行殺(はぁと)新選組 りふれっしゅ
『大坂夏場所・改』(前編)
カモミール・芹沢。新選組の筆頭局長である。なぜ筆頭局長なのかと言うと、彼女が新選組設立の最大の功労者だからだ。
文久3年の2月頃。浪士組から離脱した近藤ら試衛館一派は、実は京の町で途方に暮れていた。
そんなわけで筆頭局長の芹沢だが、いつも遊び回っていた。新選組は局長の下に副長職を置き、その下の副長助勤が1〜8番までの各組を指揮する組織だ。名前の通り副長助勤は副長の補佐役であるから、新選組は副長が統括する組織ということになる。作戦計画は土方・山南が立案し、局長の近藤が了承後、筆頭局長の芹沢に報告される。そういう組織の仕組みが徐々に出来上がりつつある。そういうわけで筆頭局長の芹沢にはこれといった仕事がないのである。
「島田クン、出掛けるよ☆」
俺が
「芹沢さん、また遊びに行くんですか?」
そーじの言葉に非難の色が混じる。副長助勤や平隊士は、市中巡回などちゃんと真面目に仕事をしているのにカモちゃんさんだけは自由気ままに遊び回っているからだ。組織をまとめる為には憎まれ役がいた方が都合が良いので、土方さんが意図してカモちゃんさんをそのようにしている可能性はある。
「うん、ちょっとね」 言葉を濁して答えないカモちゃんさん。
「えーと、出掛けるから、島田クン、この荷物を持ってついて来てね☆」
入隊当初からカモちゃんさんに妙に気に入られている俺は、カモちゃんさんの直属のような立場だ。土方副長からは暗にカモちゃんさんのお目付役を命じられている。
「はい」
俺は答えて、カモちゃんさんが引きずって来たリュックをひょいっと担ぐ。中でガチャガチャと金属のぶつかる音がする。キャンプ用品かな? なるほど重い。荷物持ちとしての俺が必要なわけだ。
「じゃ、そーじちゃん。出掛けて来るね☆」
俺はカモちゃんさんの後について壬生から西へと向かう。今日は祇園かな? だが三条大橋を越えても南下せず、川沿いに北上しつつ、さらに東へ向かう。この辺りは田舎で・・・というか山の中だ。どうやらキャンプだったようだ。
「ん〜、この辺りでいいかな? じゃあ、島田クン、荷物の中からコンロとヤカンを取り出してお湯を沸かして」
「はい」
リュックには携帯用のカセットコンロとボンベ、そしてヤカンとおいしい水の入ったペットボトルとカップラーメンが入っていた。
「あ〜の〜、わざわざコンロを持って来なくても、普通に
「焚き火は煙が出るから駄目だよ。こっちの居場所を相手に教えるようなものじゃない」
おお!? 何か軍事作戦だったのか?
「携帯用コンロでも赤外線探査をされたら一発なのでは?」
「大丈夫☆ そんな不条理な機械はこの時代にはないから☆」
いや、携帯用コンロやペットボトルやカップラーメンは十分に不条理なような気が・・・。
でも、まあ命令なので、俺は携帯用コンロに燃料のボンベをセットし、お湯を沸かし始めた。何もこんな山の中まで来てカップラーメンを食べなくても良さそうなものだが・・・。
ちょうどお湯が沸いた頃、茂みがガサガサと鳴り、メガネに三つ編みの女の子が現われた。会津藩主 松平けーこちゃん様だ。
「うあ! 松平様!?」
そういえばこの辺りは黒谷(京都守護職会津藩の本陣)の近くだ。
「や、芹沢、ごくろう」
「けーこちゃん、おひさ〜☆」
俺は
「タイミングよくお湯も沸いてるみたいじゃん」
どうやら、けーこちゃん様とカモちゃんさんは、時間を決めて待ち合わせていたみたいだ。
「うん。島田クン、さっそくカップラーメンを作って」
「ええっ!」 俺は驚いた。庶民の食べ物であるカップラーメンを大名に食べさせても良いものだろうか?
