焔のスペル 4
机に向かって真剣な顔をしている。
そうしていればそれなりに近寄りがたく[大佐]という地位に相応しい威厳や
風格というものがある。
「何をジロジロ見ているんだね」
心でも読めるのかと思うほどのタイミングの良さで、顔を上げてくるから
鼓動が一つ跳ねた。
「仕方がないか、私はいい男だからな」
「そんなんじゃないだろ」
「素直じゃないねぇ」
そっぽを向いた耳に、ガタンと椅子を引く音が聞こえた。
「言いたまえよ、正直に」
目の前に立ち屈み込む。
耳元で囁く声にいつまでも慣れずに、肩に添えられた手の重みにも、びくんと
身体の中身が上下する。
「今なら限定1名様しか聞いてない」
「どーしてあんたはそうやって ── からかってばっかり」
心の中を、ポーカーフェイスを装って覗き込むんだろう。
「どうしてだと 思う?」
耳に唇が当たる。 熱が胸の中心から喉元に上がって何も言えなくなる。
「でも、言ったら君は怒るから教えない」
あれ?と思う。 いつも、逃げているのは自分なのに、コレは ─
椅子の背もたれと青い服に挟まれて、近すぎる顔を、まじまじと見つめた。
両腕を首に回して引き付けると、それは自分の一部になった。
「怖いな君は・・」
唇を離して、だけどすれすれの位置で吐息が熱い。
「いつか ─ 全部欲しいな」
「・・・・」
髪の束を握っては離す、その繰り返し。 「うん、って言ってくれないのかな?」
「そんな、訳わかんない事に返事出来ると思うか?」
そして尖らせた口に、一秒にも満たないキスが落ちた。
「まあ、君らしいな・・さて 仕事するか」
あっさりと引き下がれて拍子抜けはしたが、心の中はほっとしていた。
大人は狡いと思う。
いくら背伸びをしても足りないのに
もっとしてこいと無言で求める。
無意識に誘っている? それとも意識的な罠だろうか?
想う気持ちは同じと信じているけど
解らないよ子供だし ─
一条
─ back ─