焔のスペル   





机に向かって真剣な顔をしている。

そうしていればそれなりに近寄りがたく[大佐]という地位に相応しい威厳や

風格というものがある。


「何をジロジロ見ているんだね」

心でも読めるのかと思うほどのタイミングの良さで、顔を上げてくるから

鼓動が一つ跳ねた。

「仕方がないか、私はいい男だからな」

「そんなんじゃないだろ」

「素直じゃないねぇ」

そっぽを向いた耳に、ガタンと椅子を引く音が聞こえた。

「言いたまえよ、正直に」

目の前に立ち屈み込む。

耳元で囁く声にいつまでも慣れずに、肩に添えられた手の重みにも、びくんと

身体の中身が上下する。

「今なら限定1名様しか聞いてない」

「どーしてあんたはそうやって ── からかってばっかり」

心の中を、ポーカーフェイスを装って覗き込むんだろう。

「どうしてだと 思う?」

耳に唇が当たる。 熱が胸の中心から喉元に上がって何も言えなくなる。

「でも、言ったら君は怒るから教えない」

あれ?と思う。 いつも、逃げているのは自分なのに、コレは ─

椅子の背もたれと青い服に挟まれて、近すぎる顔を、まじまじと見つめた。

両腕を首に回して引き付けると、それは自分の一部になった。

「怖いな君は・・」

唇を離して、だけどすれすれの位置で吐息が熱い。

「いつか ─ 全部欲しいな」

「・・・・」

髪の束を握っては離す、その繰り返し。 「うん、って言ってくれないのかな?」

「そんな、訳わかんない事に返事出来ると思うか?」

そして尖らせた口に、一秒にも満たないキスが落ちた。

「まあ、君らしいな・・さて 仕事するか」

あっさりと引き下がれて拍子抜けはしたが、心の中はほっとしていた。



大人は狡いと思う。

いくら背伸びをしても足りないのに

もっとしてこいと無言で求める。


無意識に誘っている? それとも意識的な罠だろうか?

想う気持ちは同じと信じているけど

解らないよ子供だし ─





                         一条



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