偽作・行殺(はぁと)新選組ふれっしゅ
『間者』編その2 自分の居場所(前編)


 男は草の中で寝ていた。川のそばなら静かでいいだろうと、そう思ったからだ。
 だが運悪く、『喧嘩』が川辺まで移動してきたらしい。騒々しくて、寝ていられなくなった。
「・・・」
 男は、しかし身じろぎしただけでそのまま『いないふり』を決め込んだ。止めに入るのは面倒この上ないし、『いる』ことが連中に知られただけでも厄介だ。そう考えて、開いた目を再び閉じた。
“じきにおさまるさ。もしくは来たときと同じように、どこかへ流れていく・・・”
 でも、その日はどちらでもなかった。新たに別の声が加わってきたのだ。
「こぉらー、弱いモノいじめしちゃ駄目だぞぉ!」
 女の声だった。草の中の男は薄目を開けた。女が、首を突っ込んできたらしい。
“こじれそうな気配だ。いないふり、してるわけにはいかないか?”
「ぎゃあ!」「どわ!」「きゅう」
 複数の、情けない声がした。悲鳴がして、走り去るような音がして静かになった。
“ん? 何か変だな”
 男がそう思っていると、女の声がした。
「まったく・・・助けてやったってのに逃げちゃうなんて失礼なヤツ」
 そう思うでしょ? こんな言葉が聞こえた。男は一瞬何の事かわからなかった。
「キミに聞いてるのよ? そこの草むらに寝てるキ・ミ・に」
 ぎょっとなって、思わず跳ね起きてしまった。そして女の姿を見た。
「・・・」
 誰しもが見とれてしまうに違いない、金の髪。あるいは、その二つの豊かなふくらみに、か。
「キミ、最初からいたのに隠れてたわね。怖かったのかな? それとも興味がなかった?」
 鋭い目で見据えられ、男は答えていた。半ば無意識のうちに。
「面倒は嫌だ。割って入っても、見つかっても、逃げ出しても目立つ事になる。目立つとろくな事がない。なるべく目立たないように、上にも下にも『はみ出す』事なく生きる。それが一番だ」
 答えながら男は、どうして俺はこんなにも喋っているんだろう、と不思議に思った。ここまで自分の考えを人に話す事などなかったのに。
“こいつ・・・何者だ?”
 こう思った男は、次の言葉が自然と口からこぼれ出た。口にしてから、しまったと思ったのだが。
「あんた、誰だ?」
「人に名を・・・じぶん・・・」
 女は口ごもった。えーと、とかうー、とかモゴモゴ言ってから、気を取り直したように答えた。
「小難しい言い回しはアタシ苦手。アタシの名前は『カモミール芹沢』よ。で、キミは?」
 答えるな! こいつには関わるな! と心の内で誰かが言った気がした。だが、男は答えていた。
「野口。野口、健司だ」
 ふーん、と女・・・芹沢は一、二度頷いてから突然びしっと野口を指して怒った声を出した。
「キミが悪い!」
「気味が悪い? またいきなりな言葉だな」
「そう! キミのせいよ!」
「俺の・・・?(ああ、きみが悪い、か)」
 野口は納得しつつも首をかしげた。何がこの女の機嫌をこれほど損ねたのだろうか? と。会ったばかりなのは間違いない。俺は何もしていない。名を聞いて、名を答えただけだ。なのに何故?
「からまれてるのが、美少年だったのよ! 助けてアツアツしっぽり計画が台無しじゃない!」
 野口は考えて理解した。どうやらこの女は正義感などではなく、私情で喧嘩の仲裁に入ったらしい。とそこまで考えを巡らした野口の視界に、ボコボコにされた数人の悪者の身体が転がっているのが入った。
「・・・げ(ボコボコだ。この女、強え)」
 叫びそうになるのを何とかこらえて、野口は息を吐いた。女だてらに悪者を数人、あっという間にボコボコ倒したら、被害者も逃げ出したくなるかもしれない。
“どうでもいいや。俺がいないふりしてたのは事実だしな”
 野口は思った。筋違いではあるが、こういう者には下手に理屈を述べるとかどが立つというもの。
「そうか・・・それは申し訳なかった。この通り、謝る」
 大して感情のこもってない声で、野口は頭を下げた。頭はいくら下げても減るものじゃない。波風立てず穏便に。それが野口の処世術だった。ここはとりあえず相手の言い分を認めた上で・・・。
 芹沢は、しかし不満そうに眉を寄せた。そして低い声でこう言った。
「あのさあ、屁理屈なんだから当たり前な反応しなさいよ。困るとか、反論するとか、狼狽するとか。まるでアタシに合わせて返事してますって感じで何かヤな感じ」
 芹沢は言って肩をすくめた。
「もっと『自分』を出しなさいよ。状況を計算してできるだけ場を乱さない対応してる、って気がする」
 ちょっと目を血走らせて芹沢は、どすどす足音を立てて近づいて来た。
「もっとワガママになりなさいよ。でなかったら・・・そう、アタシが心底びっくりするような事をしてみせて。アタシの予想を超える『サプライズ』を見せてみなさい」
“サプライズって何だよ・・・ふうう、何だか妙な縁を持ってしまったようだな”
 と、突然辺りが夜になった。いつの間にか、空には月が出ている。場所は、似たような川のほとり。
“・・・ああ、そうか。夢なんだ”
 野口は思った。夢の中にいながら、夢を見ているのだと思った。
「・・・鉄・・・四・・・ここに・・・忘れ・・・」
 夢の中で、芹沢の声が切れ切れに聞こえる。何を言っているのかわからない。だが野口には、とても大切な事のように思えた。必死に耳に意識を集中するが、聞こえない。
“何を・・・いや、これはあの時の・・・あれ? あの時っていつの事だ?”


