お皿とフジツボ


 

 メトセラは花粉症なので、6〜7月の花粉シーズン中に外出する際には、顔が半分隠れる巨大なマスクを使っています。先日、スーパーに行ったとき、小さな子供がびっくりして私の顔をまじまじと眺めていました。どうせならきれいどころのおねーちゃんに眺めてもらいたかったです。学校に行ったとき話すんでしょうね。すごいマスクした人を見たって。
 
 そう思ったときふと思い出したのが、昭和40年代に日本中を恐怖に陥れた“口裂け女”です。あれも確か大きなマスクをしているという設定でした。
 当時はまだ花粉症は今ほどメジャーではありませんでしたし、ましてスギ以外の花粉症の人は全国レベルでもそう滅多に見られるものではなかったのではないでしょうか。カモガヤやブタクサ花粉はスギと違って風邪をひく人が少ない時期に飛散します。そういう時期に、尋常でない巨大なマスクにサングラス、そして深々と帽子をかぶった奇妙な女性がいる。これにはきっとわけがあるに違いない。ひょっとして醜い顔を隠しているのではないか。そんなところから口裂け女伝説は始まったのではないでしょうか。これなら、全国で“目撃談”があったことも説明がつきます。
 
 また、口裂け女は赤いコートを着ている、という設定もありましたが、花粉のつきにくい茶色い革製のコートを着る人もいます。さらに、花粉症の人はポマードは嫌いです。なぜならあぁいう油っこいものは肌に花粉が付着しやすくなるから。いかに肌をサラサラに保つか、ということを考えています。口裂け女の基本設定はなんともいちいちマイナー花粉症に適合するのです。
 
 まぁあくまで想像ですが。
 
 
 そんなことを考えたので今回は、人口に膾炙したいわゆる都市伝説を叩っ斬ってみようと思います。そんでもってそういうのをシリーズ化できたらいいなぁと。ただ、都市伝説は専門に扱うページもわりと多いので、“常識は非常識”らしく、常識をベースに叩き斬ってみようかと、そういうことで一つよろしく。
 
 というわけで、第一回の槍玉に挙げるのは“フジツボと膝の皿”の話です。
 この話の概略はおおよそ次のようなかんじです。
 
 “僕の友達の知り合い”が海水浴に行き、岩場で遊んでいたとき、うっかり転んで膝を切ってしまった。しかし、大した怪我でもないので簡単な手当てだけで済ませてしまった。
 ところがそれから数週間たっても、痛みは治まるどころかはげしくなっていき、ついには歩くのもままならないほどになってしまった。そこで、病院に行って切開してみたところ、膝の皿の裏にフジツボがびっしりと張り付いていた。
 これは、転んで膝を切ったときにフジツボの卵が傷口から入り、膝の皿の裏に着床しものである。血液は海水と成分が似ていて、また血液には酸素や栄養もあるのでフジツボにとって非常に繁殖しやすい環境だったのだ。

 
 結論から言います。医学的にありえません。そして常識的にもありえません。
 まぁ、幸福のペンダント並みに突っ込みどころ満載ですが、ポイントだけ指摘しておきましょう。
 

  1. まず、この話の前提である血液と海水は成分が近いということですが、これからしてまずウソ
    確かに塩分濃度は近いです。でもそれ以外はまったく違います。血液には赤血球が含まれているということは小学生でも知っています。一体、どこの海水に赤血球だの血小板だのが含まれてるんでしょうか。
    だいたい、血液と海水の成分が全然違うということぐらい見れば分かります。透明な血液なんて見たことありません
     
  2. 血液の成分といえば、この話を広めた人はどうやら白血球というものを御存知ではないようです。白血球は、侵入した細菌や異物などを消化分解してしまう、人間の最も重要な免疫システムです。この白血球が異常に多い病気を白血病といいます。
    血液中にフジツボの卵など入ろうものなら、白血球が黙っちゃいません。血液の中はフジツボにとってよい環境?馬鹿言っちゃいけません。天敵だらけです。
     
  3. また、血液中には酸素が豊富というのも大嘘です。なるほど、血液は赤血球の働きにより全身に酸素を運ぶ、ということは誰でも知ってます。しかし、血液中に酸素(O2)は存在しません。当たり前です。そんなもんあったら血小板が固まって血栓が出来てしまいます。
    じゃあどうなっているのかというと、赤血球中に含まれるヘモグロビンと酸素が結合し、オキシヘモグロビンという物質になって全身に運ばれるのです。小難しい言葉ですが、要するに酸化ヘモグロビンと考えればよいでしょう。オキシヘモグロビンはもちろん酸素ではありません。構成要素に酸素原子を含むというだけのまったく別の物質です。鉄さび(FeO)を吸えますか?硫酸(H2SO4)で呼吸できますか?同じことです。魚だって、水中にわずかに溶け込んだ酸素を(O2)を吸って生きているのです。
     
  4. とどめです。この話の最も重要なテーゼである、“膝の皿の裏”ですが、そもそもそんなものは存在しません。膝に手を当てるとカクカク動く皿状のもの、これは足の骨の隙間にある関節の一部が組み合わさっただけのもので、膝の上に皿状の骨が乗っかってるわけではありません。関節ですから、あれは骨の隙間まで入り込んでおり、“皿の裏”という場所は存在しないのです。
 
 どうでしょうか。この都市伝説が如何にいい加減なものであるか御理解いただけたでしょうか。
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