「いいから、いいから。あたしが食べたいんだ」 とけーこちゃん様は
お湯を注いで3分待つ。誰が作ってもおいしくできるのがカップラーメンの良いところだ。
「あ〜、この安っぽい化学調味料の匂い、たまんないよね」
「アタシたちは食べ慣れてるけどね」
どうやらけーこちゃん様は、カップラーメンを食べたかったみたいだ。
「ウチの爺やがうるさくってさ〜、庶民はこんなにおいしい物を食べ放題なのにさ」
なるほど、煙を出して見つかるとまずいのは会津藩の人達にか。
「まあ、まあ。時々アタシが差し入れしてあげるから」
「うう、いつも済まないねえ」
「あ〜の〜」
「何かな、島田くん。発言を許す」
「松平様は大名なんですから、食事は豪華絢爛なんじゃないんですか?」
「普通よ」 と、けーこちゃん様は即答したが、おそらく『普通』のレベルが違うに相違ない。
「いっつもステーキを食べてたら、そのうちハンバーガーが食べたくなるじゃない?」
カモちゃんさんが分かりやすい解説をしてくれる。
「でもだからっつーて、あたしが庶民の食べ物を口にするのは家老の横山が許してくれないんだな、これが」
「格式ですか?」
「そんなよーなもんよ」
「なるほど・・・」
「ところでけーこちゃん、カップめんの他にも用事があったんじゃないの?」
「そうそう。忘れるトコだったわ。
芹沢さあ、悪いんだけど配下を引き連れて大坂に行ってくれない?」
「大坂に?」
「そーなのよ。どうやらキンノーが大坂で暴れてるらしくて、大坂の町奉行から泣きつかれちゃってさ。ちょっと行ってやっつけて来てよ」
「そーゆーのは、ゆーこちゃんたちに頼んだ方がいいんじゃないの?」
筆頭局長ではあるものの、カモちゃんさんは近藤さん達に新選組の実際の運営を任せている。
「あたしとのパイプがあるって事を、たまにはゆーこや土方ちゃんに見せつけとくのもいいんじゃないかな?」
どうやら新選組内部でカモちゃんさんが
「政治だねえ」 感心したようにうんうんとうなずくカモちゃんさん。
「そうそう。あたしは政治家だからさ。部下の揉め事も困るわけよ」
「ん〜、分かった〜。じゃあ、ちょっと大坂に行って来るよ」
「じゃあ、これ、命令書。いちおー、京都守護職の命令って事になってるから」
けーこちゃん様が懐から書状を取り出す。
「じゃ、またね」
現われたときと同様、ガサガサと茂みに分け入ってけーこちゃん様が消える。
「うーむ。いつもながらわけ分かんない人ですね」
「雲の上の人だからねえ。じゃあ、屯所に戻ろっか」
「はい」
俺たちは荷物をまとめると、壬生の屯所へと戻って行った。
翌日の文久3年6月3日(1863年7月18日)の朝礼。
朝礼は八木家の座敷を借りて行う。上座に近藤さん、カモちゃんさんの両局長が座し、その脇を副長の土方さんと山南さんが固めている。副長助勤が下座の前列に着き、俺たち新入りの
「それでは、本日の朝礼を行います。トシちゃん、お願い」
いつものように近藤さんが朝礼の挨拶を行い、副長の土方さんから報告・指示が行われる。
「ここ最近、治安・知名度・評判の数値が高い」 数値? つっこんでもいいのだろうか?