 はっ、とそこで目が覚めた。
「やはり夢、か」
 新選組副長助勤、野口健司は自分の寝床で目を覚ました。朝だった。もうじき朝礼の時間だ。
「随分と昔の夢を見たな・・・すごく大事な事だったような気がするけど」
 そうつぶやくと、野口は朝礼に出るために部屋を後にした。


 いつも通りに朝礼は終わった。野口が視線を巡らすと、
「はあ・・・」
 島田が元気なかった。声をかけようかと悩んだが結局黙って素通りする事に・・・したいと思った。
「あ!」
 だがしかし、島田の方で野口に気づいて寄ってきた。
「野口さん、今は時間ある?」
 こうなっては無視できないので、野口はちょっと間を開けてから答える。
「少しはあるよ。何か困った事でも?」
 島田はため息をついた。
「俺、いつもヘマばかりで・・・へこんでるんだ。沙乃にはいつも叱られるし・・・」
 しばらく前に起こったあの事件(拙作『間者』編1。佐々木愛次郎・佐伯又三郎に関する一件)でも・・・と島田の話は長くなりそうだった。野口は、時間があると正直に答えたことを後悔し始めていた。
「新選組にいて俺は役に立っているんだろうか、俺はここにいていいんだろうか、と不安になって」
 野口は頬をぽりぽりと掻いた。それからゆっくりと話し出した。
「島田君は、ここにいるみんなに影響を与える。島田君と接して、みんな変わっていってるようだ。それでいいんじゃないかな? 自分に自信を持ったら・・・何か、これは人に負けないってものあるだろう?」
 島田は唸って考えた。そして答えた。
「俺が人に負けないもの・・・肺活量か? 田舎の道場じゃ俺が一番だったけど」
“そういえば彼と話をしていると、よく他の人が通りかかるんだよな”
 そう思う野口の背後から、
「なになにー? 二人ともどうしたの?」
 声をかけてきたのは副長助勤の藤堂とうどうたいらだった。いつも通りの明るい声、いつも通りの明るい顔、そしていつも通り・・・じゃない格好だった。『大きな布きれ一枚だけまとっている』状態だ。
 野口も島田も一瞬息を飲み、そして辺りを見まわしてから聞いてみる事にした。
「どうしたのって・・・その言葉、俺が言いたいです」
「へー、何だその浮浪者みたいな格好。何か腐ったよう・・・いやなんでもない」
 『腐ったような匂い』と言いかけて誤魔化した島田だったが、島田を責めてはいけない。藤堂の着ているのはかなり汚れた状態の、しかも悪臭を発している布きれだ。浮浪少女どころのレベルではない。
「うむ、それについては僕が説明しよう」
「わ! 山南さん。どっから出てきたんですか?」
「そもそもの事の発端はね」
 島田の言葉を無視して副長の山南は話し始めた。先日、黒谷の光明寺を訪れた局長の近藤はけーこちゃん様から『お忍び指南』なるものを受けてその気になってしまった。『忍ぶなら徹底的に忍べ』という教えに従って、どこからか乞食の衣装(汚い布きれ一枚)を調達して情報収集に励む気だったらしい。
「さすがに歳江さんから猛反対されてね」
 それはそうだろう、と二人の聞き手は思った。
「そこへ現れたのが彼女だ」
 手で藤堂を示して山南は、何故か胸を張った。藤堂は何も考えていなさそうな顔で答えた。
「うん、通りかかったんだよー。そしたら、いつのまにか私がやる事になってたんだ」
 野口はそのときの様子が何となく想像できた。島田は馬鹿っぽく口を半開きにして聞いていたが。
“土方副長は、近藤局長にだけはやらせたくなかったに違いない。問題は誰に押しつけるかだ。永倉さんは忍べないので論外。原田さんは忍ぶには問題ないが容姿関連の悪口には感情を高ぶらせるため、任務遂行に支障がある。沖田さんは健康上の理由から任務には不向きだ。結局、通りかかった藤堂さんに・・・”
「へー。いやな任務を、土方さんの命令だからって無理に受けなくてもよかったんだぞ?」
 島田が、そう藤堂に声をかけていた。藤堂はやや自嘲気味に笑って言い返した。
「じゃあ、まことはさ。局長から、少女漫画みたいなウルウルした瞳で見つめられて『お願いしていい?』て頼まれたら断れる?」
「断れねえ」
 島田は即答した。そばで聞いてた野口もつい笑ってしまいそうになった。
「て言うか、むしろ断ねえ」
「でしょ」
「いや逆に、やらせてください、と頼み込む」
「・・・まこと、言い方がちょっとやらしい、、、、よ」
 二人のやり取りを聞いて野口は思った。基本的に局長二人の間で揺れ動いている男なんだな、と。
 そんなことを思っていると、また他の人たちがわらわらと通りかかった。
「んー? 何の話してるのかな? アタシもまぜてー」
「皆さんお揃いで、何かあったのですか?」
「けほけほ、密談にしては目立つ場所ですね。それにしても・・・これはさすがに」
 もう一人の局長・カモミール芹沢と監察方の山崎、それに顔をしかめた副長助勤の沖田だった。
 野口は辺りを見渡して、誰も説明したそうに見えなかったので、かいつまんで説明した。
「・・・実は、かくかくしかじか・・・(五人になったぞ、ここまで集まるのも珍しいな)」
「ふーん・・・その任務、何だったらアタシが代わってあげようか?」
「カモちゃんさんだと、グラマーすぎて乞食に化けるのはちょっと」
 野口より先に島田が答えていた。最近、島田は芹沢担当で頭が回るようになってきたようだ。
「ところで、まこと?」
 藤堂の声がやや険しくなった。
「今の言葉、聞き間違いでなかったら、私がグラマーじゃないって事かな?」
「・・・え、えーと」
「むね・・・局中法度」
 沖田がニヤリとした。その間に藤堂は口調を変えてあっけらかんと言っていた。
「なんて言ってみたりして? 別に気にはしてないけどねー・・・事実、芹沢さんの方が大きいし
「いえ、ここはしっかり詰問すべきところです」
 ほくそえんで、という表現がしっくりくる沖田の顔を見て、島田は顔色が悪くなっていた。
 島田は、助けを求める視線をまず野口に向けた。野口は思った。
“・・・俺に振るのはやめてほしい”
 島田は山南に目を向けた。山南は島田に近づいて(全員が見ている中で、だ)小声で叱咤しったした。
「スタイルについての発言は危険だ。独力で切り抜けたまえ」
「みんなに聞こえてるけどね」 
 芹沢がそう指摘した。山崎は困った顔で沈黙している。島田は針のムシロ状態だった。
「女の子を胸で判断したら切腹だと、局中法度きょくちゅうはっとにありましたけど?」
「そーちゃん、私は・・・」
「へーちゃんは何も言わなくていいです」
「・・・あははー(それ、法度にあったかな?)」
 島田は考えた。誰からの助けも期待できない。どうする?
「つまり、俺が言ったのは・・・」
「男らしく、はっきり答えてください」
 島田は決意した。ここは男らしく、武士らしく、堂々と自分の意見を主張するしかない!
