初代米国大統領ジョージ・ワシントンが6歳のとき、父が大事にしている桜の樹を折ってしまった。しかし、彼は怒られるのを覚悟で正直に告白する。「僕が切りました」父は息子の正直な態度に感心し、怒るどころか褒め称えた。
初代大統領にまつわる美談としてアメリカ国民でもっとも有名な逸話。しかし、これはきわめて信憑性に乏しい。
そもそも、ワシントンの少年期については謎だらけ、というよりぜんぜん記録がなく、説教士メイスン・ウィームズによる最古の記録「ジョージ・ワシントンの生涯」では少年期についてはわずか1ページしかない。大統領の死後出版されたこの本の初版にはこの逸話は存在せず、重版していくうちにいつしか付け加えられたのである。
だいたい、ウィームズは自分の書いた伝記に、他人について書いた自分の著作の中から適当に逸話を転用する悪癖があることで有名だったらしいし、ウィームズ自身「ジョージ・ワシントンの生涯」に作り話があることを認めている。
ところでこの逸話、事実としても、ワシントンの美談じゃなくて、桜の樹を折ったことより正直な態度を評価したワシントンの父親の美談なのではないかと思うのは僕だけだろうか。