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  京都府の山々


 平成16年5月9日 柴田昭彦 作成  (山名リスト・索引は4〜5月、7〜8月に作成) 
 平成16年9月23日 資料を追加、ホームページへ初公開
 
平成19年5月27日 2万5千分1地形図「淡輪」で「懴法(せんぽう)ヶ嶽」表記採用の情報を追加 

                          京都府の山(山名リスト)         

       
1.京都府の山名資料作成の経過


 京都府に限らず、全国の山名には、曖昧なものが多数あり、資料の作成が急務となっていた。ここでは、全国的な山名資料がどのようにして整備されてきたかの歴史をたどってみたいと思う。

<地名調書の作成>
・山名の記載は、江戸時代までの文献・地図などに散見するが、それを全国的にまとめたものは明治時代にならないと出版されていない。もっとも古い整備された資料は、陸地測量部によって作成されてきた地形図に記載された「山名」である。明治20年代には2万分の1、明治40年代以降は5万分の1、大正時代からは2万5千分の1地形図が次第に作成され昭和後期に完備して標準となった。

五百沢智也『登山者のための地形図読本』(山と渓谷社、昭和42年)には、つぎのようにあります(新ハイキング関西の山、59号、87〜88頁参照のこと)。

「地形図にのせる地名は、必ず地名調書の上で市役所や役場が証明したものでなければなりません。国土地理院が勝手にのせるわけではないのです。」

「最初に地形図がつくられたときから、この地名調書の作成はそれぞれの市町村役場で行われてきました。」

「しかし、役場にその土地の地名にくわしい人がいるとは限りません。」

「いったん間違った名前が記され、長い年月がたつと、それがなかなか直せなくなります。」

「地図に正しい地名がのるかのらないかは、各市町村役場の人々が、地名調書を正確に作ってくれるかくれないかにかかっています。」

・地形図の地名の訂正は、市町村役場から、国土地理院あてに、地名調書の記載の訂正があって、はじめて可能となる
(五百沢智也『最新地形図入門』山と渓谷社、1989年;改訂版、1995年)。

・現在、用いられている地名調書の資料の大部分は、2万5千分の1地形図が、空中写真測量によって昭和40年代に全面改測された時に作成されており、山名の多くは、この時に記載されたものが、今日の山名の大部分を形成している。この山名資料が、正確なものであれば、何の問題もないのだが、現実には、上記の五百沢氏の指摘のとおりの事情によって、疑問のある山名が混じることになって、現在にも遺恨を残しているのである。この地名調書の誤記による影響を受けたものの一部を紹介すると次のとおりである。                                                     

2万5千分1地形図名 地形図の記載(地名調書の誤記による) 正しい呼称 現状(2004年5月)
ダンノウ峠 ダンノ峠 2001年修正時に、訂正されている
大原 大尾山(おおびやま) 梶山 未訂正
淡輪 籤法ヶ岳(くじほうがだけ) 懺法ヶ岳(せんぼうがだけ)
懴法ヶ嶽(せんぽうがだけ)
2006年更新版(2007年2月1日発行)で「懴法(せんぽう)ヶ嶽」と訂正された。
ハナノ谷段山 ハナノ木段山 1979年修正以来、正しく記載されていたが、2001年修正時に、改悪されている
朝宮 八筈ヶ岳 矢筈ヶ岳 長らく間違っていたが、1998年に訂正された
村雲 西山(さいやま) 西谷山(さいだんやま) 未訂正

 

・こういった状況は全く「お役所仕事」と批判を受けざるを得ないものであるが、さすがに、最近は、山名は、住所表示などとは違って、地名調書に頼るべきものではないと考えられるようになり、各種の文献資料を用いて、従来、地名調書に記載のないものについても採用する傾向が生まれてきている。そのかわり、誤記が増えているように思われるのは、公的機関の発行する地形図の信頼性を損ねるものであり、もっと、正確な考証と校正に心がけてほしいと感じるこのごろである。

<山名資料について>
・もちろん、国土地理院でも、自然地名の統一を図るための資料を整備してきている。次のようなものが発行されてきている。

(1)『標準地名集(自然地名)』(昭和56年版)
(2)『20万分1地勢図基準 自然地名集』(平成3年)
(3)『日本の山岳標高一覧−1003山−』(平成3年)
(4)『数値地図25000(地名・公共施設)』(CD−ROM版)(平成12年)