「確かにカモちゃんさんの身体は規格外だ。だが、へーだって83、58、85とスタイルは良いぞ。俺はあの、ぷるるんとした茶碗型の大きさの胸も、ややくびれ気味の腰も好きだー!」
「・・・・・」
 全員の視線は冷たかった。とりわけ、藤堂の視線(の温度の下がり方)は半端じゃなかった。
「ふう・・・今の言い方だと私のこと、じっくりたっぷり観察したわけだよね?」
 藤堂はスタスタ歩いていこうとした。
「へー、さん? あれはですね、幸運な事故といいますか・・・」
 何故か丁寧な口調になった島田に目を向けて、冷たく言い放つ。
「近寄らないで。今は、まことと話したくない気分なの」
 そのまま藤堂は『布きれ一枚』な格好で去っていった。島田はショックを受けた顔で固まっている。その姿は、どう見ても男らしくも武士らしくもなかった。
「島田君。武士たらんとする者、のぞきはいけない。今度は身体測定かね?」
 山南が冷静な顔でそう言った。
「島田クン、かっこわるー」
 芹沢がそう言って、これ見よがしに島田から二、三歩距離を取った。
「島田さん。人生に浮き沈みはつきものですよ」
 沖田は、よくわからない慰め方?をした。
“山南さんは人のこと言えるのだろうか? でも、まあ藤堂さんが怒ったのは無理もないかな”
 野口は黙ったままで、そう結論づけた。
「芹沢局長。本日はお買い物の予定では? 秋はお買い物の秋、と仰っておられましたよね」
 山崎は、島田の事には触れずに話題を変えた。芹沢はぽんと手を打った。
「あ、そうだった。島田クン、荷物持ち、じゃなくてエスコートお願いね」
 実はこの秋、芹沢がキンノーの刺客に襲われ重傷を負ってしまう事件が発生していた。だが、手厚い看護のおかげで、日常生活に支障をきたさない程度にまで回復していた。ただ、しばらくどこにも出かけられなかったと言う事で、ストレスは溜まっていた。
「・・・」
 島田は心ここにあらず、といった様子だった。沖田が何気なく、芹沢にこう意見してみる。
「野口さんがいるから、代わりに連れて行ったらどうですか?」
 芹沢は顔を向けて野口を見た。そして少しの沈黙の後。
「・・・ううん、やっぱ島田クンにするー。おっきい荷物持たせると骨折しそうなんだもん」
 そう答えた芹沢は島田の目の前で、ぱん! と手を叩いた。猫だましだ。
「・・・はうあ!」
 島田が正気に戻った。
「現世に帰ってきたわね。で、アタシのお買い物に付き合って、くれるわよね?」
「せっかくの申し出なんですが今日は俺、用事が・・・実は金髪・巨乳モノ同人誌を」
 どかーん! 庭の隅でカモちゃん砲が炸裂した。そのせいで島田の言葉はよく聞き取れなかった。ちなみに砲弾は屯所の壁に当たった。また一カ所、修理する箇所が増えた。
「え? よく聞こえなかったわ。もう一回、答えてくれる? お買い物付き合ってくれるわよね?」
 近藤とは違った意味で、『断れねえ』状況だった。島田は諦めて答えた。
「了解です。お供します」
 今も言いかけたように、島田は私的な買い物があったので、暇を見て行こうと思っていたのだが。
“まあ、夕方に行っても間に合うよな”
 こう思って、芹沢の誘いを受けたのだった。芹沢は返事を聞いたらさっさと歩き出していた。
「カモちゃんさん待ってくだ・・・あ、そうだ」
 芹沢の後からついて行こうとして、島田は野口が立っているのに気づいて引き返してきた。
「?」
 どうしたんだ? という顔になった野口に、島田は言った。
「一応、礼をと思って。何となく、参考になったよ」
 そして右手を差し出してきた。野口は、無視するのは礼儀知らずみたいな気がして、握手した。
 島田は握手がすむと、早足で芹沢を追いかけて行ってしまった。
「野口君、参考になったって・・・あんな曖昧な答え方でかね? しかも最後に握手とは」
 山南がそう言い、山崎もそれに頷いた。
「はあ。ですが手を差し出されて、無視するのは悪いと思いまして」
「・・・優しいんですね。じゃあ、野口さん。私とも、握手です」
 不意に山崎がそう言って左手を差し出してきた。
「・・・はあ」
 困惑した顔ながら、野口は左手で山崎のほっそりした手を取った。
“なんだ? この人は一体何を考えているんだ?”
 その時だ。かすかな音がして、野口の足下に何か落ちた。財布だった。
「おや?」「あっ」
 山崎と野口が声を出して拾おうとした。山崎が先に財布を拾い上げた。
「それ、俺のです」
 言いにくそうに野口が言う。野口は昔から女性が苦手・・・というか、会話するのは平気なのだが、触れたり触れられたりしたときには平常心でいられなくなる、という癖があった。今もそのせいで、気をつけていたにもかかわらず財布を落としてしまった。
 もっとも財布が落ちたのには他にも理由があった。実は服のあちこちが破けているのだ。
“服なんて、暑さ寒さを凌げればいいと思っているからな・・・”
「どこか服に破れ目でも? 男の人は総じて『ずぼら』ですからね」
 ちょっと険しい目つきになった山崎が、野口の身体をじろじろ眺め回した。野口は困っている。
 山崎にも癖があった。だらしない格好の人を見ると、構いたくなるのである。
「山崎君は『世話焼き』属性なだからねえ・・・」
 山南が、したり顔で言いながらも、ゆっくりと山崎から離れていく。
 そばでそれを見ていた沖田が、なるほど、と一人で納得して、少しからかい気味に言ってきた。
「フラグがいつのまにか立ってたんですね。野口さんも見かけに寄らず、やりますね」
“やれやれ・・・まだ、治ってなかったらしい”
 指でつんつんしてくる沖田に、適当に受け答えしつつ野口も巡回に出ることにした。


 その日の午後。
 京都の町を歩いていた山崎は、鴨川の近くの草むらの中で昼寝している人間を見かけた。
「・・・?」
 足音を忍ばせて近づいてみると、朝にも会った野口だった。
「山崎さんですか?」
 ぱちっと目を開けるやいなや野口はそう言った。山崎は驚いて咄嗟とっさには声が出なかった。
「・・・はい。私です。よくわかりましたね」
 山崎は呼吸を整えてから聞いてみた。彼の目が、自分の脚の辺りしか見ていないのは明らかだった。
「その羽織を羽織っていて、足音を立てずに歩くのに慣れている人間は限られてますから」
 そう、野口は答えた。新選組にあって彼は決して目だつ隊士ではない。だがこの男が『デキる』男だということは山崎も知っていた。だからこそ自分はこの男を・・・。
「川、お好きなんですか?」
 しかし山崎は心の中で考えている事とはあまり関係ない話題を振った。
「は? 何ですか、いきなり」
「あなたに似ている隊士が、よく川の近くで目撃されているみたいですから」
 笑顔でそう、言ってみた。もちろん山崎はただ話しかけているのではない。この言葉に隠された意味に、この男が気づくかどうかを見ているのだ。
「・・・」
 野口はちょっと黙った。やおら身体を起こすと、視線を山崎にひたと据える。
「俺を調べている、というわけですか」
 山崎は頷いた。そして単刀直入に本題に入った。
「先日の一件以来、私はあなたが『間者かんじゃ』ではないかと疑っています。あなたは実はデキる人です。そしてデキる人にしか間者は勤まりません」
