行殺(はぁと)新選組 ふれっしゅ(ちょっぴりサフィズム)

ホワイトデーSS・2005版『湯殿戦記』


 幕末のある年の弥生の月。こよみの上では春だが、まだまだ寒い。先日降った雪が、日の当たらない家の蔭などにまだ白く、冬の名残と残っている。
 新選組平隊士 島田誠と斎藤はじめは、そんな寒い京洛を巡回していた。浅葱地に袖口に白のダンダラ模様の隊服の羽織は、冬仕様で裏地があわせになってはいるものの、やはり寒いものは寒い。

「なー、斎藤」

「なに、島田?」

「そろそろホワイトデーだが」

「そうだね」

「何でホワイトデーなんだろうな?」

「はあ?」 俺の質問が予期せぬ物だったのだろう。斎藤は間の抜けた声で俺に聞き返した。

「なんでって、一体どうして?」

「バレンタインデーってのは、バレンタインっていう聖人が元になってるんだろ?」

「そうだよ」

「じゃあ、ホワイトデーはミスター・ホワイトなのか?」

「いや、白いものを贈るからじゃないのかなあ」

「だったらブラックデーとかイエローデーとかでもいいんじゃないか?」

「それは縁起悪いよ」

「なんで?」 今度は俺が斎藤に聞き返す。



「あたしの国では、4月14日のブラックデーは、バレンタインデーにチョコをもらえなかった殿方と、誰にもチョコをあげれなかった女性が黒い服を着て、黒いチャンジャン麺を食べる日なんですよ。失恋が結ぶ出会いですよ。そして、な、何と5月14日のイエローデーは、ブラックデーでも恋人のできなかった男女が黄色い服を着て、カレーを食べるのですよ。最後の恋のチャンスなのですよ」

 通りすがりのチマチョゴリを着た少女が一気呵成いっきかせいにまくし立てると、そのまま去って行った。



「・・・・今の、誰?」 斎藤と同じ声だったが、誰だったんだ?



「というわけでブラックデーとイエローデーは縁起が悪いんだよ」

「ですよーーー」 遠くからさっきの少女が叫ぶ。



「じゃあ、ブルーデーならどうだ」

「島田、それ女の子の日」

「あ、そーか」

「白かあ。やっぱ紅白でおめでたいのかねえ」

「縁起はいいよね」

「・・・・そういえばなぜバレンタインは赤いんだろう?」

「島田、それを考えるとキリがないよ」

 最近の京の町は平和なもんだ。俺たちはそんな感じで馬鹿話しながら巡回を続けて行った。




 そして3月14日ホワイトデー当日。新選組女性幹部達はそれぞれ島田からのホワイトデープレゼントを受け取っていた。

「・・・・これ、何?」 首を捻るのは原田沙乃。

「これって、どう見てもせっけんだよなあ」

 永倉アラタは手の中の白い物体をめつすがめつしている。大広間で島田が配ったホワイトデーのお返しの包みを開くと、各自せっけんが1個ずつ入っていたのだ。

「島田の考える事はよく分からん。昨年は豆腐だったし」

 新選組副長 土方歳江はため息をついた。(※2004年のホワイトデーSS『白い日、赤く染まる(若竹版)』を参照の事)

「でも白いことは白いよ」 これは局長の近藤勇子だ。

「まあ、下着とか贈ってくるよりマシじゃないかなあ」

 と同じく局長のカモミール芹沢。芹沢にはそういう経験が豊富にあるのだろう。

「そんなオヤジな事するのは山南さんだけです」

 うつむいてメガネを直しながら沖田鈴音がボソッと言った。確かに副長の山南敬助は典型的なオヤジキャラだが・・・・。沖田はバレンタインのお返しに山南から下着をもらった事があるのだろうか?


 島田の真意をはかりかねて、皆がうーん、うーんと頭を悩ませる中、普段から影の薄い藤堂平だけはみんなに気付かれないうちにすっと姿を消した。


“せっけん・・・・風呂・・・・” 土方はここまで連想して、その直後、連想が妄想に切り替わった。
【土方】島田、背中を流してやろう。
【島田】今日はホワイトデーですから、俺が土方さんの背中を流しますよ。
【土方】う、うむ。ならば、任せよう。(顔赤い)
(効果音:ゴシゴシ)
【島田】おっと手が滑ったあ。(わざとらしく)
【土方】島田、あ、何を、そこは・・・・。ああっ。
【島田】よいではないか。よいではないか。
 自らの妄想に真っ赤になる土方。(なぜ最後の辺りだけ時代劇なのだろう?)


