭をナストロファージが軽く浮いた状態でオーバードブースト。
エグを追おうと旋回し始めた瞬間、１番機が２番機に言う。
『ミサイル、マルチロックしろ！
最大ロックになり次第自由発射！
一階だけで充分だ、撃ったらフルブースト！！』
『了解！！』
殺到するミサイル群が叩き付けられ、混乱する敵部隊。
燃え盛る炎の中、二機のＭＴが噴射火を光らせながら突っ切る。
『隊長、切り抜けられました』
「良し、エレン。
次のポイント、及びルートを指示してくれ」
『次は、そのまま直進…。
直進してたら前方に隔壁が閉まってる所があるわ。
３０メートル手前がＴ字路になってるから右折して』
「了解」
三機のカメラの映像を固唾を呑んで見守るエレン。
手は常に三人の生還を実現する為にキーボードを叩き続けている。
「補給状況は如何なっている？」
ケティーナが訊ねる。
しかし答えたのは三機の機体状況を随一確認している男性副オペレーターだった。
「現在、三機の消耗率は３０％、更に各機の消耗割合はナストロファージが４０％で、隊長機のみで考えると、ＡＣ自体、繊細なので激戦が来る前に引き上げて欲しいのが山々ですが…」
「成程、作戦遂行率が、それを許可出来ない理由なのか」
「ええ、きっと。
まだ、要請はしていないですが、此方で準備要請は出した方が良いかと」
「ふむ、俺の名前で要請しよう。
まあ他のコロニーと違って、俺達の上層部は頭が固くない。
…勿論、少々柔らかいに過ぎるのも感じざる得ないが…」
画面上で三機のマッピング機能によって構築されて行く地下トンネルの姿。
見る限り、過去最大級の規模と複雑さらしい。
「消耗率よりも、このマッピング状況と機体状況を合わせた方が良いな…」
要請する為に受話器を握ったケティーナが大型モニターを見やり、ふと呟く。
「此方作戦支援課オペレート室。
現在、調査任務を遂行中のＡＣ一機と僚機ＭＴ二機に関する補給を求む。
三機は既に消耗率が３０％に達しており内、ＡＣ一機が占める割合は４０％。
調査対象の作戦エリア自体も規模と複雑さは過去最大級と思われ、最悪三機の遭難の可能性も感がる事が出来てしまう状況にある。
これを理由に作戦遂行中の三機へ一時補給の許可を要請する。
尚、任務遂行中のパイロットは僚機ＭＴ≪ハヴィター≫一番機の搭乗者、黒井 大河、二番機の搭乗者、山田 隆平、ナストロファージ搭乗者、エグ・エルードの三名です」
酷く大きな砲撃音と銃声、爆音。
『こいつ等何者だ！？』
『兎に角撃て！
敵の正体なんざ後回しだ、撃破しろ！！』
『撃て撃て撃て撃て撃てぇええええ！！』
地下都市にて突如発生したテロ。
混乱しながらも対応している治安維持部隊だが、徐々に防衛ラインを押し込まれつつあった。
敵は強奪された有沢重工製グレネードランチャーに腕部を乾燥した旧ＧＡ主力ＭＴで、現在３０機前後が地下都市治安維持部隊と交戦中である。
強奪数は優に６０を超えており、低ランカーレイヴン達を大量に雇っての強奪だったらしく、その際の景気の変化を嗅ぎつけた企業が調査隊を派遣、光線の結果、雇われたとされていたレイヴンを搭乗者とするレイヴンズ・コンコード登録ＡＣ、及び強奪された該当機、強奪犯を追っていた有沢重工のタンクＡＣをリーダーとする大規模な追撃部隊との合流とも相まって、今回の事は、既に企業社会全体に知れ渡っている。
既に自営団は壊滅、地下都市も壊滅的打撃を受けており、極めて重大な事件となるであろう事は、誰にでも明らかであった。
使っているのが有沢製のグレネードランチャーともあって、企業側の被害拡大速度は平均的データを遥かに凌ぎ、一流レイヴンとして名高い傭兵は、愛機と共に地上と地下を激しく出入りする事となった。
結果、地上の対ロシア部隊の戦力が不安定になり始め、最終的には現在、その戦力は拮抗状態にあり、企業連合は今回のテロをロシア側の工作と判断。
大規模なノーマル旅団を旧ロシア領土へ差し向け、護衛としてレイヴン部隊を派遣したのであった。
ともあれ、現状不利な事に変わりがない企業側は、その弾薬の補給路を売ら戦力として雇われたミグラントによる物とし、これを裏ミグラントと仮称、対裏ミグラント用特殊部隊としてワイヤーアクションを得意とする特殊高性能型ＭＴ部隊を差し向けた。
13/08/27 21:27更新 / 天