 野口は視線を逸らして、川の方を向いた。
「昼間でも、川の近くは結構涼しいんですよ。昼寝には最適な場所です」
 しばらく、川面を見つめてから野口は山崎の言葉に反応を返した。
「先日の一件とはあれですね」
 あれ、で通じる。佐伯又三郎の一件である。
「ええ。あなたは、ほかに抜刀するタイミングがあったにもかかわらず『他にも間者はいる』発言の直後に抜刀しようとしました。その事は私だけではなく山野さんも見ていました」
「で、あなたは思った。あれは、俺に何かやましい事があって、佐伯の口からそれらが漏れるのを恐れて、それで彼を斬ろうとしたのではないか、と」
 山崎は頷いた。野口も頷き返してから、
「俺は、人を斬るのは好きじゃないんです。誰であれ、斬らずにすむのならその方がいいですから。しかし佐伯の言葉を聞いていて、どうにも我慢できなくなったんです。佐々木君とあぐりさん、清らかな心を持つあの二人を、死して後もあざけののしろうとする、あの男が。だからつい、刀に手がかかってしまった」
「あなたは隊の秘密を敵に漏らしていますね。金のために、もしくは己の栄達のために。違いますか?」
 山崎は、さりげなく刀の柄に触れながら聞いた。万が一、と言うことがある。
「俺は金にも栄達にも興味ないです。俺はただ自分の居場所があれば、それでいいんですよ」
「隊の秘密を漏らしてはいない、そう誓えますか? 私の目を見て」
 重ねて山崎は尋ねた。野口は顔を、意外と端正な顔を山崎に向けた。
「もちろん。誓えますよ。武士として、仲間を売るような事はできません」
“それは恥ずべき振る舞いだ”
 そんな心の声が聞こえてきそうな、野口の顔だった。
 しばらくその顔を見つめていた山崎は、これ以上は無意味だと判断して構えを解いた。
「わかりました。信用しましょう。ところで最初の質問ですが」
「え? 最初って?」
 一瞬、野口の顔が当惑したものになる。
「はい、『川、お好きなんですか?』という質問です」
 野口は再び川面に視線を移して、少しの間じっとそこを見つめてから、懐かしそうな声を出した。
「川は、俺にとって特別な場所。俺にとって、いわば『運命の分岐点』なんです」
「運命の分岐点?」
 そう聞き返す山崎に、野口はすっと立ち上がって答えていた。
「ええ。運命の分岐点。何年も前、俺は芹沢局長と川の近くで出会ったんです。俺にとって川とは、運命を変えてくれる場所なんです」
 野口は歩き出した。巡回に戻るつもりらしいと見た山崎は、あわててこう言っていた。
「あ、私が行きますよ。こう見えても結構忙しい身なんです。野口さんはごゆっくり」
 足早に歩み去る山崎の背を見送ってから、野口は肩をすくめてごろんと草の上に転がる。
「そう、運命は変わるんだ。じきにな・・・」
 日差しが遮られた。誰かが自分を覗き込んでいる。そう気づいて野口は跳ね起きた。いたのは、町人風の男。いや町人に化けた男だった。男は言った。
「今日の夕方、島を取る。明日の夜、鴨を落とす。手はず通りです」
 運命は、動き始めた。


 その翌日。昼近くになってから事件の情報が入ってきた。山崎はすぐに現場に急行した。
 裏通りで、若い駕籠かごかき二人の死体が発見されたのだ。辺りには何故か同人誌らしきものが何冊も落ちている。駕籠かき二人は何も持っていなかった。
「同人誌と駕籠かき・・・同人誌が、駕籠かき二人の所有物だと思いますか?」
 山崎は手近にいた監察方の隊士にそう聞いてみた。その隊士は首を横に振った。
「これだけの同人誌を購入しますと、普通の駕籠かきには手が出ないほどの額となります」
 そうだった。ざっと見た限り山崎も思ったのだが、その金額はかなりのものになろう。それほどの大金を普通の駕籠かきがポンと払えるはずがない。払えるとすれば・・・。
“私たち、新選組の幹部なら・・・ヒラの隊士でも、無理をすれば出せる額ですね”
 このあいだのように、芹沢がふらりと現れた。今日一緒にいるのは野口だ。
「なーにぃ、この同人誌の山は」
 そう言いながら、芹沢は勝手に現場の同人誌を触ろうとしている。山崎は控えめに注意した。
「局長、できれば現場の状態を変えないでいただけるとありがたいのですが」
「カタい事は言いっこなしよ。あら、外人モノ男性向け同人誌じゃない。金髪でキョニュー」
 芹沢はすでに一冊、手にとっていた。早速ビニールを開封して中を見ようとしている。
「局長・・・」
 山崎が、困ったようにつぶやいた。野口は、と見ると駕籠かきの死体を見てぎょっとなっていたが、すぐに芹沢の後ろに回ろうとしていた。難なく誌面が見える位置に、である。
“この二人は・・・似ているのか、似ていないのか”
 山崎は少し悲しくなってしまった。この二人、江戸で浪士隊が結成された時にはもう一緒に行動していたとの事だった。昨日も少し聞いたがこの二人、どんな出会い方をしたのだろうか?
「ところで、今日は野口さんと一緒ですか?」
 そう聞くと、芹沢は山崎を見ようともせず、答えを返してきた。
「そーなのよ。島田クン、今日はいなかったのよ。だから代わりに」
 その野口だが、さっきから同人誌に集中しているようだ。こちらを見ようともしない。
「・・・?」
 山崎が気配を感じて見ると、男の子が一人不安そうに見つめていた。山崎は目の前の監察方の隊士に、付近にある、このテの同人誌を扱っているすべての御店おたなに聞き込みするよう命じてから。
「何かな? もし何か知っている事があるのなら、教えてくれる?」
 目線をその子供と合わせるように身をかがめて、男の子に聞いた。
「・・・・・」
 男の子は答えない。その視線は、ちらちら死体に向けられている。
「ちょっと、あっちの方へ行きましょうか」
 手を引いて歩き出そうとした時だった。芹沢がいきなり声を上げた。
「何か落ちたわね・・・「局長、声が大きいです」」
 芹沢と野口が声を上げている。そしてその声を聞いて男の子もそっちを見た。
「あの人」
 男の子は声を出した。山崎はあわててその男の子に聞いてみた。
「なあに? 何か思い出した?」
 男の子にぐいっと迫ってしまう格好となった。彼は落ち着きを失って視線をあちこちに向けた。
「え・・・あの、うん、その・・・」
 芹沢が、山崎と男の子に気づいた。野口も気づいたらしく、二人で視線を向けてきた。
「あの人・・・昨日」
「昨日・・・?」
「ボクとぶつかった人、みたい」
 男の子の視線の先には、野口がいた。野口には男の子の声は小さくて聞き取れなかったらしく、いぶかしむような目で見つめ返してくる。
「野口さん」
 山崎はそう声をかけた。野口は近づいてきた。芹沢は視線を同人誌に戻した。
「何です?」
 男の子がさっと山崎の背後に隠れる。手で男の子をそっと撫でてから山崎は口を開いた。
「この子が、昨日あなたを現場近くで見かけたと、そう証言しています」
 野口は改めて男の子に目を向けた。その視線から逃げるように、男の子は小さくなる。
「・・・人違いではないですか?」
 その表情には動揺の色は微塵も感じられない。確かに、野口に駕籠かき二人を殺める動機があるとは思えなかった。思えなかったのだが、調べてみなければわからない。
