充満する硝煙の臭い ＯＫ
芝刈り機の様な唸りを上げながら大量の弾丸を吐き出すガトリングガン。
吐き出された弾はＭＴの装甲を弾き飛ばし、その内部を食らう。
しかしＭＴのグレネードランチャーの火力は安い物では無い。
一撃を以てして複数のノーマルやＭＴを吹き飛ばすのである。
『今ので何人やられた！？』
『数える暇もねェ！！』
正面に敵ＭＴ。
『ローラーを付けてるのか！？』
ノーマル３機が両手に持っマシンガンで掃射するも、ローラーの運動性を前に、攻撃が当たりそうにない。
当たる距離に入る前に敵はビルの奥へ隠れてしまった。
対してノーマル達は反対側から攻めるのだろうと、逆に相手が一機なのを良い事に三機で逆挟撃を考案、実行する。
最初は正面のノーマルが当たり、次に右に移動したノーマルが到達するであろう事から、正面のノーマルのパイロットは固唾を呑んでいた。
「来た！！」
距離を維持しつつマシンガンで兎に角武器を使わせない様にする。
ＭＴに攻撃が当たった事を示すヒットサインが表示される事にも気づかず必死だ。
敵ＭＴの脚部が破損、一気に減速。
右腕部が損傷、グレネードランチャーが地面に叩き付けられて火花を散らす。
胴体部分破損、動きが急激に鈍くなる。
グレネードランチャーに被弾、大爆発してロックオンが強制解除された。
「た、倒したのか？」
ブースターペダルから足を離して、速度計が０になるのを確認する。
爆炎が晴れて見えたのは、大火災ながらも立っている人型ＭＴだった。
（倒したんじゃない、爆発で熱源ロックが過剰反応しただけだ！！）
右腕は完全に姿を消している。
辛うじて機能する左手で残骸を拾い、走り出す。
「うや、うあああああああああああああ！！！！！」
余りの恐怖に絶叫するパイロット。
マシンガン掃射により呆気なく爆散はしたが、それに気付く迄若干時間を要した。
『あれ、たおし――』
合流した味方機が、突如掃射されたガトリングガンによって掻き消される。
「な、何が…！？」
『はあい、企業の皆さ〜ん』
荒々しい着地をする、見た事もない桃色一色のパワードスーツから通信が入る。
オープンチャンネルだ。
丸っこい形だが、背中の巨大なコンテナが目線を集める。
突如、コンテナが開き、中からコンテナの大きさを明らかに超える量の武器が現れる。
『君達は、取り敢えず殲滅するね〜』
気の抜ける台詞だが、女の声の言葉の内容は過激に過ぎた。
『お、応援、至急おうえ――』
味方機が言葉半ばで膝蹴りされ、ビルに深々と突っ込まれる。
其処へ、もう一機が遅れてマシンガンを掃射しながら近づいて来る。
『５番機！
お前は逃げろ、逃げながら応援要請しろ！
足止めは俺がやるから、とっとと補給済ませちまえ！！』
「け、けどお前――」
『行けつってんだ、とっとと行っちまえ！！』
「…畜生が。
死んだら誰を殴りゃ良いんだか！！」
追おうとするパワードスーツへマシンガンを撃ちながら叫ぶパイロット。
「てめえの相手は俺だ、見えねぇのか！！」
ありったけの怒鳴り声を外部スピーカーから叩き出す。
『………気が変わった』
パワードスーツがノーマルへ向き直る。
その声音は凍り付く様だった。
『お前殺す』
構えもなく、コンテナから顔を出したミサイル系武器から、様々な種類のミサイルが大量に発射され、片方だけで８車線もある道路の大半を硝煙で埋め尽くす。
「インポート開始！！
インターフェイズ、レベル９をロード！！」
バックブースター全開にしながらコンソールを操作し、ＯＳを別の物へ変更する。
一瞬動きが止まった間に狂った姿勢を、新たなＯＳが修正する。
同時に二丁のマシンガンとコアの迎撃機銃が総稼働し、ミサイルの壁を叩き落とさんと弾丸を放ち続ける。
