<3−1、重量配分とステア特性(コーナリングパワーの荷重に対する非線形性が無い場合)>
例えば車重1000kgf、重量配分:前/後=50/50のA車と、60/40のB車を考えます。その他の諸元は全て同一で違うのは前後重量配分だけです。ここでサスペンションの影響などはここでは面倒なので無視します。そしてさらに左右輪それぞれを一つに置き換えた、前1輪、後1輪の前後2輪モデルで考えます。そして両車ともに同一車速で、旋回加速度0.2Gで定常円旋回しているとします(すなわち旋回半径も同一)。このときA車は前輪500kgf、後輪500kgfですから前輪、後輪がそれぞれ発生していなければならないコーナリングフォースはそれぞれに旋回G(旋回加速度が重力加速度の何倍かの値)をかけた100kgfずつになります。また、B車では前輪600kgf、後輪400kgfで、0.2Gで旋回するために必要はコーナリングフォースは、前輪120kgf、後輪80kgfとなります(表1参照)。
表3.1、車重1000kgfの車両が0.2G旋回するときの必要コーナリングフォース(前後2輪モデル)
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重量配分 |
前輪荷重 |
後輪荷重 |
前輪コーナリングフォース |
後輪コーナリングフォース |
A車 |
50/50 |
500kgf |
500kgf |
100kgf |
100kgf |
B車 |
60/40 |
600kgf |
400kgf |
120kgf |
80kgf |
さていまA車にもB車にも、また前輪にも後輪にも同じ特性のタイヤが付いているとします。このタイヤはコーナリングパワー(単位スリップ角あたりのコーナリングフォース)の荷重に対する非線形性が無い、すなわちコーナリングパワーは荷重に対してどこまでも比例して増える特性のタイヤだとします。例としてここでは輪荷重の5%のコーナリングパワーを荷重に関わらず発生するタイヤだったとします。つまり輪荷重=500kgfのとき、タイヤのコーナリングパワー(スリップ角1°あたりのコーナリングフォース)は25kgf/degということです(図3.1青線参照)。
するとA車では前後輪に発生しなければならないコーナリングフォースはそれぞれ100kgfずつだったので、前輪、後輪それぞれのタイヤスリップ角は、100/(500×5%)=4°ずつということになります。
ではB車ではどうなるでしょうか。B車では0.2Gで旋回するために必要はコーナリングフォースは、前輪120kgf、後輪80kgfでしたね。この場合、コーナリングパワーは輪荷重の違いにより、前輪が600×5%=30kgf/deg、後輪が400×5%=20kgf/degとなり、結局B車の場合も前後輪のスリップ角は、前輪:120/30=4°、後輪:80/20=4°でA車と同じになります。従って、どちらもβf=βrで「ニュートラルステア」の車ということになります。(但し車体のスリップ角すなわち重心点のスリップ角は、重心位置の違いにより、重心〜後軸間距離の長いB車の方が小さくなります。)