COLONEL  





失速する ─ 急降下するスピード

バラバラになる ─ 悪夢は満ちている

それは いつも傍らにいて

私の右手を千の指で掴み 離さない ─

君を追いながら

追いつく事を望めない

君を見つめながら

気づかれる事を何よりも 恐れてる ─




雪になるには少し温度が足りず、凍えた雨。

西からの風に曲げられて、窓ガラスに吹きつける。

帰り支度をして、上着を先ず脱いだが、ふと、帰宅前に作りおきのコーヒーでも

飲んでからと思い直した。急ぐ事はない、まして雨 ─ 今日は夜の予定はない。

温め直したコーヒーをゆっくりと飲み干し、今度こそと立ち上がれば運悪くノック。

「どうぞ」

上着に手を通す。

開けられたドアから覗いた顔はエドワード。

「なんだ─」

そう言うと、むっとした表情のまま部屋に入り、書類を差し出した。

「意外と早かったな」

無言で机の上に置かれたそれを目の前で読む。

「まあ、これで良しとしよう。それと休暇願いは今から有効だ。
    君の行きたい所に、いつでもどれくらいの期間でも行きたまえ」

書類を、鍵の掛かる引き出しにしまいながら言い、顔を上げるとエドワードは、

静かな眼差しで私を見ていた。

「まだ 何か?」

いいや、と俯いてエドワードは首を振った。

しかし一向に動く気配が無くて雨と風音だけが部屋の中に充満・・

不意に ─

ぱたり・・と床に滴が落ちた。

「君 ─ 」

エドワードは、鋼の手の方で顔を隠す様にしたが、彼が泣いているのは明白で

それは私を十分慌てさせた。

「どこか痛むのか?」

何時も傷が絶えない行動ばかりで、前の分が癒えないまま新しい傷を上塗りする ─

肩を掴んで揺すり、背けた顔を覗き込んだ。

「 ─ 君・・エドワード」

びくっと、電流でも流れた様に彼の全身が震えた。

その震えを止めたくて、私は思わず抱き締めた。

柔らかな髪に顔を埋めて、背中をゆっくりと撫でる。

「・・くない」

「え?」

「痛く・・ない・・離せよ」

私は、私の腕や感情が既に自分の思い通りにならない事に気がついていた。

エドワードから離れたいのに、彼の統べてを手放したくはなかった。

「じゃあ・・泣くな・・」

「・・・・」

エドワードは、私を見上げた。涙を拭いた後が赤い。

私はそれに誘われる様に顔を近づける。

「 ─ 逃げないのか?」


ハヤク トメテ

ダレデモイイ

ナンデモイイ

ハヤク ナガレヲトメテ


私の顔に、エドワードの指が這い上がりそっと確かめるように触れていく。

その手を掴んだ時 ─

鳴り響いた電話のベル。私達の間に生まれかけた何かが弾けた。

全身に水を浴びせられた気がした ─

何も無かった様に振舞うのは得意 ─

エドワードから離れ、うるさいほど鳴っているベルを黙らせる。

だが身の内に鼓動は残り、通話相手の声が聞き取りにくい。



ドアが閉まる音がした ──

振り返る

誰もいない空間


受話器を降ろした手に、ほんの一瞬だけ触れた彼の温もりを探して口元へと添えた ─

「 ─ 逃げろ・・」

もういないエドワードに呟いて ─



嘘ばかりが目立つ

真実の欠片も無い

その物語りはいったい誰が読んでいる?

いつか呆れられて 捨てられる

最後のページも開かないまま ─





                               



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