上弦の月・下弦の月


 

 常識というか、勘違いしている人がやたらと多いのでここで紹介しておきます。

 月の下側に三日月が見えるのをよく下弦の月、上側に三日月が見えるのを上弦の月という人がいます。しかしこれは逆で、下が見えるのが上弦の月、上が見えるのが下弦の月です。
 というのも、そもそも上弦・下弦というのは、三日月を弓に見立てて、月の入りのときに弦が上か下か、ということで上弦・下弦というので、弓(月)が上なら弦は下、弓(月)が下なら弦は上になるのです。

←これが上弦の月   こっちが下弦の月→

 これについては、故・長谷川町子さんも間違って覚えていたらしく、エッセイ「サザエさんうちあけ話」で自ら訂正しておられます。もっとも私が上弦の月・下弦の月という言葉を覚えたのがこの本だったりするので偉そうなことは言えません。
 それでもあえて偉そうなことを言わせてもらって、上弦・下弦の月について書かれた和歌を引用いたしましょう。

 照る月を弓張りとしもいふことは山辺をさしていればなりけり 凡河内躬恒

 古今和歌集の編者の一人、凡河内躬恒醍醐天皇に「三日月を弓張りというは何のこころぞ」(三日月を弓張りというのはどういうわけか)と聞かれて答えて詠んだ歌。弓張りとは上弦の月・下弦の月の総称。「照る月を弓張りともいうのは山辺をさして射っているように見えるからです」(いるは「射る」と「居る」の掛詞)という意味。「大鏡」第183段に出ている逸話です。