 そして、
“せっけん、せっけん・・・・あ!” 沙乃もひらめいた。
“も、もしかして、これは一緒に風呂に入ろうって暗号なの!?
 な、なんて破廉恥な。バカバカ、島田の馬鹿”


“せっけんって英語でソープよね。くすっ、島田クンってダ・イ・タ・ン☆”
 カモミール芹沢の妄想は土方の妄想より一歩過激だった。


“お兄ちゃんとお風呂・・・・あ、駄目だよ、お兄ちゃん”
 沖田鈴音も妄想系だ。


“せっけん・・・・お、風呂かあ。でも島田の奴、なんで全員にせっけんを配ったんだ?
 ・・・・そおかあ! 島田が女湯に来れるわけないもんな。
 みんなが男湯に行くこともないし。この中で男湯に行けるのは、アタイだけ。
 やったあ、島田の本命はこのアタイだ。島田も女を見る目があるなあ”
 永倉の推理は冴えていた。


 そして近藤勇子は・・・・
“うーん、うーん、せっけん、せっけんは白い。白いはうさぎ、うさぎは跳ねる、跳ねるはカエル、カエルは・・・・”
 どうやら考えが遠くへ彷徨さまよっているらしかった。




 3月14日、夜、新選組屯所内湯殿、女湯。
 邪魔な湯気に包まれているものの、そこはまさに桃源郷。裸体の女神たちがお湯とたわむれ、くつろぎ、それぞれの美しさに磨きをかける所・・・・のはずなのだが、新選組の女湯では緊迫した空気が漂っていた。

「歳江ちゃん、長湯だね〜。熱くない?」

 湯船に浮かべたお盆の上の徳利から一杯やりながら土方の方を見やる芹沢。頭の上に手ぬぐいを乗せた彼女はまだまだ余裕の表情だ。

「ふ、江戸っ子だからな。ぬるいぐらいだ」

 それに対して土方の顔は真っ赤だが、ここで先に風呂を出てしまえば、その後、島田がやってきたときに、他の誰かに島田を奪われてしまう。真っ先に島田の考えに気付いた土方歳江は一番風呂に入っている。ここまで我慢したのだ。今更退くわけにはいかない。

「私よりもそーじは無理するなよ。のぼせるぞ」

「大丈夫です。トシさんこそ顔真っ赤ですよ」

 もともと沖田鈴音は虚弱体質なので、すでにのぼせぎみだが、こちらもやせ我慢である。

「近藤、お前も湯船に入れ。湯冷めするぞ」

「身体をピカピカにしておかないとね」

 近藤は島田のせっけんで体中泡だらけだ。近藤勇子は自分のボディに念入りに磨きをかけている。気付くのが一番遅かったので風呂場に現われたのも一番遅かったが、それが幸いしているので、まだまだ余裕がある。
 それぞれに牽制しあっている。島田がやってきた時に、風呂場にいるのは自分だけでいい。乙女たちは島田が現われるのを今か今かと待ち受けながら火花を散らしていた。


「ねー、そういえばアラタちゃんが居ないね」 湯船に浸かった近藤が気付いた。

「アラタちゃんは気付かなかったんじゃないかなあ?」 それに対して芹沢が答える。

 湯船に浮かべたお盆の上から徳利を取り、一杯やる芹沢。その芹沢に酌をする土方。さっさと酔い潰れさせてしまえという魂胆だ。

「へーちゃんもいないね」

「藤堂が気付かなかったとは考えづらいな」

「そういえば、アラタってよく男湯に入るのよね」 ふと思い出したように沙乃が言う。

「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」

 全員が同時に気付いた。そうか! 男湯だ! 島田が女湯に来るはずないではないか!