「この男の子に、見覚えはないのですね?」
「まあ・・・いつか町中で見かけた事があるやもしれませんが」
 そう言って野口は肩をすくめた。
「俺はこんな裏通り、たとえ任務ででもあまり来たくないです。物騒ですし・・・その子は何故、そんな物騒な場所にいたんですか?」
「・・・」
 野口の問いに、男の子は答えない。
「野口クン、雀ちゃん」
 芹沢が声をかけてきた。山崎と野口は同時にそっちに向き直る。
「アタシ、用事を思い立ったから、行くわね」
「・・・思い立った?」
 山崎が聞き返し、野口は不安そうな顔をしてこう小声で言っていた。
「局長、あの、お一人で・・・」
「ギロッ」
 そう、目で野口を黙らせて芹沢は山崎に対して、笑顔を浮かべて殊更明るい声で答えていた。
「こぉんな同人誌見てたら、アタシもさ、ちょっと、ね。したくなっちゃったワケなのよ」
 一瞬、芹沢が何を言っているのかわからなかった山崎だが、はっとなって赤面した。
「きょきょきょ、局長! 昼間から何を! 子供も聞いてるんですよ!」
 思わず叫んでしまってから、恥ずかしくなって山崎はますます赤くなった。
「ウブねぇ・・・ま、そういうわけだから、アタシはもうイクわね」
 わざと妙な言い方をして、芹沢は同人誌一冊を手にぶらぶらと歩み去った。だが・・・山崎に背中を向けた芹沢は、もう笑っていなかった。
「俺も・・・行きます」
 野口がそう言って歩き出した。山崎は色々頭の中で考えをまとめつつ、声をかけた。
「あなたが嘘を言っているのなら、私はあなたを許しません。ですが人違いなのでしたら、私はあなたに何と言ってお詫びしてよいものやら」
 野口は立ち止まった。少し考えてから、こう言った。
「暗かったから、見間違えたんでしょう。俺は気にしてません」
「・・・」
 山崎は黙っていた。野口の姿が見えなくなるや、男の子が怒った。
「何で。ボクよりあいつの言う事を信じるんだ?」
 全身で怒りを表現する、男の子を落ち着かせようと山崎は彼の腕を、右手をつかんだ。
「ほかに、何か思い出したことはない? ぶつかった後、君はここで何かを見なかった?」
「ここに何か?・・・いーや、昨日は何もなかったよ」
 先ほど用事を言いつけた隊士が戻ってきた。その小声の報告を聞くうち、山崎の目がきらりと光った。
「・・・それは使えるかも」
 山崎の頭の中で、考えがまとまった。


 これからの事を考えながら歩いていた野口は、後ろから呼び止められて振り返った。
「野口さん」
 さっき別れたばかりの山崎が、そこにはいた。
 今、野口がいるのはさっきの場所から少し離れた、やはり裏通りな場所だった。さっきの場所についてもそうだったのだが、人が通りかかりそうな雰囲気の場所ではない。
「今度は何です?」
 そう野口は聞いてきた。声に、何ら普段と変わった感じはない。でも、と山崎は思った。
“私の考えが正しければ、ああしてこうすればこの人はきっと・・・”
 心で思っている事を隠して、山崎は言った。
「確たる証拠もなしにあなたを疑った事を、ちゃんとお詫びしておきたくて」
 そして深く頭を下げた。野口はちょっと意外だという顔をして手を振った。
「それでわざわざ?・・・俺は、別に気にしてませんよ」
「許してくれます?」
 意図的に山崎は、媚びを含んだ声を出した。
「まあ、ええと、はい」
 そう、野口が答えるのを待ってから。山崎はぱあっ、と音がしそうなくらいの笑みを浮かべた。
「では仲直りの意味で・・・握手、です」
 そう言って左手を差し出した。困惑した顔になって野口はその手を握り返す。昨日に続いての、二度目の握手だ。山崎が、握手したままで言った。
「昨日も思いましたけど、野口さんって優しい人なんですよね」
 これには少し不機嫌そうな顔になって、野口は言い返そうとする。それより早く、
「あ、野口さん。何か落としましたよ」
 そう言って、山崎は素早く握手をやめて地面から何かを拾い上げた。
「おや、レシートですね」
「・・・!」 
 野口の動きが止まった。それを知って知らずか山崎は言葉を続ける。
「野口さん、これは・・・ほんだらけの同人誌のレシートですよ。どうして野口さんがこれを・・・」
「・・・俺に聞かれても。昨日の今日で、風に吹かれて飛んできたんじゃないですか?」
 山崎の目が光った。肩をすくめて、さも不思議そうに言葉を発した。
「なるほど、野口さんはこれが昨日のレシートだと思ったのですか。不思議ですね」
 はっ・・・! と野口の顔に動揺の色が走った。山崎が手の中のレシートを野口に見せる。何もない地面から何かを拾い上げるふりをして、隠し持っていたレシートを出して見せたのだ。
「これは五日前、私が買い物した時のものです。あなたがこれを昨日の・・・」
「昨日のレシートだと思いこんだのは俺が昨日の島田君のレシートを見ているから、ですね」
 山崎の言葉を受けて、野口がこう言葉を続けた。もう野口の顔に動揺の色はなかった。
「その通りです、はい」
 山崎はそう言って、じっと野口を見つめた。野口は普段通りの声で話し出した。
「まさか、そのように攻められるとは・・・あわてましたよ。俺はわざと失言してみたんですけど、そっちは無視ですか?」
「『暗かったから・・・』ですか? あれが意図的なものなら、いわば撒き餌。私は、撒き餌に飛びつくような真似はしません。ただ、うっかり失言したようにも思えまして、敢えて無視してみました」
「さすがは山崎さん」
 そう言った野口は、内心『撒き餌って・・・雀だから鳥って事ですか?』などと思ってたりする。
「あなたがわざと失言したのかどうか。それが知りたくてわざわざ追ってきたのです」
 山崎は『わざと・・・』と断定しているが、それは正確には少し違っていた。
 昨日。野口は確かにここにいた。駕籠かき二人も見た。だが・・・。
“俺は、殺せとは言っていない。無関係な者は殺すなと言っていたはず。もしや?”
 その思いで頭がいっぱいになっていた。だから山崎の言う『暗かったから・・・』の言葉が意図的に出たのか、うっかり口から出たのか、当の野口にもわからないのだった。
「ついさっき、隊士から報告がありました」
 野口を追おうとしたその時に山崎は、聞き込みから戻ってきた隊士の報告を聞いた。
「昨日の夕方、近くの『ほんだらけ』という御店に、こそこそと大量の同人誌を買いに来た隊士がいると、店員のおさとちゃんが証言してくれました。その、ある隊士とは野口さんも知っている・・・」
 山崎の言葉を最後まで聞かず、くるっと背を向けて野口は話し出した。
「そう、島田君ですよ。俺は、同人誌を抱えた彼を誘い出し、雑魚キンノーをおとりに背後から一撃を加えて気絶させ、駕籠で連れ去ったんです。自白したようなカタチの俺を取り押さえますか? 山崎監察。島田君を拉致誘拐した、それだけでも隊規違反でしょうからね」
 普段の『山崎さん』ではなくあえて『監察』と、野口は呼んだ。狼狽しているようには見えない。
「・・・」
 山崎は考えた。監察方たるもの、言葉の裏をも読みとらねばならない。野口が何を考えて語っているのかを洞察しなければならない。
“居直っている、のではない。何か、思惑が?”
