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やぶれっ!住基ネット情報ファイル

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2008年7月15日

杉並区長 山田 宏 様

住基ネットに不参加を!杉並の会
代表 石崎 暾子

住基ネット最高裁決定をうけた申し入れ書

7月8日、最高裁は杉並区の住基ネット訴訟を棄却する決定をしました。「上告理由は違憲をいうが、実質は単なる法令違反を主張するもので、上告をすることが許される事由に該当しない」という、内容判断に一切踏み込まない門前払いの決定でした。

私たちは裁判をせずに、杉並区の求める「確固とした個人情報保護の法制度」が実現するまでは住基ネットへの非接続を続けるよう求めてきました。しかし杉並区が裁判を続け、このような形で地方自治とプライバシー保護に無配慮な東京高裁判決が確定したことは、大変不幸なことと言わざるをえません。

最高裁の決定住基ネットへの接続、ではありません

区長はこの決定に対して、「最高裁の判断が下った以上、行政官としては、決定に従います。今後は、これまでの区の主張を踏まえ、対応してまいります」とのコメントを発表されています。報道では、判決を受けて住基ネットに接続する方針と報じられています。

この裁判は「段階的参加方式(横浜方式)」による住基ネット参加を求めて、杉並区が起こしたものです。最高裁の決定に従うということは、「横浜方式」を実施しないということにとどまります。非接続状態を違法とする国都からの是正要求に対しての判決ではなく、なんら接続の法的義務を負うものではないことは杉並区も認めているところです。最高裁の決定を受けて、杉並区はあらためて住基ネット接続の是非を原点に立ち返って検討すべきです。決定を理由に接続を既定の方針であるかのように進めることは、杉並区が住基ネットの問題点を指摘してきたことに照らして無責任な対応です。

司法の判断としても、最高裁決定で確定したあの11月29日東京高裁判決でさえ、住基ネットにより国等に提供される本人確認情報は「個人のプライバシーに関する情報に当たり、法的保護に値するもの」と認め、「住基ネットの稼働によりこのような利益が侵害され、又は侵害される可能性がある場合、これによって生じた損害の賠償又は住基ネットの運用の差止めの可否等が問題となる」と述べています。

また大阪高裁の住基ネット違憲判決を否定した3月6日の最高裁判決は、「現行法上、本人確認情報の提供が認められている行政事務において取り扱われる個人情報を一元的に管理することができる機関又は主体は存在しない」として住基ネットを合憲と判断しました。しかしその後、住基ネットからの本人確認情報提供のほとんどを占める年金事務を中心に、介護・医療・健康の個人情報を一元的に管理し相互利用する「社会保障カード(社会保障番号)」が実施に向けて準備されており、住民票コードを使用する可能性もあります。この判断そのものも見直されなければなりません。

利便性は実現せず、危険性は現実化している住基ネットは見直しが必要です

杉並区も指摘してきたように、住基カードは普及しないばかりか、偽造や不正取得が後をたちません。住民票の広域交付や転出入手続きの簡素化は、ほとんど利用されていません。電子申請も住基ネットによる公的個人認証を利用したものは低迷し、住基ネットは行政IT化のお荷物ではないか、と言われています。住基ネット関連の情報漏洩や不適切な運用も起きておりセキュリティの不安は解消していません。本人確認情報の利用に自治体は関与できず、自己情報のコントロールは保障されていません。「社会保障カード」は納税者番号など官民を問わず広範に利用することまで検討され、「国民総背番号制」の危険は現実になろうとしています。稼働5年をすぎ、当初説明された利便性は実現できず危険性が現実化している住基ネットは、いまこそ見直しが必要です。

杉並区は全国の自治体の中でいち早く住基ネットの危険性に警鐘を鳴らしてきました。2002年8月の住基ネット稼働時には広範な世論が住基ネットに反対をし、杉並区の取り組みは高く評価され、区民も杉並区の非接続の姿勢を支持してきました。上告にあたり杉並区は「このような判決を確定させることは、確固とした地方自治を確立するためにも、健全なIT社会を築くためにも、すなわち、将来の日本のためにも大きな禍根を残す」との見解を発表しています。住基ネット問題のオピニオン・リーダーである杉並区がどのような対応をするかは、まさに「将来の国民の幸福」を左右します。

また杉並区が2003年に実施した「非通知申し出調査」では、約17%の区民が住基ネット非接続を選択し、現在も選択しつづけています。杉並区は裁判で「(第三者機関が)存在しない現状では、自分の情報を守るための最終手段として、住基ネットからの離脱を選択する自由が保障されるべきことが、憲法上のプライバシー権保障の帰結である」と主張してきました。これら区民の選択を保障することは、裁判結果に関わらず憲法を守る杉並区の責務です。

2003年6月に「横浜方式」方針を表明した際に、区は区民に対して、長野県侵入実験の調査検討・自治体共同での住基ネット監視機関の設置・杉並区における運用の第三者監視機関の設置・危険性が明白になった場合には直ちに切断する等、5項目の措置をあわせて講じると約束してきました。また国に対しては、『確固とした個人情報保護の法制度』の実現として、行政機関個人情報保護法や住民基本台帳法の改正を求める4項目の要望をしてきました。しかしこれらの区の主張は、実現していません。

拙速に住基ネットに接続せず、区の対応を検討し、区民の意思の確認を求めます

区の主張を踏まえた対応のために、以下の申し入れをします

(1)以下の2点が実施されるまでは、住基ネットには接続しないこと

1)裁判を通して主張してきた住基ネットのさまざまな問題点の解決とあわせて、これら区の主張を踏まえた対応を検討し、区民に説明し、理解を得て、それらの措置を実施すること

2)「住民の利便性の向上という法益と、プライバシーの保護という法益との調整」を図る方法として、「横浜方式」が採用できなくなった今、杉並区自治基本条例に基づく住民投票を実施し、接続の可否を区民の判断に委ねること

(2)接続することになった場合でも、非接続を希望した区民の憲法上のプライバシー権を守るため、区としての最大限の努力をすること


原典について


Copyright(C) 2008 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2008年07月15日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/suginami01/moushiire080715.html