<8−1、ロールステアの概念とその影響>

 サスペンションが付いている以上、車輪は様々なシチュエーションに応じて上下にストロークします。このストロークに伴って多くの場合トー角変化が発生します。

ところで車両が旋回すれば車体がロールすることは前に述べました。ロールするということは外輪側が縮んで内輪側が伸びる方向にストロークするということです。つまり車両の旋回性を考える場合、サスペンションのストロークに対するトー角変化をロールに伴うトー角変化ととらえて考える方が便利な場合がしばしばあります。このためロールに伴い発生するトー角変化をロールステアと呼んでおり操縦安定性を論ずる場合、この言葉がよく出てきます。

実例を引いて言うと、ここに

「100mmバウンド(縮み側にストローク)すると1°車体内側(トーイン)方向にトー角変化し、逆に100mmリバウンド(伸び側にストローク)すると1°車体外側(トーアウト)方向にトー角変化するサスペンション」

があったとします。これをこの文章の通り、

「ストロークに対するトー角変化特性が1°/100mm(バウンドでトーイン)」

と言っても何ら間違いではないのですが、このままでは旋回性を考えるときはちょっと使いにくいのです。旋回中のストロークというのは主にロールによるものですから、例えばこの車両が旋回により10°ロールしているときに外輪が100mmバウンドし、内輪が100mmリバウンドする車両だとします。するとこのサスペンションは外輪は1°トーイン(車体内側)に切れるわけですから旋回内側に1°切れることになり、内輪も1°車体に対してトーアウト(車体外側)に切れるわけですから、旋回方向に対しては旋回内側に1°切れることになります。つまりロールに伴いロール角10°あたり外輪も内輪も旋回内側に1°切れるサスペンションということです。このような場合このサスペンションのロールステアは1°/10°=10%のロールステアということになります。

車体のロールは、基本的に旋回加速度に応じて発生します。そしてロールステアがロールに応じて生ずる前後輪の実舵角変化だとすると、旋回加速度に応じて実舵角変化が生ずるわけですから、これはステア特性に影響します。例えば上の例では、この車が旋回加速度0.1Gあたり1°ロールする車だとすると、0.1G旋回で1°×10%=0.1°旋回内側に実舵角変化するということになり、ステア特性に影響してきます。

もしこのサスペンションが前輪に付いていた場合、人間がハンドルを切って与えた前輪舵角をロール角の10%ずつ旋回内側に勝手に増すことになります。後輪に付いていた場合も、車体の向きと同じではなくロール角の10%ずつ旋回内側に切れることになります。したがって前後輪にロールステアを与えると、前後輪の横力バランスがロールステアが無い場合と比較してその分変化することとなり、例では前輪の場合は相対的にOS(オーバーステア)方向、後輪の場合は相対的にUS(アンダーステア)方向となります。もしこのサスペンションが前輪に付いていれば、前輪のロールステアは10%のオーバー、後輪に付いていれば後輪のロールステアは10%のアンダーというわけです。ちなみに前輪にロールアンダーを付けたい場合は、バウンドトーアウト(リバウンドトーイン)のサスペンションを付ければいいわけです。

例えばここに元々はニュートラルステアで旋回加速度0.1Gあたり1°ロールする車両があったとして、この車両の後輪にだけ先程の例のロールステアのサスペンションを付けたらどうなるか。6.1を参照しながら読んで下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


一定の旋回半径を維持するように前輪舵角を調整しながら定常円旋回している場合、例えば0.2G旋回時にはロール角が2°だから、もとの車両に対して後輪の角度がその10%の0.2°だけ内側に切れます。その分車体でスリップ角を付ける必要がなくなり、もとの車両に対して相対的に0.2°車体が進行方向(旋回円接線方向)に対して外を向くことになります(6.1の後軸位置のVの向きと車体の向きの差が少なくなる方向)。そうなると前輪位置での車体スリップ角も相対的に0.2°だけ外を向くので前輪舵角をそのままにしていると前輪タイヤスリップ角が小さくなってしまうのでその分0.2°前輪舵角を切り増さなければならなくなります。そしてその量は旋回加速度が上がるほど、例えば0.4Gなら0.4°、0.6Gなら0.6°と大きくなります。したがってこの車両はアンダーステアの特性を示すことになるのです。

 前輪の場合は、例えばロールアンダー10%のサスペンションがついているとすると、旋回によるロールに伴って旋回0.1G当たり0.1°勝手に切り戻している訳ですから、その分もともとの舵角を増やさなければならなくなり、同様にステア特性がアンダーステアの特性を示すことになるわけです。

 

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