「みんなががんばってるからだよね」 近藤さんがにこやかに笑う。
「うむ。近藤の言うとおりだ。これも一重に巡察の成果が上がっている為と思われる。各員、今後も精進して任務に邁進してもらいたい。それでは今日の任務だが・・・」
「はい!」 カモちゃんさんが元気良く手を挙げ、土方さんの言葉を遮る。
「何ですか、芹沢さん」
土方さんが
「今日からみんなで大坂に出張に行きます☆」
「・・・唐突に決めないでいただきたい。新選組には京の治安を守るという任務があるのです」
「けーこちゃんから頼まれたんだ」
「会津中将様から?」
「ほら、これが命令書。ちゃんと
カモちゃんさんは懐からけーこちゃん様の書状を取り出し、近藤さんに渡す。
近藤さんは書状を開き、さっと目を通した。
「ホントだ。トシちゃん、中将様からの特命だよ」
「どれどれ・・・・なるほど・・・しかし、なぜ近藤ではなく芹沢局長に命令が下されたのです?」
「そりゃー、アタシとけーこちゃんの仲だから☆」
特別命令が近藤ではなく芹沢に下された事で、会津中将松平けーこちゃん様の信頼が、まだまだ芹沢局長の方にあることを思い知り、愕然となる土方。
「・・・・松平けーこちゃん様より御下命があった。新選組は大坂に下り、不逞浪士の取締を行う」
それでもどうにか威厳を整え、宣言する土方さん。
「大坂の町で、キンノーが暴れてるらしいんだ。京の町は、アタシたち新選組が睨みを利かせてるから連中も大坂に拠点を移したみたいだね」
「それで何でけーこちゃん様から沙乃たちに命令が下るの?」
新選組の任務は京の町の治安維持である。
「大坂町奉行所が不逞浪士に手を焼いてるそうだぞ。それで大坂町奉行から京都守護職の松平様に依頼があったんだそーな」 と答える俺。
「なんで
「だって俺、その場に居たもん」
「あ、昨日の・・・・」 思い出したようにそーじがつぶやく。
「浪士といっても、元はお侍さんだったり、剣術が強かったりするから、奉行所のお役人じゃ歯が立たないんだよ」 とカモちゃんさんが俺の説明をフォローする。
「そういうわけで浪士退治のプロの俺たちにお声がかかったのさ」
「島田が威張る事じゃないでしょ!」
「どうして会津のお侍さんが直接出向かないんですか?」 そーじが質問する。
「そりゃー、アタシたちが会津藩の下請けだからに決まってるじゃん」
「カモちゃんさん、そう言ってしまうと身も蓋もないのでは・・・」
「と、ともかく、これは会津公からの特命だよ。がんばろうね」
「しかし、新選組全員が大坂に出張するとなると、京の守りはどうするか・・・」
「大丈夫だよ。けーこちゃんの配下には精強を誇る会津藩兵1000名がいるから☆」
「じゃあ、全員で大坂出張だね・・・トシちゃん、旅費とかどうしよう?」
「うーむ、そこまでの蓄えはないな」
「それもだいじょーぶ。けーこちゃんからお金をもらって来たから」
カモちゃんさんが顔中を笑顔にして答える。実は、あの後、俺とカモちゃんさんは金戒光明寺に寄って、会津藩の勘定方から当座の軍資金を預かって来ていた。軍資金は文字通り金でできた小判なので、重量物だから俺が担いで持って帰って来たのだ。つくづく俺は荷物担当である。いっそのこと、小荷駄方に移籍した方が良いかもしれない。
何から何までカモちゃんさんに仕切られて土方さんが渋面を浮かべている。
「それでは各自、武器の準備をして正門前に集合するように」
「それでは本日の朝礼を終わります。解散☆」
いつもと違ってカモちゃんさんが朝礼を締める。
身支度を整えた俺たちは門の前に集合した。特に旅装というわけではない。と、いうのは京都から大阪までは新幹線でわずか15分の距離・・・・。
「不条理な解説をするなあ!」
「ぐはぁ!」 土方さんから殴り飛ばされた。ナレーションの途中でつっこむとは不条理な!