一定距離を詰めたミサイルを回避した為、左右のビルや道路にミサイルが激突し、撃ち落とした分も相まって、視界状況は最悪だった。
大通りの曲がり角に到達する時間を逆算し、事前にサイドブースターにエネルギーチャージさせる。
「っふ！！」
フルチャージされた出力全てを叩き出した分の推力でミサイルの追尾を置き去りにして、ノーマルがビルの陰に隠れる。
それを無数のワイヤーを使って追い掛けながらコンテナや腕のガトリングガンを掃射し続けるパワードスーツ。
「あぐぅっっ！？」
衝撃が走る。
続く警告音。
【メインブースター破損】
【左肩部装甲破損 内部フレーム崩壊 左腕部制御不能】
「っく、ブースターが逝かれた……。
水辺じゃなくて助かったな、くく」
―――――――――――――――――――――――――――ッボンッッ！！
その頃、精鋭パイロット達による大規模の調査隊が編成、投入されていた。
調査対象は先月、エグ達が調査を中断したエリアと、その周辺だ。
特に大部隊が出現した貯水施設等は要調査対象として指示されており、極めて練度の高い部隊が派遣された。
リコンだらけのトンネル内部を進む複数のＭＴ達。
『調査用のリコンの回収が今回の任務だ』
隊長機が作業用アームで機能停止状態のリコンを拾い、コンテナに入れる。
『開始』
作業用ＭＴには最低限の武装として小型ロケット砲と拡散パルス砲が装備されている。
自衛用としては心許ないが、狭いトンネルなので下手に火力を振り回すと崩壊を引き起こしかねないからだ。
その前後にはディスクガンと言う新兵器を搭載した護衛用ＭＴが居る。
此方は護衛のついでに新兵器のテストもしてしまおうと云う訳だ。
特徴は跳ね返りである。
忍者の使っていたとされる手裏剣を模した物、即ちディスクを高速射出するのだが、そのディスクには歯の根元にセンサーと連動したジェンプ用バネ装置が内蔵されており、壁に近づいているのを感知してジャンプ用バネで跳ね返る事で、閉所での攻撃効率を飛躍的に向上させせている。
又、内蔵されている回転装置はジャンプ時の回転減速を防止、更に加速させると同時に、本体（この場合は護衛用ＭＴ）からの誘導信号に従って軌道を調節する役割も果たしているので、大和開発班は専ら閉所用次世代型ミサイルと謳っていた。
しかし、パイロットとしては壁にぶつかって跳ね返ると云うのが理解し難く、首を傾げざる得ない兵器である。
まず、閉所で使う場合真正面から発射する可能性が非常に高い点だ。
それ自体は、この兵器自体が如何だから、と云う訳ではないのだが、正面から撃った場合、敵の装甲を壁と勘違いして装置が働いたなら、撃った機体が切り刻まれる事になる所だ。
次に、跳ね返った時、勢いが殺されて切り裂くに十分な運動エネルギーが維持出来るか如何かである。
加えて、ジャイロでどの程度回転速度の加速で、攻撃力を補えるかが疑問でもあり、不安要素だらけの兵器としか判断出来ない代物なのだ。
「コンピュータの予想じゃ、５０回連続で跳ね返ってもＡＣに致命傷を与える事が可能だぞ！！」
――この言葉、どの程度信用出来る物だろうか、と考えざる得ないのだ。
（５０回は単なる大袈裟なのか？）
或いは―――――――――――――――
前後にのみ特化したトンネル内部用レーダーに適性反応。
「企業部隊！？」
瞬時にトリガーを引き、ディスクガンを連続発射する。
距離は約５００、射程距離は４００なので百メートル足りないが、仮に跳ね返るなら、多少前後した所で、この狭さなら充分に誤魔化す事が出来るだろう。
「見えた、良し！！」
思わずガッツポーズ。
跳ね返ったのか、何処かに刃が当たったのか、兎に角火花が見えた。
