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平成20年2月18日

箕面市長 藤沢純― 殿

意見書

箕面市住民基本台帳ネットワークシステム検討専門員 江澤義典
      同                  秋田仁志
      同                  黒田 充
      同                  園田 寿

1 はじめに

箕面市は、平成18年11月30日の大阪高等裁判所判決により、同訴訟の控訴人たる箕面市民について、住民基本台帳から住民票コードを削除することを命じられた。

箕面市長は「人権を守る立場の自治体の長として」、この判決を受け入れ、さらに住民票コードの削除を求める他の住民についても、削除に応じる方向で検討することを表明した。そして、市長の諮問を受けたわれわれ専門員は、平成19年3月30日に答申を提出した。

しかるに、判決から1年2ケ月、答申からも10ケ月以上が経過した後も、答申内容は実施されず、高裁判決も履行されてこなかったところ(以下、高裁判決の履行及び答申内容の実施をあわせて、「判決の履行等」という)、去る2月14日、市は、大阪高等裁判所の判決受け入れに伴い、控訴人の住民基本台帳システム内にある住民票を紙の住民票に切り替え、その住民票から住民票コードを削除し、大阪高裁判決主文を実行したと発表した。

しかし、市が発表した今回の処置は住民票コードの削除にも、高裁判決の履行にも該当せず、検討専門員としては、改めて、市長に対して、判決の履行と答申の実施を強く求めるものである。

2 答申後の意見具申と市長の方針

われわれは答申において、控訴人の住民票コードを削除する具体的方法を明らかにし、平成19年11月に予定されていた市の住民情報システムの移行にあわせてシステム改修を行うことが合理的であると述べた。また、住基ネットでの自己情報の運用を希望しない他の住民についても、控訴人と同一の方法により、住民票コードを削除することは、必要かつ適法であるとの見解を提示した。

答申提出後も、われわれは、市からの要請に応じて、判決の履行等の実施方法等についての意見具申も行い、一貫して答申内容の早期実現が必要であると指摘してきた(市長等への説明は、平成19年5月23日、7月25日、10月17日、12月27日等に行われている)。

これに対して、市長からも、大阪高裁判決を履行し、答申を実施するとの方針が、一貫して表明されてきたところであり、市において、判決を履行せず、答申内容を実施していない事実は、遺憾と言わざるを得ない。

3 今回発表された措置について

今回発表された措置(以下「本件措置」)について、市からは次のとおり説明がなされている。

①住民基本台帳システム内にある控訴人の住民票データを紙台帳に移すため改製を行う。

②改製後の紙による住民票を控訴人に限り正規の住民票(原本)とする。

③紙による住民票の住民票コードを削除し、それに伴い住民票を再度改製する。

④住民票コードを削除した控訴人の本人確認情報に異動があった旨を文書により大阪府知事あてに通知する(住民票コードが削除された本人確認情報は、住基法第30条の5第2項に規定する電気通信回線を通じて都道府県知事の使用に係る電子計算機に送信できないため、文書により通知せざるを得ない)。

行政機関として、事務処理の合理性、市民サービスヘの影響等を考慮すれば、答申で述べた通りシステム改修を実現するべきであって、紙台帳での処理は不適切なものである。そのうえでなお、システム変更に要する限定された期間における緊急避難措置として、紙データでの管理処置を検討したとしても、本件措置は判決の履行となっていないのみならず、違法なものと考えられる。

なぜなら、本件措置では、住民基本台帳システム内にある「控訴人の住民票データを紙台帳に移すため改製を行う」とされているが、市の説明によれば、既存住基システムにおける控訴人の住民票コードを含む「住民情報システムにおける控訴人の住民票データは、庁内各システムとの連携用の管理用データと位置づける」とされており、現実のデータ処理として住民票コードの削除は行われず、また住基ネットシステムにおいても何ら削除は行われていないからである。本件措置は、現実には削除されていない控訴人の住民票コードを、市内部においては削除されたものと扱うと強弁しているにすぎないのであって、到底、高裁判決を履行したものではないことは明らかである。

また、市の説明では、「住民基本台帳システム内にある控訴人の住民票データを紙台帳に移すため改製を行う」とされているが、本件措置は、「移す」処理を行っているのではなく、「写す」処理を行っているにすぎず、「改製」は行われていない。そもそも、改製とは、改製前の旧住民票を除票としなければならないのであって、旧住民票の情報を管理用データとして称して、そのまま放置、利用する本件措置は、改製にはあたらず、住民基本台帳法違反である。この点、市の説明では「住民情報システムにおける控訴人の住民票データは、庁内各システムとの連携用の管理用データと位置づける」とするが、管理用デ一タであれば、紙台帳の原本情報と同一内容とされなければならないのであって、既存住基情報を原本情報と異なる管理用データとすることも許されるはずがない。市の同説明によって、住民基本台帳法等に違反する措置を正当化できるものではない。

さらに、本件措置は、不必要な個人情報の保有を禁ずる箕面市個人情報保護条例(第7条)にも違反するものといわねばならない。

以上の通り、「大阪高裁判決主文を実行」し、「住民票コードを削除」したとする市長の説明は事実と異なり、市長は、同説明を撤回したうえで、事実を明確に控訴人、市民に説明する責任があると考える。

4 おわりに

今回発表された措置、判決の履行等がなされていない事実に対する専門員としての見解は以上の通りであり、われわれは市長に対し、現在の違法状態を解消するために、連やかに答申を実現されるよう要望するものである。

尚、控訴人の住民票コードを完全に削除することは、確定判決に基づく義務であり、市が判決確定後1年以上を経過してもなお、その義務を履行していないのは、明らかに違法である。控訴人は、市に対して、強制執行(間接強制)手続を取ることができると考えられ、間接強制が命じられる場合には裁判所が債務の履行を確保するために相当と認める金額の支払義務を負うこととなる。この点、上告中の関連事件において、最高裁が大阪高裁と異なる判決を下した場合においても、市の控訴人に対する確定判決に基づく義務が変更を受けるものではない。

以上


原典について


Copyright(C) 2008 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2008年03月09日、最終更新日:2008年03月27日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/oosaka5shi/minoh/ikensho080218.html