<2−4、ステアリングギヤ比とステア特性>

「この車はステアリングがクイックでハンドリングがいい。」というような話を聞いたり言ったりしたことはないでしょうか。この「ステアリングがクイック」と「アンダーステアが少ない。」という表現がしばしば混同されている場合があるように感じます。

前述の説明のところで書いたようにステア特性は旋回中の前後輪のスリップ角の関係で決まります。ある旋回半径をある車速で(すなわちある旋回加速度で)旋回しているときの前輪実舵角はステア特性により異なりますが、その実舵角を実現するために車の上でドライバーがハンドルを何回転切ろうが関係ありません。従ってステア特性とステアリングギヤ比自体(前輪舵角とハンドル舵角の関係)自体は、基本的にはステア特性とは関係ないものです。しかしながら「アンダーステアが強いと同じ半径を車速を上げて旋回する場合、前輪実舵角を切り増さなければならない。」というときに人間が実際に行う動作はハンドルを切り増すことですから、感覚としては関連するところがあるとも言えます。同じだけ前輪実舵角を切り増すのにステアリングギヤ比がクイックであればハンドルを切り増す量は少しですむから、アンダーの度合いは少なく感じるかもしれません。(但し、非線形性があってアンダーステアが増加していくことに関しては、ステアリングギヤ比でごまかすことはできません。)

スポーティー車などでステアリングギヤ比が比較的小さい(クイック)なのはこのフィーリングに訴える目的のものです。一方で昔のスポーツカーなどは中低速での旋回性やフィーリングを重視してステア特性やステアリングギヤ比を設定したことにより高速では過敏すぎて不都合な場合、しばしば重い操舵力の設定とすることで不安感を和らげるような手法が取られていました。現代の車も高速時に電子制御で操舵力が重くなるようにしてあるのは、ギヤ比だけでなく重さがフィーリングに影響するという人間的ファクターを考慮したものといえます。また、大型の高級車などは本来クイックな演出は必要ないのに、車体やホイールベースが長いことによる低速における取り回しの悪さを向上させるため比較的クイックなステアリングギヤ比を設定している場合があり、これにより高速において過敏すぎる印象を与えるものがあります。そうかといって車の性格から操舵力をむやみに重くすることもできず、妥協策としてハンドル径を大きくしたものもみられます。これは高速走行においてはハンドルを余り大きく切らないので、ドライバーは回す量を角度ではなく周を動かす量としてとらえることを利用して、クイックなフィーリングを緩和させようという手段と理解することができます。


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