「普段は『山崎さん』と呼ぶあなたがわざわざ『監察』と呼ぶのには意味があるはずです。呼称が違うのはつまり芝居をしていると言うこと。野口さん、何か隠していますね? もしくは真実を語っていない。あなたは何か別の思惑があって、その布石として島田さんを拉致した」
 野口は背を向けたまま答えない。
「お答えしたくなければそのままでも結構です。私が代わりに話しますから。先ほどあなたは、局長と一緒に同人誌に見入っていました。何か挟まっているのを発見した局長の言葉を、すかさず制止してましたね。まるで、そのページに何かが挟まっているのをあらかじめ知っていたかのように、です」
 野口は金縛りにでもあったかのように、微動だにしない。
「局長がどの同人誌を開封するのかわかるはずがありません。そこであなたは、局長がどの同人誌を見ても対処できるようにあの人の隙をうかがい、ページとページの間から何かがパラリと落ちたかのように演出する事に成功したのです。局長を呼び出し、島田さんを人質にして・・・」
 ここで山崎は一旦言葉を切った。
「駕籠かき二人の死体はあなたにとって予想外の出来事ですね? あの子が見たときには同人誌も死体もなかった。今日の昼にはどちらもあった。あなたは同人誌の事は知っていても死体の事は知らなかった。でなければ、あれほど露骨に死体から目をそらしている理由がありませんからね」
 野口は動かずに、じっと背中で山崎の声を聞いている。
「ですが、ずっと局長と行動を共にしていたあなたが、どうしてそのような事を? 京へ来てからのあなた方がいざこざを起こしたという話は聞きません。そして昨日」
 川のそばで、何年も前に出会った。そう語った野口は何の邪気も発してはいなかった。恨みが積もりに積もっての犯行ならば、その発端たる出会いの日の話題を語る時に、表情に現れるものだ。
“いや? 昨日野口さんは『運命を変えてくれ場所』と言った。『変えてくれ場所』ではなく”
 山崎は考えた。目の前にいる、この男の発した言葉の数々を思い起こして、真実を見いだそうとした。
『俺は、人を斬るのはあまり好きじゃないんです』
『俺はただ自分の居場所があれば、それでいいんですよ』
『武士として、仲間を売る事はできません』
『川は、俺にとって特別な場所なんです』
 それから昨日見た、野口と芹沢局長ほか数人とのやり取りを思い出して、口を開いた。
「野口さん・・・あなたは、自分の居場所・・・を奪った男を拉致、して局長をさそい・・・川」
 野口の動きが変わった。何かに気づいたように、不意に山崎の方を振り返った。ほぼ同時に山崎も気づいた。いつのまにか、背後に何者かの気配があった事に。
“はっ!?”
 迂闊だった。真実を探ろうと意識を集中していたのだが、新選組隊士としては致命的だった。
 振り返って相手を確認するよりも相手の一撃が早かった。山崎の意識は闇に沈んでいった。


 野口が何をするよりも早く、その男は山崎を昏倒させた。その身体を小脇に抱える。
「事、ここに至って監察に気取られるのは、おまえも本意じゃないだろう?」
 男は親しげに野口にそう語りかけてきた。野口はぐったりした山崎の姿を見やって首を振った。
「今日は巡回に出たんじゃなかったですか?・・・松永さん」
 その男・・・剣は一流顔は三流といった感じの新選組隊士・松永まつなが主計かずえは意図的に明るく答えた。
「いやあ、表向きはな。だけど友達のおまえが気になってこうやって来てやったんじゃないか。俺に、感謝の言葉の一つや二つあって良いところじゃないか?」
 松永はどことなく猿に似た顔をほころばせて、こう話しかけてきた。野口は目を離さずに言い返した。
「感謝、か。あれにか?」
 松永の顔から笑みが消えた。あれ、が何のことかわかっているからだ。
「駕籠かき二人、何故殺した? 金をやって黙らせる事になってたはずだ。俺の狙いは・・・」
「聞いたよ。何度も」
 松永は顔をぼりぼり掻きながら、肩をすくめた。
 島田を拉致する。駕籠で連れ去る。持ち物は全て持ち去る。駕籠かきには金子を与えて黙らせる・・・はずだったが松永が急に予定を変更して、同人誌を現場に残しておこうと言い出したのだ。野口の計画では、数日の間を開けて屯所に投げ文でもするつもりだった。
『こういうのは一気呵成にやっちまったほうがいい。時間をおけば相手は態勢を整えちまうぜ』
 こう言い張って、野口は松永に押された形で計画を変更したのである。
「おまえが仕留めたいのは一人だけ。カモミール芹沢ただ一人・・・だが、ああでもしなければ秘密は必ず漏れる。おまえの計画実現のためだ。蟻の穴から堤が崩れるの例えもあるからな。おまえにそれをわからせるために、わざわざ二人を仕留めたんだ。同人誌を置き散らかすついでにな」
 この言葉、信用してよいものか。野口は悩んだ。この松永という男は任務を忠実にこなす隊士として隊内でも名が通っている。ただ、不逞浪士や間者といった相手に対して、やや苛烈に対処するきらいがあった。捕縛の命令を半ば無視するように相手を斬殺しようとしたり、間者の処刑にもわざと相手を苦しめて死なせたり・・。一度ならず、それを指摘された事があった。
『噂で広まれば、浪士たちにたいして抑止効果があります』
 松永はいかなる場合でもこう答えるのが常だった。
「もう、無関係な人間は誰も殺すんじゃないぞ」
 野口は言った。刀にそろと手を伸ばした。
「二人とも、斬るには及ばない。山崎さんも島田君も無関係だ」
 松永は思っていた。ここまで関わってきておいて無関係もあったもんじゃない、と。だが上辺はそんな気配は見せずに、あくまでにこやかに答えを返した。
「わかってる。この女は殺したりしないって。島田だって暴れだしたりしない限り、斬りはしない。コトが終わればすぐにお帰り願うさ。無関係な人間をいちいち斬るような無駄な事はせん」
「約束だぞ。武士の誇りにかけて」
「わかったわかった、武士として約束する。二人とも、殺しはしない。事が終われば解放する」
“コトが終われば、だがな”
 内心のつぶやきは、まったく表に出さない松永だった。
「さて、と。そろそろだな」
 そう、松永が言ったときだった。どこからか、町人姿の男が現れた。
「町人姿だが、違う。町人に身をやつした浪人だ。そのへんの町人に金を握らせて使うのでもいいんだが、色々と面倒だし・・・それに、またお前に恫喝されても困る」