『おいおい、護衛隊、敵が滅茶苦茶速いぞ！？』
「何？
…嘘だろ！？
ぜ、全機…前だけで良い、並んで撃て！！」
３機のＭＴが四門のディスクガンを只管連続発射し続ける。
火花の観測距離は急激に近づき、４秒もすれば目に見える距離で壁に当たって跳ね返ったり、直撃や掠りによって跳ね返ったり、更に、その度に火花が散っているのが見えた。
『撃て撃て撃て！！』
――ドォオン！！
爆散した浮遊型のガードメカらしき兵器が燃えながら床にぶつかり、そのまま勢いを殺して停止する。
しかし既に次のロックオン対象、準ロックオン対象のカーソルが表示されている。
『まだ来るぞ！！』
次に食らったのは同型らしき兵器だった。
二門あるパルスガンらしき兵器の内、左側にディスクガンが直撃、衝撃で姿勢が崩れて右側の壁に激突して機能停止した。
その次も同じ兵器。
不意に放たれたレーザーが右腕部を焼く。
負荷爆発による衝撃でディスクガンの斜線が狂い、敵浮遊兵器の左下をディスクが通過、別の敵に直撃する。
ディスクが素通りした敵がパルスガンを乱射し、隊長機が大破、隣の２番機も右脚部の脹脛を焼かれて転倒してしまうも、その間に撃ったディスクが別の敵を破壊、跳ね返ったディスクが奥の敵へ飛来する。
パルスガンが当たったが、焼き潰される前に命中。
切れ味が劣化した為、刺さったままになったが、敵はそのまま落下し爆発した。
『これで…最後ですか？』
『後ろから反応だ』
『レイヴンなら誰でも良い、救援求む！！』
そんな通信をエレンのＡＣトラックを介して受け取った二機のＡＣが向かう。
ナストロファージとスカルフォックスだ。
二機に対して敵部隊――ロシア製の人型装甲兵器群が攻撃して来る。
ＡＣやノーマル、ましてやＭＴでもない。
５〜６、メートル程のＡＣ等とは明らかに違った等身数の少ない機体である。
マシンガンやガトリングガン、ミサイルと装備は様々だが制圧力を重視していると分かる兵装ばかりで、機体自体も良く似ているが、装甲の差は目で分かる程明らかで、集団での統率の取れた戦闘行動を前提とした兵器と思われる。
「……ｍｏｈ…？」
辛うじて読み取れたエンブレムに目を細めながらエグが呟く。
『馬鹿な、ミグラント組織！？』
スカルフォックスの搭乗者、シャドーミラが驚く。
何せ、企業社会に生きていたレイヴンに取って、企業間情勢は極めて重要且重大な流動であり、読み間違える事は死を意味するのだ。
そんなレイヴンに取って、ミグラントとは常に不確定要素であり続ける。
何分、企業社会と外部世界の経済を結び付けるのが仕事だ。
ミグラントの働きを肌で感じるレイヴンは気が気ではない。
過去に流しれ始めた企業に目を付けていた地下世界のレイヴンがミグラントが持ち込んだ外部世界の兵器により、雇い主だった中規模企業が壊滅し、そう言った多くのレイヴンが戦死してしまった例があるのだ。
初心者レイヴンに取って、ある程度の実力と機体の性能が確保出来ない時期には死神にさえ思えると、シャドーミラは耳にしていた。
事実、それを知ってか知らずかミグラントが名を出し始めた頃には、腕利きと呼ばれ始めたレベルと、それ以下のレイヴンの死亡率が激増し、逆にほとぼりがさめるとレイヴン志願者の数が増え始める、とケティーファが言っていた。
国家派レジスタンス・コロニーは非国家、実働レベル、実働級等と呼ばれてレベル分けされる事があるらしい。
非国家はまだまだ小規模な国家派コロニーで、実働レベルや実働級と呼ばれるコロニーは、国家として機能し得る規模と実力を持ち合わせている所の事を言うらしい。
商売は何もパーツショップ関係者のみが絡んでいる訳ではない。