「この時代に新幹線などあるはずないだろう!!」 土方さんがいつになく不機嫌だ。
「えー、新幹線じゃないのぉ?」
「近藤まで何を言うか! 局長がそんなでどうする!」
怒りの矛先は近藤さんにも向けられる。はっきり言って八つ当たりだ。
「そーだよ、ゆーこちゃん。新幹線は危険物持ち込み禁止だから、刀とか槍とか持って行けないじゃん」
「そっかー」
「そこで納得するなぁ〜!!」
「ああん」 近藤さんも吹っ飛ばされる。
「なんか、トシさん、荒れてるなあ」 トップ集団からちょっと離れた所で永倉がつぶやいた。
「今回の仕事の話、芹沢さんが持ってきたからよ」 相棒の沙乃が答える。
「いつも好き勝手に遊んでる芹沢さんに、最終的に頭が上がらないのは癪だからだね」
笑顔で恐ろしい事を言うのはへー(※藤堂
「それに歳江さんは、島田君を芹沢君に張り付けてたのに、彼から何の報告がなかったのも気に入らないんだろうな」 副長の山南も、この第2集団に加わっている。
「島田さん、芹沢さんに寝返ったんでしょうか?」 そーじ(※沖田鈴音)は戸惑っている。
「寝返ったも何も、あいつは試衛館の人間じゃないじゃん」
「現地採用だからねえ」
「でも芹沢さんが妙に島田を気に入ってるのよね」
「こら、そこ! 何を無駄話をしているか! 出発するぞ!」
容赦なく土方の叱責が飛ぶ。不機嫌の塊だ。
「じゃあ、伏見に向けてしゅっぱーつ」
近藤さんが皆の先頭に立って歩き始めた。その後を2列になって続く。先頭は近藤さんとカモちゃんさんの両局長で、旗持ちの尾関が、深紅の生地に金糸で『誠』の一字を縫い取った新選組隊旗を立てて続く。その後ろを俺がカモちゃん砲をゴロゴロと引っ張って行き、副長助勤が各隊士を率いて続く。副長の土方さんと山南さんは最後尾だ。土方さんはまだ怒っているらしく、怒りのオーラが先頭付近のここまで漂って来ている。
伏見から三十石船で淀川を下った俺たち一行は、大坂
新選組全員で大坂に来たので、京屋の2階を借り切った。とりあえず、幹部だけでの会議である。
「まずは情報収集だな」
「キンノーさん達は大坂で何をしてるのかな?」 近藤が首を
「松平様の書状によると、商家から押し借りしているそうだ」
「分かってるんなら、町奉行所で何とかすればいいじゃない」 と沙乃。
「取り締まろうとして、逆に役人が斬られたらしい」
「キンノーだもんね」 と藤堂。
「それだけじゃない。殺人に放火、押し込み強盗に強姦とやりたい放題だ。これを放置すれば幕府の威信は地に落ちる」
山南が続ける。彼は彼で独自の情報源を持っているのかもしれない。
「それであたしたちの出番というわけですね」 と沖田。
「そうだ。キンノーを取り締まる。手向かったら斬って構わん」
「じゃあ、地区ごとに分担して巡回だね」
「そうだな。新選組が大坂に来ていることをアピールすれば、奴らも動き難くなるだろう」
それが京での新選組のやり方だ。
「じゃあ、分担を決めるよ」 近藤が大坂の地図を広げる。
「そういえば、芹沢さんはどこに行ったの?」 思い出したように沙乃が回りを見回す。
「誠とアラタさんと斎藤さんも居ないね」
「・・・遊びに行っちゃったのかな?」
真面目な斎藤が遊びに行ったとは考え難いが、不真面目3人組がおもちゃにする為にむりやり引っ張っていった可能性もある。
「まあ、いい。あの3人は放っておいてもいいだろう」
「じゃあ、まず沙乃ちゃんの隊だけど・・・」
ちょうど役割分担が終わって、これから大坂の町の巡察に繰り出そうとした刹那、京屋に斎藤が飛び込んで来た。
「斎藤! あんたどこに行ってたのよ!」