 そう説明して松永は山崎の、やや重そうに見える財布を町人風の男に渡した。
「おい、待て。何でわざわざ財布を?」
 何を言ってやがる、と言わんばかりな顔で松永は言った。
「いつの世でも、金は要るさ。ありすぎて困るものでもないだろう」
 野口は何か言いかけて、やめた。たった今確認したばかりで、しつこいと思われる気がしたからだ。
「それより、お前の方こそしっかりな」
 そう松永から言われて、野口は頷き返した。指定した時間にはまだ間があるが・・・『ふみ』に記した場所には、遅れないように行かなければ。
「ふむ・・・とりあえず、戻るぞ」
 野口の顔を見つめてこう言うと、松永は軽い口調でこう続けた。
「あ、そうそう。おまえならわかってるかもしれないが、芹沢は多分気づいてるぞ」
「・・・」
 それならそれで構わないと、野口は思った。手はずどおり、暴行役の男を何人か連れて行くのだ。自分の事に気づいていてもいなくても関係ない。結局は同じ事なのだ。
“あの人がいなくなれば・・・すべてが解決する、、、、、、、、
 野口は歩き出した。運命を変えてくれる場所で、運命を終わらせる事を決意して。


「・・・さん・・・ザキさん・・・山崎さん」
 何度も名を呼ばれた気がして、山崎は目を開けた。畳が見えた。そして自分が縛られて部屋に転がされている事に気づいた。さらに自分を呼んでいたのが誰かもわかった。
「島田さん・・・私は・・・いや、なるほど」
 山崎は状況をすぐに理解した。何者かに拉致されて、ここに連れてこられたのだ。そして同じ部屋に、やはり縛られてはいるが、行方不明だった島田がいるのは都合が良いかもしれなかった。
「島田さん。あなたはどうして? 何があったんです?」
 質問しながら、山崎は首を動かした。さして広くはない部屋・・・普通の旅籠はたごの一室、という感じだ。どこかの藩邸に連れ込まれた、という可能性はこれで消えた。
「山崎さん・・・冷静ですね。普通目が覚めて、拘束されてたらパニックになりませんか?」
 現に俺、そうでしたから。そう島田がつぶやいた。山崎はため息をついて答えた。
「パニックになって、それで状況が好転した試しはないですよ。それより先の質問の答えを」
「あ、そうですか。すごいッスね。いや、はい。俺は・・・」
 島田の話は、山崎がある程度予想していたものだった。夕方、買い物帰りに野口から声をかけられ、彼に協力するべく路地に駆けていったところ、物陰から二人の浪人に襲われた。その攻撃はしのいだのだが、次の瞬間背中から一撃を食らって気を失ったのだという。
「背後からの『手を貸すぞ』という声に『平気だ』と答えた瞬間だった」
 言葉を切って、山崎を見つめて島田は躊躇ためらいがちにこう聞いた。
「野口さんが・・・敵、だったんですか?」
「・・・」
 山崎は口を閉じて考えていた。しばらく、時がたった。
「山崎さん。そうなんですか?」
 待ちきれなくなって、島田は聞いた。
「島田さんを気絶させたのは、間違いなく野口さんです」
 話を聞く限り、それは疑いようがなかった。実際、本人がそう言っているのだ。
「じゃあ、やっぱり・・・」
 島田の言葉を遮って、山崎はこう言葉を続けた。
「ですが、あの人が敵かどうかは何とも言えません」
 川の流れのような音が、どこからか聞こえてくる。島田と話しながら山崎は、川の近くに立っている建物だな、と考えを巡らせた。窓があるな、戸はこちらか、と視線を向ける。
 その戸が開いた。入ってきたのは浪人が一人、それから野口と・・・。
「・・・?」
 最後の一人は、顔を頭巾で隠していた。目だけがぎょろっと出ている。
「野口さん。裏切ったって聞いたけど本当なのか?」
 こう声をかけたのは島田だ。射るような目で、野口を睨んでいる。
「言い訳はしないよ、島田君」
 こう野口は言って目を反らした。顔を隠した男は、そんな野口を蔑むような目で見ている。
「後ろの、あなたが」
 山崎は、その第三の男に声をかけた。山崎の見立てでは、先頭の浪人はおそらく実働部隊の一人、野口さんは一連の計画の『基本部分』を立案した人、そして顔を隠したこの男こそ・・・。
「佐伯さんとも気脈を通じていた・・・悪人ですね」
「・・・」
 その男は山崎にも、蔑むような目を向けただけで声を出さない。
「なるほど・・・私に声を聞かれるとまずいというわけですか」
 山崎はその男から目を離さずに、穏やかな声を装って聞いた。
「そのギョロ目。覚えがありますよ」
 半分、カマをかけてみた。残り半分は、本当にどこかで見た覚えがあったのだが。
「・・・」
 やはり、その男は馬鹿にしたような目で山崎を見ている。
「野口さんと同様、あなたもうちの隊士ですね?」
「・・・無礼であるぞ。マロはサムライにあらず、さる名家の者である」
 明らかに、声色とわかる妙な声で男は答えた。頭巾のせいで声が聞き取りにくい事もあって、山崎にはこの男が誰なのか特定できない。だが『マロ』とか『さる名家』などと言っている時点で既に怪しい。
“・・・試しに・・・”
 ふと、何か思いついた山崎は意図的に申し訳なさそうな声を出した。
「これは・・・お人違いでしたか。ご無礼の段、平にご容赦を」
 一呼吸おいて、相手の心の隙間を突くかのように、こう続けた。
「サル名家とは人語を解するサルの御一門なのですか? それは確かに名家。私の勉強不足でした。して、サルどの。私たちをどうなさるおつもりでしょう?」
 挑発だった。これで相手が声を荒げてくれれば、それで相手の正体がわかるかもしれない。そう考えての発言だった。だが、相手は意外な反応を見せた。
「サルサル言うな! どうしておまえらはすぐ・・・」
 すぐ、何と言おうとしたのだろう。だが彼はあわてて口を閉じた。
「なるほど」
 山崎は予想外な展開に内心驚きつつ、普段通りの声で言った。
「ありがとうございます。今の言葉であなたが誰か、わかりました。サルというあだ名で呼ばれ慣れている事実、そしておまえらと私に言った言葉。その声。まぎれもなくあなたは新選組の一員」
 言葉を切って、険しい目で相手を見据えて山崎は彼の名前を呼んだ。
「松永主計さん。その頭巾を取って、お顔をお見せになってはどうです?」
「ええ? マツナガって、あのサルとかハゲネズミとか呼ばれてる、あの?」
 島田が素っ頓狂な声を上げた。
“ハゲネズミ? 誰がそんな渾名あだなを?”
