空知そらちちゃん、あの……編みもの教えて?」
 双子の姉の海砂みさごが部屋に入って来るなりそんなことを言った時、あおぎり空知はすぐにこう切り返した。
「それ、陸朗りくろうにあげるんだろ?クリスマスに」
「えっ、何でわかっちゃったのぉ!?」
「何で、って、どう考えたってそうとしか考えられないじゃん。あんたが陸朗のこと好きなの、バレバレなんだよ」
「う、うそぉ!」
 今にも泣き出しそうな海砂を見て、空知は苦笑する。
「でも、あいつは知らないっしょ」
「ほんと?ほんとだよね?」
「多分ね」
 陸朗はあんたに負けず劣らず鈍いから、という台詞は、空知の胸の中に畳んでおく。
「良かった。それで、編みものは教えてくれるの?」
「破滅的不器用なあんたが出来るかどうか謎だけどな」
「ひどぉい!」
 ぷぅ、と頬を膨らませる海砂は、それだけ見ればとても高校生とは思えなかった。彼女の体つきさえ見なければ小学生と間違えられる危険性すらある。
 甘えん坊で不器用で殆ど何も出来ないに等しい姉がいる反動なのか、しっかりした家事全般の得意な少女に育った空知は、海砂と全く同じ顔のはずなのに充分年相応に見える――ただし、高校生男子と。サバサバしたところが行きすぎてしまったのだろうか。
「で、材料と道具は?」
「えへ、よくわかんないから空知ちゃんと一緒に買いに行こうと思って」
「――やっぱり」
「お昼御飯食べたら園酋えんじゅ駅に行こう」
「はいはい、わかったわかった」
「じゃあ、空知ちゃん特製のカルボナーラ作ってぇv」
「……」
 俯いて額を指で押さえる、空知。
 時々本気で海砂を見捨てたくなるが、彼女の無邪気な笑顔を見ると、どうしても憎めないのだった。

 二人が園酋駅の駅ビルに着いたのは二時を回った頃だった。手芸店のある階までエスカレータで上がりながら、空知は海砂に尋ねた。
「そういや、何作るつもりか訊いてなかったな」
「マフラー」
「ま、その辺が妥当っちゃ妥当だね、あんたの場合。好きな毛糸玉とそれに合った編み針買うだけで良いし。凝ったデザインにする必要無いしな」
「うん、だからそうしたんだぁ」
「自分の実力ちゃんと解ってるね」
「むー」
「下手にセーターなんかに挑戦なんかしたら、当日にぼろ雑巾みたいなのを貰うことになって陸朗が気の毒だし」
「……空知ちゃんの意地悪」
「ほら、いじけてないで、着いたぞ」
 それでもしばらくの間何かぶつぶつ言っていた海砂だったが、手芸店の棚にずらりと並んだ毛糸を見た途端顔を輝かせた。
「うわぁ、凄い凄い!どれにしようかなぁ。ね、空知ちゃん、どうれが良いと思う?」
「あたしに訊いても仕方ないだろ」
「だって、いっぱい種類があって決められないんだもん」
「陸朗に似合うか似合わないかで決めれば良いじゃん」
「だから空知ちゃんにその辺りを教えて貰おうかと――」
「ちったぁ自分で考えな。プレゼントなんだから」
「え゛ー?」
「あたしはちょっと向こうのCD屋見てくる。戻ってくるまでに幾つか候補決めときなよ。それからならアドバイスしてやっても良いから」
「あっ、空知ちゃぁん!!」
 空知は海砂の返事を待たずに手芸店を出た。そうでもしないと海砂は駄目なのだ、と解りきっているからだった。

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