<5−3、定常円旋回中のロールモーメントの釣り合い>

瞬間回転中心の概念を理解したところで、定常円旋回時の重心点回りのモーメントの釣り合いを考えますが、ここでフロント・リア及びその左右それぞれについて、わかりやすくするためサスペンションは瞬間回転中心をピボットとするリンク1本に仮想し、かつロール剛性の源であるバネやスタビライザーとしてはトレッドの位置に取り付けられたバネ1本で代表して考えることとします。また、定常円旋回旋回中に限定して考えるので、ショックアブソーバー分の力は考えません。5.2を参考にしながら以下を読んでください。

 

 

 

 

 


車両が今定常円旋回しているとして、まずフロントで車体に入る力を洗い出し、重心点回りのモーメントを算出します。発生している力としては、

@:各タイヤに発生しているコーナリングフォース(横向き。左右輪で大きさが異なるのでフロントの左右をそれぞれをCFf1、CFf2とします。コーナリングフォースは路面からタイヤに入る力で、サスペンションリンクを介して車体に入力されています)、

A:バネ反力(バネから車体へ、あるいはその反力がバネからタイヤ(アクスル)へ。ホイール端バネ定数をKfとしバネの直進時の長さをXf0、左右輪のバネの長さをそれぞれXf1、Xf2とすると、車体に入るバネ反力はそれぞれKf×(Xf0−Xf1)、Kf×(Xf2−Xf0)となります。)

各仮想リンクの延長線に重心からおろした垂線の長さをL1、L2、リンクの地面と成す角をθ1、θ2、トレッドをTfとすると

@車体に入力される力の重心回りのモーメント(フロント回り)

CFf1×L1/cosθ1+CFf2×L2/cosθ2

 −Kf×(Xf0−Xf1)×Tf/2−Kf×(Xf2−Xf0)×Tf/2

(但し、ロールに伴う重心点の左右移動量についてはここでは無視します)

よって

CFf1×L1/cosθ1+CFf2×L2/cosθ2

 −Kf×Tf/2×(Xf2−Xf1)      …(5−1)

 A車体に入力される力の重心回りのモーメント(リア回り)

CFr1×L3/cosθ3+CFr2×L4/cosθ4

 −Kr×(Xr0−Xr1)×Tr/2−Kr×(Xr2−Xr0)×Tr/2

よって

CFr1×L3/cosθ3+CFr2×L4/cosθ4

   −Kr×Tr/2×(Xr2−Xr1)      …(5−2)

ここで定常円旋回という条件から、ロール角加速度=0、よって重心点回りのトータルのロールモーメント=0。よって式(5−1)+式(5−2)=0から

  CFf1×L1/cosθ1+CFf2×L2/cosθ2

+CFr1×L3/cosθ3+CFr2×L4/cosθ4

 −Kf×Tf/2×(Xf2−Xf1)−Kr×Tr/2×(Xr2−Xr1)

  =0

                …(5−3)

となります。これは5.2の白い矢印の8つ(前後4つずつ)の力による重心点周りのモーメントがゼロ、すなわち釣り合っているということです。

ところで図を見ればわかるとおり、式(5−3)は左右のコーナリングフォースが左右のサスペンションリンク経由で車体に入る分のモーメント(式(5−3)中 赤字 部)を、左右のバネ反力の差によるモーメント(ロール剛性によるモーメント、式(5−3)中 青字 部)がうち消して、定常状態(一定のロール角)となっていることがわかります。

ここで重要なのは「左右のバネ反力の差」=Kf×(Xf2−Xf1)、Kr×(Xr2−Xr1)はもちろん左右のストロークの差(Xf2−Xf1)、(Xr2−Xr1)により発生するわけですが、このときXf2、Xf1またXr2、Xr1はそれぞれ直進時の長さXf0またはXr0に対して、伸び量と縮み量が同じとは限らないということです。つまり最初の直進時の長さが仮に100mmだとして内輪が125mmに伸び、外輪が75mmに縮んだとすると(Xf2−Xf1)=50mmとなるが、例えばこれが、内輪:140mm(40mm伸びた)、外輪:90mm(10mm縮んだ)でも(Xf2−Xf1)=50mmになり、同じ「左右のバネ反力の差」が得られるわけです。そしてこの場合左右輪の中心は(40−10)/2=15mm持ち上がることになります。これがジャッキアップです。

 となると、このジャッキアップ量は式(5−3)だけからでは求められないということになります。次の章で、今度は上下方向の釣り合いを考えることで、これを求めてみましょう。


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