・一方、山のガイドブックの隆盛に伴い、山名のデータが必要とされるようになり、次の資料が発行されてきている。

(5)徳久球雄・三省堂編修所 編『コンサイス日本山名辞典』(三省堂、1978年; 修訂版、1979年)(第5刷、1988年)
                                ・・・20万分の1地勢図記載の山・峠名等13000項目
(6)池田末則監修・村石利夫編著『日本山岳ルーツ大辞典』(竹書房、1997年)
                                ・・・上記(5)に収録された山・峠名のうち12000余のルーツを解明
(7)武内正『日本山名総覧』(白山書房、1999年)・・・2万5千分の1地形図記載の山名等18000山
(8)徳久球雄・石井光造・武内正 編『三省堂日本山名事典』(三省堂、2004年)・・・2万5千分の1地形図記載山・峠名等25000項目

ただし、(6)の内容については、十分な語源の考証を経ていないものも散見する。そのまま受け取らず、批判的に用いるべきであろう。
(8)は、(5)のコンセプトを受け継ぎつつも、文化的理解を願って、全く異なった事典として作られている。内容的に(7)を基礎にして収録されており、しばしば、誤解に基づく山名・読み方が混じっているので、使用の際には注意を要する。山名の考証には時間を要し、膨大なものであることから、この種の資料では全く誤りを除去することは不可能なことかもしれない。


2.「三省堂日本山名事典」の誤記について

 徳久球雄・石井光造・武内正 編『三省堂日本山名事典』(三省堂、2004年)には、短い編集期間に伴って、除去できなかった誤りが判明している。事典の一部の執筆者・編集協力者の一人の慶佐次盛一氏、編集委員の一人である武内正氏、三省堂出版局の事典編集責任者の増田正司氏、との手紙のやりとりによって判明した、訂正を要する項目は次のとおりである。
 改訂版の発行の際には、これらの資料が生かされることであろう。

