焔のスペル 3
窓の向こうで降り積もる雪、冷えた空気とガラスに咲く華。
さっきまで、息が白かったのに、オイルヒーターのゆるい熱が部屋を
暖めて心地よい。
壁いっぱいに設えてある書棚からエドワードは、慎重に本を選んだ。
取り出して振り返る。
「これ、いい?」
本の持ち主であるロイ・マスタングは、手持ち無沙汰気味に足を組んで、
その膝に頬杖をついている。
「好きなように」
でもと、足を崩し膝を指で示す。
「読むのはここで」
少し意地悪く笑う。
「嫌だ.
だって、すぐ邪魔するだろ大佐は」
「心外だなあ」
「あんたは、信用ないし」
重い本を抱えたままエドワードは、別の場所を探す様に、くるっと部屋を見回した。
「だめだよ。それなら貸してあげない」
突っ立ったまま、仕方無いな、という表情を隠さずに、側まで来て、尚更堅くして
動くまいとしているエドワードの手を強引に引く。
観念して、彼の望み通りにその胸に引き付けられるままに体を預ける。
読み始めて直ぐに頭の上に顎を乗せてくるから、本など読んでいられる体勢には
程遠くて、エドワードは小さく諦めのため息をついた。
「読まないの?」
髪や、耳を指で遊びながら顔を覗き込んでくる。
「・・邪魔しないって言わなかったかな?」
ぐしゃぐしゃと、頭をかき乱しながらエドワードは、腕の中で向きを変えて、とぼけている
表情の頬を思い切りつねり、そして伸び上がってその頭を抱えた。
「俺がいつまでも、このまんまでいいのかよ」
「小さいままってことなら、私は構わないが」
「そじゃないだろ」
そんなことじゃない。
彼のきれいな胸の中で、自分はいつも満たされ続けているのに、手も、足も冷たい
この身体は、この優しい人を暖めきれていない。
彼は笑う ─ いいんだよと、好きでいてくれるのだろう?と
だから、余計に何もかもに応えたくて、だけど、応えるのが怖いと思ってしまって。
鋼の腕と足 ─ 罪は消えない
触れるたび、触れられるたびに彼を汚している
好きだなんて思わなければ良かった
好きだなんて聞かなければ良かった
エドワードは震えながらもっとマスタングを抱き締めた。
「寒いのかい?」
優しい声に目を閉じる
「 ─ うん」
髪に口づけてくれる
「まだ・・寒い?」
頬に口づけてくれる
「 ─う ん」
ゆらりと焔が指先に灯る
それを見つめながらエドワードは
口元にその火が移ったような
熱い
ため息を
深く
ついた ─
一条
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