その為、エグもレジスタンス絡みの便利さと厄介さは知っているつもりだ。
余りにも弾幕の密度が濃く、狭いトンネルでは避けようがない。
『駄目、救援要請を出してる部隊へのトンネルが全部…。
無理よ、二人共包囲される！！』
「けど…！
…見捨てるしかないか…」
そう決心しようとした時だった。
左サイドモニターに後ろに下がりながらバズーカを撃ったスカルフォックスの姿が見えた。
バズーカ弾が直撃し、そのまま幾らかの機体を巻き込む。
『小さいんだ。
一発当たれば決定打にもなるだろう』
その声音は呆れの含まれた物だった。
しかしエグを勇気づけるには充分だった。
即座にダブルトリガーで発砲開始。
両方の操縦桿のトリガーボタンを押しっぱなしにしながら、バックブースターを吹かす。
怯みを感じた瞬間、オーバードブーストを発動する。
その勢いのままダブルトリガー攻撃を続行する。
機体の勢いが、そのまま強烈な運動エネルギーとなった事で、弾丸が敵を貫通するに値する威力を纏い、その行動を以てナストロファージが敵陣を滅茶苦茶にしながら突破した。
「め、滅茶苦茶だなぁ…」
少し変な汗をかきながら、オーバードブーストを発動させるシャドーミラ。
重さを威力に変換するタイプのバズーカ弾が、強烈な加速を得た事で、ナストロファージの様に、凄まじい破壊力を得る。
加えて、放たれた弾幕型ミサイル、その無数のミサイルの殆どが、ロックオンせずに撃たれた物である。
スカルフォックスが自分達を突破した事に、追跡を始めようとする彼らだったが、後から飛来して来たミサイルに驚いて、銃撃を開始する。
撃ち落とせこそ出来たが、実際はロックオンしなかった為に壁に当たったが殆どで、気が付けば何も見えなくなっていた。
『目標座標へ到達した』
スカルフォックスが四脚自慢のブレーキ性能で、丁度良い所で停止する。
ナストロファージは、少しだけ浮いた状態でオーバードブーストを停止し、慣性に身を任せて、丁度良い所迄移動、メインブースターの噴射を停止して着地した。
『要請を出していた連中は…まあ、だろうな』
そう言うシャドーミラの乗ったスカルフォックスのセンサーカメラからの映像にエレンは少しだけ顔を蒼くした。
「う…嘘、だって…」
『エレン？』
エグがエレンの顔色を確認しようとコンパターを操作しようとした瞬間、シャドーミラが警告する。
『来るぞ、ヴァーナイト（１）、オールスカイ（２）だッッ！！』
赤い方と灰色の方、前者は軽量、後者は装甲を求めた中量の逆関節型脚部を採用した機体だ。
灰色の方が右手に持つマシンガンをフルオートで撃ち放つ。
ショックライフルを乱発しながら、奥の曲がり角に隠れたナストロファージがブーストダッシュで姿を出し、無防備になる代わりに短い間ダブルトリガー攻撃を実行するも、相手の二機が物凄い勢いで後退した為、当たったとは思えない。
陰に隠れていたスカルフォックスの、すぐ隣を敵のマシンガンの弾丸が通過する。
スカルフォックスが姿を出した一瞬の間に射出型リコンを飛ばす。
ロケット燃料推進機関の力でトンネル内をかっ飛ぶリコンだが、突如情報交信が途絶えた。
「やられた」
コクピットの中でシャドーミラがそう呟いた。
少し間を置いてエレンが画面を確認、言う。
『敵ＡＣの撤退を確認。
並びに作戦時間終了です。
二人共帰還して下さい』
『ああ、分かった』
エグの疲れた声音と、それを表すかの如く、何となく動きの悪い稼働率の低下が見受けられるナストロファージを見やりながらシャドーミラも答えた。
「……作戦継続時間終了、此方もタイマー上で確認した。
我々も戻る」
あれで大丈夫か、と心配になりつつもシャドーミラは操縦桿とペダルの操作に集中するのみであった。