 山崎はちょっと気になった。後で誰かに聞いてみようと、そう心に決めた。
五月蠅うるさい! 俺はサルでもネズミでも、ましてやハゲてなんかいねえ!」
 そう言って、松永は頭巾を脱ぎ捨てた。島田も見覚えある顔が、そこにはあった。
「さすがに山崎さん・・・いや、松永さんが間抜けだと言うことか」
 他人に聞こえないように、そうボソッとつぶやく野口だった。
“そもそも・・・”
 山崎は最初に見た瞬間から、頭巾の男が隊の一員だと思っていた。新選組に敵対する勢力の者ならば、野口の位置に対して立ち位置がおかしいのだ。連中は新選組をミブロと呼んで蔑んでいる。だから例え組を裏切って来た、いわば協力者に対しても距離を置く傾向にあるのだ。
“でも、二人の距離はごく自然でした。常日頃から実践している距離が出た、というわけでしょうね”
 怒りの形相の松永が近づいてきた。山崎の胸倉をつかんで、その頬を張り飛ばす。もんどり打って山崎は倒れ込んだ。突然で受け身も取れなかった。
「山崎さん!」
 島田と野口、二人の声が重なった。島田は山崎同様縛られていて動けなかったが、野口はガシッと松永の肩をつかんで揺すった。
「やめろ! 無駄に暴行を加えるとは・・・」
「黙ってろ」
 野口の手を振りほどいて、松永はなおも山崎の身体に手をのばす。身体がすくんで声も出せない山崎の身体、その衣服の胸元に手を伸ばし、乱暴に衣服を引き裂こうとする。
「よせと言っている」
 野口の声が鋭くなった。その、殺気混じりな声にその場の全員が動きを止める。
「俺もおまえも、もはや隊の一員ではない。だが、それは侍として恥ずべき振る舞いだぞ」
「・・・俺に指図するのか?」
 今度は松永の声に凄みが加わった。その声に気圧されたのか、野口が一歩身を引く。
「俺はおまえに協力したぞ。その協力者にお前は殺気をぶつけてくる。それが侍の振る舞いか?」
 野口が言葉に詰まる。と見るや松永はいきなり野口に突進してその身体を突き倒した。たまらず廊下に倒れ伏す野口。足音立てて近づいた松永は、その野口を見下ろして吐き捨てた。
「いい気になるなよ。『居場所欲しい病』の貴様が」
 びくっと、野口の身体が震えた。松永はなおも続けた。
「俺はおまえの本性をすでに見切ってるんだよ。おまえは単に自分の居場所が欲しいだけだ。世を拗ねた、思想も理念もない、ただの寂しがりや。それがおまえだ。俺に手をあげてみろ。今、おまえはもう新選組には居場所はない。でもこっちにはある。それが、こっち側にも居場所がなくなるんだ。耐えられるか?」
「・・・」
「わかったら、そろそろ時間だ。芹沢との待ち合わせ場所に行って来い」
 言い捨てて、松永はふと目を転じて山崎を見た。爬虫類を思わせる視線だった。
「興が失せた。今は許してやる。だが、後でメチャメチャにしてやるから待ってな」
 山崎はそれを聞いて背筋がぞわっとした。野口が掠れた、非難の声をあげる。
「松永さん、話が違う。二人には何もしない、事が終わればちゃんと返す、と約束したはずだ」
「ああ!? 約束ぅ!?」
 松永は声を出して野口を恫喝した。そして、笑みを浮かべてこう答えた。
「約束は守ってるぜ。『殺したりしない』って」
 松永の言葉を最後まで聞かないうちに、野口には理解できたらしかった。みるみる顔色が悪くなる。
「そう、『殺す事だけはしない』ぜ。つまりは『殺す以外の事はする』って事だな」
 野口は項垂れた。何故、あのとき気づかなかったのか。そう思うと自分が情けなかった。
「わかったら、とっとと待合い場所に行って仕事してこい」
 そう、ぞんざいに言い捨てて松永は浪人一人を連れて部屋を出て行った。


「・・・・・」
 力無く腰を落として動かない野口に、島田と山崎は恐る恐る声をかけた。
「野口さん・・・自分の居場所がどうとか、一体どういう事なんだ」
「野口さん、この計画を立てたのは、芹沢さんのそばに自分の居場所が無くなったから、ですか」
 二人の問いに、野口はのろのろと答えを返してきた。
「あの人とは、川のほとりで出会った。始めは適当に合わせてただけだった。でも、徐々に違ってきたんだ。いつしか俺は、あの人のそばに自分の居場所を見つけていたんだ。だが京都に来て、それも終わった」
 顔を上げて、島田を見た。山崎は目を伏せて、一言も口を挟まず聞いている。
「あの人は京都で、俺の代わりをいくつも見つけたらしい。とりわけお気に入りは君さ、島田君」
「!」
「君、近藤さん、土方さん・・・みんなあの人の近くに、それぞれ居場所ができた。俺にはない。俺の居場所はないんだよ」
「だ、だからカモちゃんさんを・・・それって」
 間違ってる、と言おうとした島田を制して野口は何度も首を縦に振った。
「わかってるさ。でも、どうしようもなかった。俺は、あの人のせいで変わった。変わってしまった。いや変えられてしまった。その、俺を変えたあの人のそばに俺の居場所はないんだ。ないんだよ!」
「俺が、野口さんの場所を、取った・・・と言ってる、のか?」
「そうかもしれない。違うかもしれない。どっちでも、もういいんだ。俺の居場所がなくなった。大事なのはそこなんだ。自分の居場所がない、その意味は君たちにはわからないさ」
 確かに、島田にはわからなかった。だから率直に聞いてみた。
「どういう意味になるんだ?」
「いいかい、俺にとって・・・あくまでも俺個人だ。人は知らない。俺にとって、自分の居場所がないという事は、自分が何者かわからない、何故生きているのかわからない、と言うことなんだ。昔は違った。それが普通だったから。でももう俺はあの人に出会ってしまった。知ってしまった。あの人のそばに居場所がある事がどういう意味を持つのかを。俺は、もう昔には戻れない。一人きりにはもう耐えられない」
 島田は、そして山崎は懸命に考えた。どう、答えを返せばいいのだろうか、と。
「野口さん」
 先に口を開いたのは、山崎だった。破れかかった服の胸元から、白い肌がのぞいている。
「居場所を失った、そう思っているのは野口さんだけではありませんか?」
「・・・」
「芹沢さんは、それほど度量の小さい方ではないと思います。野口さんの場所もきっと・・・」
 それを受けて、島田が口を開いた。
「野口さん、あんたは思い違いしてる。俺は野口さんの場所を取ってない。あの人・・・カモちゃんさんのそばに、あんたの場所はちゃんとある! あの人はそういう人だ。俺は知ってるんだ」
「あなたが局長を思っている事はわかりました。ですが、人生に本当の手遅れなんて滅多にないです」
 野口は立ち上がると、ふうと大きく息を吐いた。
「見てただろう? 俺はもう武士じゃないんだ。次にあいつが」
 言いながら、山崎の方をちらと見た。
「君に何をするとしても、俺に止める力はない。今の俺は無力で臆病な裏切り者に過ぎないよ」
「・・・・・」
 島田は何か言おうとして、考えがまとまらないのか、口が僅かに動いただけで終わった。山崎はまっすぐに野口を見つめてから、ゆっくりと首を振った。
「例え、今が臆病な裏切り者でも、最後は人として武士として終わるべきです」
 それは先日、島田が佐伯に対して言った言葉と似ていた。島田もそれを受けてこう話しかけた。
「その通りだ。あんたは昨日も俺にアドバイスしてくれた、いい人だ・・・。だから頼む。俺はカモちゃんさんを助けたいんだ。あの人を助けて欲しい、もしくは助けさせて欲しい」
「あなたが局長を、川の近くに呼び出したのは予想できます。ですが正確な場所となると・・・」
 山崎の、訴えるような目を見ないようにして、野口は背を向けて歩き出した。
「野口さん!」
 背から放たれる、二人の声を無視して野口は言った。
「そろそろ出かけないと、間に合わなくなるな」
 野口は去り、戸は閉じられた。残された二人は肩を落として目と目を合わせるしかなかった。

続く


 <後書きモドキ>

 長くなりそうなので、急遽きゅうきょ、前後編ということにしました。
 旧・番外編6から8にあたる話が、いきなり『間者編』となってしまいました。ご容赦ください。
 芹沢の、島田の、そして掲示板でちょこっと書いてしまったけど、山崎の運命や如何に?
 野口はこのまま、裏切り者として無惨な最後を遂げる事になるのか?
 松永を『ハゲネズミ』と呼んだのは果たして誰か?・・・これはどうでもいい事。
 山崎が購入したのは、どんなジャンルの同人誌なのか?・・・これもどうでもいい事。
 十二月末までには後編が完成したらいいですね。(他人事みたいに言ってはいけない)


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