ゴディバ、というとあの“ベルギー王室御用達”で有名なチョコレートメーカーゴディバが有名です。いくらベルギー王室御用達とはいえ、一番の上得意はなんだかんだで2月の日本人OLではないかと思うのですがどうでしょう。少なくとも日本のOLに嫌われたらゴディバの経営は危機的なダメージを受けるのは間違いないでしょう。
さて、この会社の社名となっている“ゴディバ”ですが、これは実は11世紀にイギリスの都市コベントリの領主であったレオフリックの伯爵夫人ゴディバの名に由来します。市民は伯爵の重税に大変苦しんでいたため、見かねたゴディバが再三にわたり減税を嘆願しました。はじめは無視していた伯爵も、夫人があまりにしつこいので“全裸で馬に乗り、市中を一周してきたら願いを聞き入れる”と答えました。これは貞淑な伯爵夫人にはとても受け入れがたい申し出でした。伯爵も、これで夫人が黙ると思ったのですが、夫人は“プロ・ポノ・プブリコ”(公の幸福のために)と、これを実行しました。それを知ったコベントリ市民は、当日は門戸を固く閉ざすことで夫人に応えました。ゴディバの社名はこの夫人の自己犠牲の精神を称える意味でその名をとっているのだそうです。
しかし、この時、コベントリには一人だけ裏切り者がいました。裏切り者の名はトムといい、トムは一人だけ夫人の裸を覗き見したのです。そこから、覗き魔のことをPeeping Tomというようになったのです。
さて、覗き魔のことを日本では“出歯亀”と言ったりしますが、これも人名に由来します。
1908年3月22日、新宿で女性の変死体が発見されました。女性は銭湯の帰り道、何者かに暴行を受けて殺されていたことから、殺人事件として捜査したところ、植木職人の池田亀太郎が容疑者として浮上しました。亀太郎は取り調べの結果、犯行を自白したためマスコミはこぞって亀太郎と言う人物像について報道しました。新聞の報道によると、亀太郎は仕事帰りに“藤の湯”の前へさしかかったとき、“恰も艶子が湯より上がりて今や衣類を付けんとする所を垣間見しかば物陰に身を隠して待ち受けたり、斯くとは知らず艶子は湯屋を立ち出で帰宅せんとしを亀太郎は七八間尾け行きて―中略―ついに獣行を遂げ跡をも見ずに間道傳い我家をさして帰り着”いたとあります(明治41年4月6日 東京朝日新聞より引用)。そして亀太郎は仕事仲間から“出っ歯亀”と呼ばれていたというくだりがあり、このことから女性を付けねらう男を出歯亀と呼ぶようになったのです 。
しかし、話はこれで終わりではありません。この池田亀太郎、裁判で有罪となり無期懲役が課せられたのですが、これは冤罪であった可能性が高いと言われています。
亀太郎は公判が始まると自白を一転させ、無実を主張しました。そして唯一の証拠であった自白は警察の拷問によるものであると主張し、彼の無実を証明する数々の物的証拠を提出したのですが、裁判所はこれをことごとく退け、自白に従い有罪としてしまいました。100年近く前の話ですから、真偽の程はもう分かりませんが、同日の新聞にも亀太郎の母が、倅は根性のない男だから警察の拷問でウソの自白をしたのではないか、と涙ながらに語る姿が報じられています。