吐き出された弾はＭＴの装甲を弾き飛ばし、その内部を食らう。
しかしＭＴのグレネードランチャーの火力は安い物では無い。
一撃を以てして複数のノーマルやＭＴを吹き飛ばすのである。
『今ので何人やられた！？』
『数える暇もねェ！！』
正面に敵ＭＴ。
『ローラーを付けてるのか！？』
ノーマル３機が両手に持っマシンガンで掃射するも、ローラーの運動性を前に、攻撃が当たりそうにない。
当たる距離に入る前に敵はビルの奥へ隠れてしまった。
対してノーマル達は反対側から攻めるのだろうと、逆に相手が一機なのを良い事に三機で逆挟撃を考案、実行する。
最初は正面のノーマルが当たり、次に右に移動したノーマルが到達するであろう事から、正面のノーマルのパイロットは固唾を呑んでいた。
「来た！！」
距離を維持しつつマシンガンで兎に角武器を使わせない様にする。
ＭＴに攻撃が当たった事を示すヒットサインが表示される事にも気づかず必死だ。
敵ＭＴの脚部が破損、一気に減速。
右腕部が損傷、グレネードランチャーが地面に叩き付けられて火花を散らす。
胴体部分破損、動きが急激に鈍くなる。
グレネードランチャーに被弾、大爆発してロックオンが強制解除された。
「た、倒したのか？」
ブースターペダルから足を離して、速度計が０になるのを確認する。
爆炎が晴れて見えたのは、大火災ながらも立っている人型ＭＴだった。
（倒したんじゃない、爆発で熱源ロックが過剰反応しただけだ！！）
右腕は完全に姿を消している。
辛うじて機能する左手で残骸を拾い、走り出す。
「うや、うあああああああああああああ！！！！！」
余りの恐怖に絶叫するパイロット。
マシンガン掃射により呆気なく爆散はしたが、それに気付く迄若干時間を要した。
『あれ、たおし――』
合流した味方機が、突如掃射されたガトリングガンによって掻き消される。
「な、何が…！？」
『はあい、企業の皆さ〜ん』
荒々しい着地をする、見た事もない桃色一色のパワードスーツから通信が入る。
オープンチャンネルだ。
丸っこい形だが、背中の巨大なコンテナが目線を集める。
突如、コンテナが開き、中からコンテナの大きさを明らかに超える量の武器が現れる。
『君達は、取り敢えず殲滅するね〜』
気の抜ける台詞だが、女の声の言葉の内容は過激に過ぎた。
『お、応援、至急おうえ――』
味方機が言葉半ばで膝蹴りされ、ビルに深々と突っ込まれる。
其処へ、もう一機が遅れてマシンガンを掃射しながら近づいて来る。
『５番機！
お前は逃げろ、逃げながら応援要請しろ！
足止めは俺がやるから、とっとと補給済ませちまえ！！』
「け、けどお前――」
『行けつってんだ、とっとと行っちまえ！！』
「…畜生が。
死んだら誰を殴りゃ良いんだか！！」
追おうとするパワードスーツへマシンガンを撃ちながら叫ぶパイロット。
「てめえの相手は俺だ、見えねぇのか！！」
ありったけの怒鳴り声を外部スピーカーから叩き出す。
『………気が変わった』
パワードスーツがノーマルへ向き直る。
その声音は凍り付く様だった。
『お前殺す』
構えもなく、コンテナから顔を出したミサイル系武器から、様々な種類のミサイルが大量に発射され、片方だけで８車線もある道路の大半を硝煙で埋め尽くす。
「インポート開始！！
インターフェイズ、レベル９をロード！！」
バックブースター全開にしながらコンソールを操作し、ＯＳを別の物へ変更する。
一瞬動きが止まった間に狂った姿勢を、新たなＯＳが修正する。
同時に二丁のマシンガンとコアの迎撃機銃が総稼働し、ミサイルの壁を叩き落とさんと弾丸を放ち続ける。
