農民が食べるものもないほど貧困にあえいでいることを知ったマリー・アントワネットが言ったとされる言葉。王室育ちで世間知らずな彼女の愚かさを象徴する言葉として伝えられる言葉ですが、実は彼女がこんなことを言ったという証拠はどこにもありません。
この言葉が初めて使われたのは1860年頃に出版されたジャン・ジャック・ルソーの「告白録」で、彼女がまだ少女の頃。
「告白録」中の、ある「偉大な王女」について語った部分によると、「偉大な王女」が農民がろくにパンも食べられないことを聞いて、
“Qu’ils mangent de la brioche.”(ブリオッシュを食べさせなさい)
と答えた、とある。
ブリオッシュとは最上級の菓子パンのことで、「偉大な王女」はパンといったらそもそもこれしか知らなかったのです。つまり、王女の言葉の意味するところは、「農民もパンが食べられるような善政をしなさい」という意味。したがってこの言葉は農民に対する親切心の表れで、ルソーもそのつもりで引用しているのです。付け加えるならば、「偉大な王女」=マリー・アントワネットということはどこにも書かれていません。
これに対し、古代中国西晋の2代皇帝である恵帝が、飢饉で農民が食うや食わずであるのを聞き、「なぜ農民は米がないなら肉粥を食べないのか」と、発言したのはほんとの話のようです。