沙乃の疑問には答えず、斎藤は息をゼイゼイ言わせながら報告を始めた。
「土佐堀の古寺にキンノーの本拠地が有ります。直ちに出動を!」
「何だと!」
「斎藤くん、場所は分かる?」 土方は驚いているが、近藤は頭が瞬時に切り替わったようだ。この辺りが近藤が局長をやっている理由である。
「はい。僕は走って来ましたけど、ここからなら船の方が早いです」
目的地の土佐堀はその名のとおり、淀川の支流に当たる水路の一つ、土佐堀の川岸にある一帯だ。京屋のある八軒家からは船で直接乗り込める。大坂は水路の街なのだ。区画から区画への移動は船を使った方が圧倒的に早い。
運良く巡察に出る準備が整ってたので、そのまま船着き場の船を3艘徴発し、分乗して現地に向かう。
「カーモさんは?」
先頭の船の上で近藤が斎藤に尋ねた。土方は後ろの船で指揮を取っており、同じく山南は3艘目の船の指揮を取っている。
「島田と永倉さんと一緒に、古寺へ向かっています」
「どうやってキンノーの本拠地が分かったの?」
「町奉行所で聞いてきたんです」
斎藤の話をまとめると以下のようになる。近藤たちが会議を始めたので、芹沢は島田を伴って大坂西町奉行所に向かった。江戸と同じく東と西の奉行所(江戸は北と南)が1カ月交替で仕事をしているのだが、今月は西町奉行所が月番だからである。これを遊びに行くのと勘違いした永倉アラタがついてきて、斎藤は島田に『ついて来い』と言われてついて行ったのである。
大坂町奉行から京都守護職にキンノーの退治依頼が出た以上、奉行所は何らかの情報を握っているはずだと芹沢は考え、彼女は行動の人なので、そのまま出かけたのである。町奉行所は会津藩からの増援を期待していたのだが、やって来たのが新選組だったのでがっかりしていた。だが、芹沢が松平けーこちゃん様から三つ葉葵(会津葵)の印籠を借りて来ていたので、おとなしく全情報を渡したのである(印籠を託された芹沢は会津松平家の名代という事になるから)。この時水戸黄門ごっこが行われた事は言うまでもない。
実は奉行所は商人からの訴えを受けて(嫌々ながら)捜査を開始し、連中が根城にしている古寺を突き止める所まで行ったものの、返り討ちにあう可能性が高いので踏み込めないでいただけなのだ。
そして行動の人である芹沢は、そのまま島田・永倉の両名を伴いキンノー退治に出かけたのである。斎藤はこのことを近藤たちに伝えるために京屋に戻った。
「さすが、カーモさんだね」
「土佐堀には長州藩の蔵屋敷があります。逃げ込まれたらやっかいです」
(※当時の藩は国に等しく、藩邸・蔵屋敷は治外法権である。新選組は会津藩のお預かりであるから、長州藩の蔵屋敷までは踏み込めないのだ)
「キンノーが大っぴらに長州藩の蔵屋敷に出入りするわけにはいかないけど、いつでも逃げ込めるように近くにアジトを構えたんだね」
「はい」
「カーモさん、無茶しなきゃいいけど・・・・」
カモちゃんさん・俺・永倉の3人は、西町奉行所から西進し、いくつか橋を渡って、土佐堀まで来ていた。途中で斎藤を京屋への使いに出す。こっちは徒歩、向こうは船だから、ちょうどいいタイミングで間に合うんじゃなかろうか? どうせ土方さんの事だから、まだ会議をやってるに違いないし。
しかしそれにしてもカモちゃんさんの行動力には驚かされた。大坂についてまだそんなに時間も経ってないのに、連中の本拠地を突き止めたんだから(いや、突き止めたのは奉行所だけどさ)。てっきり遊びに行くのかと思ってたら(永倉もそう思ってたらしい)、真面目に仕事してるしなあ。やっぱり会津公直々の命令だったから本気を出したのかなあ。カモちゃんさんが本気を出して、それで事件がスピード解決するのは良いんだけど、なぜか俺はそばに居るんだよねえ。
