2012年2月14日
反住基ネット連絡会
新宿区西早稲田1-9-19-207 日本消費者連盟気付
2月14日、政府は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」(通称「マイナンバー法案」)など関連3法案を閣議決定し、国会に上程しました。
これまで政府は、共通番号制度について、税と社会保障の領域において主に給付のために付番するものであると説明してきました。現在進められようとしている税と社会保障の一体改革は、未だにその全体像が決まっていません。その財源となる消費税の増税についても不分明な状況が続いています。また政府は、消費税の逆進性を緩和するための給付付き税額控除を導入するには所得捕捉の厳密性が必要であり、そのために共通番号制度が必要であると宣伝してきました。しかし、現在その目処すら立っていないにもかかわらず、マイナンバー関連法案のみが先行して国会に上程されました。
導入する制度をどのようなものにするのかは、達成すべき社会保障や税のあり方がはっきりしてから議論すべき問題です。税と社会保障の一体改革のあり方が定まらないうちに、その実現手段である共通番号制度を切り離し、先行して成立させる必然性は全く認められません。まず番号ありきだと批判されて当然です。これでは、日本に定住するすべての住民に共通番号を付番することそのものが目的だとしか言いようがありません。私たちはそうした番号付番のあり方とマイナンバー法案の国会上程に強く抗議するものです。
1月28日、政府は「共通番号制度」について実施した世論調査の結果を発表しました。それによると、この制度について83.3%の人が「内容を知らなかった」と回答しながら、制度の必要性については57.4%の人が「必要だと思う」と回答しました。この大変矛盾した回答こそ、この制度の問題性を象徴しています。マイナンバー法案は対決法案ではありません。8割以上の人々が内容も知らないまま、国会で充分な議論や問題点の究明がされないうちに法案を成立させてしまうことの危険性を、私たちは強く指摘しないわけにいきません。
これまで政府は、共通番号制度について「国民の権利を守るもの」であると宣伝してきました。ところが法律の目的を定める第1条の主語はあくまでも行政機関であり、行政機関の迅速な情報の授受が最初に掲げられ、そのあと行政機関に対して申請を行う「国民」の負担軽減が述べられています。さらに法案は、個人情報の取り扱いに関して抜け道だらけで知られる行政機関個人情報保護法など関連3法について、さらなる特例(例外措置)を定めることを目的に掲げています。これらのことは、この法案の性格を如実に物語っています。そこには社会保障の給付の充実などという理念のかけらも見当たりません。
共通番号の利用範囲についてみると、必ずしも税と社会保障に限定されていません。第3条の「番号の利用の基本」には「その他の行政分野における」という文言が入っています。さらに附則第6条では施行後5年を目途として法律の見直しを謳っています。個人情報の利用にあたっては、利用目的と利用範囲の明確化が必須であると私たちは考えます。法案は、その最も根本的な部分を曖昧のまま放置しています。
法案が「刑事事件の捜査」を利用範囲に含めていること(第6条第5項、第17条第11号)は、これまで全く議論されてこなかった大きな問題です。さらに「刑事事件の捜査」等への個人情報の提供について、第三者機関である個人番号情報保護委員会が行う監督業務の適用から除外していること(第48条)は、治安立法としての法案の性格を象徴的にあらわしています。
これまで政府は「情報連携基盤」を通して間接的にデータマッチングを行うと説明してきました。法案では「情報連携基盤」が「情報提供ネットワークシステム」に置き変わりましたが、その詳細は何も規定されていません。すなわち、どのようなシステムを構築しても構わないし、外部に明らかにする必要もないという絶大な権力を行政機関に与えようとしています。
法案には、第三者機関である個人番号情報保護委員会による不正利用の監視や罰則強化が盛り込まれています。しかし、そのような措置が情報漏洩やなりすましを防止できないことは、アメリカや韓国の状況を見れば一目瞭然です。法案に貫かれているのは、個人情報を単なる記号としてしか扱わない管理者の視点であり、法案に欠如しているのは、一人ひとりの権利を保障するプライバシー保護の方策です。
このようにマイナンバー法案には議論を尽くすべき問題が山積しています。「国民から意見を聞き、周知する」ために実施しているという「番号制度リレーシンポジウム」は、まだ半分の都道府県でしか開催されていません。少なくとも全都道府県で実施した後に法案化することが「国民の権利を守ること」につながるのではないでしょうか。通常国会では拙速に法案を成立させることなく、いったんこれを廃案とし、再度開かれた議論を通じて共通番号制度のあり方を根本的に検討することを私たちは強く求めます。