事典の頁 「三省堂日本山名事典」の記載(誤った表示 正しい表示(山名・峠名) 参考事項(地形図とは、2万5千分の1地形図をいう)
  861 かるがだけ  ひかるが岳  (高さ590m) ひるがだけ  昼ヶ岳 地形図に記載された「昼ヶ岳」(標高595m、北峰)の南500mにあるピーク。慶佐次氏によれば、このピークが「昼ヶ岳」本峰である(「北摂の山 下」ナカニシヤ出版、2002年、27頁)。「北摂 京都北山」(昭文社、2004年版)もこの590mの等高線ピークに「昼ヶ岳」と表示している。このピークは実際には595mより高いらしく、「昼ヶ岳中峰」とも呼ばれているようだ(「北摂の山 下」28頁)。山名事典の884頁には別途「ひるがだけ 昼ヶ岳 595m」も記載。
  839 はなのたにだんやま ハナノ段山(ハナイ段山) はなのきだんやま ハナノ木段山 地形図「中」(昭和46年測量)に「ハナノ谷段山」と誤記されていたが、「中」(昭和54年・平成3年修正測量)には、正しく「ハナノ木段山」と記載されていた。ところが、「美山町全図」(平成8年)が「中」(昭和46年測量)から編集されていたため、それに基づいたらしい地形図「中」(平成13年修正測量)は「ハナノ谷段山」を採用し、いまだに混乱が続いている。美山町産業振興課林政係によれば、「ハナノ谷段山」は誤りで「ハナノ木段山」が正しいが、この山名自体が、あまり使用されることがないという。
  663 だんのとうげ ダンノ峠(ダンノ峠) だんのとうげ ダンノ峠 地名調書に「ダンノウ峠」と誤記されていたため、長年、訂正されず、登山者に用いられる正しい「ダンノ峠」と食い違ったままであった。地形図「中」(平成13年修正測量)から、ようやく、「ダンノ峠」と正しく記載されるようになった。
  788 にしやま(さいやま) 西山   (高さ560m) さいだんやま 西谷山 内田嘉弘「京都丹波の山(上)」(ナカニシヤ出版)122頁以下にあるように、地形図にある「西山(さいやま)」は、地元では、「西谷山(さいだんやま)」と呼ばれている。
   89 やま(いもやま)居母山 いもやま 居母山 「上夜久野村史」にあるように地元では「いもやま」という読み方しかない。「いぼやま」は漢字表記によって生じた誤読であることがはっきりしている。
  942 ぼんんやま ボンン山 ぼんでんやま ボンデン山 「ぼんてんやま」は事典の他項目に左右された誤読であろう。実際には、「ぼんでんやま」が明らかに正しい。
   94 いわじゃりやま 岩阿沙利山 いわじゃりやま 岩阿沙利山 文字通りに読めば「いわあじゃりやま」であるが、昔から、「いわじゃりやま」と呼び習わされている。最近の地形図には「岩門沙利山」とあるが、明白な誤植である。
 1001 みなこやま(みなごやま、かいしやま) 皆子山 みなごやま(みなこやま) 皆子山 武内氏の資料によると、大津市では「かいしやま」と呼んでいるとの返答であるが、登山関係で、「かいしやま」と呼ぶ人は皆無であろう。「みなごやま」を優先させることが望ましいと考える。
  983 みくにだけ 三国岳(高さ959m) みくにだけ(さんごくだけ) 三国岳 内田嘉弘「京都丹波の山(下)」(ナカニシヤ出版)153頁にあるように、地元での呼び方「さんごくだけ」も採用すべきであろう。
  239 かさとうげ 傘峠 かさとうげ(からかさとうげ)傘峠 旧来は「からかさとうげ」が正しい読み方であった。最近は「かさとうげ」と読むケースが増えているようである。
  148 おおくらだにやま 大倉谷山 おおくらだにやま 大倉谷山(オークラノ尾) 登山関係では「オークラノ尾」がよく用いられている。小野倉谷はあるが、大倉谷は存在しないため、「大倉谷山」の山名を認めないという考証家もいる。
  767 ナッチョ(天ヶ森 あまがもり) ナッチョ(天ヶ森 あまがもり・てんがもり) 天ヶ森には「あまがもり」の他に「てんがもり」の読み方もある。
   39 あまがたけ 天ヶ岳 あまがだけ(天ヶ岳、てんがだけ) 静原では「あまがだけ」、百井では「てんがだけ」と呼ぶ。
  667 ちみやま 知見山 ちみやま 知見山(奥ヶ追山 おくがおいやま) 内田嘉弘氏からの手紙によれば、地元では「けものを追う」ことから「奥ヶ追山」と呼んでいるとのことである。美山町に照会したところでは、「知見山」と呼んでいるとの返答であったという(武内氏)。登山関係では「知見山」はほとんど使われていない。かつて使用された山名「おくがさこやま(奥ヶ迫山)」は誤植である。
 1022 むかいやま 向山(高さ696m) むかいやま 向山(後山 うしろやま) 横田和雄「京都府の三角点峰」には、向山は集落名で、山名は「後山」であることが考察されている。
  975 まるやま 丸山(高さ681m) まるやま 丸山(大栗山 おおくりやま) 通常、大栗、大栗峠の頭、大栗山、と呼ばれる。丸山は、綾部市での呼称という(武内氏)。
  589 だいびさん(だいおさん)大尾山(梶山 かじやま) かじやま 梶山(大尾山) 大尾山は、梶山→木尾山→大尾山、という誤解によって生じた架空の山名。大津市の地名調書(誤記が多い)に基づいて、長年、地形図に記載されてきたため、あまりにも多くの地図類に記載されてしまい、長年、放置されてきた。今後は、「梶山」(大津市南庄町の小字名)が採用されていくことになるだろうが、「大尾山」の削除には長年月を要することだろう。
  496 じゅうぶざん(じゅうぶうせん、じゅうぶせん、じゅうふうざん) 鷲峰山 じゅぶせん 鷲峰山 地名調書によると、長音を強調した地元での多数の読み方が掲載されているが、歴史的な呼称を考慮すれば、「じゅぶせん」が採用すべき唯一の読み方である。「都名所図会」には「じゅぶせん」とあり、疑問の余地はない。
 1109 わちふじ 和知富士 わちふじ 和知富士(奥山) 和知富士は、麓から見上げた形による呼称であり、三角点ピークは麓から見えない。三角点ピークは「奥山」と呼ぶ(横田和雄「京都府の三角点峰」232頁)。
  757 ナカマタ ナカマタ(東俣山 ひがしまたやま) ナカマタは、東俣山(東股山)とも呼ぶ。
  108 うしづかやま 牛塚山 うしづかやま 牛塚山(牛場山、京門山) 牛場山、京門山、の別称もよく知られている(内田嘉弘「京都滋賀南部の山」105頁)。
 1012 みやま 深山(小風呂 
こぶろ)
みやま 深山(小風呂 
こぶろ)(湯舟山 ゆぶねやま)
慶佐次盛一「兵庫丹波の山(上)」18頁によると、兵庫県側の山名として「湯舟山」の呼称もあるので併記すべきであろう。
  629 たかもっこやま 高モッコ山 たかもっこやま 高モッコ山(砂迫 すなさこ) 登山関係では、広く「高モッコ山」と呼ばれているが、内田嘉弘「京都丹波の山(下)」69頁にあるように、地元では、「砂迫(すなさこ)」と呼んでいる。
  795 にょうごんげんさん 女布権現山 にょうごんげんさん 女布権現山 女布(にょう)は地元の地名。「にょうふ」ではない。久美浜町の返答でも「にょうごんげんさん」である(武内氏)。
  552 すなやま 砂山 すなやま 砂山(白砂山 しらすなやま)  「京都北山」(昭文社)には、「白砂山」とある。白砂は地名である。「砂山」の呼称は京都市(京都府山岳連盟回答)によるとのことである(武内氏)。
  280 からとやま(からすたにやま)烏谷山 からとやま 烏谷山 大津市の地名調書に「からすたにやま」とあって、あとでこの読み方は削除されている。山本武人「比良の詩」によると、「からすだにやま」は登山者による間違った読み方で、地元では「からとやま」と呼ばれている、とある。
  328 くじほうがだけ(たけ) 籤法ヶ岳 せんぽうがだけ(懴法ヶ嶽) 