「あーのー、カモちゃんさん、俺たち3人で殴り込むのは無理があるのでは・・・」
「大丈夫☆ こっちにはカモちゃん砲があるから☆」
「でも町中で撃ったら、後で土方さんに怒られますよ」
「大丈夫☆ 要はキンノーをやっつければ良いだけなんだから☆」
「でも相手は何人いるか分からないんですよ。ここは近藤さんたちを待った方がいいのではないかと・・・」
「島田、敵前逃亡は士道不覚悟で切腹だぞ」
と永倉。彼女は暴れられそうなので嬉しそうだ。重量のあるハンマーをブンブンと素振りしている。
「いや、逃げるんじゃなくて、味方を待とうってだけだ」
「そんなことしてる間に逃げられたら困るじゃん。そういうわけでカモちゃん砲発射ぁ!」
俺が止める間もなく、カモちゃんさんが
「あ〜、撃ってしまった・・・・」
「カモちゃん砲連続発射ッ!」
カモちゃん砲がフルオートで連射し始める。砲口から発射される砲弾は、次々と古寺内のあちこちに着弾し、塔頭の屋根瓦を粉砕し、壁に穴を空け、庭で土煙を上げる。
「な、何事!」
建物の中から、浪人達がわらわらと出てくる。20人はいるだろう、
「相手が多すぎますよ!」
「泣き言を言うな。1人で4人倒せばいいだけじゃん」 永倉はやる気だ。
「アラタちゃん、割り算を間違えてるわよ」 カモちゃんさんは冷静だ。
「そんな場合じゃないでしょうが!」 俺は慌てている。
門の残骸から出て来たキンノー達は、幕府方の軍勢が本気で攻めて来た(そりゃ砲撃したからねえ)と思い、近くの長州藩邸に逃げるつもりだったのだが、新選組の隊服を着た俺たちが3人なのに気付いて気が変わったらしい。次々に抜刀して俺たちに向かって来る。
「壁を背にして、3人でやるよ!」
向こうの方が人数が多い。囲まれたらおしまいだ。俺は持って来てた槍を抜き、カモちゃんさんの指示どおり、壁を背に向けて、連中に対峙した。カモちゃんさんも珍しく刀を抜き、俺の右を、永倉はハンマーを構えて俺の左を守っている。・・・つーか、何で俺が真ん中!?
場所を代わってもらう暇もなく、目の前の男が切りかかって来るのを、槍で突く。そのまま引き抜き、連続して槍を繰り出し、結界を作る。槍の方がリーチが長く、かつ俺の長身があるため、日本刀だと迂闊に俺の間合いに踏み込めない。良かった、種田流槍術を習っておいて(実は俺は京に来る前に、大坂の谷道場で種田流槍術の免許皆伝をもらっている)。
俺が手ごわいとみたキンノーはカモちゃんさんと永倉の方に向かうが、カモちゃんさんは神道無念流の免許皆伝の腕前。たちまち3人を斬り捨てた。俺は彼女の背を守る。永倉の方は、下がりつつもハンマーで次々と相手の日本刀をへし折っている。
「カーモさーん!」
「島田ー!」
「新選組続けー!」
近藤さん、斎藤、土方さんの声が響いた。どうやら斎藤が援軍を連れて来てくれたらしい。ナイスタイミングだ。彼我の戦力差が逆転する。新選組はキンノーを包囲し、得意の山攻撃破剣(要は集団で囲んでやっつける剣法)で各個撃破していく。
「手向かうものは斬り捨てて構わん!」
「カモちゃん砲発射ぁ!」
「でもなるべく捕縛してね、無用の殺生は禁物だよ」
「カモちゃん砲発射ぁ!」
「ゆーさん、何人か向こうに逃げました。追います!」
「カモちゃん砲発射ぁ!」
修羅場が続く中、なぜかカモちゃん砲が再び火を吹き、古寺を
勝てないと悟ったキンノー浪士達は、次々と刀を捨て投降する。
「よし、全員捕縛しろ! 芹沢さん、撃ち方やめ!」
ピタッとカモちゃん砲が砲撃を止める。
「あれほど町中での発砲は禁じていたはずです」
