改正援護法案を本会議提出へ 在外被爆者問題で衆院厚労委
(「長崎新聞ホームページ」6月5日付から全文抜粋)
【東京支社】在外被爆者をめぐる問題で、衆院厚生労働委員会は4日、被爆者健康手帳の海外申請を可能にする被爆者援護法改正案を、与野党一致で委員長提案として本会議に提出することを決めた。5日に衆院を通過、来週中に参院で可決、成立の見通し。国が日本国内での手続きを義務付けた「来日要件」が撤廃され、高齢や疾病で来日できずにいた在外被爆者に手帳取得への門戸が開かれる。
改正案は先月28日、自民、公明、民主の3党が議員立法で今国会成立を図ることで合意。援護法に「手帳交付を受けようとする者で、国内に居住地または現在地を有しない者」と在外被爆者の条項を初めて明記し、広島、長崎両県知事、市長に手帳申請ができると定めている。
法改正後、申請者は居住国の在外公館を通じて申請書類を提出し、両県市の担当職員が現地に出向いて面談するなどの手続きが取られる見通し。
また、年間14万5千円を基本とする在外被爆者の医療費助成について、改正案では「国内に居住する被爆者の状況や医療実態などを踏まえて検討し、必要な措置を講じる」とし、国内被爆者への助成内容を目安に見直すよう定める。海外での申請が認められていない原爆症認定についても、国が必要な措置を講じるとしている。

解説/前進も「国内」と隔たり
(「長崎新聞ホームページ」6月5日付から全文抜粋)
被爆者健康手帳を申請する際の「来日要件」が撤廃される見通しになった。手帳がなければ被爆者援護法の手当などは受けられず、渡日が困難な人たちにとって援護の入り口に立ちはだかってきた壁が取り払われることになる。だが、高齢化した関係者は相次いで死亡し、遅きに失した感が否めない。
在外被爆者は長年の裁判で一つずつ権利を勝ち取ってきた。最初の提訴は1972年にさかのぼる。海外居住者にも援護法に基づく手当の支給を始めたり、海外からの手当申請を認めたりと、国は裁判に負けては少しずつ改善する場当たり的な対応に終始してきた。
手帳申請に来日を課してきたことについて国は「被爆の事実関係を調査、確認する事務は海外では難しい」とするが、これまでの姿勢は在外被爆者救済の観点に欠けていたと言わざるを得ない。日本で被爆した韓国人元徴用工への国家賠償を確定した昨年11月の最高裁判決は、在外被爆者を切り捨ててきた国策の誤りをあらためて「断罪」した。
今回も国が自ら重い腰を上げたわけではない。昨年12月、自公、民主双方が改正法案を議員立法で提出。与野党が支持率アップを狙う「ねじれ国会」が追い風になり、司法判断の前に政治が動いた格好だ。
法改正は大きな前進に違いないが、関係者が求める「国内被爆者と同等の援護」とはなお隔たりもある。戦後63年が過ぎ、申請に必要な「被爆の証明」が困難な人たちにどう対応するかなど、国内とも共通する問題も横たわる。被爆者の高齢化は進み、時間はない。国は残された問題に真正面から向き合うべきだ。(報道部・下釜智)

改正被爆者援護法成立へ なお横たわる課題
(「長崎新聞ホームページ」6月5日付から全文抜粋)
被爆者健康手帳の海外申請に道を開く被爆者援護法改正案は4日、今国会での成立が確実となった。関係者からは喜びの声が上がったが、課題はなお横たわり、被爆者の高齢化が進む現実に焦りの色をにじませている。
許萬貞(ホ・マンジョン)韓国原爆被害者協会釜山支部長(75)は歓迎しながらも、「日本公館にさえ行けない寝たきりの人はどうなるのかなど、申請や審査の具体的な手続きが分からず、問い合わせにも答えられない状態」と今後の運用を注視する。在外被爆者への医療費助成は基本的に年間、14万5千円が上限で、援護法の介護手当も対象外で、「日本の被爆者と同じ扱いを」と求めた。
来日要件をめぐっては、海外からの手帳申請を却下したのは違法として、国などを相手取った裁判が長崎地裁などで計4件、係争中。高齢で寝たきり状態の長崎訴訟の原告(88)を支えている在外被爆者支援連絡会の月川秀文共同代表(75)は「成立しても施行までに時間がかかる。施行の前に手帳を交付してほしい」。同会は5日、被告の県に、手帳申請却下処分の早急な取り消しなどを申し入れる。
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