一定距離を詰めたミサイルを回避した為、左右のビルや道路にミサイルが激突し、撃ち落とした分も相まって、視界状況は最悪だった。
大通りの曲がり角に到達する時間を逆算し、事前にサイドブースターにエネルギーチャージさせる。
「っふ！！」
フルチャージされた出力全てを叩き出した分の推力でミサイルの追尾を置き去りにして、ノーマルがビルの陰に隠れる。
それを無数のワイヤーを使って追い掛けながらコンテナや腕のガトリングガンを掃射し続けるパワードスーツ。
「あぐぅっっ！？」
衝撃が走る。
続く警告音。
【メインブースター破損】
【左肩部装甲破損 内部フレーム崩壊 左腕部制御不能】
「っく、ブースターが逝かれた……。
水辺じゃなくて助かったな、くく」
―――――――――――――――――――――――――――ッボンッッ！！
その頃、精鋭パイロット達による大規模の調査隊が編成、投入されていた。
調査対象は先月、エグ達が調査を中断したエリアと、その周辺だ。
特に大部隊が出現した貯水施設等は要調査対象として指示されており、極めて練度の高い部隊が派遣された。
リコンだらけのトンネル内部を進む複数のＭＴ達。
『調査用のリコンの回収が今回の任務だ』
隊長機が作業用アームで機能停止状態のリコンを拾い、コンテナに入れる。
『開始』
作業用ＭＴには最低限の武装として小型ロケット砲と拡散パルス砲が装備されている。
自衛用としては心許ないが、狭いトンネルなので下手に火力を振り回すと崩壊を引き起こしかねないからだ。
その前後にはディスクガンと言う新兵器を搭載した護衛用ＭＴが居る。
此方は護衛のついでに新兵器のテストもしてしまおうと云う訳だ。
特徴は跳ね返りである。
忍者の使っていたとされる手裏剣を模した物、即ちディスクを高速射出するのだが、そのディスクには歯の根元にセンサーと連動したジェンプ用バネ装置が内蔵されており、壁に近づいているのを感知してジャンプ用バネで跳ね返る事で、閉所での攻撃効率を飛躍的に向上させせている。
又、内蔵されている回転装置はジャンプ時の回転減速を防止、更に加速させると同時に、本体（この場合は護衛用ＭＴ）からの誘導信号に従って軌道を調節する役割も果たしているので、大和開発班は専ら閉所用次世代型ミサイルと謳っていた。
しかし、パイロットとしては壁にぶつかって跳ね返ると云うのが理解し難く、首を傾げざる得ない兵器である。
まず、閉所で使う場合真正面から発射する可能性が非常に高い点だ。
それ自体は、この兵器自体が如何だから、と云う訳ではないのだが、正面から撃った場合、敵の装甲を壁と勘違いして装置が働いたなら、撃った機体が切り刻まれる事になる所だ。
次に、跳ね返った時、勢いが殺されて切り裂くに十分な運動エネルギーが維持出来るか如何かである。
加えて、ジャイロでどの程度回転速度の加速で、攻撃力を補えるかが疑問でもあり、不安要素だらけの兵器としか判断出来ない代物なのだ。
「コンピュータの予想じゃ、５０回連続で跳ね返ってもＡＣに致命傷を与える事が可能だぞ！！」
――この言葉、どの程度信用出来る物だろうか、と考えざる得ないのだ。
（５０回は単なる大袈裟なのか？）
或いは―――――――――――――――
前後にのみ特化したトンネル内部用レーダーに適性反応。
「企業部隊！？」
瞬時にトリガーを引き、ディスクガンを連続発射する。
距離は約５００、射程距離は４００なので百メートル足りないが、仮に跳ね返るなら、多少前後した所で、この狭さなら充分に誤魔化す事が出来るだろう。
「見えた、良し！！」
思わずガッツポーズ。
跳ね返ったのか、何処かに刃が当たったのか、兎に角火花が見えた。
『おいおい、護衛隊、敵が滅茶苦茶速いぞ！？』