せんぼうがだけ(懺法ヶ嶽)
「紀伊国名所図会」には「籤法ヶ嶽(せんぽふがだけ)」とあるが、用字が間違っていて、「日本山嶽志」「紀伊続風土記」にあるように「懺法ヶ嶽」が正しい。「懺法(せんぼう・せんぽう)」とは、「諸経に基づく過罪を懺悔する行儀や、その儀式法則」のことである。懺悔する法であるから、「籤(くじ)」では、「懺悔(ざんげ)」にはならない。新ハイキング関西、57号の記事を参照のこと。2万5千分の1地形図「淡輪」2006年更新版(2007年2月1日発行)で、ようやく「懴法(せんぽう)ヶ嶽」と訂正された。<「懴」「ぽう」(pou)「嶽」が選択されている。>
 1073 ゆやがだけ(ゆやがたけ)  湯谷ヶ岳 ゆやがだけ 湯谷ヶ岳 湯谷は地元の地名で「ゆや」と読む。従って、「ゆうやがたけ」は、正しくないように思われる。ところが、地名調書には「ゆやがたけ」とあるのに、亀岡市からの返答では「ゆうやがたけ」だという(武内氏)。地元でも、二つの呼び方があるのだと考えたほうがよさそうである。
   − (記載なし) いちごだにやま イチゴ谷山(ヘラ谷奥 へらだにおく) 事典に記載がないが、改訂時には採録する予定の山名である。イチゴ谷山が最もよく使われる山名で、ヘラ谷奥が、これに次ぐ。
   − (記載なし) よこおやま 横尾山 事典に記載がないが、改訂時に採録してもよい山名。
   − (記載なし) なかつばいやま 中津灰山 事典に記載がないが、改訂時に採録してもよい山名。
   − (記載なし) ぶくみやま 伏見山 事典に記載がないが、改訂時に採録してもよい山名。



3.京都府の山(山名リスト一覧表)

・筆者は、近畿地方のデータを整備したいと思っているが、一度に作成することは困難なので、とりあえず、京都府下の山々の基礎データを一覧表形式で作成することにした。筆者の感触では、京都府の山名データはかなり作られているが、混乱している状況が他の府県よりも一層大きいように感じたからである。つまり、必要性が高いのである。いずれ、滋賀県についても整理したいが、今回については、京都府の山々の決定版を作り、上記(7)『日本山名総覧』(8)『三省堂日本山名事典』といった山名データの不十分な点を明らかにしたいと思う。

・筆者が、京都府の山々を作成するために、基礎データとして、使用した主な文献は、次のとおりである。

(A)京都山友会編『京都ふるさと登山50選選』(京都新聞社、1993年)・・・「京都府下の500メートル以上の山」のリスト
(B)横田和雄『京都府の三角点峰−全一八三座完登の譜−』(京都山の会出版局、1995年)・・・500m以上の三角点峰
(C)武内正『日本山名総覧』(白山書房、1999年)・・・2万5千分の1地形図記載の山名・・・上記文献(7)
(D)2万5千分の1地形図(京都府域該当図面)(2004年4月入手可能図)
(E)芝村文治『京滋百山 三角点を行く 上、下』(かもがわ出版、1992年、1993年)
(F)内田嘉弘『京都滋賀南部の山』(ナカニシヤ出版、1992年)
(G)内田嘉弘『京都丹波の山(上)、(下)』(ナカニシヤ出版、1995年、1997年)
(H)慶佐次盛一編『近畿周辺 三角点山名』(大阪低山跋渉会、1996年発行)
(2000年、編者による追加訂正)
( I )慶佐次盛一『兵庫丹波の山(上)、(下)』(ナカニシヤ出版、1991年、1992年/第2版:2000年)
(J )慶佐次盛一『北摂の山(上) 東部編』(ナカニシヤ出版、2001年)

この他、古い文献を多数、参照した。

・以上の文献も含めて、総合的に作成した「京都府の山」のデータは次の通りである。このデータによって、上に紹介した、「三省堂日本山名事典」の誤記についても確認してもらえるものと思う。
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