「だってアタシたち3人で、これだけの数のキンノーに勝てるわけないじゃん☆」
「だから、単独行動は慎むべしと・・・」
「それとも、ここでアタシが殺されてた方が、歳江ちゃんには都合が良かったかな?」
「な、何を・・・」
「じょーだん、じょーだんよ☆」
カモちゃんさんは笑っているが、土方さんは硬直している。まるでヘビに睨まれたカエルだ。
そーじも血刀を
「えーと、じゃ、撤収するよ?」 近藤さんがオロオロしながらも土方さんの方をうかがっている。
「わ、分かった。それでは撤収する。山南は原田とそーじの隊を連れてこいつら(※捕縛したキンノーの事)を町奉行所に引き渡して来てくれ」
「了解した」 山南さんが短く答える。
「あ、その前に、このお寺を片付けて行こうか。残骸の山になっちゃったし。このままだとバチが当たっちゃうよ」
「あんたが壊したんだろうが!」
「ひどーい、歳江ちゃん、アタシのせいにするのね」
「一から百まで全部あんたのせいだ!」
「まあ、まあ、トシちゃん、確かにお寺さんだから、片付けて行こうよ」
いつものように近藤さんが仲裁に入る。
かくして、大坂におけるキンノーは一掃された。すぐ近所に長州藩邸があったから連中は逃げようと思えば逃げれたのだが、俺たちが3人だけだったので逃げずに攻勢に出るという判断ミスを犯したのだ。実はこれもカモちゃんさんの策略だったのかもしれない。おそらく新選組全員で来ていたら、ここまで圧倒的な勝利を収めることは難しかっただろう。
更に余禄もあった。土方さんの指揮で、
かくして新選組の大坂出張は、大成功の内に終わったのである。
(後編に続く)
(あとがき)
先に書いた『新選組大坂夏場所』の出来が悪かったので書き直してみました。
いや〜、
カモミール芹沢を主役に据えたシリーズにする予定なので、改稿前と比べて芹沢を目立たせてますし、芹沢を活躍させてます。また島田の立場を芹沢寄りに設定し直しました。同じ物語を同じ作者が書いてるのに、こうまで内容が変わるものなのか・・・・。ちなみに土方さんは土方EXの時のような策士の悪い人という設定です。
今回のメインの戦闘シーンですが、改稿前の原稿で、
近藤が「本筋に関係ないからカットしたんだって」と言ってる部分です。私はワープロ専用機で執筆してるので、書き上げた場面を没にする場合、そのシーンを領域指定して別のファイルに移してます(後で使うかもしれないから)。今回それが役に立ちました。第1稿を書いた際の戦闘シーンに手を加えたのが今回の戦闘シーンです。
このシリーズでの島田は、史実の島田魁を踏襲しています。尾張の柳生新陰流の免許皆伝で、江戸の坪内道場で心形刀流の免許皆伝を得て、更に江戸で永倉から神道無念流を習い、その後大坂の谷道場で種田流槍術の免許皆伝を得ているという設定です。
いわゆる新選組物では、大男で力持ちの部分のみが描かれる島田魁ですが、実は永倉新八や沖田総司が認めるほどの剣術の腕前だったのです。下手したら、沖田・永倉・斎藤と同クラスかあるいはそれ以上だった可能性があります。しかしながら、島田魁は、反近藤派の永倉の友人だった為と、おそらく真正直な人だったので新選組内部で出世できず、最期までパッとした所がありません。それでも京都、鳥羽伏見、戊辰戦争と生き延びてるので、やはり強い人だったのでしょう。
島田誠のモデルは島田魁なので、今回、島田を凄腕にしてみます(前作の加納惣三郎のお話の時の島田に近い)。そういう島田の凄腕をいち早く見抜き、側近として使ってるカモちゃんさんがどう動くのか実に楽しみだ。・・・あ、書くのは私か。
それでは後編で、キンノー力士との戦いを書きたいと思います。