「何？
…嘘だろ！？
ぜ、全機…前だけで良い、並んで撃て！！」
３機のＭＴが四門のディスクガンを只管連続発射し続ける。
火花の観測距離は急激に近づき、４秒もすれば目に見える距離で壁に当たって跳ね返ったり、直撃や掠りによって跳ね返ったり、更に、その度に火花が散っているのが見えた。
『撃て撃て撃て！！』
――ドォオン！！
爆散した浮遊型のガードメカらしき兵器が燃えながら床にぶつかり、そのまま勢いを殺して停止する。
しかし既に次のロックオン対象、準ロックオン対象のカーソルが表示されている。
『まだ来るぞ！！』
次に食らったのは同型らしき兵器だった。
二門あるパルスガンらしき兵器の内、左側にディスクガンが直撃、衝撃で姿勢が崩れて右側の壁に激突して機能停止した。
その次も同じ兵器。
不意に放たれたレーザーが右腕部を焼く。
負荷爆発による衝撃でディスクガンの斜線が狂い、敵浮遊兵器の左下をディスクが通過、別の敵に直撃する。
ディスクが素通りした敵がパルスガンを乱射し、隊長機が大破、隣の２番機も右脚部の脹脛を焼かれて転倒してしまうも、その間に撃ったディスクが別の敵を破壊、跳ね返ったディスクが奥の敵へ飛来する。
パルスガンが当たったが、焼き潰される前に命中。
切れ味が劣化した為、刺さったままになったが、敵はそのまま落下し爆発した。
『これで…最後ですか？』
『後ろから反応だ』
『レイヴンなら誰でも良い、救援求む！！』
そんな通信をエレンのＡＣトラックを介して受け取った二機のＡＣが向かう。
ナストロファージとスカルフォックスだ。
二機に対して敵部隊――ロシア製の人型装甲兵器群が攻撃して来る。
ＡＣやノーマル、ましてやＭＴでもない。
５〜６、メートル程のＡＣ等とは明らかに違った等身数の少ない機体である。
マシンガンやガトリングガン、ミサイルと装備は様々だが制圧力を重視していると分かる兵装ばかりで、機体自体も良く似ているが、装甲の差は目で分かる程明らかで、集団での統率の取れた戦闘行動を前提とした兵器と思われる。
「……ｍｏｈ…？」
辛うじて読み取れたエンブレムに目を細めながらエグが呟く。
『馬鹿な、ミグラント組織！？』
スカルフォックスの搭乗者、シャドーミラが驚く。
何せ、企業社会に生きていたレイヴンに取って、企業間情勢は極めて重要且重大な流動であり、読み間違える事は死を意味するのだ。
そんなレイヴンに取って、ミグラントとは常に不確定要素であり続ける。
何分、企業社会と外部世界の経済を結び付けるのが仕事だ。
ミグラントの働きを肌で感じるレイヴンは気が気ではない。
過去に流しれ始めた企業に目を付けていた地下世界のレイヴンがミグラントが持ち込んだ外部世界の兵器により、雇い主だった中規模企業が壊滅し、そう言った多くのレイヴンが戦死してしまった例があるのだ。
初心者レイヴンに取って、ある程度の実力と機体の性能が確保出来ない時期には死神にさえ思えると、シャドーミラは耳にしていた。
事実、それを知ってか知らずかミグラントが名を出し始めた頃には、腕利きと呼ばれ始めたレベルと、それ以下のレイヴンの死亡率が激増し、逆にほとぼりがさめるとレイヴン志願者の数が増え始める、とケティーファが言っていた。
国家派レジスタンス・コロニーは非国家、実働レベル、実働級等と呼ばれてレベル分けされる事があるらしい。
非国家はまだまだ小規模な国家派コロニーで、実働レベルや実働級と呼ばれるコロニーは、国家として機能し得る規模と実力を持ち合わせている所の事を言うらしい。
商売は何もパーツショップ関係者のみが絡んでいる訳ではない。
その為、エグもレジスタンス絡みの便利さと厄介さは知っているつもりだ。