「しまった! 男湯・・・・」

 がばっと立ち上がった土方は、その瞬間に湯船の中に崩れる。ざぱぁんと波しぶきがあがる。

「キャー、トシちゃんが倒れた」

「トシさん!」

「やっぱり歳江ちゃん、無理してたんだ〜☆」

「ぶくぶくぶく・・・」

「そーじも沈んでる〜」

「あー、もー、世話が焼けるなあ」

 長いこと湯に浸かってたので、全員ヘロヘロである。女湯組は介抱される者、介抱する者の両者で島田どころではなくなった。




 一方男湯では・・・・。

「へー、こっちは男湯だぞ」

「そーゆー、アラタちゃんこそ。こっちは男湯だよ」

 湯船に浸かった永倉アラタと藤堂平が頭の上に手ぬぐいを乗せ、共に笑顔で火花を散らしていた。そんな2人を新選組の男共は遠くからコソコソとうかがっているだけだ。

「アタイは常連だからいいんだよ。へーは男どもに見られても平気なのか?」

「減るもんじゃないし〜」 あくまで笑顔の藤堂。

「ま、アタイはいつも島田と風呂に入ってるからどーって事ないんだけどな」

 ピク。永倉の先制口撃に藤堂の頬が引きつる。

「アラタちゃん、男の人に混じってても、全然分からないもんね」

 ピク。藤堂の反撃に永倉の頬もひくつく。

「へーこそ、普段、斬馬刀なんて重たいもんを振り回してるから、
 意外と全身筋肉女だもんなあ。腕なんてアタイよりもがっしりしてるし」
 永倉の再反撃。

「でも、私の方が胸が大きいから、まことの目の保養になるよね、なるよね」

 ザクッ。藤堂の言葉が永倉のない胸をえぐる。ちなみに藤堂平、バスト83cm。

「ま、乳のデカい女なら、うちには芹沢さんとかいるし、アタイもへーも大してかわんないよ」

 ちなみに永倉アラタ、バスト80cm。
 一進一退の攻防が続く。

「アラタちゃんは、まこととお風呂がいつも一緒なんだよね」

「おう。共に風呂に入る仲だ」

「だったら、まこともアラタちゃんの裸なんて見飽きてるよね、うん」

 ぴき。容赦ない藤堂の口撃が続く。

「へーは影が薄いからなあ。湯気に霞んじまうんじゃないか?」

 永倉見事な反撃。



 男湯に男共が居なくなった。残された2人がポツンと湯船に浸かっている。

「なー、へー。もし島田がアタイを選んだら、お前はどうすんだ?」

「あはは・・・。その時は、仕方ない、仕方ないよね」

 藤堂が悲しげな表情をする。物分かりが良すぎるというか、あきらめが良すぎるというのが藤堂平の欠点だ。永倉にとっても、そんな藤堂がもどかしいのだ。

「馬鹿野郎、『仕方ない』じゃないだろ!」

「だって、仕方ないじゃない」

「アタイから島田を奪うぐらいの根性はないのかよ!」

「そんな事しても、まこと、喜ばないし」

「いいか、恋ってのは戦いなんだぞ。戦う前から退いてどうすんだよ!」

「だって、仕方ない。仕方ないよ・・・・。
 もしも、まことがわたしを選んだらアラタちゃんはどうするの?」

「アタイは! アタイは・・・・」

 断固として戦う。と続けたかったのだが、続けられなかった。もしも島田が藤堂を選んだのなら、それはどうしようもないことなのだ。



 そして、2人とも無言の時間だけが過ぎて行く。

「キャー、トシちゃんが」
「そーじも沈んでる」
「あーもー、2人とも世話が焼けるなあ」



 隣の女湯から騒ぎが聞こえて来た。

「馬鹿だなあ。女湯で待ってても島田が来るはずないじゃん」

「そうだよ。女湯で待ってて、倒れても仕方ないよね」

「へー、男湯で倒れたら洒落にならないぞ」

「アラタちゃんこそ」

 2人ともすでに顔が真っ赤だ。

「でも島田、遅いなあ」

「そうだねえ」

 そろそろこっちも限界であった。




 その頃、島田は・・・・。

「ごほ、ごほ」

「島田、風邪?」

「うー。この所、寒かったからなあ」

「暖かくして、早く寝なよ」

「そうするー」

 男湯にも女湯にも行かず、風邪引いて寝ていたのであった。
 ちなみにせっけんに深い意味はなく、単に白いからという理由だったらしい。
 翌日、風邪の島田と湯あたりを起こした者数名が寝込んだらしいのだが、記録には一切残っていない。

(おしまい)


(あとがき)
 ブラックデー、イエローデーってのは韓国の風習だそうです。2月14日バレンタイン、3月14日ホワイトデー、4月14日ブラックデー、5月14日イエローデーと連続して続くんだそうです。面白いなあ、韓国。というわけでその説明の台詞は、行殺と同じライアーソフトのゲーム『サフィズムの舷窓』の登場キャラクター ファン・ソヨンをゲスト出演させ、彼女に任せました。ソヨンは韓国出身で、声が草柳順子さん(行殺の斎藤も草柳さん)なのです。
 永倉が男湯に行くってのは、永倉シナリオからです。で、風邪引いた島田が何ゆえホワイトデーにせっけんを配ったかというと、実はお歳暮の解体セールで安かったから。というのが真相だったりします。つまり女性陣は深読みで、実は意味のないバトルだったというわけで・・・・。『これぞ策士策に溺れる』『骨折り損のくたびれ儲け』ですな。


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