<6−3、ニュートラルステアポイントとスタティックマージン>
(Lf・Kf−Lr・Kr)の符号がステア特性を表すということは述べましたが、いま直進していた(つまりハンドルも切っていない)車両に外乱など何らかの理由で車体スリップ角βが生じたとします。するとこの瞬間には前後輪にも同じだけタイヤスリップ角が生じ、それぞれ横力を発生するので車両はそれに見合った旋回を始めます。このあとこの車両はどうなるでしょうか。前後のコーナリングフォースが生み出すヨーイングモーメント(Lf・Kf・βf−Lr・Kr・βr)を考えてみましょう。
今、前後輪のスリップ角βf=βr=βだから、(Lf・Kf−Lr・Kr)=0なら
Lf・Kf・βf−Lr・Kr・βr=Lf・Kf・β−Lr・Kr・β
=(Lf・Yf−Lr・Yr)・β=0 (ニュートラルステア時)
同様に(Lf・Kf−Lr・Kr)<0なら
Lf・Kf・βf−Lr・Kr・βr=Lf・Kf・β−Lr・Kr・β
=(Lf・Yf−Lr・Yr)・β<0 (アンダーステア時)
同様に(Lf・Kf−Lr・Kr)>0なら
Lf・Kf・βf−Lr・Kr・βr=Lf・Kf・β−Lr・Kr・β
=(Lf・Yf−Lr・Yr)・β>0 (オーバーステア時)
したがって、ニュートラルステアの場合はヨーイングモーメントが=0であり、発生したヨーレイトを維持する。また、アンダーステアではヨーレイトを減少させる方向に、オーバーステアではヨーレイトを増加させる方向にヨーイングモーメントが発生することになります。つまりニュートラルステアでは発生した横力により始まった定常円旋回を維持し、アンダーステアではそのうち直進状態に収束し、オーバーステアでは放っておけばどんどん旋回半径を小さくしていくということです。
ところでこの前後力のバランスを図6.2の上で考えてみると、前後輪に発生する横力YfとYrの合力の着力点は、ニュートラルステアつまりLf・Kf−Lr・Kr=0ならば重心点と一致し、(Lf・Kf−Lr・Kr)<0(アンダーステア)なら重心点より後に、(Lf・Kf−Lr・Kr)>0(オーバーステア)なら重心点より前にあることがわかります。
このポイントのことをニュートラルステアポイントといいます。また、このポイントと重心点との距離をLnとすると、
(Lf+Ln)・Yf=(Lr−Ln)・Yr
(Lf+Ln)・Kf・β=(Lr−Ln)・Kr・β
よって
Ln=−(Lf・Kf−Lr・Kr)/(Kf+Kr)
となり、Lnが正(重心より後方)で値が大きいほどアンダーステアで、Lnがゼロのときニュートラルステア、Lnが負(重心より前方)のときオーバーステアとなりますが、Lnの大きさはホイールベースLに影響を受けるのでこれをLで割って無次元化した値をスタティックマージンといって操安性能の指標として用いられます。
スタティックマージン=Ln/L=−(Lf・Kf−Lr・Kr)/{(Kf+Kr)・L}
あるいは、Lr=L−Lfを代入して
スタティックマージン=−Lf/L+Kr/(Kf+Kr)
となります。参考までに。