余りにも弾幕の密度が濃く、狭いトンネルでは避けようがない。
『駄目、救援要請を出してる部隊へのトンネルが全部…。
無理よ、二人共包囲される！！』
「けど…！
…見捨てるしかないか…」
そう決心しようとした時だった。
左サイドモニターに後ろに下がりながらバズーカを撃ったスカルフォックスの姿が見えた。
バズーカ弾が直撃し、そのまま幾らかの機体を巻き込む。
『小さいんだ。
一発当たれば決定打にもなるだろう』
その声音は呆れの含まれた物だった。
しかしエグを勇気づけるには充分だった。
即座にダブルトリガーで発砲開始。
両方の操縦桿のトリガーボタンを押しっぱなしにしながら、バックブースターを吹かす。
怯みを感じた瞬間、オーバードブーストを発動する。
その勢いのままダブルトリガー攻撃を続行する。
機体の勢いが、そのまま強烈な運動エネルギーとなった事で、弾丸が敵を貫通するに値する威力を纏い、その行動を以てナストロファージが敵陣を滅茶苦茶にしながら突破した。
「め、滅茶苦茶だなぁ…」
少し変な汗をかきながら、オーバードブーストを発動させるシャドーミラ。
重さを威力に変換するタイプのバズーカ弾が、強烈な加速を得た事で、ナストロファージの様に、凄まじい破壊力を得る。
加えて、放たれた弾幕型ミサイル、その無数のミサイルの殆どが、ロックオンせずに撃たれた物である。
スカルフォックスが自分達を突破した事に、追跡を始めようとする彼らだったが、後から飛来して来たミサイルに驚いて、銃撃を開始する。
撃ち落とせこそ出来たが、実際はロックオンしなかった為に壁に当たったが殆どで、気が付けば何も見えなくなっていた。
『目標座標へ到達した』
スカルフォックスが四脚自慢のブレーキ性能で、丁度良い所で停止する。
ナストロファージは、少しだけ浮いた状態でオーバードブーストを停止し、慣性に身を任せて、丁度良い所迄移動、メインブースターの噴射を停止して着地した。
『要請を出していた連中は…まあ、だろうな』
そう言うシャドーミラの乗ったスカルフォックスのセンサーカメラからの映像にエレンは少しだけ顔を蒼くした。
「う…嘘、だって…」
『エレン？』
エグがエレンの顔色を確認しようとコンパターを操作しようとした瞬間、シャドーミラが警告する。
『来るぞ、ヴァーナイト（１）、オールスカイ（２）だッッ！！』
赤い方と灰色の方、前者は軽量、後者は装甲を求めた中量の逆関節型脚部を採用した機体だ。
灰色の方が右手に持つマシンガンをフルオートで撃ち放つ。
ショックライフルを乱発しながら、奥の曲がり角に隠れたナストロファージがブーストダッシュで姿を出し、無防備になる代わりに短い間ダブルトリガー攻撃を実行するも、相手の二機が物凄い勢いで後退した為、当たったとは思えない。
陰に隠れていたスカルフォックスの、すぐ隣を敵のマシンガンの弾丸が通過する。
スカルフォックスが姿を出した一瞬の間に射出型リコンを飛ばす。
ロケット燃料推進機関の力でトンネル内をかっ飛ぶリコンだが、突如情報交信が途絶えた。
「やられた」
コクピットの中でシャドーミラがそう呟いた。
少し間を置いてエレンが画面を確認、言う。
『敵ＡＣの撤退を確認。
並びに作戦時間終了です。
二人共帰還して下さい』
『ああ、分かった』
エグの疲れた声音と、それを表すかの如く、何となく動きの悪い稼働率の低下が見受けられるナストロファージを見やりながらシャドーミラも答えた。
「……作戦継続時間終了、此方もタイマー上で確認した。
我々も戻る」
あれで大丈夫か、と心配になりつつもシャドーミラは操縦桿とペダルの操作に集中するのみであった。
13/05/17 17:24更新 / 天